表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えろと言われたので消えました  作者: 長久保いずみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/58

第49話

「あ~、笑った、笑った! いいもの見せてくれてありがとうね!」

「ア……ハイ」

「フィル君、奥でちょっと休んでいようか」

「ハイ」

《あらら~……。あれはしばらく駄目そうね》

「片やショッピング、片や廃人って、温度差がひどいな」

「やめて兄さん、また笑わせないで」

 エミリーがしゃがみこんでプルプル震えている。

 それを尻目に、シャルロットはさっさと服が並ぶエリアに移動していた。

《好きの反対は無関心なんて言うけど、本当なのね》

「なにがですか? お母様」

《なんでもないわ。シャーリー。いろいろと眺めているけど、どんな服がいいの?》

「暖かい服がいいなあ、と」

「……ん?」

 呟きを聞いたエリックが、慌ててシャルロットの方を見た。

「え、ちょっと待ってください、シャルロット。今、自分の希望を言いました?」

「え?」

 振り返ったシャルロットを、ジャネットたちも慌てて見やる。

「……そういえば、そうかもしれません」

 拳を顎に添えて考え込んだシャルロットは、そう答えた。

 エリックとオスカーが目を見開き、ジャネットとエミリーが顔を見合わせる。

「――やっ……!」

「店でこれ以上大声を出すな!」

 叫びそうになった妹たちの口を慌てて塞ぐ。そんなエリックは小声で怒鳴るという器用なことをやっていた。

 言えない彼女たちに代わってロゼットが訊く。

《もしかして初めてじゃない? 自分のやりたいことや欲しいものを言うのって》

「……そうかも、しれません」

 完全に無意識だった。雪が降るほど寒くなるのだから、室内でも屋外でも暖かい格好をしたい。そのためならどんな格好でもいいと思っていたが、店内に飾られた服はどれも彩り豊かで、眩しくて。

 欲しい、と思ったのだ。きっと、生まれて初めて。自分からなにかを望んだ。

《じゃあ、選んでみましょう》

 ロゼットが言った。

《好きな色やデザインがあったら、それをキープしましょう。あとで試着させてもらえば、より絞り込めるわ》

「そ、そんなに選んでいいんでしょうか?」

《この前の服選びだって似たようなものだったじゃない。何事も経験よ。まずは最初の一着を選んでみましょう》

 ロゼットの手が背中に添えられる。それに押されるようにして、シャルロットは改めて服を見た。

 白や赤、黄色、緑。トップスにボトムス、インナーにアウター、アクセサリー。

 候補は山のようにある。その中から選ぶのは勇気がいるように思えた。

「……あ」

 撫でるように動いていた視線が止まる。自然と手が伸びた。

《あら、いいじゃない》

 手にしたのは、シェパードチェックのロングスカートだった。山吹色をベースに赤の格子模様が入っている。ドレスのようなたっぷりした生地ではなく、すとんと一直線なのが潔い。生地は羊毛を固めたものなのか、ふわりとした手触りなのにしっかりと硬い。なにより暖かそうだ。

「お母様」

 声が震える。心臓がバクバクとうるさい。駄目と言われたらどうしよう。

 でも、手放したくない。

「これ、着てみてもいいですか?」

《ええ。キープしてもらいましょう》

 ロゼットが店員を呼ぶ。すぐに精霊店員が飛んできて、スカートが預けられた。

 シャルロットは静かに息を吐いた。体が震える。まだ心臓がうるさい。でも、なにかをやりきったような爽快感があった。

《やったわね、シャルロット》

 ロゼットが言った。

《初めて、自分で服を選べたわね。なにかを選べたわね》

「……はい」

 頷いて、現実味が沸く。

 今までは、そういう立場を押し付けられていた。なにかを選ぶということが――生きる最低限の選択以外ができなかった。

 自由に、なんでも選べる。

 体の底から震えが止まらない。その小さな振動が喜びの発露であると、シャルロットはまだ気付けなかった。

「やったじゃん、シャルロット!」

 エミリーが抱き着いてきた。

「ねえねえ、あたしも選んでいい?」

「こら、せっかく選ぶようになったんだから、今日はジャッジに回りな」

 すかさずジャネットが突っ込む。

「良い色だったね、さっきのスカート。きっと似合うよ」

「ありがとうございます」

 まだ震えが止まらない。心臓のあたりがぽかぽかと温かくなる。

「スカートを選んだから、次はトップスにしてみる?」

「アウターもいいよね」

《はいはい、順番ね》

 女性四人で固まって服を選ぶ。

 それを見ていたエリックは、一人安堵のため息をついた。

「よかった」

「兄ちゃん、それ何目線?」

「うるさい」

 オスカーを小突くが、まったくダメージがないようだ。

「兄さん、オスカー、あとで男目線の感想が欲しいからよろしくね」

「ああ」

「長くなりそうだったら先に帰るからな」

「せめて一セットくらいは見てから帰りなよ?」

 兄妹で一通り言い合ったら、妹たちは服選びに戻る。

「じゃあ、俺たちも適当に冷やかすか」

「女の買い物って長いんだよなあ……」

「俺を誘おうとしてドツボにはまったな。諦めろ」

 肩を落とすオスカーを慰めつつ、エリックはメンズの新作を眺めていた。


◆   ◆    ◆


 一通り服を選び、試着を重ねて絞り込んだら、再び服を何着買うかで揉めた。

 結局トップスとボトムスを三着ずつ、アウターを二着買うことで決着した。いつのまにかマフラーや帽子、手袋まで購入されていてシャルロットは悲鳴を上げていた。

「エリックさん、すみません。こんなに荷物を持たせてしまって」

「いいんですよ。買い物に男が付き添うのは、だいたい荷物持ち役なので」

 かさばるアクセサリー類や重いアウターをエリックが、トップスやボトムスが入った袋はジャネットが持ってくれている。ちなみにオスカーは宣言通り、本当に一セットだけ感想を言ったら帰ってしまった。

「いいんじゃない?」

 と言ってくれていたのは、兄姉たちに絞られた影響だろう。

「にしてもさー、あの元王太子、用意周到過ぎない?」

 そう言ったのはエミリーだ。手にしているのは封がされていない封筒。

「うまく言えなかった時用に手紙を用意しているとかさ。ストーカーじゃん」

「そこまで言いますか……?」

《ストーカーじゃないけど、まあここまで追ってきたのは執念よね》

 ロゼットも呆れた顔をしている。

《店長が検閲してくれたとはいえ、なにが書いてあるかわかったものじゃないものね》

「俺が確認してから、シャルロットが読みたい時に読めばいいですよ」

「うーん……」

 エリックがそう言ってくれるが、シャルロットの反応は悪い。

「どうしたの? なにか心配事?」

「心配事と言いますか……。あんまり興味がないので、そのままエリックさんに預かっていただいてもいいですか?」

「ええ、まあ……」

(ここまで興味を失われると、逆に気の毒だな)

 と思いつつ、ちょっとざまあみろとも思っている。公衆の面前で婚約破棄してくれたのだ。シャルロットの気付いていないダメージがどれほどのものか。

(とりあえず夕食後にでも読んでみるかな)

 ――なんて思っていたエリックは、夕食後の団欒に青い顔で飛び込むことになる。

「シャルロット、ロゼットさん! これ、やばいです。ラシガムの沽券にかかわりますよ!!」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

よろしければ、下の☆☆☆☆☆で評価していただけると嬉しいです。

執筆の励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