表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死者に平和を  作者: 姫神夜神
5 失ったモノと得た者
126/126

97 吸血鬼の里①

 大人がいない吸血鬼(ヴァンパイア)の里。

 さらりと明かされたその事実に面喰ったが、よくよく考えると別に明かしたら絶対にマズい情報なのかどうかは微妙なラインなのかもしれないな。

 子供――正確には一人前として未だ認められてないってだけかもだが――とは言え、並の兵士なら片手で捻り潰せそうな真祖吸血鬼(トゥルーヴァンパイア)が最低でも二人(マーガレットとミモザ)いるから、戦力的にはそこまでヤバくもないのか?

 いや、全員戦争に行ってんだろ? 流石に戦力がガクッと下がり過ぎか。


「若い兵士が多いのは、それが理由か?」

「兵士? ああ、彼らは「戦士」よ。……まぁ、見習いだけど」


 ……だいぶ心配になるなぁ。

 例え総力戦だとしても、首都防衛にある程度の精鋭()()は残しておくものじゃないのか?

 この状況を当の本人達が大して問題だと思っていないことが、最大の問題だと思うんだが……


「メグ? どこに行ったの?」


 僕が吸血鬼の今後について結構本気で心配しているところに、マーガレットを探す声が聞こえてきた。

 マーガレットとクローバーは既に歩き始めている。

 僕もいったん考えごとをするのは置いておいて、後ろからついていく。

 何度も言ったかもだが、これは僕の心配する必要のない事柄だ。

 僕に関係するようになってから改めて考えよう。

 ……もしかすると、好都合になる場合もあるかもだしね。

 

「メグ、クロも。どこ行ってたの?」

「ちょっとゲイルと話してたの。そっちは?」

「ヨーラクは()()()()()


