↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えろと言われたので消えました  作者: 長久保いずみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/68

第8話

「…………」


 男が絶句する。厨房にいた料理人たちも、驚愕の表情を浮かべてシャルロットを見ていた。


 当のシャルロットは、そんなにおかしなことを言ったかな、と首をかしげている。


「……えっと、ごめん。もう一回言ってくれる?」


 気を取り直して男がそう言い、


「消えろと言われましたので、魔法を使って消えました」


 シャルロットが返答した。


「えぇ~……」


 男が頭を抱えて完全にテーブルに突っ伏す。


 シャルロットはおろおろと男を見つめることしかできない。


(どうしよう、そろそろ船に行かないと出航しちゃう)


 さらに思考はほぼそちらに割かれている。精霊の痕跡というものはよくわからないが、少なくとも消えてしまえば目視による追跡はできない。


 まだ名前も聞かれていないし、聞かれたとしてもフルネームでなければ平民だと誤解できる。格好も平民のそれだし、まさか貴族のお嬢様とは思うまい。


「よし」


 がばっと男が顔を上げた。


「場所を移そう。ちょっとじっくり話を聞かせてもらいたい」


「え……」


「言っておくけど、拒否権はないからね? 場合によっては本国……ああ、ラシガムの方だよ、そっちに連れていく可能性もあるからね」


「ラシガム」


 シャルロットは反復した。魔法大国ラシガム。母の生まれ故郷。


 その話を詳しく聞く前に母は他界してしまったが、王城内の図書館で知ったことがある。


 魔法によって栄えた国。他国とは比べ物にならないほど豊かで安全な国。良き魔法使いを多く輩出している国。すべての魔法使いの祖国となる国。


 目的地の一つではあったけれど、こんなに早くラシガムに行く機会が訪れようとは。


(ラシガムに行けるなら、船はいいかな)


 乗ってみたかったけれど。ちょっとしょんぼりする。


「おいで」


 男が立ち上がり手を伸ばす。その手をシャルロットはきょとんと見つめた。


「……腕、掴まないのですね」


「君が逃げるっていうならそうしたけどね。さあ」


 男に促されて、シャルロットはその手を取って席を立った。




 男が向かったのは、港がよく見える高台にある建物だった。石造りの四角い建物は貴族の屋敷くらい大きいが、それに比べると装飾もされておらず殺風景である。


「これはなんですか?」


 シャルロットが訊ねると、男は答えてくれた。


「駐在所。要は憲兵の詰め所だよ」


 男がシャルロットを連れて歩くと、門の両脇に立っていた兵士たちが驚いたような顔になった。


「エリックさん!? あれ、その子どうしたんですか? 迷子?」


「盗人の捜査は!?」


「この子が例の盗人なんだよ。ちょっと詳しく話を聞きたいから連れてきた」


「ええ……」


 兵士二人がシャルロットを見る。困惑と好奇心の色が見て取れた。


 その視線を遮るように、エリックと呼ばれた男がシャルロットの前に出る。


「ほら、通して。隊長には俺から報告するから」


「は、はい」


 兵士たちが渋々と引き下がる。おそらくこのエリックという男、相当に立場が上のようだ。


 そのままエリックに連れられて中に入った。


 無駄な装飾がなく、床も絨毯が敷かれていない。足音がはっきりと響くが、それが逆に新鮮だった。


「ここ、入って」


 エリックがドアを開ける。そこは小さな部屋だった。小さな机が一つと椅子が二脚。大きな窓があるため明かりがなくても十分に明るかった。


 シャルロットは促されるまま、窓を背にして座る。


「さて、改めて自己紹介をしようか。俺はエリック。魔法犯罪の捜査を担当する憲兵だよ」


「シャルロットと申します」


「苗字は?」


「…………なぜ?」


「平民の子が使う敬語と、貴族の子が使う敬語は微妙に違う。さっきの自己紹介だって、平民の子は『シャルロットです』あるいは『シャルロットと言います』って出るんだよ。『申します』は貴族社会で使い慣れている証拠。……って言ってもわからないか。でも、そういう無意識の言葉遣いは、なかなか変えられるものじゃないよ」


 エリックの言葉にシャルロットは自分の口元に手をやった。まさかそこから正体を推理されるとは。


「推理小説の主人公のようですね」


「よく言われる。さあ、君のフルネームは?」


 エリックが再度訊ねる。


 シャルロットは石を吐くように答えた。


「……シャルロット・ド・アルヴァリンドと申します」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 面白い。 更新待ってます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。