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消えろと言われたので消えました  作者: 長久保いずみ


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第9話

「アルヴァリンド……王国宰相のアルヴァリンド侯爵のご令嬢か」

 シャルロットは観念して頷いた。

「父のこと、ご存じなのですね」

「名前くらいは頭に入れてあるよ。しかし、そうなるとなおさら訳がわからない。俺は立場上、貴族社会の話もそれなりに耳に入れてるよ。王太子の婚約者である君がどうしてこんなところにいるんだい?」

 エリックの問いに、シャルロットは首を横に振った。

「もう婚約者ではありません。先日の卒業パーティーの折に、婚約破棄をされましたから」

「……はあああああっ!?」

 石造りの部屋にエリックの大声が反響した。シャルロットがびくりと体をすくめる。

「婚約破棄!? しかも公衆の面前で!? 待って待って待ってなにかの間違いじゃなくて!?」

「事実ですよ。あの時パーティーに出席していた方々に確認を取られたらよろしいかと」

「…………。国王陛下はそれを許したの?」

「直接お話を伺う前に私は姿を消しましたが、許可も無しにあんな大々的な茶番劇を行ったんだとしたら相当に素晴らしい頭をお持ちではないかと」

「だよね」

 その〝相当に素晴らしい頭〟の持ち主のせいで今王家が騒がしいのだが、遠く離れた港町までその話はまだ届いていない。

「えーと……うん、じゃあ質問を変えるね。君、消えろと言われていたって話してたけど、具体的にどんな人に言われてきたの?」

「母……えっと、後妻様と、腹違いの妹に」

 ごん

 エリックが額からテーブルに突っ伏した。あまりにもいい音がしたからシャルロットも心配になる。

「だ、大丈夫ですか?」

「……うん」

 エリックはのろのろと起き上がった。

「…………。ちなみに、どのくらいの頻度で言われていたか聞いてもいい?」

「顔を合わせれば一日に何十回と」

「…………。君のお父上は知っていたのかい?」

「いえ。父が帰ってきても団欒には呼ばれませんでしたし、王城でも赤の他人扱いでしたので」

 エリックは頭痛が増えてきた気がした。

「……君は、その姿を消す魔法で、救われた?」

「はい」

 シャルロットは即答した。満開の花畑を思わせる笑顔に、エリックの方が絶句する。

「誰にもなにも言われません。学校の授業や王妃殿下とのお茶会など、必要なとき以外はずっと消えていました。私がいなくなって、周りがとても幸せそうにしているんです。いなくなってせいせいしたと。このままずっと消えていてくれればいいのにと。私も嬉しくなりました。これほど素晴らしいことはありません」

「…………」

 エリックは言葉を失い、勢いよく立ち上がってシャルロットに背を向けた。

 天井を睨んで涙を引っ込める。安っぽい同情で泣いたところで、彼女は困惑するだけだろう。

 彼女の家族に対して思うところは多々あるが、一魔法憲兵の自分が介入できるような問題じゃない。

「憲兵さん?」

「いや、ごめん。なんでもないよ」

 訝しがるシャルロットにそう言って、エリックは座り直した。

「ところで憲兵さん。私はいかなる処罰を受ける事になるのでしょうか?」

「は?」

 唐突に飛んできた質問に、残っていた涙が完全に引っ込んだ。

「ラシガムに送られるということですが、公衆の面前で処刑されるのですか? それとも慰み者としてしばらく使われるのでしょうか。あ、慈悲深く修道院送りですか? それとも鉱山で重労働でしょうか」

「いや……ちょっと……待って」

 手の平を突き出して止める。

 まずい。こちらがキャパシティオーバーを起こしそうだ。

「えっと……うん、そうだな。一つ一つ問題点を挙げていこう」

 自分に言い聞かせるようにエリックは言った。

「まず一つ。君は魔法を悪用して盗みを働いた」

「はい。あ、家から食材を盗んだり、馬車や宿の未払いも込みで」

「うん。次に、君は貴族のお嬢様だ。おそらくまだ貴族籍から除籍されていない」

「貴族と平民では違うのですか?」

「違う。収容所もそれぞれ専用の場所があるんだ。それは置いといて、主となっているのはこの二つだね」

 エリックは指を二本立てた。

「この中で一番大きいのは、魔法を悪用した点だ。魔法は使い方次第で大勢を生かすことも殺すこともできる。君にその気がなかったからと言って、そんな言い訳は通用しないんだ」

「……では、どのような罰を受けるのですか?」

 シャルロットの顔から表情が消える。人形のようなそれに寒気を感じながら、エリックは言った。

「君をラシガムに護送する。そのうえで、魔法使いとして必要な教育を受けさせる」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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