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 テラスの扉を開け、目に映った光景は、一人の騎士がレイグルス王子をかばい胸を貫かれている場面だった。

 剣は血に染まり、蝋燭の光で更に妖しい光を放っていた。

 

 2人の凶手が動く度に、騎士達は床に崩れ落ちていった。

 ある者は腕を切り落とされ。

 ある者は喉をかき切られ。

 ある者は胸を貫かれ。

 先ほどまで、華やかな音楽祭と舞踏会が行われていたその場所が、次々と大広間に鮮血の模様で覆われていく。

 恐ろしいのは、凶手は全く本気を出している様子が無いのだ。

 ネズミを痛ぶる猫の様に、絶対の力を持ってレイグルス王子との距離を縮めていく。

 とうとう、レイグルス王子の周囲には3人の騎士を残すのみとなってしまった。部屋の隅に置いたられ退路もない。

 逃げなければ、頭の隅ではわかっているが逃げられなかった。凶手とレイグルス王子の間に立ちふさがった。

 「何の真似だ。姫君。」

 凶手は動きを止め、シャロンに問いた。

 「あなたこそ何者ですか?何が目的ですか?誰に頼まれたの?」

 少しでも時間を稼ぎ、レイグルス王子が逃げられる様隙が出来れば。

 そう思い震える脚で凶手の前に立ちはだかっていた

 「シャロン!何をしているんだ、逃げなさい。」

 レイグルス王子の必死な声が招待客の半分以上が慌てて姿を消した広間全体に広がる。

 「どけ。」

 凶手は片手でシャロンの左頬を平手で打ちすえた。

 シャロンは衝撃に耐えきれず、床に崩れおちる。

 「命拾いしたな、姫君。オレ達は弱い女は殺さない主義でな。暫くそこで大人しくしていろ。」

 シャロンは殴られた拍子に口の端を切ってしまった様で、唇の端から血が滲んでいる。

 だが今はそんな事頭には無かった。

 ―ダメ、このままでは、レイが・・・・・・レイが殺される―

 レイグルス王子を助けたい。

 その思いだけで、辺りに手を動かす。

 すると指先に冷たく硬い物が触れた。殺された騎士が落とした剣だ。


生前、母親に刃物には触れてはいけない、刃物には近づいてはいけない。そう約束させられていたが、今はそんな事より目の前の危機を乗り切らなければと 剣の束を握りこむ。

 シャロンは不思議な感覚に襲われた。

 剣の束を握りこんだ手が熱いが、頭の中の靄が晴れていく様に、視界もハッキリしてくる。

 一方レイグルス王子は窓際近くまで追い込まれていた。

 3人の騎士は流石に、死んではいないが瀕死の状態だ。

 どうすれば、と思案している時だった。

 凶手の後ろに剣を構えたシャロンが目に入った。「シャル、何故逃げないんだ。」と悲鳴に近い声で再び名を呼んだ。

 それは凶手も同じだった様だ。

 レイグルス王子の後ろの窓ガラスに自分の後ろで剣を構えるシャロン姫の姿が目に映った。

 「何の真似だ姫君。そんなに殺されたいのか?」

 シャロンは何も答えない。ただじっと凶手に向かい剣を構えている。

 「そんなに殺されたいのならお望みどうりに殺してやる。」

 そういって凶手は隠し持っていた暗器をシャロンに向かい投げつけた。

 暗器を投げ、シャロンが死ぬのを確信していた凶手は直ぐに狙いをレイグルス王子に定めなおした。レイグルス王子は再び切迫した様子でシャロンの名前を呼んだと同時だった。

 金属を弾かれる甲高く少し不快な音が聞こえた。

 レイグルス王子の顔も切迫し緊張した状態から、目を見開き、驚愕した表情で凶手らの後ろをみている。

 凶手が後ろを振り返ると、またもやシャロン姫が剣を構えだっていた。

 おかしい、確かに暗器を投げた。

 凶手二人は改めて、シャロン姫に視線を戻した。そこに居たのは先程のか弱い姫ではなかった。表情こそ半眼で無表情だが。

 二人の凶手は長年の凶手としての経験上自分と対峙した者達の力量を瞬時に判断出来る。

 だからこそ今まで依頼された暗殺の殆どを成功させてきた。

