とある兄妹(妹)
私は、95歳で人生を終えた。
私の人生は幸せだったと思う。結婚もして子供ができ孫まで抱かせてもらった。そして、兄を見送る事が出来た。命の灯火が消えるその時、一つの心残りがあった。
それは、兄を助けてくれた彼女にお礼が言えなかった事。
本来車に轢かれる運命だったのは、きっと私と兄だったはずだ…でも、兄は私を助けた。
あの時の気持ちは二度と味わいたく無い。
兄が轢かれる!そう思った瞬間、頭の中が真っ白になったのを覚えている。
私のせいで…その思いが私を責め立てる。
凄まじい音が聞こえ、兄が轢かれたと思った。
でも、車の下に居たのは、女の人、その少し後ろに擦り傷が沢山出来て呆然とした兄が居た。
安堵と共に駆け寄る。
呆然としていた兄に声をかけ無事を確かめようとしたが、兄は車の下にいる彼女に駆け寄る。
ああ…あの人が…兄を助けてくれた。
私が1番最初に思ったのは、感謝だった。
あの人が亡くなったと聞かされても、兄が助かった事が何よりも私は嬉しかった。
この時の私は、子供だったんだと今なら思う。
彼女も助かって居たなら、この感情も正しい。
でも、彼女は死んでしまった。兄の代わりに…
その事に気が付いた時、兄のあの憔悴が分かった気がした。
ねぇ…神様がいるなら、もう一度彼女に会いたい。
会って彼女を助けたい。兄を助けてくれた彼女に今度は私が手を差し伸べたい。命をかけて…。
そう願って…私は息を引き取ったのだ。
そして、気がつけば、違う世界に居た。
手は小さくなんだか声も幼い。
怒鳴り声が聞こえ、知らない人が私に手をあげようとする。でも、その手が私に届く事は無かった…私を守ってくれたのは、誰か分からない。
でも、懐かしいその背中を見ると…兄を思い出す。
「大丈夫か?エアリー」
「はぁ?エアリー?私はアヤって名前じゃないの?てかここどこよ!」
「はぁぁぁ…ようやくかよ…記憶戻んねぇのかと思ったぜ」
「はぁ?あんた誰よ!」
「俺はお前が産まれた瞬間から分かったのによぉ…マジでわかんねぇのかよ!」
「分かんないわよ!いきなり変な所に居て、変な奴に殴られ掛かるし、変な奴に助けられるし、なんなのよ!」
「相変わらずだな!お前は!この脳みそ弱いクソ妹!!」
「なによ!クソって!そんな失礼な呼び方するのは……兄だけ……よ?あれ?兄?」
「はぁ…」
「えっ?顔が違うし…えっ?」
「俺はこっちの世界では、クラウスって名前だ」
「プププ…クラウスって…」
つい笑ってしまった私は悪く無いと思う。話を聞けって叩かれた頭を押さえながら兄を睨む。