子猫と雄猫
その夜、マチルダと仲良くなったと小鞠がシモンに話したところ、案の定彼は困った様子になってしまった。
「オルガのこともあるし、王国の貴族たちの勢力図が大きく変わるかもしれないな。これまで三家が拮抗していたはずが、ミッコラ伯爵が優位と思う者が多く出るだろう」
「やっぱりそういうことが起こるんだ。マチルダをシモンの側妃にって思ってたミッコラ伯爵は好きじゃない。わたしはミッコラ伯爵じゃなくてマチルダと仲良くなったの――なんてこといちいち周りの人に話してまわるわけにもいかないよね」
溜め息をつきつつ小鞠がソファの背もたれに頭を預けると、湯に入って乾かしたばかりの黒髪がサラリと流れた。
カッレラに来たばかりの頃は結うには少し長さが足りなかったが、最近は何とか纏められるくらいには伸びている。
艶やかな光沢を帯びた彼女の髪をシモンが指先で弄びつつ言った。
「マチルダが突然尋ねてきたとは聞いていたが、まさかコマリと親しくなるとは思わなかった。わたしは彼女に対しておとなしいという印象しかないのだが」
「おとなしい印象は受けなかったな。けっこう明るいしちゃんと自分の意見は言う人だったもの。あとは、んー……ちょっと夢見がちなところがありそうだけど、見かたによっちゃあ大事に育てられてきた貴族のお嬢様って言えなくもないのかなぁ?」
「わたしのもつ印象と随分違うな。マチルダは口数が少なくいつも微笑んでいるだけで、特に目立つこともなかった」
昨夜見た舞踏会のマチルダがそんな感じだったっけ。
(おとなしくしていたのはきっと、シモンに気に入られたくなかったからだよね)
と心の中で思ったけれど口には出さないでおいた。
「箱入りのお嬢様だろうし、女の子同士のほうが打ち解けやすかったのかも」
「そういうものか」
目だけをシモンに向けていた小鞠が頭をおこすと、黒髪で遊んでいた指先が離れた。
「わたしがマチルダと仲良くすると王国に迷惑をかけちゃう?」
「なにかの折にはコマリはミッコラ伯爵につくと思われるだろう」
「そんなことしないわ」
「ああ。だがもし伯爵が窮地に陥ってマチルダに助けを求められたときはどうだ?コマリの後押しがあれば助かると――彼女に涙ながらに救いを乞われてコマリはそれを撥ねつけることができるか?」
「それは……」
言いよどむ小鞠に彼は苦笑を浮かべた。
「その様子ではコマリは本気でマチルダと仲良くなりたいと思っているのだな。わかった。今後の貴族への影響など気にせずとも良い。なにより心底友になりたいと思う相手にめぐりあえるのは幸運なことだ。大事にするといい」
「正直に言うとわたし、マチルダに同情したんだと思う」
「同情?」
「わたしはシモンと……好きな人と結ばれたけど、難しい人もいるんだって――」
彼女に「好きな人」と言われて嬉しそうな顔をしたシモンは、けれどすぐに目を見張った。
そしてなるほどなと納得したような呟きを洩らす。
マチルダに想う相手がいると気づいたのだろう。
「わたし、マチルダには協力できないって言ってあるし彼女もわかってるって言ってた。あの……だからシモンが気にするようなことで、マチルダが助けてって言ってくることもない――とは言い切れないけど、でも悪い人には見えなくて」
歯切れの悪い小鞠に彼はわかっているというように頷いた。
「わたしはコマリらしくあってほしいといつも言っているはずだ。慈愛に満ち優しくも勇ましいコマリがわたしは好きなのだ。王族はこうあるべきという型にはまろうとして、それが損なわれてほしくはない」
「でもわたしじゃシモンの相手に相応しくないって言う人がいるかも」