 今目の前で剣を構えた幼い姫君。彼女は今まで対峙したどの剣士よりも強いプレッシャーを凶手二人に与えていた。

 凶手二人は戦慄した。今すぐこの場を逃げろと直感が告げている。

 だが、姫の剣は構えも素人のソレだ。しかも標的をここまで追い込んでいながら依頼を遂行出来ないのは凶手としてのプライドが許さない。

ましてや相手は幼い姫、ここで引き下れば自分達は凶手として致命的だ自分達の名も失墜するだろう。

 この凶手達のプライドが選択を誤らせた。

 凶手は目と目で会話をし、二手に分かれた。

 一人は王子を、もう一人は姫を殺す為に。

 だが姫と王子どちらにも凶手の剣は届かなかった。

 シャロン姫は自分に向かってきた凶手の一閃をダンスのステップを踏むかのような滑らかな身のこなしで避け、そのままレイグルス王子にその剣を下ろそうとしていた凶手を、胸で直角に構えた剣で、背中から心臓を刺し貫いた。たった一刺しで凶手の一人を絶命させたのだ。

 レイグルス王子に向かって下ろされた剣は振り下ろされる事なく、糸の切れた人形の様に力の抜けた腕と共に床に崩れ落ちた。

 レイグルス王子と凶手、遠巻きにして様子を伺っていた者達も全ての動きが止まっていた。

 いや、動けなかった。目の前の光景が現実離れしていたから。

 か弱く幼い外見の姫君が、腕利きの騎士達でさえ、その凶行を止められなかった凶手の一人を、小さな手に不釣り合いな、大きな剣で刺し殺したのだから。

 全ての動きが停止した中、シャロン姫だけが凶手を刺し殺した剣をゆっくりと引きぬき、そのままもう一人の凶手に向かい直した。

 シャロン姫は凶手に向かい、ゆっくりとした足取りで近づいていく。

 凶手は恐怖と怒りに震えていた。

 そして凶手はシャロン姫に向かい剣を振り落とす。シャロン姫は顔の前で剣を横に構えその剣を受け流そうとした。が、流石に体格の差によって軽くは受け流せない。

 シャロン姫は懇親の力を出すがそれでも凶手の剣を振り払えない。欠落していた表情に若干ではあるが苦悶が浮かぶ。

 「どうした姫気。さっきの勢いは無いのか?よくも、よくも弟を!」

 シャロン姫は剣の押し返すのを諦め、剣を横にスライドさせた。

 普通なら考えられない戦法だった。何故なら剣を抜いた瞬間、相手の剣が体に落ちるからだ。

 剣をスライドさせたほんの一瞬に体を後ろに引いた瞬間ドレスの裾を切り裂く凶手の剣が床に突き刺さる。紙一重だった。

 そしてシャロン姫は左上から右下に剣を走らせ凶手の右腕を剣事切断した。

 「うあがぁーーーーー。」

 獣の様な悲鳴を凶手は上げた。切断された肘から下は、ドクドクと拍動に合わせ鮮血がばら撒かれている。凶手は傷口を左手で強く握りしめ、床に片膝を付けた。

 相手の戦意が反れた事により、シャロン姫はその場に崩れる様にしゃがみ込んでしまった。 すると、さっきまでの無表情から一片し、真っ青な顔をし荒い呼吸を吐いている。

 「お・・の・れ・ぇ・・・」

 凶手は残った左腕で懐から何か液体の入った瓶を取り出した。

 「これで、オレの勝ちだ。」

 液体の入った瓶を壁際にいたレイグルス王子に投げつけた。

 だがその瓶がレイグルス王子に届く事は無かった。

 シャロン姫がレイグルス王子に瓶が届く前に剣で切ったからだ。その動きは神速が如き速さだった。

 瓶の中身は大半が床に落ちたが、残りはシャロン姫の左目周辺にかかってしまった。

 液体がかかった瞬間目の周囲が焼ける様に熱くなる。我慢できずシャロン姫は剣を落とし両手で左目を覆いその場に倒れ痛みにのたうち回った。

 「く、どこまでも邪魔する姫君だな。だがその毒が少しでもかかった者は皆死ぬ。これで終わりだな。」

 凶手は口の端を引き上げて言った。

 その後凶手は隠し持っていた毒薬を煽り、口の端から青い泡を吐きながら絶命した。


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