 おぉ、怖っ。

 詳しくは聞きたくもないが、まぁうるさい奴がいなくなったのである程度はやり易く

なったかな。

 聞きたいこと今のうちに聞ききっちゃおっと。


「それで? 結局なにか分かったの?」

「未だ聞けてないわ。本当にちょっと話しただけ」


 ふむ、あちらさんも僕に聞きたいことがあるようだ。

 これはちょうど良いな。

 互いに質問していけば知りたい情報も自然と手に入るだろう。


「じゃあ、今度はこっちの質問にも答えてもらおうかな」

「分かった。僕にわかる範囲ならば全て話そう」


 ……まぁ、あんまりご期待に沿えない可能性も結構あるけど。


「何故あそこにいたの? 貴方(『神獣』)シナラス(『要衝都市』)にいるって聞いてたんだけど」

「都市を襲撃した魔王軍と戦闘していたら退却の転移に巻き込まれてな、気付いたらあの森の中だ」

「それで第二軍長と戦っていたと言うの?」「アンタ、本当に規格外なのね」


 僕の事実に即した回答に、何故か引かれてしまった。

 こんなの、まだまだ序の口だよ。

 それに戦闘していたって言っても、実際ほぼほぼ一方的に殴られてただけだし。

 こっちの攻撃が通ったのなんて、ほんの数回だ。


「……いつの間にか弱体化して負けて、気付けばここに運ばれていた」

「それは本当? にわかには信じられないけど」


 これに関しては正直僕もよく分かっていない。

 ので、なるべく誠実に、確実に分かっていることだけ話す。


「その……第二軍長に攻撃しようとしたそのタイミングで一瞬時が止まり――」

「やっぱり? アタシもそんな気配を感じたわ」

「――次の瞬間にはありとあらゆる機能が大幅に弱体化していた」


 嘘は言っていない。

 言っていないこと(自称『神』のこと)もあるけど、僕は()()()()話すと言っただけだ。全部正直に話すとは限らない。

 僕のそんな様子には気付く様子もなく、二人はただただその内容に絶句している。

 まぁ、正直自分で言っててもあんまりいい気はしない内容だから、出来れば次の話にいきたいんだが。


「となると……」

「そうだな。今の(『神獣』)はそちらが期待しているような戦力にはなりえない。申し訳ない」


 うん。その反応は間違いないな。

 まぁ、そうだよね。

 なんの打算もなく助けてもらえるほどの関係性は築いてなんかないから、別にショックでもなんでもないよ。

 と言うより、正直なところそれどころじゃない。

 少しずつはまってきたピースから、相当ヤバい状況に置かれていることが判明してきた以上、僕は一刻も早く行動を起こさなければならない。


「今はいつだ? 僕を回収してからどのくらい経った?」


 僕のターンかは不明だが、全員で黙っていたら時間の無駄だしここは僕から質問させてもらおう。

 これは先延ばしにすればするほど致命的になりかねないから、正直あんまり知りたくないけど知らなければならない。

 さっきまでの僕の話と、なにより自分達で立てていたであろう何らかの計画が成り立たなくなったことへの絶望で黙りこくった二人からの返事はない。

 流石に急かすような心無いことは僕もしづらいので、ここは待つことにする。


 ふと気付いて視線を向けると、そもそも会話に参加していなかったクローバーが困ったような顔でこっちを見ていた。

 もしかすると、彼女は里の現状を全て知らされているわけではないのかもしれないな。

 まぁ、そりゃそうか。

 外にいたかなり年若い兵士と比べても、クローバーは更に若そうだからね。

 外見上は11,2歳くらいか? 下手したらもっと幼いかもしれない。

 なんとなく余裕がなくて背伸びしている感のあった兵士達に比べて、無邪気さを秘めていて(『神獣』)のことも純粋な興味本位で見ているように感じられる。

 ある意味、今この里にいる者の中で一番幸せな存在なのかもしれn――


「――おい! 聞いたろ⁉ コイツよりオレの方が(つえ)-し、役に立つぜ!」


 ……そこに割り込む声があった。

 見るまでもない、ヨーラクだ。

 一切空気を読まないこの姿勢、ある意味必要とされているのかもしれない。

 しかし、一つ確実に言えることがあるとすれば、それは絶対に今じゃない。

 ほらぁ、予想の斜め下すぎるその(さま)に絶望に曇っていたはずの二人(マーガレットとミモザ)が呆気に取られた顔してるよ。


「……ヨーラク、今はそんなことを言っている場合じゃないの。少し黙ってて」

「ミモザこそ黙ってろ! そんな役立たずに期待なんかせずに、オレ達はオレ達だけで成し遂げるべきなんだ!」


 なんの話かは知らんが、なかなか良いこと言うじゃないか。

 他力本願――元は誤用だったらしい意味の方――ではなく先ずは自分達の力で解決をはかる、その姿勢は実に素晴らしい。

 その為なら(『神獣』)がダシにされても、まぁ仕方ないね。

 問題は……肝心の同胞(吸血鬼)達が揃いも揃って白けた目で彼を見てるってこと。


「ヨーラク……アンタさ。未だそんなこと言ってるの?」

「馬鹿だ馬鹿だと言ってきたけれど、ここまでとは」

「ヨーラク、クロでも知ってるよ。クロたちだけじゃ魔王軍には勝てないんだよ?」


 めっちゃ呆れられちゃってるじゃん。

 詳細は分からないけど、なんとなく察する限りではだいぶ現実が見えていないような発言なんだろうな、ヨーラクのこれは。

 それと、マーガレットの言っていた「大人達が戦争に行っている」ってのは、僕が思ってたのとは違う可能性が出てきたな。


「じゃあ、このまま親父たちが魔王軍に使い潰されるのを黙って見てろってのかよ!」


 いや、やっぱり僕の思ってた通りであってるみたいだ。

 益々頭の中がこんがらがってきたぞ。


「どうにかしたいと思ってるのはわたし達も同じよ。だけど考えなしに行動しても父様の二の舞になるだけよ」


 その「父様」ってのはミモザの父親のことだろうから、たぶん真祖吸血鬼(トゥルーヴァンパイア)か、それに準ずるような吸血鬼(ヴァンパイア)の上位種だろう。

 そして、ミモザの父親ということはマーガレットの父親でもある。

 恐らくはこの里の本来の指導者。

 察するに里を率いて魔王軍と戦い、敗れて従属させられているのか。

 真祖吸血鬼(最上位種族)を最低二人も生かしている上に、その二人ともが里に残っている、すなわち温存されていることからしても、結構圧倒的な力で叩き潰された可能性が高い。

