表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合『国民的アイドルと人気モデルに異常なほど溺愛されています』  作者: 赤い赤鼻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

第十話 弱さを見せる相手

莉緒と別れたあと。


 二人で駅へ向かって歩く。


 さっきまで賑やかだった空気が、少しだけ静かになっていた。


「……」


 玲奈は帽子を深く被り直しながら歩いている。


 でも。


 時々。


 本当に時々だけ。


 後ろを気にするみたいに視線を動かしていた。


 その度に、紗奈の中の違和感が少しずつ大きくなる。


「……玲奈」


「ん?」


「今日ずっと変」


 一瞬。


 玲奈の足が止まりかける。


「そう?」


「そうだよ」


 紗奈は少し眉を寄せた。


「なんかずっと周り見てるし」


「人多いから」


「それ、今日何回目?」


「……」


 返事が止まる。


 玲奈は少しだけ困ったように笑おうとして。


 でも。


 上手く笑えなかった。


「……ごめん」


「え?」


「ちょっと気にしすぎてたかも」


 その声は。


 今日初めて聞くくらい、疲れていた。


 紗奈は思わず立ち止まる。


「玲奈?」


 玲奈は少し視線を逸らした。


 何かを迷っているみたいに。


 言うか。


 言わないか。


 そんな顔。


 そして数秒後。


「……紗奈」


「なに」


「今日、家行っていい?」


 紗奈は目を瞬かせる。


 玲奈からそんなことを言うのは珍しかった。


 しかも。


 どこか不安そうだった。


「……だめ?」


 その瞬間。


 紗奈は小さく首を縦に振る。


「もちろん、来なよ」


 その言葉を聞いた瞬間。


 玲奈が少しだけ目を細めた。


 安心したみたいに。



「お邪魔します」


 家へ入った瞬間。


 玲奈が小さく息を吐く。


 まるで。


 やっと気が抜けたみたいに。


「なんか玲奈が家来るの久しぶりな気がする」


「そう?」


「最近忙しかったじゃん」


「……まあね」


 玲奈は帽子とマスクを外す。


 そして。


 ソファへ座った瞬間、小さく肩の力を抜いた。


 その姿を見て。


 紗奈は少しだけ驚く。


 今日の玲奈。


 やっぱり変だ。


「……で」


 紗奈が向かいへ座る。


「何があったの」


「……」


 玲奈は少しだけ黙る。


 迷うみたいに。


 言葉を選ぶみたいに。


 そして。


「最近、ストーカーがいるの」


 静かな声だった。


 その瞬間。


 紗奈の表情が変わる。


「……え?」


「前から少しはいたんだけど」


 玲奈は苦笑する。


「最近ちょっと酷くて」


「酷いって……」


「家の近く来たり」


「は?」


「仕事終わり待ってたり」


 空気が一気に冷える。


 紗奈の顔から笑顔が消えた。


「それ、警察とか」


「事務所も動いてる」


 玲奈は小さく頷く。


「でも相手特定できなくて」


「……」


「今日も、いた気がして」


 その言葉で。


 今日の玲奈の違和感が全部繋がる。


 何回も後ろ見てた理由。


 人混みを気にしてた理由。


 壁側に座ってた理由。


 全部。


「……なんで言わなかったの」


 紗奈が低い声で言う。


 すると玲奈は少し困ったように笑った。


「心配かけたくなかったから」


「当たり前でしょ心配するよ!」


 思わず強く言ってしまう。


 でも。


 玲奈は少しだけ目を丸くしたあと。


 ふっと笑った。


「……うん」


 その笑顔は。


 今日初めて見るくらい、弱かった。


「……怖かった?」


 紗奈が小さく聞く。


 すると玲奈は少しだけ黙る。


 数秒。


 そのあと。


「……ちょっと」


 本当に小さい声だった。


 その瞬間。


 紗奈の胸がぎゅっと痛くなる。


 テレビで見る玲奈は、いつも完璧だった。


 明るくて。


 キラキラしていて。


 誰よりも強そうで。


 でも。


 今目の前にいる玲奈は。


 ただの一人の女の子だった。


