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第二十話:大会予選1

 前払いで貰った金は大会の支度金ということにして、シャルは衣装と剣を買った。

 人前に出るのに普段着では云々、シャルも女の子なので見た目には拘りたかったらしい。元々飾りっ気のある服を好んでいたのであまり町娘っぽいみすぼらしさは無かったが、それでも許せなかったようだ。が、気合を入れて買った服は戦いに赴くというよりは完全に貴族のご令嬢の普段着か、少し気合の入った外出着と言うべき雰囲気の…レースや刺繍をあしらった服で、正直見た目以外気にしていないのはどうかと思う。

 エンゾさんの紹介で買った剣にしても見た目重視だった。こちらは豪華な装飾を重視というわけではない。「人を殺せそうな、物騒な見た目重視」の剣である。

 ファルクスというらしいそれは、やや湾曲した長く厚みのある幅広の刀身。両手剣のようだが、これはシャルが振り回せるのだろうか。まぁ、当たれば重みだけで体がひしゃげそうだ。そして無意味に黒い刀身…野蛮というか、悪意しか感じない作りの剣である。


「シャル、こんな剣扱えないだろう?」

「ただのロングソードだって扱えないんだから、威嚇効果が高いほうが良いじゃない」


 さもありなん…? それなら釘バットでも持てと呟いたら、詳しく説明させられた。

 その後嬉々として木工屋に「細めで長い棍棒」を注文しに行ったが、試合ではファルクスを使うつもりのようだ。釘バットで戦うヒロインとか嫌過ぎる。出来れば使わないでほしいが、楽しそうという気もしてしまうあたり俺もシャルに毒されているらしい。


 そうして5日の準備期間はあっという間に終わった。

 ちなみに、大会登録した時点で大会運営に斡旋されたセキュリティの高い宿に格安で泊まらせてもらえたので安心だった。普段は高貴な立場の人や豪商が好んで使う宿らしいが、この時期のみ大会参加者に開放するらしい。格安と言っても一部がスポンサー持ちというので、協賛企業の懐は潤う事だろう。


 そして、予選が始まる。

 予選は2回。初戦は闘技場での実績の無いもの同士、2回目から多少なりとも大会や通常期間での参加経験のあるもの。本戦32人のうち19名は実績のあるシード権で埋まっているので、13名が生き残ることになる。午前、午後で2回戦い、明日からが本戦という説明だった。


 午前、シャルの出番は早かった。

 相手は長身の若者だったが、あまり実戦経験が無いのだろう。緊張しているのがありありと見て取れる。新品の全身鎧を着て、意気込みだけは伝わってきていた。対戦相手であるシャルの姿を見て余裕の笑みではなく、ホッとしたような表情を見せたあたり善良な一般市民からの出場かもしれない。が、シャルが持っていた長い布を解きファルクスを持って出てきたのを見て表情がこわばった。威嚇効果はなかなかだったらしい。

 誰しも殺すより殺される方が一大事である。この凶悪な武器で真っ二つにされることを想像してしまったのだろう。青年はロングソードを持って出てきたが、表情は硬いままだった。

 尚、この闘技場では殺しも問題無しとされている。正し審判が鐘を鳴らした後の攻撃はご法度。賞金も出なくなり失格扱いだ。

 よほどの実力差が無い限り、一撃で死ぬということは難しい為、大怪我はあっても人死には少ないらしい。正し、シャルは完全に防御を意識していない服装だった。普通の人から見たら、狂気の沙汰である。彼もそう感じたのか、競技場中央まで進み出て来たシャルに向かって心配そうに声をかけた。


