Final
ここまでお読み下さってありがとうございましたm(_ _)m
基本的に悪役令嬢ものを描くまいと思っていた自分がこれをテーマにする方が執筆が加速することに気付いて同テーマの連載作品が3作目となりました。
次回もまた同テーマを題材にして別ベルトルの挑戦をしようと思います。
次回テーマは「死因がバナナの皮だなんて認めない、悪役令嬢に転生した私は誇り高いバッドエンドと最高の伴侶を望みます」として翌々日の投稿を予定してますので温かく見守って頂ければ嬉しいです(´;ω;`)
人とは一度その環境に慣れると自分の当たり前と思い込む。
例えクソみたいな環境にも適合してしまえば抜け出せない。悪環境で鍛え上げられた心が知らずのうちにそれを求めてしまう。
いやー、思い知ったわー。
私も四バカから被る迷惑を当たり前と思っていたらしい。
お父様とリリーちゃんの計略によって一ヶ月前に異世界へと放り込まれた四バカたちはそれ以降、二度とこの店に敷居を跨ぐことはなかった。
何とお父様が口にした『ちょっと帰って来れない場所』とはまさかの異世界だった。悪役令嬢として乙女ゲームの世界に転生した私には微妙な話である。
異世界の異世界と言えばいいのかな?
それってもう現実世界じゃん。裏の裏は表という感じがする。若しくは最期の悪あがきに融合を果たしたアニメの世界にラスボス?
ちょっとしっくり来ない表現だけどそう言う事にしておこう。
そんなこんなでアイツらが居座っていた隅っこのテーブル席は当たり前の如く別の誰かが平然と使われて、その人たちは腰を据えて酒を煽る。
そしてカウンターで接客に勤しむ私の前にはリリーちゃんが美味しそうにお酒を飲んでいた。まともに戻った彼女は国会議員をクビにされる事なく平和な毎日を過ごしていた。
……アレをまともと言えるのかなあ?
「マリーちゃん、ドナテロがウンチしちゃった」
「リ、リリーちゃん? 結婚前の女の子はもっと言葉遣いに気を遣わないと……ダメなんじゃない?」
何と四バカは一昔前に大流行したキーチェーンゲーム端末の世界に放り込まれていた。卵型の形状のアレ、端末の中のキャラが風邪を引いたりオヤジ化したり割と手間のかかる育成ゲームだ。
お父様とリリーちゃんはコレを異世界と呼んでいる。
リリーちゃんはキーチェーンゲーム端末を握りしめて画面ボーッと眺めながら変な事をサラリと呟くのだ。
リリーちゃんはカウンターに肘を突きながらドナテロの世話に勤しんでいた。確かにゲームの世界の住人になれば誰にも迷惑をかけないけど……コレって人道的に大丈夫なのかな?
リリーちゃん曰く「アイツらはコレくらいしないとダメ」だそうだ。
て言うか全員乙女ゲームの攻略対象なんだよ?
そのアイツらが乙女ゲームの世界でまさかのキャラクター化、もはや何でもアリに思えてしまう。常連さんたちもリリーちゃんの様子を後ろから見て「あのバカたちは他人に人生を操作されるくらいが丁度いい」などと毒を吐く始末。
うーん。
キーチェーンゲーム端末の画面にポリゴン姿の四バカの何と情けない事か。
おお、冒険者よ。死んでしまうとは情けない、ツケを全て返済すれば生き返らせてやろう。
ちょっと違うかな?
おお、四バカたちよ。ポリゴン姿になってしまうとは情けない。金輪際他人に迷惑をかけないと誓うなら封印を解いてやろう。
ダメだ、コイツらの信用は元から地に堕ちてるじゃん。
今から信用を巻き返そうとしても平気で何百年とかかってしまう気がする。寧ろ更に信用を失いかねないから中途半端に変なフラグを立てるのは止めておこう。
ん?
リリーちゃんが私をジーっと覗き込んでくる?
「ねえ、マリーちゃんはこれからもずっとここでこの居酒屋をやってくの?」
「そのつもりだよ? 別に生活に困ってる訳でも無いし、こうしてお客さんが来てくれる間は頑張ろうかなって」
私がお皿を洗っているとリリーちゃんはカウンターに突っ伏して何かを考え込む様な仕草を見せていた。乙女ゲームのヒロインらしいかどうかは分からないけど、ぷくーっとフグみたいに頬を膨らませた彼女の姿は可愛らしかった。
手持ち無沙汰と言う訳でも無いのにゲーム末端を指で弄りながら私の答えに「ふーん、そっか」と言葉を漏らす。
え? 何?
リリーちゃんってば一体どうしちゃったの?
そんな態度を見せられたら逆に怖いんだけど?
「マリーちゃん、もう聞いた?」
「……何を?」
「この間、国会で閣議決定された議題。私が議題に上げて見事に通りました」
「……リリーちゃんは何を通したの?」
「女の子同士が結婚出来る様に憲法をちょっとだけイジりました」
「ふぁ?」
リリーちゃん、今アンタは何と言いました?
女の子同士が結婚出来る様に憲法をイジっただと? 思わず自分の聴覚を疑ってしまった。全身が硬直した私にピシッとヒビが入る。
そして店内中の視線が私に集中する。
常連さんたちも目を見開いて開いた口が塞がらなくなっていた。そんな周囲の反応を見て私はコレが現実だと逆に実感する事となって全身から脂汗が止まらなくなっていた。
……マジで?