「……今日は、紗奈の家来たかった」


 玲奈がぽつりと呟く。


「なんか、安心するから」


「……」


 その言葉が、妙に嬉しかった。


 でも同時に。


 放っておけないとも思った。


「玲奈」


「ん?」


「今日は泊まってきなよ」


 その瞬間。


 玲奈が少しだけ目を見開く。


「え」


「その状態で一人帰すの嫌なんだけど」


「……紗奈」


「なに」


 玲奈は少しだけ俯いて。


 それから。


 小さく笑った。


「……ほんと、そういうとこ」


「え?」


「好き」


「っ!?」


 紗奈の顔が一気に熱くなる。


「ちょ、急にそういうこと言うな!」


「本当のことだから」


 玲奈が少しだけ笑う。


 でも。


 その笑顔は、さっきまでよりずっと自然だった。


 少なくとも。


 一人で怯えていた時よりは。


「……とりあえず、お風呂入ってきなよ」


 紗奈が立ち上がりながら言う。


「結構疲れてるでしょ」


「……んー」


 玲奈はソファへ体を預けたまま、少しだけ紗奈を見る。


 その顔が。


 どこか甘えるみたいで。


 弱っているのが分かってしまう。


「玲奈?」


「……一緒がいい」


「は?」


「一緒に入りたい」


「いやいやいや!?」


 紗奈が思わず声を上げる。


「なんでそうなるの!」


「だって一人嫌」


「子供か!」


 でも。


 玲奈は反論しなかった。


 ただ。


 少しだけ疲れた顔のまま、紗奈を見る。


「……だめ?」


 その声が。


 今日ずっと無理していた玲奈の声だった。


 明るくして。


 笑って。


 平気そうに振る舞って。


 でも、本当は怖かった。


 そんな玲奈を見てしまうと。


「……うぅ」


 断りづらい。


 というか。


 断れない。


「ほんと今日だけだからね!?」


 半分やけくそみたいに言う。


 すると玲奈が少しだけ目を丸くしたあと。


 ふっと笑った。


「やった」


「嬉しそうにするな……」



「……狭くない?」


「二人だからしょうがないでしょ」


 浴室。


 湯気の中。


 紗奈は少しだけ居心地悪そうに視線を逸らした。


 こうして改めて見ると。


「……玲奈ってほんとスタイルいいね」


 思わず口から漏れる。


 細い。


 なのにちゃんと女性らしいラインがある。


 肌も綺麗で。


 無駄がない。


 まるで雑誌からそのまま出てきたみたいだった。


「今更?」


 玲奈が少し笑う。


「いやだって……」


「紗奈も可愛いよ?」


「そういうのいいから!」


 顔が熱い。


 玲奈は昔からこうだ。


 さらっと恥ずかしいことを言う。


 すると玲奈が湯船へ浸かりながら、小さく息を吐く。


「……生き返る」


「疲れてたんだね」


「まあね」


 いつもの玲奈なら、もっと元気だった。


 でも今日は違う。


 少しだけ。


 無理してたのが分かる。


 紗奈はその横顔を見る。


 テレビでは絶対見せない顔。


 弱っていて。


 少しだけ不安そうで。


 でも。


 だからこそ、放っておけないと思った。


「……紗奈」


「ん?」


「今日さ」


 玲奈が湯船の中で少しだけ視線を落とす。


「一人だったら、多分ずっと怖かった」


「……」


「でも紗奈いたから、結構平気だった」


 その言葉が妙に真っ直ぐで。


 紗奈は少し困ったように笑う。


「そんな大袈裟な」


「大袈裟じゃない」


 玲奈は静かに言う。


「紗奈って、変なとこで優しいし」


「変ってなに」


「そのまま」


 玲奈が少しだけ笑う。


 さっきより。


 ちゃんと笑えていた。


「……でも、ありがとう」


「ん」


「今日、一人じゃなくてよかった」


 その声は小さい。


 でも。


 どこか安心したみたいだった。


 湯気の中。


 二人だけの静かな空間。


 さっきまで張っていた玲奈の空気が、少しずつ柔らかくなっていく。


 そんな横顔を見ながら。


 紗奈は小さく思う。


 ——やっぱり放っておけないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