「逆の場合もあるだろう?わたしがコマリの相手に相応しくないと思う者もいるかもしれない。昨夜、父上も言っていたが、それほど王宮にコマリの味方は増えているのだぞ」
いえ、逆の場合はないと思います。
内心突っ込んでいる小鞠をよそに彼は言葉を続ける。
「コマリが理想を掲げてそこへ近づこうと努力するのは良い。だがそのために個性を殺すのは違うと思う」
膝の上の手を握られた。
「何度でも言う。コマリはそのままでよいのだ」
シモンのあたたかな掌に勇気付けられる。
「――うん、ありがとうシモン」
いつの間にか自分でも気づかないうちに「シモンに相応しい淑女たれ」と、気負っていたのかもしれない。
「あのね、マチルダって健気で可愛いしなんだか放っておけなかったの」
「そういえばマチルダの好きな男は誰なのだ?」
「それは聞いてない。ただ身分が違うって。相手の人は貴族じゃなくて普通の人みたい」
「そうなのか?ならば結ばれることは難しいな」
「マチルダも諦めてるみたいだった。それがわかったから話を聞くぐらいはできるって言っちゃったの。わたしもシモンと離れようって思ってたとき辛くて苦しかったし、なんかあのときのわたしとダブっちゃって」
握られていた手に力を込めると、指を組むように握りなおして引き寄せられた。
「わたしはこの先コマリの手を離すつもりはない。一度でもコマリを諦めようとした自分を大馬鹿者と呪いたいくらいだ」
指に軽くキスしたシモンが微笑んでくる。
相変わらず自然にスキンシップをとる人だ。
(前は恥ずかしいだけだったのに、今はそれより嬉しいのが勝っちゃってる)
いつのまにか慣らされていることを感じながら、小鞠はふと頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。
「両想いの奇跡を手にしたら逃しちゃだめなんだって」
「ん?」
「ジゼルの亡くなったお母さんの言葉。前に教えてもらったの。わたしがシモンとこうしていられるのは奇跡ってことなんだね――頑なに異世界へ行かないって言ってた自分にバカって言いたいかも」
コツとシモンの肩に頭を預けると彼も頭を傾けてきた。
どちらからともなく視線を合わせて引き合うように唇が触れる。
軽いキスのあと彼女は再びシモンの肩に頭を預けた。
「あそうだ、マチルダに好きな人がいることは誰にも言わないでね」
「わかっている」
「秘密のお話をしたからか、仲良しのお友達みたいってマチルダが言ったの」
ウフフと笑う小鞠の言葉に「そうか」とシモンが頷いた。
会話が途切れたのをきっかけに、瞳を閉じた小鞠から小さく欠伸がもれた。
お風呂のあとは大事なシモンとの時間でもあるが気を抜くと眠くなってしまう。
彼は例えば樹木の発するフィトンチッドのように、人をリラックスさせる不思議な能力があるのかもしれないと小鞠は思った。
「コマリ、眠いのか?昨日飲みそびれたふるまい酒を飲みたいと言っていたのに」
笑いを滲ませたシモンの声にウトと意識を失いかけていた小鞠は、「ふるまい酒」の単語に反応してぱっちりと目を開けた。
「そうだった」
勢いよく立ち上がった彼女は、壁際の足の長いテーブルに用意されたふるまい酒に駆け寄る。
「眠気も吹き飛ばすほどか。かなりの酒好きだったのだな、コマリは」
くすくすとシモンが笑うのを背中で聞きながら彼女は酒を開けた。
「大学の打ち上げとかじゃ眠っちゃうのが怖くていろんなお酒を試せなかったの。今はシモンがいるから大丈夫でしょ?――わたしがいれるからシモンは窓の外の星の数でも数えててね」
「星?座って待っていてはいけないのか?」
「うん。あっちで星空を見てて」
庭に続く窓を指差すと彼は困惑した様子ながらもソファを立った。
