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消えろと言われたので消えました  作者: 長久保いずみ


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第18話

 一ヵ月の船旅は順調だった。揺れる船での生活もすぐに慣れた。

 シャルロットは今、甲板のベンチに腰かけている。吹き抜けていく潮風が気持ちいい。

 甲板のあちらこちらでは、同乗した大道芸人や吟遊詩人がパフォーマンスをしている。どうしても暇になりがちな船旅を盛り上げてくれる彼らには、拍手やおひねりが飛んでいく。

 しかし、シャルロットが見ていたのは彼らではなかった。

《お嬢ちゃん、こんにちはー》

《目が合った? ってことは見えてる?》

《初めまして! 一緒に踊らない?》

 空中を自由に舞う精霊たちだ。代わる代わる声をかけてくる彼らをじっと見つめた後、目線を上げて静かに息を吐き出す。

「ふぅー……」

「お疲れ様です。水、飲みますか?」

 隣に座るエリックが声をかける。

「すみません、……えと、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 ぎこちなく礼を言って、水が入ったカップを手に取る。見慣れた華奢なティーカップではなく、しっかり握るマグカップはまだちょっと慣れない。

「精霊たちを見たり見なかったり、大変でしょう?」

「そうですね。目が疲れます」

「わかります。酷い人だと頭痛まで行きますよ」

「それは……困りますね」

 精霊の見過ぎで頭痛はちょっと嫌だ。

 ちなみに、精霊たちは声をかけて来るもののちょっかいを出しには来ない。シャルロットの後ろで仁王立ちするロゼットが牽制しているからだ。

 そのエリックとロゼットが、不意になにかに反応する。

《あら》

「おや。シャルロット、ちょっとこっちに来ませんか」

 エリックが立ち上がって手を差し出す。シャルロットがその手を取って、甲板の手すりまで来る。

「ここで賑やかに新聞を売っている精霊がいます。見えますか?」

 そう言われて神経を集中させる。

《さあさあ、新聞はいらないかい? 今ならなんと銅貨十枚! 銅貨十枚で王都の珍騒動がわかるよー!》

 呼び込みの声が聞こえる。さらに、三十歳から四十歳くらいの男性が、布をたすき掛けにして紙を振り回している。布の中には紙が何十枚も入れられてぱんぱんに膨らんでいた。周りの様子をちらと見てみたが、紙が勝手に飛んでいる異常な光景に誰も興味を示さない。見えていないようだ。

「……妖精新聞?」

 シャルロットが呟く。

 新聞は道端で売られていたのを見たことがあった。王都の図書館に保管されていたものを読んだこともある。その時の遠い地域や国の様子がわかるので重宝していた。

 人間だけでなく、精霊が売る新聞というのもあるのか。

《おっ、お嬢ちゃん、魔法使い? ……って、エリックじゃねえか!》

 シャルロットの呟きに反応した男性精霊が、彼女とその隣にいるエリックを見て仰け反る。

「エリックじゃねえか、はないだろ? また特ダネが入ったのかい?」

 エリックがため息交じりに返す。どうやら二人は知り合いらしい。

《そうそう、王都のアルヴァリンド侯爵って知ってるだろ? あそこでひどい使用人いじめがあったってうちの記者がすっぱ抜いたんだ。もう大荒れの大売れ!》

「え」

《あら》

「は?」

 シャルロット、ロゼット、エリックが絶句する。男性精霊がニッと笑って手の平を突き出した。

《詳細が知りたかったら、銅貨十枚だ。どうする?》

 エリックがシャルロット親子を見た。ロゼットはすぐに頷き、シャルロットも少し考えた後に首肯する。

「わかった。一部貰おう」

《まいどー!》

 エリックが銅貨を十枚渡し、男性精霊はそれを受け取って代わりに新聞を差し出す。彼は物体に干渉できるらしい。銅貨は落ちなかったし、新聞もエリックが受け取るとちゃんとした紙束になった。

《さあさあ、他に新聞を買いたい人はいないかい!? 王都の一大スクープだよ~!》

 男性精霊は集まってきた他の精霊たちを連れて、船をぐるりとした後にそこから離れていった。

「……あれは、なんなんですか?」

 ようやくシャルロットは訊ねる。

「妖精新聞に所属している精霊ですね。ああやって道中で新聞を売りながら、ラシガムにある本社まで情報を届けているんです。普通の移動手段より断然速いんで」

 なるほどたしかに、とシャルロットは頷く。人間の体はいろいろと制限が多い。

 ロゼットがエリックの手元を覗き込んだ。

《ねえ、早く新聞を読んで。あのゴシップ紙が情報を掴んだって、よっぽどのことよ?》

「ええ。ここだと人目があります。客室に戻りましょう」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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