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飛災横禍:1節 女史誘拐

--- エリス都市国家 トリュフィナ 執務室


トリュフィナ氏は執務室から軌道エレベーターを見ながら、現状に耽っている。


暫くの間、ギャップ・リバートランスポートに入り浸っていた。 しかし、貧乏長屋の中小企業に大物議員が入り浸っていては、問題になるとのダイゴからの助言で自分の執務室に渋々戻っている。


「仕事なんてどこでも一緒なのに……」


“TF-1型”の威力は絶大のようだ、双方の艦隊にかなりの被害があると報告が上がってきている。


宿敵ノークティスは既にいない。しかし、火種だけが残ってしまっている。 戦局は混迷を極めており、エリス内でも一時期厭戦(えんせん)ムードも漂い始めていた。 事実、議会内でも休戦案も出ていたほどである。


しかし、息子(タツマ)の破壊工作によりメンドゥーサを奪取。 これにより、我が同盟に勢いありとのエリス内でも好戦派の意見が、優勢になっている。


結果、執政官派閥への講和会議への対策が、完全に止まっている状況に陥っている。 そもそも、講和条件を(そろ)えるための奪取であったが、完全に裏目に出てしまっている。


議会の連中は、タニアの地上部隊の強さを分かっていないのか? それとも侮っているのか、この脱出点を逃したらとんでもないことになる。


息子(タツマ)からは、連日の講和工作への催促が来ている。


彼の能力を侮っていたとは思わないが、普通あそこを陥落させることが常人に可能だろうか?


そんな疑問もありつつ、さらに彼女を悩ませているのは、TF-1型の存在になる。 宙域会戦でその威力を見せられたころで、議会のタカ派連中の戦意高揚に一役買ってしまっている。


当初、タニアからの単独安全保障を実現するため、テラ(地球)の|ReNOS《ユーラメリカ大陸の1国》から莫大な資金で技術を譲り受けたものだった。


相談したメラノ執政官も当時かなり乗り気で、話を勧める原動力にもなった。


ルヴェリエ(サバエア工業都市国家)との共同出資で実現したが、内部の輩の思惑で技術はタニアに渡り、この混沌状態。 


今にして思えば、その資金があれば、工作員を介してガラスの雪の被害者達や他国への支援の枠組みも作れたと後悔しかない。


(タツマ)の言った通り、星系人類に役立つことに資金は使った方がいいのかもしれない。


「我ながら馬鹿ばかなことをしたものね」

窓から外を見ながら、思いに耽り一人(つぶや)く。 


執務室のドアがノックされる。


「開いているわよー」


秘書だろうか? しかし、先ほど遅めのランチに行くと言っていたので、戻ってくるにしては、少し早い気がする。


再びドアがノックされる。

ダイゴ……あの人はノックせず入ってくるから、困ったものだ。


「はいはい。どちら様? 」

デスクから立ち上がり、扉を開ける。


数名の作業服を着た者が、開いた扉から室内に入る。

いきなりの大人数に“なにごとか!” と反論する前に


「スキュレスだな。一緒に来てもらう」

何かを首筋に当てられ、そのまま意識を失う。


                   *


最初に異変に気づいたのは、秘書であった。

ランチから戻って来たら、スキュレス議員がいなかった。


お手洗いかと思い、しばらく執務室で業務を実施していたが、戻ってくる気配がない。

室内監視カメラをチェックしたら数名の不審者に連れ去られる映像が映っている。


直ちにダイゴに連絡が付けると、(たちま)ちの内に彼が飛んできた。

「これがその時の映像か……」


ダイゴがモニターを見ながら呟く。 すぐさま棟の監視カメラを調べ上げる。 しかし、棟の監視カメラには、怪しい人影はない。 


というよりもその時間帯の映像そのものが一斉に消えている。 重要施設が入る棟の監視カメラの情報を消せる人間。 


―― ただの誘拐ではないな。かなりの権力が動いている。


「ダイゴさん。どうしましょう? 治安隊に連絡しましょうか? 」

落ち着かない秘書官。


仕方ないことだが、まずは落ち着かせる。


「……少し待て」

ダイゴがどこかに連絡をとる


「俺だ」

≪……≫


「お前らボスがさらわれた。何か知っているか? 」

≪……≫


「なるほど。それで」

≪……≫


「ほー。治安隊への届け出はどうする? 」

≪……≫


「それは、都合が悪い。情報庁で信頼できる人間は何に集められる? 」

≪……≫


「了解だ。では、“姫様奪還計画”といきますか」

≪……≫


端末を切り、秘書の方に向く。

「治安隊は、執政官の息が掛かっている。 情報庁の精鋭で“姫様奪還計画”を実行する」


かなり端折られているが、執政官がらみとは穏やかではないことが想像できる。

「私にできることは何でしょうか?」


「取り敢えず、トリュフィナ関連の話が来たら、離席中とでも言って、しばらく気付いてない振りをしていてくれ。 敵もまだ状況に気付いていなとなれば油断するかもしれない」


