65
その姿を見た瞬間、わたくしは走っていた。
「ちょっと、待ちなさいよ!!」
「はぁ?なんだよ、俺様を誰だと思って声かけてんだ!?」
「貴方がどこの誰かなんて知らないわ。でも、その子は返して貰うわ」
「コイツは俺のもんなんだ、お前に返す訳無いだろう。返して欲しければお偉い人に頼むんだな!
出来ればの話だがな!
それに、お前普通に俺に話してるが俺はハス家の嫡男、そこら辺の平民が話しかけていい存在じゃないんだよ」
「はっ、笑ってしまうわね。貴族の嫡男が身分を笠にしてるなんて、恥を知るべきだわ。それにその地位は貴方が自分で手に入れた地位では無いわ、代々その地位を守る為に歴代の当主が頑張って守ってきたものよ!でも、それも貴方みたいなのが当主になったら没落しちゃうわね」
「俺をバカにしたのか?」
そう言うなら、彼は剣を抜いた。そして、わたくしに向かい振り上げだ。
「に、に、にげて!!」
ヒロインは声も可愛いのね
なんて思いながら
バッと横を見ると、まだ隠れているザックとアヤ。
えっ?なんで来てないの?
護衛ですわよね?
悲鳴が上がる中、わたくしは魔力を手に集める。
その気配に気がついたのか、男爵の男はヒロインをわたくしに向かって投げた。
慌てて魔力を散らし彼女を受け止めようとした
男はヒロインごと切ろうと剣を振り落とす
「俺のもんにならないなら、いっそお前もお前の家族もそこの女も皆んな殺してやる!」
咄嗟にヒロインの手を掴み、遠心力を使いグルンっと
彼女とわたくしの位置を変えた。
遠心力の反動できっとヒロインは怪我をするだろう。後でポーション渡したら大丈夫かな?
迫り来る剣に
ヒロインの心配をしつつも
あの護衛!!と怒りを覚えたのは仕方ないと思う。
迫り来る痛みに備えたけど、
痛みがやってくる事は無かった。
代わりにやってきたのは
ぬくもりとふんわりと香ったわたくしがよく知っている香りだった。
それと、確かな殺気。