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「お嬢様、それで、本日は下町へはもう行かれないのですか?」
いつの間にか後ろに控えていたセバスが声をかけた。
「はっ!?そうですわ!!急いで行かなければ、間に合いませんわ!」
わたくしは、セバスに言われ慌てて時間を見た。
今から行けば十分間に合いそうですわ。
「セバス、馬車の準備をお願い」
「畏まりました」
そのまま、歩いて、馬車まで向かい、護衛と共にわたくしは下町へと向かった。
馬車を止め、目的の噴水が見える所まで行く。
確か…ここで…お忍びで来ていたこの国の第一王子とヒロインが出会う。
この噴水の近くを通った2人はすれ違い、肩がぶつかってしまう…そして…ヒロインはよろめき噴水に落ちそうになる所をぶつかった王子殿下に引っ張られ抱きしめ助けられるのだ。
驚いた顔の2人、そして、その後、お礼を言って別れるのだけれど、王子はその時恋に落ちてしまう。
無邪気にお礼を言った彼女の笑顔に心が一瞬で奪われてしまうのだ。
その挿絵はもう素敵だった!!
それが、今、この瞬間、この目で、見れるのだ!!
興奮で鼻血が出そう。無意識にハンカチを出し鼻に当ててしまう。
後ろから戸惑う様に護衛の方がお嬢様と言う声が聞こえたが無視だ無視。
そして、君も少し隠れてくれないだろうか?
わたくしは現在、噴水の近くにある木の側からこの身を隠し、噴水を覗いているのだ。
護衛にも隠れる様にいい…護衛の人は戸惑いながらも指示に従う。
護衛の方の冷ややかな目は無視だ。決して護衛の方に目はやらない。
その時を今か今かと目を見張り待つ。
そして、ついにその時がやって来た。
あれは!?ヒロインだ!!!
ついに、ついに、やってきたわ!さぁ〜見せて!
わたくしにあの瞬間を是非!今すぐ!さぁー!
わたくしは気がつかなかった
我が領地に住んでいる人は、わたくしの暴走をよく知っているので、見られても、またやってるよ…あのお嬢様…ぐらいだったが、他の領地の人は知らない。
この時のわたくしは見るのに夢中で、自分の姿が他の領地の方にどう映ってしまうのか、そこまで気が回らなかったのだ。
それが、この物語りを狂わす一歩になるとは知らず。