第1話 横流しの責任者にされた夜
棚卸しは、本来、誰かを責めるための作業じゃない。
何が足りていて、何が足りていないかを確かめて、次の夜をちゃんと越えられるようにするための仕事だ。
けれど東港ダンジョン補給センターでは、その当たり前があっさり踏みつぶされた。
「大槻主任。緊急用回復薬二十四箱、所在不明だそうだ」
午後の会議室で、運営管理課長の宮坂俊也がわざとらしく深いため息をついた。四十一歳。高価な腕時計と柔らかい口調が売り物の男だけれど、倉庫の棚番号を一つも覚えていない。
私は机の上に広げられた出庫一覧を見下ろした。
「この数量が私の承認だけで動くことはありません。特別搬出には課長の電子印が必要です」
「それを言い訳にする気か?」
宮坂の隣には、大手配信クラン《煌牙》の渉外担当と、スポンサー企業の白鷺メディアの社員まで座っていた。視線が痛いほど整っている。責任者を一人決めて、そこへ全部押しつける段取りがもう済んでいる顔だった。
「次のスポンサー合同探索までに騒ぎは片づけたい。だから君には現場を離れてもらう」
「離れる?」
「今日付で地下搬入口の夜勤主任だ。倉庫主任の席は、もっと柔軟な人材に任せる」
柔軟。便利な言葉だ。規則を曲げてでも相手に合わせる人間を褒めるとき、ここではそう言う。
「行方不明の二十四箱は、昼のスポンサー搬入と時刻が重なっています。まずそこを照合するべきです」
「大槻さん」
白鷺メディアの社員が薄い笑みを浮かべた。
「今必要なのは原因究明より信頼回復なんですよ」
私は思わず笑いそうになった。信頼を壊した側が、いちばん最初に信頼という言葉を使う。
異動通知は、その場で端末に送られてきた。地下搬入口、夜二十二時から翌朝七時。救助便と残業探索者向けの補給を担当する、誰も褒めないけれど止まると一番困る持ち場だ。
会議室を出る間際、私は一覧の末尾にある承認番号を見逃さなかった。宮坂の権限帯でしか開けられない搬出ロックが、二十四箱分だけ外れている。
やっぱり、消えたんじゃない。
消されたのだ。