 そんな連中の相手を(『神獣』)にさせようとしていたのか……可愛い顔に似合わず、いや似合って(?)なかなかにエゲツないこと考えるなぁ。

 まぁ、弱体化しちゃったんでご期待には添えなさそうっすね。モウシワケナイ。


「……今戦いを挑むのは現実的じゃないわ。人族との戦闘も中断されているし」

「そうなのか?」

「えっ、ええ。あなたが眠っている間に」


 なるほど。

 理由は知らないがあの優勢な状態で戦闘を終わらせたのか、魔王軍は。

 僕が思っていたよりも魔王軍もギリギリの状態だったのか?

 それか、勇者か。


 『転移陣』が実質的に使えなくなっている以上、人族側の最高戦力である『勇者』が各戦場を飛び回るのは不可能になった。

 ただし、『勇者』と当たってしまった魔王軍は余程の強者を抱えていない限りは蹂躙され尽くすということでもある。

 当たり方がマズくて一時撤退を余儀なくされた、のか?

 どっとかと言うと、こっちの(『勇者』に阻まれた)可能性の方が高い気がする。

 そんなギリギリな状況で狙いに行ったにしては、目的が渋すぎる。

 と言うより、見切りの付け方が意味分からん。

 まぁ、どちらにしても魔王軍が計画通りに動けなかったことで、命拾いしたってことか。

 もし追撃戦に移行されていたら、今の僕(雑魚スライム)ではあっという間に殺されて終わりだったろう。


 一時的にでも魔王軍の足は止まっている。

 逆転を狙うのなら、ここしかないな。

 あのクソ神に全ステータスを大幅ダウンさせられたが、流石に一生このままってことはないだろう。

 口振り的に力押しが好みじゃないって感じだったし、逆に言えば力押しじゃなければ戦える状態ではあるってこと……なのではないか?

 てか、そうじゃないと困る。

 違った時のことなど考えたくもないし、正直違ったとしてどうすることも出来ないから、なんとかなるという前提で動かせてもらう。


「もうこの役立たずに用は無いだろ? とっとと殺して経験値に変えようぜ」


 おっと、その前にこの敵意剥き出しのヨーラクをなんとかしないと殺されちゃいそうだ。

 まぁ、そもそも僕を殺した場合どのくらいの経験値が入るのかは全くの未知数だ。

 僕の知る限り、スライムというモンスターは雑魚の代表格。

 レベルアップするためには何十、何百と倒さないといけないくらいに経験値は渋い。

 とは言え、この世界では()()()()()()()()()()()()

