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ゴブリンが数百体、下級デーモンが十数体、中級デーモンが一体。
それに対してこちらの戦力はどうだろう。
非戦闘員のエルフが約五十名、中級冒険者クラスのエルフが一名、上級冒険者クラスのエルフが一名。フロイド・メ◯ウェザー・ジュニアに雑魚が二匹。あとおねえちゃんスイッチ。
中々に絶望的な戦力差ではあるけれど、はてさてここからどうしたものか。
繰り返しになるが私は別に軍略の天才とかではない。地方公立中学校に通う、ちょっと成績の良い優等生でしかないのだ。そんな私にできることなど――
「パクりしかないよね!」
偉大なる先人の戦術を完全コピー。できないことをできないって認めるのも、人生において大事なことなんだよね。
「しっかし、こう見ると壮観やなぁ」
隣にいる日向が気の抜けた声を出す。
私たちの数百メートル先では魔王軍がゆっくりと歩みを進めていた。
会敵まで残り数分だろうか、間もなく私たちにとって人生初の戦争が始まる。
相手が人類の敵である魔族なのだとしても、これから私は彼らの命を奪うのだ。
背筋に嫌な汗が流れて、服がべったりと肌に張り付く。
「大丈夫や詩織、おねえちゃんが守ったる」
「そこは心配してないよ」
「ならええねん」
まずは機先を制す。私たちは高台から旗を振って前線に合図を出す。
前線にいるのはエルフが五名と、キャンピングカーが五台だ。私の合図に従って、五名がキャンピングカーのエンジンをかける。
そのまま突撃させるのも一つの手だけど、それじゃあ特攻と変わらない。
私はもう一度旗を振って、エルフたちに次の動作を促した。
『イグニカ』
エルフたちは車内で火の魔法を発動すると、すかさず車外に退避。
すると、五台のキャンピングカーが無人で発進する。アクセルペダルには火の魔法を起点に起動し、踏み込み状態を保持する簡単な固定具を仕掛けてある。
燃え盛る五台のキャンピングカーは速度を増し続け、そのまま敵軍に突撃。
『GYAAAARGH⁉』
遠くからゴブリンたちの野太い断末魔が聞こえる。
そして五台のキャンピングカーは何体ものゴブリンを轢き殺してから停車すると――
『イグニカ』
エルフたちが事前に車体へ刻んでおいた魔法陣を使い、火の魔法の遠隔発動したことによりその場で爆発炎上した。うーん、これはキャンプファイヤー。
「たーまやー‼」
日向が叫ぶ。
「かーぎやー‼」
私も叫ぶ。
ふっふっふ、ゴブリンどもがよく焼けておるわ。
「え、えげつない……」
隣でヤコさんが顔を真っ青にしているが気にしない。
まずは奇襲成功、下級デーモンも何匹か巻き込めたかな。
目算で敵の戦力の二割は削れたと思う。
「これぞ火牛の計ならぬ火車の計、私のことは令和の木曽義仲と呼んでくれてもいいよ」
諸説あり。田単でも可。
「さすがだ、詩織。よくやってくれた」
アリアナさんも褒めてくれた。大人に褒められるのって嬉しいよね。
でもここで調子に乗るとマジで木曽義仲になっちゃうから駄目だ。
「いいえ、出鼻は挫けましたが本番はここからです」
本当なら敵が混乱している間に攻勢を仕掛けたいところだけど、こっちは非戦闘員ばっかりだからそれはできない。
できて固定砲台。ということで遠距離イグニカでちまちまと敵を削ってもらう。
『イグニカ』
エルフさんたちによる散発イグニカ、命中率はそんなに高くない。
制圧射撃ってほど統制もできてないから、ぶっちゃけ効果の程は微妙だ。
そうこうしているうちに、敵も態勢を整え始めていた。
ちらほらと小隊を成してこちらに走ってきている。
「よーし、それじゃあ次!」
エルフさんたちもそろそろ魔力を使い切ることだろう。
私は再び旗を振って前線に次の指示を出す。エルフさんたちは防護柵の後ろまで下がると、武器を杖からドラグノフに持ち替えた。その数、四十五挺。
「鉄砲隊、三段に構えて!」
第一陣の十五名が防護柵をレスト代わりにドラグノフを構える。
「ってーッ!」
十五の乾いた雷鳴が戦場に弾けた。
『KYAAARGHH⁉』
数体のゴブリンが地に倒れ伏し、運良く命中しなかった個体も恐怖に足を止める。
だが、ドラグノフのマガジンは十発だ。すぐさま次の銃弾が棒立ちの案山子を襲った。
合計百五十発による制圧射撃によって、数十体のゴブリンが屍の山を築く。
「交代!」
撃ち切った第一陣は第二陣に交代。第一陣は後方に下がってマガジンの再装填。
これで断続的な射撃が可能。
「これが長篠三段撃ち! 私こそ令和の織田信長なのかもしれないね!」
これも諸説あり。
「詩織さん」
「なに、ヤコさん」
「単発の火縄銃と違って、ドラグノフで三段撃ちする意味ってあるんですか?」
「本当はない!」
「ないんですか⁉」
一々面倒な再装填が必要な戦国時代の火縄銃と違って、ドラグノフのマガジン交換は日向なら二秒で済ませるだろう。素人のエルフさんでも十秒ぐらいかな。
無理に三段にする必要はないし、どうしても発射間隔を詰めたいなら二段でいい。
「それなら、なぜ三段に?」
「織田信長ごっこがしたかったから」
「えぇ……?」
「というのは冗談でね、まあヤコさんも撃ってみたら分かるよ」
鍛えてない婦女子がドラグノフを十発も撃ったらね、肩が死ぬんよ。
命中率なんか期待できないし、正直なところ二周目行けるかも怪しい。
射撃の名手であるエルフ族なだけあって、非戦闘員でもセンスと気合いでどうにか誤魔化してくれてはいるけど、三周目以降は正直キツいかな。
でも、MPが一割も残ってないから火車の計はもうできない。
だから少しでも休ませながら頑張ってもらうしかないってわけ。
現状で目測で敵の四割は倒せているとは思う。思うけど――
『Ιγνικα』
「――ッ⁉」
敵の後方から強力な火の魔法が飛んでくる。
「案ずるな、イグニカ」
それをすかさずアリアナさんが相殺した。
「今のは」
「中級デーモンですね、間違いありません」
「さすがに部下がこれだけやられたら動くよねー」
うーん、もうちょっとのんびりさんなら良かったんだけど。下級デーモンもギリ二桁残ってるかもしれない。少し早いけど動かないと。
「おねえちゃん出れる?」
「おう、任しとき」
私たちは次の手を打つ。