カーテンをめくり窓越しに夜空を見上げる。
「これでいいのか?」
「用意ができたら呼ぶから」
「わかった」
笑ったような返事が彼から聞こえた。
小鞠は用心のために覗き込むようにしてシモンを見つめ、こちらに背中を向けているのをしっかり確認してから、ドレッサーに足音を忍ばせて移動した。
抽斗を開けて小瓶を取り出す。
一昨日、厨房でもらった砂糖の入った小瓶だ。
塩だと溶け残してしまうかもしれないと砂糖を使って悪戯をすることにしたのだ。
テーブルに戻ってグラスの一つに瓶の中身を空けると、ふるまい酒を少し注いでグラスを揺すった。
(マドラーがないから溶けにくいなぁ)
なんとか砂糖を溶かして、グラスに更になみなみと酒を足す。
もう一方のグラスにも同じくらいたっぷり酒を注いだ小鞠は、砂糖入りのグラスを左手に持ってシモンに近づいた。
「はいどうぞ」
なんでもないふうを装いながらシモンに酒を手渡し、自分は右手にあるグラスからちびりと酒を飲んだ。
「あ、おいしい」
爽やかな香りが喉の奥に広がって体に染み渡るようだった。
小鞠はつい悪戯も忘れて味わいながら半分ほど飲む。
「冷やしておいてお風呂上りに飲みたい感じ」
「気に入ってくれたか。フェルトの森のボジェクから作った酒だ」
「フェルトの森って前にも聞いた。別名、えっと妖精……じゃなくて「精霊の森」だったっけ?」
「ああ。フェルトの森は精霊が多く住んでいるのだ。森は彼らの気に満ちているためか、そこに育つボジェクから作る酒を飲むと病気知らずと言われる」
「そうなの?」
ってことはもしかしなくても限られた人しか飲めない貴重なお酒なんじゃ……。
(どうしよ、たっぷり砂糖入れちゃった。もったいないことしたんじゃないかな)
内心青くなった小鞠の側でシモンがグラスを傾けた。
「っ!……甘……瓶の中身は砂糖だったのだな。コマリのことだから惚れ薬入りではなく悪戯酒を用意するのだろうと思ったが、これでは砂糖酒だ」
「瓶って……え?なんでバレてるの?」
「窓に反射して全部見えていたぞ。それに小さな空瓶を隠し忘れている」
「あっ!」
テーブルを指差され、しまったとばかりに声をあげると、シモンが声をあげて楽しそうに笑う。
「コマリは謀には向かないな。音を立てないように鏡台の抽斗をあけたり、一生懸命砂糖を混ぜている姿が微笑ましくて――窓に映るコマリを見て、笑いを堪えるのにどれだけ苦労したか」
「星空を見ててって言ったのに」
「背後でこそこそとやっている気配がすれば気になって当然だ」
笑顔のシモンは、ぐ、と一気にグラスを煽って砂糖入りの酒を飲み干した。
目を丸くする小鞠からグラスを取り上げ、更にクーと中身を飲む。
「ああ!わたしの」
「砂糖酒を飲んだ口直しくらいさせてくれ」
二つの空になったグラスを手にしたシモンは酒瓶の置いたテーブルに近づいた。
後を追った小鞠が「あれ?」というシモンの声に背後からテーブルを覗き込むと、彼が酒瓶を手にしたところだった。
「これだけしか残っていないのか?」
「ホントだ!ちょびっとしか残ってない~~~。最初にたっぷり入れたのがまずったぁ。もーシモンは飲んじゃダメ!。これはわたしの」
瓶を取り上げてグラスに注いだが、1/3ほどの量しかなかった。
ガラス瓶の底を叩いてみても一滴も残っていない。
「本当に少ない」
がっかりしすぎて目の前がクラクラしてきた。
しょぼんと手にしたグラスを見つめる彼女にシモンはすまなそうな顔になった。
「仕返しのつもりもあって小鞠の酒も飲んでしまったのだ。地下の貯蔵室にまだあるだろう。取ってくるから待っていてくれ」
「いい」