 なんにしても、油断があるとは言え本気で殺しに来られたら生き残るのは不可能に近い。

 〈縮地〉も〈回避〉も前の速度能力値に慣れ切った僕ではギャップがあり過ぎてイメージ通りに使えるとも思えない。

 余程の緊急事態以外は、攻撃に使用することは出来ないと考えておいた方が良さそうだ。


「そうね。もういらないんじゃないかしら、ソレ」

「ミモザまで、そんな言い方ないでしょ?」


 マーガレットは反対してくれているようだが、今のところは二対一で僕を殺す方向で進んでいる。

 ……と言うか、気の所為じゃなければこの二人(ミモザとヨーラク)が僕に殺意を持っている理由って、他ならぬマーガレットな気がするんだが。

 それが当たっているとすれば、マーガレットが僕をかばえばかばうほど殺意が高まりそうなんだが。


「メグ? なんでかばうのかしら?」

「マーガレット、こんな奴なんかに頼らなくても、オレが!」


 ほら、マーガレットへのアピールの傍ら、僕をとんでもない顔で睨んでるよ。

 こりゃあ、何かの拍子に簡単に殺されちゃいそうだ。

 状況を打破するために頭をフル回転しつつ、実際にやられてしまった時のことも考えておく。

 ここに至る経緯を考えれば、ここで殺されたとしても()()()()終わりではないとは思われる。

 原状復帰は更に困難になるだろうが、絶対に不可能ってわけじゃない。

 まぁ、いざとなれば、その時はその時だ。


「なんて、冗談よメグ。せっかく拾ってきたのに、何の役にも立たずに捨てるなんてもったいないもの。捨てたりしないわ。スライムなんてほとんど経験値にもならないし」


 うぉい、とんでもない辛辣コメントだなぁ。

 助かったってのにちっとも嬉しくない。


「ちょっとミモザ! 冗談はやめてよ! 本気かと思ったじゃない」

「もっもちろんオレも冗談だぜ。殺すわけねぇよ。ガハハ……」


 ヨーラクはたぶん本気だったな。

 ここで最後まで主張しても好感度を下げるだけという判断はグッドだ。


 ……ってか、一つ言って良い?

 コイツらさっきからどうでも良いようなくだらないこと言ってるだけで、ろくに話が進んでいないぞ。

 本気で魔王軍に勝つ気があるのか怪しく感じるレベルで色々おかしい。

 首脳部(推定)の三人がこの様子で、なおかつ恐らくまともな戦力はここにいる数人だけとするとだいぶ危機感が足りていないと言わざるを得ない。

 本気でわけが分からなくて頭パンクしそうだ。


「戦闘力は期待外れでも、人族軍(外部)の視点から助言してもらえるのは助かるはずよ。アタシ達(吸血鬼)は一度負けてるわけだし」


 おうおうおう、マーガレットさんのその悪意の全く無さそうな「戦力外」発言が一番堪えるなぁ。

 他の二人(ミモザとヨーラク)は僕を攻撃してやろうという魂胆が透けて見えるし、そっちは案外そんなに効かないんだけど、マーガレットのは特にこちらを害してやろうという意思が見えない分本心なんだろうな、って感じがして結構くるものがあるなぁ。

 それはそうと、そんな役割を期待されているなんて初耳なんですが。

 マジで言ってんの?

 この雰囲気だけでなんとなくそれっぽく振舞っていただけの僕に?

 正直、なんにも分かってないからね? 僕。


「こんな奴にそんなこと出来んのかよ」


 ヨーラク君、実に失礼だがその正直極まりない発言、実にグッジョブだ。

 何故なら全くもってその通りだから。

 自分から言うのはどうにも恥ずかしいので、君に言ってもらえてとても助かったよ。


「出来るでしょ。出来なければ捨てるまでよ」


 だから、ミモザは一々怖いんだって。なんでそんなこと言うの?

 しかも、残念ながら僕は皆さんのご期待に沿えるような知識も経験も無いので出来るわけがないんだよなぁ。

 一難去ってまた一難。

 さぁて、どうしたもんじゃらほい。


◇◇◇


「――こっちが〝貯蔵庫〟だよ」


 クローバーに案内してもらって僕は里の中を見回っていた。

 誰々の家だと言われても、そもそも誰も知らないのだから困ってしまうが、そこはまぁご愛嬌と言ったところか。

 とりあえず、いざという時の脱出路だけしっかり確認しておく。

 保険はあるけど、別に積極的に死にたいわけではないのでなるべく生き延びる方法は常に模索しておきたい。

 生命の危機に直面していた僕が何故今はこんなことをしているのかと言うと、実に単純なことだ。

 ――(マーガレット)の一声である。

 どうやら、この里で今一番強いのは、ミモザ()ではなくマーガレット()らしい。

 なおも殺害をチラつかせる二人を半ば強引に黙らせた上で、「失敗しても殺害しない」という言質まで取ってくれた。

 若干、気遣いの方向性がズレているような気がしないでもないが、まぁ僕にとってはある程度安心出来る状況になったと言えるだろう。

 それで、マーガレットの命令で里の現状把握といざという時の防衛戦の助言のために案内してもらっているというわけだ。


 クローバーは結構親切に色々話してくれる。

 他の吸血鬼は軒並みどことなく壁がある感じなので、やはり彼女だけ特別なのだろう。


「クローバーさん? 少し聞きたいことがあるんだけど」

「クロで良いよ。みんなそう呼ぶし」

「そう? じゃあクロ、一つ聞きたいことがあるんだけど……この里の周りに狩っても良いモンスターとか住んでないかな? レベルアップがしたいんだけど」


 少し気になる点はあるものの、こんな洞窟(?)に吸血鬼しか住んでないなんていくらなんでもないだろう。

 なにかしら別種も生息しているものと思われる。

 例えば、コウモリとか。ヒルとか。あとはデカい蚊。変わり種としてはアルマジロ?