「なぁ、装備はそれだけか?」

「ええ、大丈夫です。当たりませんから」


 交わした言葉はそれだけだった。

 予選な上にまだ開始からそう時間も経っていない為、観客はそれほど多くないが、ザワザワと「若い」「小さい」「可愛い」と客の声が聞こえてくる。

 二人が中央付近に揃ったところで、すぐに審判から声がかかった。


「準備はいいですか。では…はじめ!」


 開始早々、シャルは走った。それもかなりの速度で。

 驚いた対戦相手は慌てて防御姿勢を取るが、それでは勝てるわけがない。シャルにとって理想の対応だった。

 この5日間、俺達はみっちりと練習を重ねてきたのだ。魔法を使っているように見せずに勝つ方法を。

 別に難しい手順はいらない。重たい武器だって、風魔法で浮かしてしまえばタダの木の棒と同じである。推進力を持たせれば手を振る必要すらない。が、それでは魔法を使っているとバレるので、シャルは練習を重ねたのだ。推進力どころか、自分の挙動全てを魔法に委ねて、かつ自然な動きに見える精密操作を。


 薄く纏った風に押し出され、あたかも走っているかのようにシャルは青年に肉薄すると、ファルクスを受け止めるべく構えた剣の下に身を沈ませた。右足が伸び、回転しながら彼の足を大きく払う。当たっているようで当たっていない。魔力の層に触れた瞬間には彼の両足は横滑りを開始していた。ここでもし迎撃の構えを取られると、シャルとしては慣れない速さで急制動を行う必要が出てくるため慎重にならざるを得ないのだが…凶悪なファルクスの見た目に怖気づいた相手には無理な話だった。


 ダンッ


 背中から倒れた青年のヘルムの上に、ファルクスの切っ先が突きつけられる。


「降参しますか?」

「あ…こ、降参だ…」


 わっと観客席が沸いた。見た目にはとても戦える様子のないお嬢様が、驚く程の速さで勝利をもぎ取ったのだから当然だろう。だが、一部からはブーイングも飛んでいた。シャルというよりは、相手の青年に向けられたものだ。恐らく賭けで負けたのだろう。見た目だけでシャルがお遊び参加と読んだのなら自業自得としか言いようがない。


 シャルが選手出入り口に戻ると、エンゾさん、シモーヌさんが出迎えてくれる。関係者としてこちらで観戦していたのだ。ちなみに、シモーヌさんはあのあとシャルの体術もどき魔法の練習用サンドバッグとしてかなり仲良くなった。強さも嫌と言うほど理解したので全く心配している様子もなく、拍手を贈りながらシャルを迎える。


「お疲れ様です。早速稼がせてもらいましたよ」


 シモーヌさんも賭けに参加していたらしい。手には掛け金を記録した札を握っており、なかなかの収益になりそうだ。


「あら、それは私には支払われないんですか?」

「おっと、これは失礼しました。上がりの4割で良いですか?」


 余裕綽々の表情でシモーヌは答える。どれだけ賭けたか知らないが…。


「良いですけど、稼げるのは最初だけですよ。すぐに私のオッズは下がりますから」


 笑いながらシャルも返すと、シモーヌは目を瞬いた。


「確かに、実力を見抜かれたら賭けが成立しませんね…どうでしょう、わざと苦戦してみては」

「嫌ですよ。間違って当たったら痛そうですもん」


 絶対物理防御があるので決して痛くは無いだろうが、シャルは手を抜くつもりはない。魔法以外の部分でまだ不安があるからだ。シャルの動体視力や判断力は一般的な少女と変わらない。手練の戦士のフェイントや高速の剣戟に対応するのは難しく、痛くなくても喰らえば魔法を使っているのが露呈する。それ自体は別に問題ないが、ヴィルジールを倒したという噂に繋がってしまえばそれこそ賭けも勝負もあったもんじゃないだろう。楽しめなくなるのは嫌なのだ。魔法使いと明かすのは決勝までお預けだ。


「では、食事でもして午後に備えましょう。私より儲かった人も居ますから」


 そう言って振り返ったシモーヌの視線の先には、賭け札を掲げて満面の笑みを浮かべるエンゾさんがいたのだった。

理想の武器を調べて行った所ファルクスになったのですが…現実と乖離した形態になっていたら申し訳ないです。

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