食料なくてコンビニ行ったら友達がいた
ひとまず俺は、今まで通りの日課を過ごすことにした。ゾンビなんてものを忘れるためだ。幸い、ガスや電気などは普通に使えるようである。夕食を作り、お風呂を沸かす。ときどき、庭にゾンビが入り込んできたため、窓の施錠を確認してカーテンを閉めた。そうして、時間は刻一刻と過ぎていく。
もう母さんが帰って来てもいい時間だけど。大丈夫かな。もしかしたら帰ってこねーかもな。とりあえず、メール入れとくか。
そんなことを考え、スマホを手に取る。
考えていなかったわけじゃない。考えたくなかっただけだ。
すでに、母さんが帰ってくるはずの時間から1時間は経過してる。それでも、帰ってこないってことは・・・。いや、まだそうと決まったわけじゃない。どこかへ避難していて、帰れなくなってるかもしれねーだろ。
・・・そうだ。避難してるかも。でも、この状況なのに、俺のスマホに連絡がない。「大丈夫?」とか「今どこ?」とか、メールか電話があってもいいはずなのに・・・。くそっ。こんなとき、父さんがいてくれれば・・・。
俺の父さんは海外赴任中で、もう何年も会ってない。
海外・・・?それだ!父さんに電話してみよう!外国なら、ゾンビはいないだろう。帰国して、助けに来てくれるかもしれない。
国際電話は有料だし、面倒だから使わない。代わりにL○NEを起動させる。L○NEなら、海外でも無料で電話が掛けられる。
父さんへ連絡する。着信音の時間が惜しい。早く出てくれーー。
「隼人か!そっちは無事なのか!?」
「え?『そっちは』って、どういう・・・」
父さんの大声に押されながら返事をする。
「今、大変なんだ!変な奴らが動き回って、人を襲ってるんだ!日本は安全なのか!?隼人!よく聞いてくれ!信じないかもしれないが、ゾンビがいるんだよ!!」
あー、そんな・・・。マジかよ・・・。
「知ってるよ、父さん。だから電話したんだ・・・。『そっちは無事なのか』って、訊こうと思ったんだよ!」
スマホの向こう側から、「え?」という声がした。
「日本にも、ゾンビみてーなのがうろついてんだよ!」
「まさか、日本にも・・・。隼人、よく聞け。さっき、父さんの働いてる会社から、電話があってな。父さんの会社は、海外に多く進出してる。各国の会社から、同じような連絡が来た。『ゾンビみたいな奴らが、人を襲ってる』ってな」
「は?まさか、世界中にゾンビが大量発生してるってゆーのかよ!」
「その可能性が高い」
おいおい。それじゃ、逃げ場がねーじゃねーか。
「隼人。母さんに代わってくれ。必要なことを指示するから」
「母さんは、まだ帰ってきてない」
俺の言葉に、息を呑む気配がした。おそらく、父さんも俺と同じことを考えたんだろう。父さんは、それでも落ち着いた口調を心がけて言った。
「そ、そうか・・・。なら、隼人。1人で頑張るんだぞ」
「わかってるよ。俺、高校生だよ?1人でできる」
「じゃあ、今から大事なことを言うから、よく聞けよ。まず、食料は節約しろ。あと水とガスと電気もだ。いつ止まるかわからないからな。いつ止まってもいいように、補充しておくこと。スマホのバッテリーは、充電できるうちに充電しておけ。
それと外出は控えろ。ゾンビは走れないようだが、安心はできない」
「わかった」
「そうだ、隼人。メールを3時間おきにする。だから、隼人も返事を返してくれ」
「・・・わかった」
「なんで?」とは訊かない。お互いの無事を確認するためだろう。
「それじゃ、頑張れよ」
「うん、そっちも」
「ああ。母さんが帰ってきたら、父さんは無事だと伝えてくれ」
「・・・うん」
返事に詰まる。父さんも気づいてるはずだ。このゾンビだらけの世界で、生きてる可能性は低いということに・・・。
「じゃあな」
「うん、また」
そう言って、電話を切った。父さんの言われた通り、スマホを充電し、持っているバッテリーをすべて充電した。そして、母さんの帰りを待とうかとも思ったが、いつ帰ってくるかわからないし、体力は回復しておきたい。ということで、眠ることにした。
クラスのみんなは無事かな?美月・・・。母さん。父さん。
次々と顔が浮かんでくる。内心、すごく不安だった。これからは、死と隣り合わせ。いつ死ぬかわからない。「みんな、無事でいてくれ」と願いながら眠った。
それから1週間ーー。
その間に食料は底を尽き、水、ガス、電気も止まってしまった。スマホの電池を節約するため、父さんとの連絡は、5時間おきにすることになった。水はまだ十分ある。止まる前に、お風呂に水を溜めておいたのだ。水の心配は、当分大丈夫だろう。
しかし、それ以上の問題がある。食べ物だ。今日は何も食べていない。さすがに腹が減る。仕方ないが、食料を調達しなければならない。
うわぁ、外に出んのか・・・。
連日外を見ると、明らかにゾンビの数が増えている。
噛まれる人が多いのか?でも、そんなに外に出る人は少ないと思うんだけど・・・。
だが、俺のように食料が尽きて、調達しようとしたのかもしれない。そう考え、外に出る準備をする。リュックに、水の入った水筒と包丁を入れ、スマホをポケットに装着。そして、手にはバット。
よし、準備おっけー。いくぞ!