 やっぱり吸血鬼だし、吸血系のモンスターが生息してそうだよね。


「それなら……」


 そう言ってクローバーが連れて行ってくれたのは、里の周囲にいくつも開いていた横穴の一つだった。

 その先を覗く前からなんか変な音がしてるんですけど。

 ……自分で頼んでおいてなんだけど、嫌な予感がしてならないから見たくないかも。


「このコたちとなら遊んでも良いよ」


 クローバーが指し示したのは、なんかウニョウニョしたモンスターの大群だった。

 僕らのいる横穴の少し先に別の開けた空間があり、そこに大量に集まっていた。

 前世も現世も生で本物をみたことは一度もないけど、どんな姿をしているのかは()()()により知っていた、そんな生物によく似ている。


「――巨大な……ヤツメウナギか」


 近くにある岩やらなんやらと比較すると、巨大ヤツメウナギは約2~3mってところか。

 それが数十、数百という単位で集結しているのは、なんとなく見ていて不快感を感じるような光景だな。

 本来のヤツメウナギはこんな陸上でウネウネなんてしていないだろうが、この巨大ヤツメウナギは普通に動いている。えら呼吸じゃないのか?

 まぁ、その辺はモンスターだし気にしたら負けだから今更何も言うまい。かく言う僕もスライム(実在しない生物)だし。


「じゃあ、クロはここで見てるね。がんばってね!」


 そう言われてしまうと、こちらから頼んだ手前今更チェンジとも言えない。

 横穴から目測10mほど下がった位置にうごめくモンスターの群れに飛び込む覚悟を決めると、とりあえず〈鑑定〉だけしておくことにした。


【ユシラLV8

攻撃能力値:347

防御能力値:518

速度能力値:87

魔法攻撃能力値:145

魔法防御能力値:478

抵抗能力値:572

HP:708/708 MP:218/218】

【ユシラLV18

ステータスの鑑定に失敗しました】

【ユシラLV9

攻撃能力値:398

防御能力値:572

速度能力値:95

魔法攻撃能力値:180

魔法防御能力値:501

抵抗能力値:599

HP:743/743 MP:239/239】

【ユシラLV11

HP:783/783 MP:312/312】


 ほほう。このヤツメウナギは「ユシラ」っていうのか。

 一部ステータスが鑑定出来てない奴もいるが、概ね防御系統とHPが高い種族とみてよさそうだな。

 前の僕(攻撃能力値5桁)ならそれでもワンパン出来る程度のステータスではあるが、残念ながら今の僕(全ステータス7)では勝負にもならん。

 頼みの綱の〈強酸〉を筆頭とする酸属性の攻撃は高い抵抗能力値とHPを削り切れる程ではないし、そもそもMPも7なのでほぼ撃てない。

 攻略の糸口が全く掴めないが、コイツらを倒して経験値を稼ぎレベルアップしない限りいつまで経っても弱いままだ。

 高ステータスに任せたぶん殴り戦法がダメなのだとしても、こんな低いステータスでは何も出来ない。

 常に作戦を十分に練ってから戦闘を始められるわけではない以上、どんな敵にもある程度対処可能な地力は必要不可欠だ。

 まぁ、ぐだぐだ言っていても何も始まらない。思い切って飛び込んでみよう。

 その前に……たぶん邪魔になるからこの身体は()()()()()()