だってなんだか覚えのある感覚が体にじわじわと――。
「しかし」
「……シモン、このお酒もしかしなくてもすごーくアルコール濃度が高い?」
嫌な予感がして尋ねると彼はあっさりと頷いた。
「え?ああそうだな、わりと高めだ。普通ならもっとアルコールに喉を刺激されてもいいはずが、どういう作用なのかフェルトの森のボジェクで作った酒は、すっきりとした味わいの酒になるのだ。ほんのりと木の香りがして飲みやすいだろう?」
「だから油断したの。グラス半分ほどしか飲んでないのになんかゆらゆらしてきた」
「そういえば食事のときにワインを飲んでいたな。それでこの酒を飲めばコマリの限界量を一気に突破するか」
「ご飯のときはそんなに飲んでないもん。なのに限界を超えるって、このお酒どれだけきついのよ~」
「だからカッレラの酒はどれも日本のものよりアルコール濃度が高いと――あ」
小鞠が手にしていたグラスの酒をぐびぐびと飲んだとたんシモンが声をあげた。
グラスを取り上げられたが既に空だ。
「限界を超えたとわかったくせになぜ飲むのだ」
「あとは寝るだけだもん。だから飲んじゃった」
「二日酔いになっても知らないぞ」
「二日酔いになったことなんて一度もありませーん」
気を許したシモンが相手だからか、酔って寝ちゃいけないというストッパーは小鞠に働かない。
そのため許容量を突破すると酔うのは早かった。
エヘヘと笑う彼女は元気に答え、シモンを見上げて首を傾げた。
「シモンはお酒強いねー」
「いやそうでもないぞ」
「嘘だぁ、大学祭の打ち上げのときも城下での食事会のときも、ぜぇんぜん平気そうだったでしょ~。わたし、シモンが酔っ払ってるところ見たことないもん」
「あちらの世界の酒で酔うことはないだろうが――家族の中で母上の次にわたしが酒に弱いのだ。このボジェクで作った酒ならば2、3本も飲めば潰れる」
「2、3本も飲めたら充分強いんですーだ」
「すぐ下の弟は何本飲んでもけろりとしているが」
「それは蟒蛇って言うの」
「蟒蛇?とは大蛇のことだろう?」
「うん大蛇~。八岐大蛇が有名でねー、お酒が好きで尻尾から剣が出てくるお話なの~。……あれぇ?なんで蛇の話?」
んー、と小鞠が考えていると「もう完全に酔ったのか。本当に面白い体質だ」と、シモンが苦笑を浮かべた。
「む。まだちょっとしか酔ってませぇ~ん」
「そうだな、ちょっとだな――そういえば「アマタノオーチ」とは前にコマリから聞いたような気がするが、蟒蛇のことであったのか。あちらの世界では物語に出てくる空想上の大蛇なのだな?こちらの世界では北の地に生息するがもう長いこと姿は確認されていない。ドラゴンのように絶滅したという者もいるな」
「え?八岐大蛇がいるの?首が八つある?」
「首が八つ?さすがに物語そのままの姿では――大きな蛇で頭から背にかけて鶏冠がある。人をも襲う凶暴な種で駆除されるうち数が減ってしまったのだ」
「いないのかぁ。じゃあ尻尾の草薙剣は手に入らないね~」
残念そうに小鞠が言うとシモンは理解しがたい顔になった。
「尾から剣が出てくる大蛇がいれば鍛冶屋は困るだろう」
「えー、こっちの世界にはお宝を残すレアな生き物がたくさんいると思った。妖精とか精霊とかユニコーンとか普通にいるんだし、泳ぐ鉱物の金魚や銀魚だっているのに~」
「そういった鉱魚が育つ場所は世界でも限られている。どこでも育てば世界の経済がめちゃくちゃになるだろう?」
「そういう真面目な話じゃなくて不思議な話が聞きたいの。そうだ、シモン!何か話して。こっちの世界の不思議話」
普段より何倍も陽気になった小鞠がシモンの手を引っ張ってソファに導くと、彼はしょうがないなというように困った素振りを見せながら、けれどどこか楽しそうな様子にもなった。
