ニックネームをつけましょう
「エルネスト、今はそれどころではないでしょう。それに、チビちゃんは神獣様と呼ばれるのがお嫌いなんです」
そうそう。
「しかしチビちゃんは……」
だがエルネストさんは納得しない。
「ギンちゃんよりいいよ?」
「……チビちゃん……」
マリウスさんを凹ませるつもりは無かったんです。本当ですよ?
「そうですか、私も少し……いえ、かなり混乱しているようです。神獣様、大精霊様、亜空間、幻の実……」
これでデミさんの事言ったらどうなるんだろう?
悪戯心がわいてくるけど、私は中身は大人ですからね。ちゃんと弁えてますよ。
「しかしチビちゃんは……あなたの王と出会って名をいただくまで、愛称をつけませんか? 真名は、王と出会えば自然とその者の口から出る筈です」
エルネストさんが意外な事を言った。王様が名づけ親になるのかな。
それまでの仮の名前か。確かに大きくなっても人型になってもチビちゃんじゃ、ちょっと恥ずかしいかも。
「いるみーるたちは〈いとしご〉ってよんでた」
でも街中で〈いとしごちゃ~ん〉とか呼ばれるのは、もっと恥ずかしい。
「愛称ですからね、呼びやすい名前がいいでしょう。且つ、神獣様のお気に召すものにしましょう」
「ヴォルフとか?」
昨日チラッと脳裏に浮かんだ名前ですよ。狼って意味の。
「勇ましい名前ですね」
勇ましいイメージなのか。あんまり恰好いい名前にすると、名前負けしちゃう?
「どんなのがいいかなぁ?」
「例えば……西方の国の言葉で、虹という意味のラル、この名なら男女どちらでもおかしくありません」
「かわいい!」
「なるほど」
「妖精という意味のフェイ、これは女の子向けでしょうか? 他にもロコ、ルウ、シェリ、プラタ、カイ」
「男女両方に使える名前がいいですね」
「うん!」
「そうするとラル、ロコ、ルウ、あたりでしょうか? ココも可愛いですね。ロッティ、ルディ、フィオ、メル、セシル、リン、あとはそうだな……」
「よくそれだけ思いつきますね……」
「エルさんしゅごーい」
どっちかというとペットにつける名前っぽいけど、仮の名前ですからそこは置いときましょう。
「あとは何となくで決めてください。真名を奉じられるまでの、仮のものですからね」
「えらべません!」
「すぐではなくていいですよ。五日後にお買い物に行く時までに考えましょうか。街中で呼ばれても大丈夫なようにね」
「わかりました!」
仮の名前とはいえ、ちゃんと決めないと。
「では、色々聞きたい事もありますが、まずは採寸といきましょう」
その言葉で漸く本来の用事を思い出しました。
大人しく採寸されます。
「でもちょっと大きめにつくってね。わたしすぐおっきくなるから!」
「ローブですからね、少し大きめにしましょう。フードはつけますか?」
「つけてください!」
ケモ耳が消えなかった時の為の保険です。
「はい、もうよろしいですよ。では私は早速作業にとりかかります。兄さんはもう少しここで、神獣様のお話しを伺ってください。特にあの実について」
「ええ、しばらくお邪魔しますよ」
「買い物よりも、王宮に上がるのが先になりそうですね……」
そう言い残して、エルネストさんはメモを片手に部屋を出て行った。
「エルさんがつくるの?」
「そうですよ。彼は昔からそういうが得意なんです」
ほぇ~。女子力高いわぁ。
ちゃんと「よろしくお願いします」言えなかったな。
そして私は、エルネストさんの部屋で家主不在のまま、マリウスさんの質問にひたすら答えた。
と言っても私に分かる事は、デミさんとイルミールの言った事だけなんですけどね。
複数の前世の事は言わなかった。言えなかった。
何となく言わない方がいいかな? って思ったし、前世を語れる程詳しく覚えてるわけでもないし。くだらない事は沢山覚えてるんだけどね。マンガとかゲームとか萌えとか。
友人の事とか、いた筈の家族の事とか、もっと覚えていたかったな。マリウスさんとエルネストさんを見てたら、そう思った。
逆に、覚えてないからこそ、ここでの生活をすんなり受け入れられたのかな、とも思う。完全にジレンマだ。
急に黙り込んだ私を訝しく思ったのか、マリウスさんが私の顔を覗き込んできた。
「チビちゃん? 疲れさせてしまいましたか?」
「ううん、だいじょうぶ」
「ちょっと早いけど、お昼ご飯にしましょうか」
「そうしましょう!」
シリアスは私には向いていないのです。
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