◆ 第1部 禁忌の森と電子の工房 【1−3】
第三話 光を宿す石柱
石柱の内部に埋め込まれていたのは、古びた金属製の筐体だった。
長年の年月で風雨にさらされたせいか、外装は錆びと土埃や苔に覆われているが――その筺体の表面には、見慣れぬ文字のようなものが刻まれていた。
「……この中に何かあるのか? いや、これは……」
筐体の蓋を外してみたそこには・・・・・・・・。
筺体を観察すると筺体下部から2本のピンが出ていて、そのピンは石柱内部の表面に触れていた。。
カシャン、と筐体の蓋の金属片が外れ足元に落ちた。内部構造が露わになった。
中をのぞきこむ直哉は息を呑んだ。
そこには――透き通るような白濁の結晶の板が、筺体の中心に鎮座していた。
白濁した水晶の板の表面には幾何学模様が刻まれていた。いや幾何学模様に見えるが、それはプリント基板に走るパターンに似ていた。だが、基板ではない。
石材に直接彫り込まれた模様の周りには、光沢のある結晶粉が埋め込まれている。
脚立の上で姿勢を崩しそうになりながらも、ドライバーで慎重にその板を取り出す。
五センチX7センチほどの板状だ。表面に微細な光の粒が瞬いている。
「……宝石? いや……石?ただの石じゃないな」
直哉は思わず結晶板に手を伸ばした。
指先に触れた瞬間、微かな振動が伝わってきた。静電気のような、しかし明らかに違う感触。
結晶板全体が発光し、ふっと明滅した。
「点いた……? いやいや、待て待て……」
慌てて手を離すと、光は消えた。
もう一度触れると、再び仄かに光が灯る。
直哉の頭に電撃が走った。
これは電気回路に近い。だが、電源もケーブルも見当たらない。
石そのものがエネルギーを内包し、外殻の模様――つまり回路が、それを制御している。
(これが……この世界の“エネルギー素子”……?)
彼は震える手で結晶板を抜き取り、持ち帰ることにした。
工作室の机に結晶板を置く。
石板の解析は夜にして、まずは採取した川の水、木の実が摂取しても大丈夫か確認しよう。
サバイバルの教科書と簡易水質検査キットを持ってきてパックテストを行うと飲み水に適していることが判明した。
「雨水の浄化槽を使えば飲んでも安全だな。」
次はあの木の実だった。これが一番時間がかかる作業だった。
まずは接触テストから始める。
木の実の果肉をわずかに包丁で切り、手首の内側の敏感な皮膚に果肉を軽くこすりつけて5分待った。赤み、腫れ、ヒリヒリ感、かゆみは起こらなかった。
次に果肉を唇の端に軽く触れさせ5分待ち、こちらもピリピリ感、しびれ、腫れは起こらなかった。
唇に異常がな買ったので、実をごく少量(米粒大)だけ口に入れ、舌の先端に触れさせ5分間待ってみた。苦味、刺激、麻痺はない。
接触テスト全てが異常なかったので、摂取テストに進む。
果肉を少量(米粒大)だけ口に入れ、噛んで味を確かめる。果肉は飲み込まずに、5分間口の中に留めておく、不快な味や刺激があルカ確認した。異常なしだ。
次は嚥下だ果肉の少量を飲み込み4時間まつ。気分、胃の不快感、吐き気、めまい、発熱などの体調変化がない。この間、他の食料や水を一切摂取しないでいた。
4時間経過して異常がなかったので、再び米粒大の半分だけを摂取して、8時間待つ。その間の体調を観察し異常なし、ここまで来れば比較的低い毒性を持っていることが確認できた。
あとは本摂取テストだ。大量に食べるのは避け、少量ずつ(一度に手のひらに乗る程度)を数日間に分けて食べ進め、引き続き体調を観察しながら徐々に量を増やしていく。果肉を切り、量りジップロックを5枚用意してマジックで1日目、2日目・・・・・・5日目と記入して小分けにしていく。とりあえず冷蔵庫に入れて保管して明日から食べ進めていくようにすると。
こういうことは、体力に余力がある今のうちに済ませておくべきだからとにかく優先的事項だ。
次はあの川の生物たちも食用可能かのテストを行わないといけない。
さて、件の装置の解析を進めるか。
ノートPCを起動し、マルチメータ、オシロスコープを用意し、まずは顕微鏡カメラで結晶板表面を拡大観察する。
画面に映ったのは、結晶板上に霞のような格子模様が映し出された。その下に幾何学的な模様というか魔法陣に似ている線が見えている。そして、不思議なことに、格子間に揺らめく微光が漂っていた。
「……エネルギーが残ってる?」
バッテリーチェックを行うためマルチメータのプローブを水晶の板に刻まれた幾何学模様に接触させようとすると格子をすり抜けプローブは繊幾何学模様に直接触れた、そして針が微かに振れた。
確かに電気的反応がある。電圧も5Vほど計測できた。
回路の始点いわゆる電源部分にあたるだろう場所にプローブを当てる幾何学模様には電気的な反応が観測できた。
しかし電池にあたる部分は、これは電気・化学とは別の何かだ。
(電流でも、熱でも、放射線でもない……。けど“力”はある)
直哉は唇を噛んだ。
科学者としての直感が告げていた。これは、人類がまだ定義していないエネルギーだ。
「……そうか。これが、この世界の“電池”か……」
彼は椅子に深く座り込み、机の上の結晶を見つめた。
その水晶の基板から筺体を出ていた2本のピン。そのピンは石柱の内側の表面位触れていた。そのピンにマルチメータのプローブを当て計測し電圧を確認した水晶版と一緒に持ち込んだ石柱の蓋の内側にそのピンを当てた。石柱に蓋は光を宿した。
その光は、不安定に瞬きながら、まるで何かを訴えかけているように見えた。
その夜。
直哉が工作室で街灯回路の解析に没頭している。
はんだごての匂い、回路の明滅に夢中で、彼の周囲の世界は完全に遮断されている。
空き地のはずれ、森の月明かりの下に白髪の女性が再び姿を現す。
前回のような幻ではなく、今度は足音すら響くほど確かな存在感。
彼女は遺跡の方角を見つめる。
胸元に光るのは、かつて大魔術師の眷属だけが持つ紋章のペンダント。
「――アル様……この方ですね?」
彼女の問いに応えるように、風がそよぎ、森の奥から何かが微かに答えるように木々がざわめく。
彼女は小さく頷き、ほんの一瞬だけ悲しげに微笑む。
彼女の肩には、昼間直哉が見かけたリスに似た小動物がのり、彼女の髪にほおづりをしていた。
だが直哉は、彼女の悲しげな視線に気づくことはない。今の彼の意識は目の前の物体に注がれている。
工作台の水晶板と回路図に似た幾何学模様だけが、今の彼には彼の全てだった。