ドアの鍵を開け、こっそり周りを確認。ゾンビはいないようだ。慎重に外に出る。そして、学校の登校途中にあるコンビニへ向かう。この前の柴犬には、注意しなければならない。リードで繋がれているとはいえ、危険には変わりないのだ。
久しぶりに外の空気を吸う。が、鉄臭い匂いがするのは気のせいだろうか?
バットを握りしめて、ゆっくりと進む。すると、近くで呻き声が聞こえてきた。周りを伺う。
慎重に。慎重に。いつ死んでもおかしくないんだ。慎重に。気をつけろ。
自分に言い聞かせながら進む。呻き声は、どうやらこの庭からするようだ。小さな日本家屋の庭。
そっと中を覗くと、1人の老人がいた。綺麗に手入れをされていたであろう花壇を踏みしめながら、呻き声を上げている。老人の体は、腹の部分の肉がなく、内臓が丸見えになっていた。全体に乾いた血がこびりつき、腸はだらんと体からぶら下がっている。それを見た途端、一気に吐き気に襲われた。俺は老人のゾンビに見つからないように、そして吐かないように気をつけて歩き出した。
さらに進む。そろそろ、あの柴犬の近くだ。柴犬のいる家から距離を置き、先へ行こうとした。そのときだった。はっとした。
いない。
柴犬が消えている。この前は、たしかにここにいた。なのに、いない。繋がれていたはずのリードは、根元から切れていた。
やばい。やばい。やばい!
バットを握り直し、辺りを見回す。しかし、何かが動く気配はない。最後に見たのは1週間前だ。もうどこか、別の場所に行ったのかもしれない。「かも」ではなく、そう思うことにした。
やっとの思いで、コンビニに到着する。コンビニの地面に、尋常じゃない量の血痕が見える。この血の持ち主は生きているのだろうか?
くそっ。マジか。
コンビニの前に、1体ゾンビがいる。入り口で行ったり来たりしているのは、とても迷惑だ。闘うか。それとも、他の案を考えるか。ここに長居はできない。ゾンビがどこかに行ってくれるまで待つなんて、俺の心臓が持たなくなってしまう。
俺は、ひとつの案を思いついた。闘わずに、コンビニへ入れる方法。
俺は手頃な石を手に取り、ゾンビの近くに(かつ、入り口からは遠くに)投げた。ゾンビは、石が転がった音に反応して、そちらに歩いていった。
やった!予想通り!
心の中でガッツポーズをした。ゾンビが石に気を取られている間に、俺はコンビニの入り口まで駆け足で移動する。しかし、いくら待ってもドアは開かない。
あ!電気止まってんだった!
ついいつもの調子で、自動ドアが開くのを待ってしまった。ドアに手を掛けたときーー。
「ゔゔゔ、ゔぁゔゥゥ」
背中に冷たいものが走る。恐る恐る振り向くと、ゾンビがこちらを見ていた。
げっ!やべぇ!
俺はバットを構える。ゾンビは口を開けながら、ヨロヨロと歩いてくる。右目が穴みたいに空いてるように見えるけど、気のせいかな?
俺はゾンビの頭に狙いを定め、バットを横向きに振り下ろした。
ドカッ!
ゾンビの頭に見事命中!だが、ゾンビは倒れない。続けて、1発、2発。3発目を振り下ろしたとき、何かが吹っ飛んだ。そして、ゾンビは倒れてしまった。ぴくりとも動かない。ゾンビの頭はへこんでーー。
あれ?顎がない・・・。
さっき吹っ飛んだ方向を見ると、ゾンビの下顎が転がっていた。
「おわー、やっちまった」
人ではないのだが、頭を叩き割り、顎を吹っ飛ばすというのは、気持ちのいいものではない。
ひとまず、ゾンビは撃退した。もともと人間だったなんて、考えたくない。
俺は、コンビニのドアの間に手を掛け、力を込めて開いた。中はひどい有様だった。雑誌、日用品などが散乱し、荒らされた跡がある。
「これは、何も残っていなさそうだな・・・」
とりあえず、物を跨ぎながら食品コーナーへ行く。何か残っているといいのだが・・・。
「動くな!」
突然、棚の陰から包丁を持った人間が現れた。びっくりして相手を見る。しかし、相手も驚いていた。俺はその顔を見て、さらに驚くことになった。
「美月?」
「隼人・・・くん?」
俺たちは最悪な状況の中で、再会した。