前から薄々は感じていたけどリリーちゃんは百合の世界にドップリとハマってしまったらしい。と言うかあリリーちゃん、アンタは自分の趣味のためだけに憲法をイジっちゃったの!?
この子の行動力ってたまにドン引きしちゃうんですけど!!
私が危険な香りを嗅ぎ取って後ずさるとリリーちゃんはズイッとカウンターを乗り出して距離を詰めてくる。
ひょえええええええええ!!
何か怖い!! リリーちゃんが距離を詰めながらも頬を真っ赤に染め上げる様子が恐ろしくて堪りません!!
店内を見渡すと常連さんたちがごクリと固唾を飲んで私を凝視する。
やっべー。
もしかして私って自分でも知らない間にヒロインの好感度を上げすぎちゃったのかな?
「でねでね今日ここに来る前に買ってきたんだけど……」
「ひっ!!」
「……マリーちゃんの指のサイズ知らなかったから……合わなかったらゴメンね?」
ぎゃーーーーーーーー!!
リリーちゃんが体をモジモジとさせながら見るからに手触りが良さそうなベロア生地の小箱をスッと差し出してきたのだ。
その高級感漂う小箱の中身を想像して私はドン引きしてしまった。
て言うかこの状況なら箱の中身くらい分かるわい……、リリーちゃんが結婚指輪を買ってきたーーーーーーー!?
「マリーちゃんのお義父さんには話を付けました」
リリーちゃんってば手回しが早すぎる……。
これが出来る女の仕事っぷりですか!? お父様だってあれだけ百合には否定的だったのにどうして懐柔されちゃったの!?
「お義父さんには絶対に可愛い孫をお見せしますって言って説得しました」
「……お父様のバカ……」
お父様もお願いだからバカみたいな理由で懐柔されないでよ……。女の子同士でどうやって孫を作れと?
アンタらはコウノトリにでも頼る気ですか!?
「えっとー? 私の意志は?」
「私の事、嫌い?」
「……いやあ、嫌いじゃないよ?」
「じゃあ好き?」
「……まずは友達から始めない?」
「私たちとっくに親友でしょ? 親友の次は結婚って相場で決まってるじゃん」
何処の誰がそんな相場を決めたんじゃい。
恋愛の相場は何時だって変動性、為替取引と同じシステムだっての。
お願いだから今すぐにソイツを私の目の前に連れてきて下さい。今すぐにボッコボコにして、その間違った価値観を性根から叩き直してやる。
そして私自らがもう一度憲法をイジってやる。
「……リリーちゃん? リリーちゃんのご両親は何て言ってるの?」
「マリーちゃんと結婚したいって言ったらパパなんて『ちょっと神父の国家資格ゲットしてくるねー』って言って家を飛び出していっちゃった」
まさかのセルフ挙式!?
「……お母さんは……リリーちゃんのお母さんは何て言ってるの?」
お願いだからまともな人が一人くらいはいて欲しい。お父様のリリーちゃんに懐柔されて、彼女のお父さんは斜め上まっしぐらな人物。
頼むからお母さんだけでも常識人であって欲しい。
「ママは『あらあらまあまあ、じゃあママがお城に匹敵するサイズのウェディングケーキを手作りしてあげるからね?』って言ってくれてパティシエの国家資格を受験しに行っちゃった。合格後も半年間くらいはパティシエ修行で海外に留学するって」
リリーちゃんのお母さんが一番のダメ人間だった!!
エーレ男爵家の血筋って全く計画性が備わっていない。
今回もまた見事に逃げ道を塞いでくれちゃって……。
デジャブだなあ、これは以前お父様にリリーちゃんとの関係を誤解を受けた時と同じだリリーちゃんは場を荒らすだけ荒らして私を百合の世界引き摺り込みにかかってくる。古今東西、ここまで逃亡不可能なセキュリティが有っただろうか? 例え世界最高の名探偵でさえ思い付きそうにないやり口でリリーちゃんは私を巻き込んでくる。
何度でも言うけどこんなところだけヒロインやらなくていいから。
人を巻き込んでいくヒロイン特有の強制力を発揮しないで下さい!!
アカン。
ガシャンガシャンとシャッターが下がる音が幻聴となって脳内に響き渡っていく。
完全に四面楚歌やんけ、もしかして私が悪役令嬢だから全てが悪い方向に進んでいるのだろうか。こうして私は一晩中リリーちゃんが爆発させた百合感情に頭を悩ませる事となった。
因みに彼女の求婚は一晩中続いて常連さんたちの晩酌の肴にされる事となる。
そして私はリリーちゃんの熱烈なアタックを全身に浴びて憲法改正の煽りを受ける形で一年後彼女とゴールインを果たしてしまう。憲法改正後、女の子同士で結婚した世帯の主者第一号となる。
私の乙女ゲーム転生ライフは百合エンドと言う運営もビックリのハッピーエンド? で幕を開ける事となった。
リリーちゃんが言うには女の子同士で結婚すると色々と税制が控除されるたり優待を受ける事が出来るとの事だ。出産時に国から見舞金が出たり、子供が病気になっても医療費が全額タダになったり、保育園の入園が優先されたり。
新政権はそんな控除や優待が発生しないと分かって制度を作ってるやんけ……。
私も乙女ゲームの世界がここまで舐めた世界だとは思わなかった。
異世界風居酒屋・悪役令嬢は今日も元気に通常通り営業中、ちょっと店内は狭いけど美少女夫妻が笑顔でお客様をお迎えいたします。今日のオススメはモツ鍋味噌味です。
それでは皆様、またのご来店を心よりお待ちしております。




