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義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
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第88話 ― 境界線

婚活庁の命令により、新型マギボードとレゾナの販売は一時保留となった。


 その翌日、フレイは単独でライオネル本社を訪れていた。


 受付で名を告げた瞬間、複数の視線が突き刺さる。


 制服の胸元に刻まれた婚活庁の紋章。


 それだけで、空気が変わる。


 先日まで穏やかだった社内の空気は、明らかに硬い。


(……敵地、か)


 今回の保留命令により、ライオネル社は不穏な状態にあった。


 問題が拡大する前に距離を取る。


 合理的な判断だ。


 だが当事者から見れば、裏切りに映るのも無理はない。


 フレイは背筋を伸ばし、目的地へ向かった。


 目的は一つ。


 カイとの接触。


 彼はきっと、研修会場にいる。


 そう確信していた。


 廊下を歩くたびに、社員たちの視線を感じる。


 だが立ち止まらない。


(今なら……まだ間に合うかもしれない)


 被害は拡大している。


 しかし決定的な破局には至っていない。


 今なら、止められる。


 カイのためにも。


 ユイのためにも。


 研修会場の扉を開ける。


 そこに、いた。


 カイは何事もない顔で、技術者たちと議論している。


 穏やかな笑顔。


 自然な仕草。


 まるで事件など存在しないかのように。


(……余裕)


 それが不気味だった。


 フレイは真っ直ぐ歩き、カイの前に立つ。


 カイは視線を上げる。


 一瞬、驚いた表情。


 次の瞬間、目が鋭くなる。


 制服を見たのだろう。


「……パーティー以来ですな」


 軽い調子。


「まさか、婚活庁の方やとは思いませんでした」


 フレイは静かに告げた。


「少し、お時間を」


 別室へ移動する。


 扉が閉まる。


 沈黙。


「それで?」


 カイが先に口を開く。


「何用ですか」


 フレイは迷わなかった。


「貴方がやっていることを、止めさせるためです」


 わずかに空気が張り詰める。


「……何のことやら」


 白を切る。


 だが目が泳がない。


 余裕。


 フレイは続ける。


「ユイさんから相談を受けました」


 その名に、カイの表情がほんのわずかに曇る。


 ほんの一瞬だけ。


「明らかな違反行為です」


「今なら、まだ重くならない可能性があります」


 カイはゆっくりと息を吐いた。


「あなたは、義務婚制度に不満はないんですか」


 唐突な問い。


「ユウト君は正式な婚約者やない」


 低い声。


「制度次第で、あんたは選ばれへん未来もある」


 フレイは黙る。


「その時、納得できますか」


 さらに近づく。


「国が決めた相手と、笑えますか」


 沈黙。


 カイの声は穏やかだ。


 だが確実に刺さる。


「俺はな」


「選べる可能性があるなら、掴むべきやと思う」


 フレイの胸が揺れる。


 制度の側の人間。


 だが自分も、迷いがないわけではない。


 カイは最後に言った。


「あなたは、どっち側なんですか」


 問い返せない。


 彼は確信している。


 フレイが揺れていることを。


「……戻れなくなりますよ」


 フレイの声は静かだった。


 カイは、薄く笑った。


「もう、とっくに戻れません」


 その目に、迷いはなかった。


 そしてフレイは悟る。


 彼は止まらない。


 自分が止めなければ。


 だが。


 その瞬間、扉の向こうに人の気配がした。


 ――次の段階へ。


 空気が、変わり始めていた。


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