勇者の雷撃、使いたく無かったその魔法。
「ピョートル、[爆破]はあと何発いける?」
多分それがオレ達の勝ち筋に繋がる、それに仲間が力を見せたんだ、オレも限界を超えて見せないと仲間じゃない。
「・・[回復]もありますから・・すみません、あと一発が限界っぽいです」
「良し!なら少し相談だ、鉄の槍を・・・でこっちは銅の剣を・・」
なぜか階段の上で動かない敵を前に、相談をすませたオレ達は作戦を開始する。
「ハズレが出たらやり直しだ、頼むぞ」
「・・ソコは勇さんの・・いえ、大丈夫ですよ」
きっと・・多分・・普段の行いが・・的な空気を出したピョートルは盾を構え、祭壇の下までにじり寄る。
いつも使うピョートルを盾に、オレは奇襲。頼む、即死魔法は使うなよ!
(馬鹿め!私がまごつけば、魔法切れと勘違いするだろうとは思っていたが、本当に突っ込んで来るとはな。じりじり遅いのは慎重なのか、それとも臆病なのかは解らんが・・まとめて葬ってやる!)
火炎・爆裂・氷結・死、悪魔神官が少し考えた後、放った魔法は火炎。
[大火炎線]それも本気の魔力を込めた、悪魔神官が放つ最高の業火が階段に吹き上がる。
その威力は火炎系最強の魔法に届いたと、悪魔神官が思うほどだった。
「コイツで焼け死ね!虫けらが!」
大木・石柱・炎の竜巻・その中のどれとも例えられる程の、炎の塊が目の前に立つ敵を薙倒し焼き尽くす。
(燃え・悶え苦しむ姿が見えないのは残念だが、これほどの炎を生み出せた事を今は邪神様に感謝しようか・・)ハハハ・・ハハハハ・・ハハハアハハ!!!
炎の中に飛び出した影も無残に崩れ落ち、亀のように盾を構えた魔物も耐えるだけで、
動く事すら出来ないでいる。
「そのまま亀のように小さくなって焼け死ね!」
(攻撃してくる人間がいなければ、守るだけの魔物などただの雑魚だ!)
更に火力を上げる為に魔法に集中し、炎の柱で押し潰し・押し殺す!
足元の石ころのように固まる影を圧倒する炎塊、もう少し・あと少しだ!
悪魔神官が身を乗り出す程に魔力を高めた瞬間、その脇から飛び出す光りを見た。
細く・鋭く・早く・正確に真っ直ぐ飛ぶ、銀の光りが炎を反射する。
「チィ、気付かれたか!」
勇者は敏感に視線を感じたが、そのまま走り込み、そして槍を突き出す。
(この距離なら魔法は関係ない!唱える前に突く・発動する前に突くだけだ!)
鉄の柄を握り、突く。無心で、息が続くかぎり、届く届かないは関係無い。
ただ進みただ突き続ける。
「糞ガキがぁ!」
体を突く槍は死ぬ程では無い、手を擦る槍の穂先は貫く程では無い、ただ快心の・自己最高の魔法を邪魔された上、次ぎの魔法も集中出来ない、さらに、
「お前如きが!雑魚ごときが!オレの体に傷を・・・傷を付けやがって!」
虫・虫けらに思わぬ所を噛まれたような不快感、姿を見たら潰さずにはいられなくなる害虫に、体を刺されるような不愉快、そして沸き上がる怒り。
「うるさい馬鹿!ギャーギャー騒がしいんだよ!黙って槍の的になってろよ!」
(くっそ堅い、なんで出来ているんだよコイツのローブは!)
肉の手応えじゃない、大木か土壁のような固さの男は、何度突いても深いダメージを与えたような感覚が無い。
(それでも突き続ける!)それしか無い。
槍で突いていれば魔法は使えない、その為に盾に隠れ[大火炎]の瞬間に[ヒノキの棒]と[棍棒]を投げ付けてやった。
炎の向こうからは[何か]が飛び出して燃えたように見えただろう。その感にオレは反対側に逃げだして回り込んだんだ。
(くそ、槍の練度が足らない。少しは練習しておくべきだったか!)
あたらない、槍の攻撃範囲・距離の感覚が掴めてこない。
焦る勇者の反対では、魔物神官が魔法をあきらめ、その怒りを鉄鎚・・鉄の杖に向ける。杖を強く握りしめ、渾身の力で目の前を邪魔する枝先を振り払った!
