八話 魔法少女マジカルリリス
一周目の攻略で、魔法少女は四人いた。
その中でも主人公ミューズの相棒ポジだったのがリリスだ。水色のロングヘアに騎手を思わせる鞭を持っている。ユニコーンがモチーフの後輩キャラだ。
魔王を倒した時に自然とパーティーが解消されていたが、こんな場所で再開するとは。
「一週間ぶりですね、お姉さま!」
嬉しそうな顔をして駆け寄ってくる。小さくてすばしっこい動きだった。
「久しぶり。リリスも元気だった?」
「もっちろん! 不肖リリス、元気だけが取り柄ですから!」
ビシッと敬礼をする。頭の上にちょこんと生えている角が嬉しそうにピコピコ揺れた。生物的な動きをしているが、ただのアクセサリーである。
しかし……困ったことになった。
村の人たちと違って、かつての仲間はミューズちゃんとの関わりが深い。性格も熟知しているのでミューズちゃんとして振舞わなければすぐに魂が別人だと気づかれるだろう。
加えて私はリリスのことを理解しているとは言い難い。
もちろん一周目で解禁されるシナリオはすべて読んでいるが、リリスは基本的にコメディを担当しているからか他のキャラに比べて描写が少ない。
ぶっちゃけピンチです。オークが消えちゃったことを落ち込んでいる暇はない。
……いや、オークに襲われているところを助けてもらっただけなんだけどね?
状況だけ見れば恩人なんだけどね?
いい子なんだけど、な~んか間が悪い属性がある。一周目のシナリオでもミューズちゃんがやらしー雰囲気になったら乱入してぶち壊す役回りを任されていた。悲しきギャグキャラである。
「リリスちゃんはなんでこんな山奥に?」
「ふふ~ん、お姉さまと一緒ですよ!」
どや顔で言ってるけど、絶対違うよ。
リリスちゃんはバッドエンドに進まなければ処女のまま一周目のシナリオを終えられる唯一のキャラだ。こんな純真な子が陵辱願望でこんな場所に来るはずがない。
とりあえず違和感を持たれないように話を合わせる。
「そっか~偉いね」
「いえいえお姉さまの慧眼には適いませんよ。まさか、魔法少女の色気がオーガをスポーンさせるって結論に行きつくなんて」
……なんだって?
どうしてそんな話になったの?
「わたしもちゃんと昨日今日と聞き込みしてたんですよ? でもそんな早く結論に行きつくなんて……」
「……」
「お姉さま? どうかしました?」
「ごめん、ちょっとタイム」
「はあ」
両手でTの字を作り、リリスから離れて自分の思考を整理する。
…………どういうことなの、ほんと。
彼女が何を言っているのかさっぱりわからない。けれど、どうにかして話を合わせるしかなかった。ここでミューズちゃんの「頼れる先輩像」を壊すと色々怪しまれるきっかけになる。
リリスの言動から考えると、私が何かしらの真実に気づき、調査のためにここに来たと思っているのだろう。魔法少女の色気がオーガをスポーンさせる……まで言及すると絶対にボロが出るから誤魔化しながらこの方向性で話を合わせるしかない。だって何言ってるかわからないんだもん。
リリスが聞き込みの情報をもとにここまで来たことを考えると、多分、私はたくさんのフラグを無視してここまでやってきてしまったのだろう。それでも問題なくストーリーが進行してしまっている。
思考をまとめてからリリスの元に戻る。
「実はそうなんだよ。珍しく推理がさえてて」
「……お姉さま、いきなりタイムだなんて体調でも悪いんですか?」
「ソンナコトナイヨ」
怪しまれてる!
リリスはじろじろと私を凝視しながら近づいてくる。可愛い顔だけど、眉間にしわが寄っていた。心なしか目のハイライトがなくなっている気がする。
やばいか……?
つばをごくりと飲み込む。
リリスは目の前まで来ると、私の首元に顔を近づけてクンクンと嗅いだ。
ち、近い……っ! 美少女が……近い……っ!
可愛い子が目の前に来る嬉しさと、バレないかとひやひやする気持ちで頭の中がカーニバルだ。キャパオーバー、ヒートショック、スリルショックサスペンス!
「リリスちゃん?」
「……臭い、こびりついてますね」
やや不機嫌そうに言うと、リリスはマジカルステッキを取り出す。
「<ホーリーヒール>!」
詠唱すると、ステッキから放たれた光が私を包む。
ベーシックな浄化魔法だ。私にこびりついたオークの体臭がたちまち消えていく。臭みがなくなるとリリスは満足したように笑顔を浮かべた。
どうやら怪しまれていたわけではないらしい。
くっさあ♡の残滓が消えたのは残念だけど、ほっとして肩の力が抜ける。
「ありがとうリリスちゃん」
「オークの体臭は毒ですし、大事になる前に休みましょ。研究熱心なのはお姉さまの美徳ですけど、無茶はダメダメッス」
「あはは……つい間近で見てみたくて」
オークのチンポを。
リリスちゃんははっとしたように目を見開いた。
「そっか。魔王が死んでから、びみょーにモンスターの性質が変わってますもんね。そこに気づくだけでなく、自分の身を顧みず積極的に触れ合っていく! さすがっス!」
キラキラとした目で見つめられる。
……まあ研究熱心は嘘じゃないからギリギリセーフで!
熱心すぎるあまり(性的な)触れ合いも厭わないし。
「リリスちゃんこそこんな場所まで来て研究熱心だね」
「魔法少女ですから! この世のモンスターを一匹残らず駆逐するまで、わたしは頑張りますよ~」
両目がメラメラと燃えている。
魔法少女より調査兵団とかのほうが向いてると思うんだ。
一周目のストーリーで軽く触れられるが、リリスちゃんの過去は重い。故郷の村を滅ぼされた怒りで魔法少女に覚醒したのだ。モンスターに向ける殺意は誰よりも大きかった。
「魔王を倒してモンスターはいなくなったと思ったんスけどね。なぜか復活したので、休んでる暇なんてありません!」
こぶしを握ってぐっと天に突き上げる。
「頑張ってね」
「……え、お姉さまは一緒にやってくれないんですか?」
ぽかーんと見つめられる。
その様子が実家で飼っていた犬の間抜けな顔を思い出して罪悪感がわいてくるけど、私も譲れないところがあった。
だってリリスといたら敗北Hの研究ができないじゃん!
仲間がいたら敗北できないじゃん!
「な、なんでッスか? お姉さまもわたしと同じ調査してるんですよね?」
くぅ~ん、としょぼくれた犬みたいな声だった。
胸が痛む。ない頭を動かして言い訳を考えるけど、いいのが思いつかない。魔法少女マジカルミューズは仲間を突き放すような発言をしないのだ。変なことを言えば怪しまれる。
……わたし、ひらめいた。
何も言わなければいいのでは?
「……私にはやるべきことがあるの」
「それは一体……?」
「事情があってね。まだ言えないの」
秘儀、情報量ゼロの匂わせ。
クソシナリオの過剰摂取で身に着けた108のクソスキル、その一つだ。
けれど効果は抜群だったらしい。
少し物憂げな表情を張り付けると、リリスは納得したように頷いた。
「わかりました! その時が来たらわたしにも手伝わせてくださいね!」
「もちろん。頼りにしてる」
鼻歌を歌うほどご機嫌になったリリスと山を脱出し、その日は解散となった。