 約10mを滑らかに滑り降りた僕は、ユシラに気付かれる前に片っ端から鑑定をかけて、判明している中で一番レベルの低いLV6の個体に飛びかかった。

 実際のところどういう生態をしているのかは知らないけれども、まぁ陸上でウニョウニョしている以上は皮膚呼吸か肺呼吸だろう。

 ヤバめの牙がチラ見えどころかガン見えしているお口を()けて、顔(恐らく)の裏側に飛びついて平べったく広げた粘体に出せるだけの針を出して突き刺す。


「シャパーー!!」


 なんか変な声……と言うより音を出してユシラがもがき苦しむ。

 この様子じゃ皮膚呼吸の邪魔も出来てるっぽいな。

 他のユシラに気付かれて囲まれる前にとっとと仕留めてしまおう。

 カスみたいなMP量で〈強酸〉を出しても大したことは出来ないので、ここは大人しく(?)耐久勝ちを狙う。

 幸い、ユシラは耳が悪いのか、他の同族に興味がないのか全くこちらに気付く様子はない。


「シュ……シ…………」


 死んだようだ。

 流石に一体では経験値は全く足りなかったようでレベルアップする気配はないが、ある程度戦闘の感覚を掴めてきた。

 この調子で一匹ずつ始末していって一刻も早くレベルアップしよう。


 同様の方法で弱い奴から順に殺して回っているのだが、なかなかレベルは上がる気配がない。

 まぁ、ここしばらく、より正確に言うならばゾンビシーフ(スライム)に進化して以降目に見えてレベルが上がらなくなってたんだよね。

 やっぱり上位種に進化するにつれて必要経験値は増えていくものなんだろう。

 某育成バトル系名作ゲームもそんな仕様だったし。

 とは言え、レベルに見合わないこの貧弱ステにされているのに、必要経験値だけそのままってのもおかしな話だ。

 これで強化スキル――〈剛腕〉〈堅固〉〈疾風〉までリセットされてたら僕は泣くぞ。涙腺が存在しないので、酸をありったけバラまくことになるけど。


 それにしてもコイツら、同族がさっきから十数匹殺されているってのに全く気付くことなくウニョウニョしているだけだな。

 感覚器官は基本的に退化している、とかそういう設定なのだろうか。

 それなりに開けたこの空間のあちこちでウニョウニョほとんど動くことなくその場にとどまっているだけだが、一か所だけ何故か異様に密集している場所がある。

 僕が降りてきた穴とは別の穴がいくつか開いているのだが、その中でたぶん一番大きな穴の下に妙にユシラが群がっている箇所があるのだ。

 視界の端や、地面から僅かにのぞくモノからなんとなく嫌な予感がしないわけではないが、完全にマインドが人間のそれから離れてしまった僕は怖いもの見たさですらなくほんの少しの好奇心からそちらへ移動してみる。

 もちろん、下手すれば高レベルのユシラの寝返り――と呼んで良いのか分からないが――一つでペシャンコになり圧死しかねないのでその辺は気を付けながらだ。

 低ステータスの身体の動きにもどんどん順応してきた。

 案外〈縮地〉やらなんやらを駆使しつつ粘手を上手く操ればそれなりに動ける。

 高ステータスに頼り切ったスタイルよりも、こっちの方が断然良いよな。

 そのことに気付かせてくれて、その練習を(強制的に)するための状況を用意してくれたその一点だけはあの自称『神』(笑)のことを評価してやっても良い。

 色々余計なことしてくれてはいるけれども。例えば――とか。

 なんなら、第二軍長に負けた理由の体感四割くらいはそれが原因だからね?

 ちなみに残りの六割はステータスの急激な弱体化に対応出来なかったこと。

 それ結局十割()()の所為じゃねぇか! 

 ……っと、馬鹿なことを考えているうちにだいぶ近くまで来た。


 さっきまでのユシラとは大きさが違う。

 〈鑑定〉してみたところ、レベルもかなり高めだ。

 群がっている中心を覗きたいだけだから、別に戦闘する必要はないんだが、さてどうやってこの中に分け入ろうか。

 普通に突っ込んだらブチッっていかれて終わりだから、なんとか上から見えるような位置に陣取って覗き込むか。

 それか〈浮遊〉使ってちょっと浮くか?

