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本日の護衛は勿論ザックである。
「あら?ケントは本日一緒では無いのですか?」
「いえ、ケントは影から護衛させております」
「なんだか、貴方の話し方ムズムズするわ、いつも通りお話しなさい」
「いえ、遠慮させて頂きます。それに、私は護衛の身で、貴女様は高貴なお方…いくらお嬢様が良いと言ったとしても、他に聞いている方がいます。それがどんな弱みに繋がるか分かりませんので」
そう言い頭を下げたザック。
見えましてよ!下がる時にニヤリと笑った顔が!!
「はぁ。ザック。これは命令です。
今、わたくしは重大な任務の為下町に溶け込まなければならないのです。貴方の話し方だとわたくしが溶け込むどころか浮いてしまいます。
分かりましたね?いつもの砕けた話し方にしなさい」
「かしこまりました、お嬢」
「ん〜、それを言うならアイリーン様もですよ」
「えっ?」
「町に溶け込みたいのであれば、お嬢様の口調も崩さないとダメだと思います」
「なるほど」
「今日は、恐れ多くも私の友達って事にして溶け込む事にしませんか?」
「アヤ!いい案ですわ!!そう致しましょう!わたくしも口調を崩すわ」
「アイリーン様ありがとうございます!では、早速!例の場所まで行きましょう」
わたくし達はウキウキしながら例の場所に向かいます。その後ろから
「いや、お嬢…皆んなお嬢の顔知ってっから」
呆れたザックの声は前を歩く2人に聞こえる事は無かった。
「アヤ?この場所だっけ?」
「はい!!アラン様とのイベントはここで合ってます」
「私の知ってる物語だと、ジル殿下とはあそこのパン屋で会うはずだったんだけど…」
「最初の出会いがジル殿下じゃなくアラン様となった今!こっちで合ってると思います!
殿下の情報ですと、アラン様はこの店を念入りに調べていたそうですよ!」
「えっ!!ジル殿下がアヤに直接言ったのですか!?」
「まさかぁ〜、殿下の言付けを殿下付きの方に教えて貰ってるだけだよ!アイリーン様口調が戻ってますよ!」
「しまった!気を抜くとすぐ口調が戻っちゃうわね。
なんで、ジル殿下付きの方がアヤに?」
「それは、秘密です」
「そう」
「あれ?アイリーン様、嫉妬しちゃった?」
アヤのその言い方にムッとしてしまった。
わたくしはジル殿下の事は恋愛対象として見ていない。嫉妬する訳ないのだ。
ただ、アヤの笑った顔が気になるだけであって…
「アヤ、何回も言うけど、私はなんとも思ってない!むしろ、エノーラ様に期待してるのよ!彼女がジル殿下を落としてくれたら私は晴れてモブ!
本当の気持ちを言うと、私が見たかったのは、あの話の続きだけど…それはもうしょうがないものね。最初の時点で物語りが違ってしまったんだから…」
そう言うわたくしをアヤはなぜか面白そうに目を輝かせて親指を立てて
「アイリーン様はそのままでいて下さい」
何故かしら…物凄く腹が立つわ。
物陰から例の店を覗き見していたわたくし達の後ろの方からドッと歓喜が聞こえて来た。
わたくしはつい、後ろを振り返ってその様子を微笑ましく暖かい気持ちで見つめた。
アヤが何か続きを言っていたが、その言葉は、歓喜の声にかき消された。