ガキン!
鉄は弾け、穂先が・槍が持っていかれる。金属の鈍器は横殴りからとって返すようにオレの顔に走って来た。
(なんて力だ!魔法使いの癖に筋力も戦士並かよ!)
体を反らして避けては槍を手放すハメになる、だからといって避けなければ頭が潰れる。その判断を誤れば一瞬で勝負は付いていただろう。
(南無三!)槍を持つ手首を返しながら引き、足を開きながら体勢を下げる。
チッ!オレの頭の上を暴力が通過し、槍先は男の仮面を切り削った。
?・・?!「きっ!貴様!・・オレの・・オレの仮面を!司祭様から授かった大事な仮面を!・・よくも・・ヨクモ・よくも・・絶対許さん!絶対殺す!
苦しめ抜いて地獄の苦痛をあああ・・与えて!殺し尽くしてやる!拷問し・家族・親族・友人・恋人、その全てを苦痛に染めて殺してやるからな!」
「そいつは結構な話だ!次いでに王族も・教会も皆殺しにしてくれよ!」
オレを勝手に[勇者]なんぞに選んでくれたヤツらに、邪神の天罰を喰らわせろよ!
鉄の杖が嵐のように吹き荒れ、鉄の槍が歪む。
(クソッ、距離が悪い!近すぎる!)
槍の攻撃範囲は中距離、ミドルレンジであり。対して棍棒・杖は近距離・ショートレンジで戦う武器である。
相手の手が届かない場所から攻撃出来る槍でも、その内側に入られたら長いだけの棒と代わらない。避けるのに邪魔になるだけだ。
ガキッ!シ!ギリギリギリギリ!!!
鉄の杖と鉄槍の柄が衝突し、受けるオレの手から背中に衝撃が走る。
「糞雑魚が!このまま押しつぶしやる!!!!安心しろ!死ぬ寸前で治療してやる、そこからは『殺してくれ』と懇願するまで拷問地獄だ!」
ちっとも安心出来ないな、それに「いいのか?本命がお前の後まで来てるんだが」
「なに!」オレが足止めし、階段を上ってきたピョートルが手の平を向けて叫ぶ!
「[爆破]!」眼前に発生した衝撃破に悪魔神官が体を硬直させた。
(どこを向いているんだ、お前の敵はオレだろ!)
槍を引いて鉄の杖を避ける、そして当然、引いた槍は突き出される!
グチッ!槍は悪魔神官の腕を貫きその穂先が天を向く、
スゥ・!「[雷撃!]」
本来勇者しか使えない電撃呪文、この呪文を使うと自分が勇者だと喧伝するような物だ。それもこの遺跡でレベルが上がったから使えるようになった未熟な魔法。
雷撃というより、ただの電撃[デイン]程度の威力しか出ていない。
(でもな、生物ってのは、電気を流されると痺れるんだよ!)
鉄槍を狙った[電撃]は体の中まで暴れ走り、その肉体を痺れさせる。
「な゛!ばが・な゛!」
仮面の内の表情は解らない、ただそんな隙を逃がす勇者では無い。
「じゃぁな!」
背後に回ったオレは、腰に吊した鎌を掴み、仮面の魔物の首を狩る。
堅く太い首に刺さる刃、鎌の柄を掴み・鎖を首に巻き付け、片手に鎖・片手に鎌の柄を持ち両手で引いた。
腕を上げ、暴れのた打つ悪魔神官の喉に深く沈む鎌の刃。転がるように背中の男を地面に叩き付けても剥がれず益々深く喉を切る。
(この・・私が・・こんなガキなんかに・・邪神・・邪神さま!邪神さ・・ま・・)
鎌が完全に命を刈り取った時、ようやくその苦しみが無くなる事になった。
・・はぁハァ・ハァハァ・・
今度こそ限界だった、死ぬ所だった。殺さなきゃ、殺されていた。
槍が通らなければ、爆破で気を逸らすことが出来なければ、力だけのゴリ押しでこられていたら・安全策で一人ずつ狙われていたら・・・
魔力も筋力も体力も限界、今なら階段から落ちただけで死ぬ。
・・ああ、生きてる・・生き残って、よかった。




