↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えろと言われたので消えました  作者: 長久保いずみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/68

第37話

 翌日。


「おっはよー! シャルロットさーん!」


「今日の服届けに来たよー!」


「ひゃあっ!?」


 ジャネットとエミリーの騒々しいモーニングコールで起こされたシャルロットは、あれよあれよと着替えさせられてしまった。完全に着せ替え人形である。


「本日のコーディネートは、お忍びのお嬢様をイメージしてみたわ」


 ダイニングにシャルロットを引っ張ってきた姉妹が胸を張る。


 動きやすさを重視しているのだろう。髪はハーフアップにしてバレッタで留められていた。


 シンプルなブラウスの上に茶色のジャンパースカートを身に着け、足元はタイツで隠している。靴がローファーなのもありがたかった。


「いっぱい服持っているんだな」


 エリックの口から真っ先に出た感想がそれである。


「女の子の服は多いのよ」


「ねーねー、早く朝ご飯にしよー。今日は買いたい物いっぱいあるんだから!」


「エミリーの買い物じゃないだろ」


 と言いつつ席に着く。昨夜ほどではないが、朝からパンとスープ、サラダが並べられている。


「ご馳走です……」


 思わずシャルロットの口から零れ落ちた。両脇の二人が信じられないものを見るような目をしてくる。


 ジャネットがエリックを睨んだ。


「……兄さん、この子どういう生活環境だったのよ」


「極度のネグレクト。詰め所の食事量を『そんなにもらっていいんですか!?』って驚いたところで察してくれ」


「え……パンとスープだけだよね? え? どんな食生活だったの?」


「それは……」


 シャルロットは言い淀んだ。あの生活に慣れていたとはいえ、あの環境が異常だったことくらいはわかっている。


 ロゼットが後ろから援護する。


《言っちゃえば? あいつらのしたことなんだし》


「で、でも、お店に忍び込んで誰かの食べ残しを食べ歩いていたのは、さすがにはしたないというか……」


「はい? 忍び込んだ?」


「ご飯の用意は?」


「ありません。私はいない存在でしたので」


 ダイニングが凍る。精霊を含めた全員が目を見開いて固まっている。


「……あの?」


「シャルロットさん、パン食べる?」


「え?」


「スープも! おかわりあるから!」


「やめろ胃がびっくりするだろ!」


《この旅で多少は鍛えられているから、食べ過ぎなければ大丈夫よ》


「そういう問題じゃない気がしますが!?」


 両側からパンとスープを差し出され、エリックがそれを止める。ロゼットがフォローを入れるが、それでもなお食い下がる。


「え?」


 シャルロットはそれらを見て、目をぱちくりとさせるしかなかった。




 なんだか騒がしかった朝食を終え、詰め所に向かう。なぜかジャネットとエミリーまでついてきた。


 エリックがぼやく。


「終わったらうちの精霊が呼びに行ってくれるんだから、付いてこなくてもいいだろうに」


「いいじゃない。見られて困ることなんかないでしょ?」


「そりゃそうだけどさ……過保護な奴が増えたなって」


「お兄ちゃんにだけは言われたくないんだけど?」


 エミリーが兄の脇を小突き、エリックはそれを手の平で受け流す。


「珍しい?」


 隣を歩くジャネットが訊ねてきた。


「えっと……はい」


「貴族の生活がどんななのかは知らないし、私たちの暮らしも参考程度だろうけどさ。まあ、ああいうじゃれ合いは普通にあると思って」


「……はい」


 そういえば、昨日もあれやこれやとみんなで言い合っていた。学園でも、生徒たちはよくおしゃべりしていた。


(私にとって話すのは、議論や事務的な受け答えだけだった)


 妃候補に求められるのは、その場の最適な回答。それができれば、なにも言われなかった。


(こういう会話は、したことがなかったな)


 目の前を歩く兄妹の会話は、いつの間にかカフェの話題に移っていた。


「それでね、そこの店員がめっちゃイケメンなの~!」


「へえ、よかったじゃん」


「今月のお小遣い使い切っちゃったからさ~。お兄ちゃん、カンパして!」


「追加でちょうだいの間違いだろ? 手持ちがないし妹に貢ぐ金はない」


「ケチ~!」


 口ではそう言っているが、エミリーは笑っている。お互い、本気でお金のやり取りをするつもりはなかったのだろう。


(そういう会話もあるんだ)


 だけど、難しそうだとも思った。


 エリックが歩調を緩めた。


「ほら、詰め所に着くから。お前たちはここまでな」


「ちぇ~」


「近くのカフェで時間を潰しているからね」


「おかわり自由な『カフェ・リーンチェ』?」


「そうそう」


《あら、まだあのお店あったのね》


「ロゼットさん、知っているんですか?」


《若い頃にお世話になったのよ。紅茶一杯で朝から晩まで》


「それは、ちょっと迷惑では?」


《受験期間になるとそんな学生で溢れ返っていたわ。ちゃんと時間制限のあるエリアも作っていたし、店も応援の意味でサービスしてくれたから、受験後はパーッと散財させてもらったわ》


「ちなみになにを頼みました?」


《クリームたっぷりのビッグパフェ。甘いものも節制していたから、反動でね》


「わかります~! 美味しいですよね、あそこのスイーツ!」


《あら、今もそうなの? ちょっといろいろ落ち着いたら案内して! 娘に食べさせる!》


「もちろんです!」


「おーい、行きますよー」


 やや呆れた調子でエリックが呼ぶ。盛り上がっていた女子三人(うち一人は精霊)は、手を振って別れた。


「……さて、じゃあ行きますか」


「はい」




「お嬢ちゃん、本当はそんなに綺麗だったんだね……」


 フロントで合流したライナルが、シャルロットを一目見るなり号泣する。


「《チェンジで》」


 エリックとロゼットが同時に言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。