3-4 夕暮れ
「ト、トウマくん……。治療した時より怪我が増えてるのはなんでかな」
「なんでだろうな」
夕刻、あれからも掃除や買い出しといった雑用をマームと片付けていった。
事あるごとに彼女の暴力が俺を襲うのは、俺の失言によるものなのか彼女が短気だからなのかは定かじゃないが。
「アルクレア、この男はダメ男よ。ゆくゆくはあなたの優しさに甘えてずるずる世話されるだけのヒモ男に成り下がるわよ」
「なあアルクレア、どう思う?恩に着せるつもりはないが一日雑用を手伝った俺にこの言いようだぜ?いや、言うにこと足りず手も足も飛び出すんだ。なあどう思う?」
「あはは、二人とも落ち着いて……」
俺とマームに挟まれて困り顔のアルクレア。
アルクレアを困らせたくはないので、ここは俺が引くとしよう。
したり顔のマームが鼻に付くが俺はこんなことで腹を立てないぞ。大人だからな。全く気にならないぞ。余裕のある笑みを返してやる。
「ト、トウマくん、笑顔が怖いよ」
「さぁーって。私は夕食の準備でもしてこようかな。アルクレアは日中子供たちの相手で疲れてるだろうし、少し休んでなよ」
「え?いいの?」
「いいわよ。ついでにヒモ男くんにも適当に治癒魔法かけといて〜」
「もうヒモじゃないやい!」
おざなりに手を振ってマームは出ていった。
「今日は大変だったね。治癒魔法かけてあげるから、こっちおいで?」
あやすような口調でアルクレアが言ってくる。
すごすごと治癒魔法をかけてもらう自分がなんだか情けなかった。
「ありがとね、トウマくん。マームはああ言うけど、ほんとはすごく助かってるはずだから……」
「その割には随分邪険にされたが……」
「ああいう性格なんだよ。素直じゃなくて。でも、根はすっごくいい子なんだよ」
「ふーん」
生返事で返すほかなかった。
アルクレアが言うからには、きっとその通りなんだろうな。
「はい、治療終わり!他に痛いところあるかな?」
「いや、大丈夫だ。サンキューな」
アルクレアの手から放出される癒しの光が消え、治療が終わる。
「じゃあこれ以上長居しても邪魔だろうし、俺は帰るとするぜ」
「邪魔なんてことないよ!お礼にお茶の一杯でも飲んでいかない?」
「ありがとな。でも今日は遠慮しておくよ」
今日一日マームに連れ添って雑用をこなしてきたが、ほとんど休む間も無く働きづめだった。
きっとこの後の時間も忙しいだろうし、そうでなくとも彼女の休息の時間に気を遣わせるのは不本意だった。
朝くぐってきた教会の門までアルクレアは見送ってくれ、そこで別れることにした。
「今日は悪かったな。いきなり押しかけて」
「悪いなんてそんな、むしろ感謝だよ!」
ふと、アルクレアは物憂げな表情をする。
「どうした?」
「トウマくん、最近一緒に冒険できなくてごめんね」
「気にすんなよ。それに、俺だっていつまでもアルクレアにおんぶに抱っこって訳にもいかねーしな。最近はソロでもそれなりに稼げるようになったしよ」
そう答えたが、アルクレアの表情はどこか寂しげで……
「ふふ、そっか。でも、時間あるときは私ともクエスト行こうね」
そんな目で見られて、どこかいたたまれなくなった俺はもちろんだとだけ答えて、帰路についた。