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第2話:消えた記録

1/3

蓮司のスマホに、見知らぬアカウントから突然DMが届いた。


『弟が東雲記念病院で原因不明の合併症で亡くなった。記録の開示も拒まれている』


さらに、地元では「第7病棟に運ばれた患者は二度と戻らない」という噂があるという。


「……第7病棟って、有名な都市伝説だろ?」


蓮司は眉をひそめながら呟いた。


「存在しない病棟に患者が運ばれて、そのまま消える……オカルト雑誌の常連ネタだったはずだ」


朝比奈は肩をすくめて笑った。


「都市伝説って言っても、どうせ“口裂け女”とか“人面犬”と同じノリでしょ? あんた、そういうの信じちゃうタイプ?」


光は即座に分析を行い、


《公式案内には存在しませんが、搬送ルートや記録抹消の特徴から存在の可能性は高いと考えられます》と告げた。


——本来なら関わらずに笑い飛ばすべき話だ。けれど、胸の奥がざわつく。


蓮司はDMの送り主との面会を決意した。


2/3

午後三時、駅前の古い喫茶店。


テーブルに置かれたコーヒーから、ほのかな苦い香りが立ちのぼる。


蓮司の前には、DMを送ってきた女性——佐伯麻由が座っていた。


黒いワンピースに薄化粧。手元のカップを握る指が、かすかに震えている。


「……弟さんの件、詳しく聞かせてください」


麻由は唇を噛み、視線を落とした。


「三ヶ月前、ただの盲腸で入院したんです。手術も成功して、退院の予定だったのに……」


そこで言葉を切り、息を整える。


「ある夜、病室から“移送”されたんです。看護師は『検査です』としか言わなかった」


光が蓮司のイヤホン越しに囁く。


《移送先が第7病棟である可能性が高いです》


「……その後は?」


「翌朝には、もう……亡くなってました。病院は『急性合併症』とだけ」


麻由の声がわずかに震える。


「遺体を引き取る時、弟の腕に点滴痕とは別の針跡があったんです。でも、カルテには何も記録されていない」


朝比奈が眉をひそめる。


「記録が消されてる……」


《または最初から書かれていない。どちらも意図的な操作です》


麻由はバッグから封筒を取り出し、蓮司に差し出した。


中には弟の入院時の診療明細と、看護記録のコピー。


「この日付から亡くなるまでの二日間だけ、何も残ってないんです」


蓮司は封筒を見つめ、拳を固く握った。


3/3

店を出ると、夕暮れの光が街を赤く染めていた。


歩き出そうとしたとき、朝比奈が横目で蓮司を見る。


「……さっき、麻由さんの心、透けて見えた?」


蓮司は小さく首を振った。


「躁じゃないし、プチ覚醒もしてない。……今はわからない」


胸の奥がざわつき、蓮司は思わず吐き出す。


「……俺はまた首を突っ込むのか」


朝比奈は少しだけ口角を上げ、だが声は冷静だった。


「突っ込むしかないでしょ。人が消されてるかもしれないのに、見なかったフリなんてできない」


蓮司はしばらく黙っていたが、やがて小さく笑みを浮かべた。


「……そうだな。結局、俺たちが動かなきゃ何も変わらない」


その声には迷いよりも、むしろ静かな覚悟がにじんでいた。


麻由は立ち去る前に振り返り、少し躊躇してから、こう付け加えた。


「……関係あるかわかりませんが、病院で“白衣の幽霊”の噂があります。


 目の焦点がなくて……カクッと首を傾けながら、廊下をゆっくり歩くって」

※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

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