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消えろと言われたので消えました  作者: 長久保いずみ


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第50話

 夕食後に自室に引っ込んでいたはずのエリックが、青い顔をしてリビングに飛び込む。両手にそれぞれ紙の束を持っていた。右手にあるものをテーブルに叩きつける。

「ちょっとそれ読んでいてください。俺は妖精新聞と詰め所、それから治癒師ギルドに行ってきます!」

「おい、エリック!?」

 慌てて父リアムが呼び止めようとしたが、エリックはそのまま外へと飛び出していった。

《私が追おう》

 と言ってくれたのは、祖父で精霊のセバスチャン。

「頼む」

 リアムが頷いたのを見て、彼は壁をすり抜けていった。

 その間にシャルロットたちは紙束を覗き込む。

「これは……手紙?」

「あ、昼間の元王太子のやつじゃん」

 エミリーが言った。便箋の一枚に「フェルディナンド」と署名がある。

《なんて書いてあるの? 全部広げてもらえないかしら》

 ロゼットの言葉に、手分けして便箋を読みやすいよう広げる。

 全部で五枚あるそれをわかりやすく並べると、一枚は謝罪の手紙で、残りはアデルについて書き記されていた。

「アデルって、シャルロットを追い出そうとした性悪女の名前じゃん。なんで?」

「さあ。……『手掛かりになるかもしれないから、可能な限り思い出してここに記しておく』と書いてありますね」

 はたしてどんな手がかりなのか。妖精新聞ならともかく、詰め所や治癒師ギルドにエリックが向かう理由と結びつくのか。

 ――だが、読んでいくうちに一家の顔色はどんどん赤や青に変わっていった。

 エリックの母フローラの声が震える。

「香水を治癒師から買った……? その薬を混ぜて惚れ薬の効果を生み出した、って……。それ、魔法治癒師にしか処方できない特殊な香水よ」

「そうなのですか?」

「こっちじゃ治癒師を目指すかどうかにかかわらず、どんな危険な薬があるかを絶対に教えるわ! もちろん詳細な薬品や方法は伏せるけど。でもなんで魔法の知識がないただの子どもがそんなこと知っているの!?」

「教えたに決まっているだろう」

 頭を掻きむしるジャネットにリアムが静かに答えた。

「彼女の出身は高級娼館だ。定期的に薬師の来訪があってもおかしくない。その中に魔法治癒師が混ざっていて、侯爵夫人とその子どもの座を狙うあの母娘に吹き込んだのだろう。ロゼットさんを殺したのも、シャルロットさんを虐待したのもその者の入れ知恵なら辻褄が合う」

「そんなことしてなんのメリットがあるの!? ラシガム全体の信用がガタ落ちじゃない!」

 悲鳴のようなジャネットの言葉に、今度こそ誰も答えられない。

 その中で、シャルロットはラシガムの書のページを繰る。

「……あった、魔法治癒師。〝その力は人々を救うためにある。故に、誰の支配も受けず、なびかず、流されず、己の善性をもってその道を進むべし〟」

《それくらい強い信念を持っていないと、魔法治癒師はやっていられないわ》

 ロゼットが言った。

《魔法治癒師の力は強大よ。擦り傷切り傷、骨折はもちろん、切断しちゃった手足なんかも戻せる。その力を独占しようとする強欲な奴も多いから、魔法治癒師たちはギルドを作って情報を共有したり、捕まりそうになった仲間を総出で助け出す場合もあるって聞いたことがあるわ》

「そんなに強い力を悪用したら、国一つ簡単に滅ぼせちゃうんじゃないですか?」

《まあね。魔法治癒師を監禁したやつにギルドがちょっと仕返ししたら、そいつの商売が潰れたって話があるくらいだし。世の中、良き魔法使いだらけじゃないっていうのはわかるけれど……。これは、なかなか手強いわよ》

「見つけられないのですか?」

《魔法使いと精霊の情報網があれば、おそらく見つけ出せるわ。問題は、相手があの母娘を見限ってフレイジーユを去っている場合ね。手駒を失った黒幕が、その場所に留まり続ける可能性は極めて低い。その上で良き魔法使いのふりをしているのだとしたら相当に厄介よ。あの家に証拠の品がまだ残っているかどうかも怪しいもの》

 家宅捜索の際に、それらを破壊されているかもしれないのだ。

「うーわー! 詰んだじゃん!」

 エミリーが叫んだ。

「だからあの子、血相を変えて飛び出したのね」

 フローラがため息をつく。

「利用されていたアデルとジゼルはおそらく拘束されているから、そそのかした魔法治癒師の詳細を聞き出して指名手配すればいい。そうすれば、各国に散らばっている魔法憲兵や魔法使い、精霊たちも動けるわ。ギルドも血眼になって探すでしょうから、誰かが匿わない限り時間の問題よ」

「ちなみに、その誰かが匿っていた場合は……?」

「状況にもよるだろうが、一戦交える可能性は捨てきれないな」

 リアムの言葉に、シャルロットが青くなった。

「気にしなくっていいんじゃねーの?」

 と言ったのはオスカーだ。

「シャルロット姉ちゃんを傷つけたんだし、たぶん反省の『は』の字もねえぞ、こいつら。むしろ姉ちゃんに責任転嫁するに一票」

「あり得るわね」

「自業自得のくせにね」

 ジャネットとエミリーがせせら笑う。

 シャルロットは笑う気になれなかった。

「……魔法治癒師が見つかって、無関係な人が傷付かなければ、私はそれでいいです」

 そう呟くと、優しいねと言われた。

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