 でもなぁ、あれずっと浮いとくの何気にキツいんよな。

 とりあえず、あの横穴に登るか。

 距離を測りつつ粘手をワイヤーのように使う準備をしているその時、それは突然起こった。

 気付けたのは本当にたまたまだった。

 いや、気付けていたのかも怪しい。

 〈回避〉を発動して咄嗟に飛び退いたその瞬間、明らかにヤバ気な液体が目の前をかすっていく。


「シュァアア!!」「シュブァ!」「シュシュァ!」「シューァア!」「シュシャー!」「シュゥォオ!」「シュシュシャァ!」


 その場にいたユシラのうち約二十匹が一斉にこちらへその液体を吐きかけてくる。

 いきなりどうした⁉

 ずっと〈回避〉だけで逃げ続けるのは現実的じゃない。

 全力でこの場を離脱しようとするものの、こちらを攻撃してくるユシラの数はどんどん増えていく一方で、なかなか距離が出来ない。

 ひたすら追手が増えるだけだ。

 最近戦っていた敵に比べればそこそこ鈍足とは言っても、今の僕(速度能力値7)に比べれば10倍以上の速度は持っているはずだ。

 サイズが段違いなのでその速度相手でもある程度は逃げられているが、それもいつまで続くかは分からない。

 早急にこの場をやり過ごす方法を思い付かねば、今度こそ終わる。


 一先ずはこの謎の液体を浴びても大丈夫なのかについて。

 恐らくこれは僕も持っている〈麻痺毒〉か、もしくはそれに類似するスキルだろう。

 詳しくないから断定は出来ないが、ウナギのモンスターがそれ持っててもなんら不思議じゃないし。

 僕の現在の〈麻痺耐性〉のレベルは4。

 これがどのくらいダメージを軽減させられるのかは正確には分からないけど、自分の〈酸〉並びに〈強酸〉を浴びて〈酸耐性LV5〉でそんなにダメージを喰らった感はなかったので、それなりに期待は出来るかもしれない。

 でも、それはあくまで僕がスライムで元より酸を扱うことを前提とした身体をしているというのも大きいのかもしれない。

 それに、肝心のHPが7しかないので、たぶん喰らったら即死。それを免れても麻痺状態になって動けなくなったら次の攻撃で確実に死ぬ。

 この〈麻痺毒〉(推定)に当たらないのは大前提として、次はどうやってまくかだ。

 今のところ液体を口から吐く以外に攻撃してくる気配はないが、他にどんな隠し玉を持っているか分かったもんじゃない。

 いったいぜんたいどうすりゃ良いってんだい。まったく。

 一か八か逆に前に突っ込んで紛れ込むってのも考えなくもないが、そんなことをすれば普通に潰されて終わりだし、却下だな。

 それなら――


「シャシャァーー!!」


 ――(地面)ではなく、(空中)に飛び出すまでだ。

 先頭の一番背の高い奴の頭部めがけて〈浮遊〉で飛びつく。

 振りほどこうと頭部を動かしているが、あいにく〈吸着〉を行使すればほとんど効果なしに出来る。

 攻撃しようにも僕はかなり小さい上に絶妙に移動しているので捉えられないし、捨て身で身体を倒して潰そうとしても容易く()けきれる。

 周囲のユシラはそもそも僕を見失ったようで攻撃してくる気配はない。

 そのまま吸着面に小さく開けた穴からチョロチョロ〈強酸〉を流し込む。

 MPも7なんですぐに切れるが、ストックしているモンスターの死骸から搾り取ればすぐに満タンになる。

 なにぶん総量がたったの7だ。すぐに溜まる。

 いつまでかかるか分からんが、この方法で少しずつ弱らせていけばいつかは危機を脱すr


「シュアァ!!」


 うわっ。

 あまりに突然だったので〈回避〉を発動してしまった。

 今までの微妙な調整を台無しにして、僕の身体は迫り来る危機から手っ取り早く離れるべく宙を舞う。


「シュァ! シュッ、シ……」


 僕の代わりに頸(?)に噛みつかれたユシラが断末魔をあげて倒れた。

 既に噛みついたユシラ以外の全てのユシラがこちらめがけて全速力で向かってきている。

 つぎもさっきと同じように上手くいく保証はないし、その前に喰われる可能性も高い。

 ここへきてシンプルな捕食の可能性が見えてきた。

 あんな見るからに飲み込んできそうな巨大な口を持っているのに、何故今の今まで僕はその可能性を考慮してなかったんだ。本当にアホンダラだな、僕は。

 反省するのは大切だが、今は後回し。先ずは最優先でこの状況を乗り越える方法を出さなければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