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プロローグ

夜の病室。


カーテンで仕切られた四つのベッドのうち、三つからひそひそ声が漏れている。


非常灯の薄暗い光の中、時計はもう深夜0時を回っていた。


「ねえ……知ってる? この病院に、第7病棟があるって」


声をひそめて話すのは、窓際のベッドのミカ。


「またそういう話? 怖いの苦手なんだけど」廊下側のサクラが苦笑する。


「いや、マジなんだって。ここ、ネットでも有名なんだよ。『第7病棟=死の病棟』って」


足元のカーテンをめくり、もう一人のユイナが顔を出す。


「死の病棟……?」


「夜中にストレッチャーで運ばれた患者は、絶対に帰ってこない。


 次の日には『急変で亡くなった』って言われるんだって」


「それ、普通に重症だからじゃないの?」サクラが笑い飛ばそうとする。


「違うんだって。元気に話してた人まで、運ばれたら終わり。しかも、第7病棟って普通の廊下から行けない場所にあるらしいよ。鍵付きのエレベーターでしか行けないんだって」


「じゃあ、なんでそんなの知ってるの?」


「ネットに上がってた体験談。『真夜中、看護師に連れられて行った先が真っ暗な廊下で——』って」


その時、廊下の奥から微かな車輪の音が近づいてきた。


三人は顔を見合わせ、声を飲み込む。


音は病室の前で一瞬止まり……やがて遠ざかっていった。


「……ほら、こういう時だよ」ミカがささやく。


サクラは無理やり笑って毛布にくるまった。


だが、彼女たちは知らない。


その会話を、病室の外からじっと聞いている影があったことを——。

※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

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