「わかりました。 治安隊が来た場合は? 」


「知らない振りをして、事実を教えられたら驚いてくれればいい。 そうだな、いつもの放浪癖でどこかに行っているものだと思ましたとでも言っておけばいいだろう。


治安隊は、敵だと思ってもらって構わない。 ただし、敵対な態度は不信を持たれる、融和的に接し、情報だけ流さない形を取ってくれ。 質問への回答は、嘘ではなく、“知らない”としてくれ」


「はい。そうします」

「では行ってくる」


そう言って執務室からダイゴが出ていった。




---とある倉庫街


日が傾きかけており周囲はうす暗い状況である。

「早速準備万端か? その恰好は目立ち過ぎるだろう? 」


ダイゴが話しかけているのはいかにもな輩で全員コンバットスーツ装備である。 既に準備万端と言ったところだ。


「ダイゴさんは、何気に細かいですよね」

相手のリーダー格が、回答してくる。人数は十数名。 特殊部隊としてはかなり多い部類になる。


「俺はなー」


「ダイゴ、そこまでだ。 細かいことは後だ。 今は非常事態。 精鋭かつ信頼できるコンバットスーツの部隊が来てくれたことは、喜ぶべきことだ。 違うか? 」


バルティスが仲介に入る。

「さすが、話が早くて助かります」

部隊からの返答がある。


そのまま副社長のバルティスが話を進める。

「で? 奴らの場所は分かりそうか? 」

「恐らく、ヘレストポンス山脈の別荘地帯と思われます」


「誘拐の理由は? 」


「その前に現状をお伝えします。 かなり最悪です。 共生同盟の艦隊が、タニア連合王国をルベェリエ近郊で撃破しました」


「よく話が見えないな。 宇宙艦隊が地上軍を撃った……おい」

「サテライト兵器を使用したようです。 ルベェリエ以南で巨大なクレータを確認しています。 まだ公表されていない情報です」


「随分と攻撃的だな」


ダイゴが疑問を呈してくる。

「あの堅物司令官が条約破棄の作戦を実施するのか? 」


情報庁の人間が、解答する。

「メラノからの要請でしょうね」


「それと、トリュフィナがどう関係する? 」

「トリュフィナ様は、サテライト兵器の発射コードを持っていますよね? 」


ヒルベルト商会から譲り受けたサテライト兵器がマールス(火星)軌道を周回している。

保険として、ダイゴが発射コードをトリュフィナに教えてあった。


「それで? 」

ダイゴの顔が曇りながら、質問を続ける。


「トリュフィナ様とナーミャンを一緒に消すのが算段でしょう。政治的か存在的かは、知りませんが」


「なるほど」


「先ほどのトリュフィナ様を誘拐した理由ですが、発射コードを聞き出すため。そして執政官がそれを確保するためといったところでしょう」

(情報が漏れたか)


「執務室で発射コードを教えて下さいと言って、“ハイ教えます”とはならないでしょう。故に誘拐したと見ています」


工作員は一息置く。

「おそらく、彼女が所有している攻撃衛星を用いて独断で撃った体にする。場所の指定に“英雄(ナーミャン)”が、関わったとなればまぁ筋は通るでしょう」


「……奪った後のサテライト兵器はどうなる? 」


「表向きは爆破して失くしたように見せて、存続させる計画でしょうね。恐らく、メラノのおもちゃでしょう。こんな面白い武器を手放すとは思えない」


「……それだけか? 」

「もう2つほど面倒なことが」


「2つもあるのか!! 」

思わずダイゴが叫ぶ。 しかし、それを無視して情報庁の人間は話を進める。


「1つは、ルベェリエ近郊で殲滅したタニア連合王国の部隊の中に王族。 故ノークティアの甥がいたこと。 2つめは、これを計画したのが、キャンバリーであること」


「……なに? エリス執政官とキャンバリーが繋がっているのか! 」

「恐らく。 証拠はありません。 しかし、今、奴がエリスにいるのは事実です」


「理由は? 」

「エリスとタニアによる世界分割統治ですかね」


「馬鹿らしい。 不可能だろう」

ダイゴが呆れながら反論する。



「たしかに、一見すると馬鹿らしい。 しかし、ここでタニア連合王国の主要な王族が倒れ、エリスの軍門にくだったら? 」


「最強国家は、エリスになるが、そもそもタニア連合王国がそう簡単にエリスの軍門に下るとは思えん。それにマールス(火星)全土を統治する機構もない。無理だ。」


「タニア連合王国いや、ティファー大陸のトップにキャンバリーが付けば? エリスとの講和によりテンペ・大陸の統治をエリスが容認すれば、今までも秩序は破壊され、西側半分は、キャンバリーが統治する世界が出来上がる。 如何でしょう? 」