シモンの隣にくっつくようにしてソファに座ると、
「酔ったときだけでなく普段からこのくらい積極的であればな」
と独り言が耳に入る。
「なぁに~?」
「ああ……酔ったコマリはやはり子猫のようだと思ったのだ」
「子猫」と言われたため、小鞠は両手を拳に握って猫の真似をしてみせた。
「シモンが飼い主なのぉ?えっとじゃあ~、可愛がってにゃん?――なんちゃってー」
数秒沈黙したシモンだったが。
突然、ガバァと抱きしめられる。
「う?っちょ……シモン、お話してくれるって――っわ」
体が浮いたと思ったときには、彼はもうベッドに向かって歩き出していた。
「コマリが誘ったのだろう。今のはありえないほどに可愛らしかった」
「誘ってないもん」
「可愛がってと言っただろう」
「意味が違うでしょぉ」
運ばれたベッドに押し倒され、彼の重みで逃げられない。
「どこに手を、……っ!」
口付けてきた唇が移動して頬や首筋に触れた。
展開に頭がついていかない。
びっくりして酔いはすっかり醒めてしまった。
「し、シモン、きょ、今日、今日はまだ……ねぇってば」
「ああ。痛みがあるコマリに無理強いはしない。入れないで擦りつけるだけだ。――怖がらないで。わたしがコマリを傷つけることは決してない」
耳元で熱い息と共に囁かれる。
熱を含む低音に背筋がぞくぞくした。
(うにゃぁぁ、こ、擦りつけるって何をどこにぃ~!?)
顔を真っ赤にして突っぱねた手を容易く取られ掌に口づけられる。
「今のわたしは子猫のコマリに惑わされた雄猫とでも思ってくれ」
「オス猫?」
「ああ。盛りのついた、な」
青い瞳に抑えきれない情熱を湛えた光が浮かんだように見えた。
シモンが寝衣の上を脱ぎ捨てる。
まだ見慣れない逞しい上半身が露になった。
顔にかかる金髪を彼は頭を振ってはらう。
小鞠は熱くなる頬を両手で押さえた。
猫じゃなくてライオンみたい。
(わたし、食べられちゃう)
高鳴る鼓動を感じる小鞠はどこかでそれを望んでいる思った。
身を寄せたシモンが頬を隠す彼女の手を開かせる。
真っ赤だろう顔を見られたくなくて顔を背けると、
「そうやってわたしを煽るな」
顎に指が絡んでシモンの方へ向けられた。
簡単にキスされたはずが口腔にはそっと舌が入ってくる。
怯えさせないようにとの配慮だろうか。
小鞠は応えるようにシモンの唇を吸い、思い切って自分から彼の背に腕をまわした。
一度唇が離れたとき、シモンに問うような眼差しを向けられる。
「……今日は酔っ払ってるの」
自分も彼を求めていると知られるのが恥ずかしくて、口先だけの言い訳をした。
「では途中で眠られないようにしなくてはな」
「こんなことしてて眠れるわけが――……っぁ!……」
二つの膨らみに掌が触れた。
「まだ触れただけだ。そんなふうに過剰に反応されたら苛虐心に火がつく。苛めてしまうぞ」
ふ、と笑うシモンを見ているだけで体中の血が熱くなっていくようだ。
「好き、シモン」
「その言葉を今は使ってくれるな」
「どうして?」
「止まらなくなる」
鼻が触れ合うほど近くで互いの視線が交わった。
普段は温厚な大型犬のくせに、こういうときだけ飢えた肉食獣みたいにならないでほしい。
力強い腕で抱きしめ返してくれるシモンが「愛している」と言うのが聞こえた。
鼓膜から広がる言霊が小鞠を満たし幸せに胸がいっぱいになっていく。
「わたしも愛してる」
二人の唇が触れる寸前、彼女から零れでた言葉がシモンの抑制を消し去ったのだろう。
そこからあとは「止まらなくなる」と言ったシモンの宣言どおりだった。