「新秩序の始まりか? 勘弁してくれよ」


「TF-1型を用いればあながち無理な話しではないでしょう。両国で独占的に配備し、火星を分割統治する巨大な権力構造が出来上がるって算段でしょう」


「そもそも、2ヵ国でマールス(火星)を統治してどうする? その後何をするんだ? 」


「さぁ。問題は、ストーリーの筋が通るか通らないか? それに人間の欲望は際限がないですからね」


「新秩序とやらの馬鹿げた妄想をとめるにはどうする? 」

「まずは、この戦争を治めることが先決ですね。 戦争責任者も必要ですからね」


「1歳の女王に責任を負わせるのか? 」


「まさか、メラノとキャンバリーの2人に取ってもらいましょう。なので、彼らは生け捕りが必須ですね」


「罪を背負ってもらうのか」


「ええ。取ってもらいますよ。 出来れば自分達はキャンバリーの確保を担当させてもらいたいですけどね」


笑いながら一拍置く。


「メラノを5体満足で確保する自信がありませんから」

目がヤバい。


彼女の配下は、何気に忠誠心が強すぎる。


そのため、いつもはへらへらしているが、主が危機に瀕すると歯止めが気か無くなるのが問題だ。


「了解だ。 姫様の救出、メラノ確保、キャンバリー確保 ね。かなりの大仕事だな」


「ええ。因みにキャンバリーは、エリスの“アラムホテル”といるとの情報です」

「あの高級ホテルかー随分と良い所に」


「60F以上が何者かに全て貸し切りになっていました。 流石に政府施設は使えないので苦肉の策でしょう」


「贅沢な使い方だな――待ち構えているんじゃないのか? 」


「奴自身、元情報庁長官ですからね。 おそらくそれなりのトラップはあるでしょう」


「白兵戦最強のタニアの工作員だぞ。 大丈夫なのか? 」

副社長が心配そうに工作員に聞いて来る。


「最新のキャミャエル型有機AIの支援を受けて対応します。 パワーでは劣りますが、席動力は負けませんよ」

あのAIの優秀さは、宙域会戦で実証済みである。


「なるほど。でこっちは、ヘレストポンス山脈の別荘となる訳だ 」

ダイゴが改めて確認する。


「ですね。奴もエリスのPMCにより守られています」

「エリスにも戦争屋があるのか? 」


「ええ。といっても政敵を排除するメラノの私設部隊程度ですがね。 暗殺任務部隊です。 因みにメラノとトリュフィナ様は、同じ場所にいますので」


「了解だ。 こちらは、相棒とトークン部隊で対応する」

「トークンですか? 」


「ああ。俺達のは特別製でね。 それでは、幸運を」

「ええ幸運を」



情報庁の工作員と分かれる。


「シップマスター」


『なんでしょうか? 』

「メラノの別荘を襲撃する」


『了解です。別荘の情報は保有しております。ヘレストポンス山脈中緯度の麓にあります』


「作戦は? 」


『別荘の規模から判断するに兵隊は、50人ほどと想定されます。ルートから作戦を立案します。 暫し時間を頂きます』


「ガンシップが、欲しいな」


『現在戦争の真っただ中です。 執政官の許可なく軍務庁も動かないでしょう。 情報庁所有の兵器も下手に動かすと、こちらの動きが読まれる可能性があります。


加えて別荘は簡易版のアイギスシステムで守られおり、航空兵器の使用は推奨できません』


「なるほど。地上戦か――どうだ? 」

ダイゴが、バルティスに話を振る。


「やるしかないんだろ? お前の嫁さんだからな。手伝うよ」

バルティスもやれやれとの感じで答えている。


二人のおっさんが乗ってきた乗用車に乗り込む。

「いいね。こうして二人での戦闘は、いつ振りか? 」


「さぁな。 ヒルベルト商会立ち上げ時は、いつもこんな感じだったな。 取り敢えず、ギャップリバートランスポートに戻って、カチコミの準備だ。“バレッツ・バルガス(弾幕組)”の再結成だな」


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