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文化祭準備

なにであったのか。

「あなたが、ルリチシャですか」

「……」

放課後にロッカーで帰り支度をしていた。見覚えのない女性を見上げる。少し上の視線。制服を着ているので学校の生徒なのだろう。

「サンデリーとアンセプスのことについて聞きたいことがあります。一緒に来て頂けますか」

「ヒメ部長?」

ハク少年の疑問符。

「お話、頂けますか」

「職業上、話せることとそうでないことがあります」

その注意された内容を覚えていないのが問題なのだけれど。

「ならば決闘なさい」

「……決闘、とは?」

「刃を交えしのぎを削り合えば分かることもあるでしょう」

ないと思う。

「ヒメ部長?落ち着きましょ?」

フゲン少年が言う。

「私は本気です。様々な考えを巡らせ本人に問うしかないと思い、今日ここに来て、話は出来ないと言われました。ならば、刃でなくとも、拳を交えるか」

それは是が非でも回避したい。

「少なくとも、木刀か、慣れないなら棒術などでは?」

「ハク、やる程で進めないで」

「とりあえず道場に来てくれ」

「帰りたいのですが」

「逃げるのか」

「すみません」

そんな訳で頭を下げて離れようとして、伸ばされる手から逃れる。

「意気地なしが」

「そうですか」

頭をもう一度下げて、離れる。

「君と君の友がやったんじゃないのか」

足が止まる。

「母と兄が話しているのを聞いた。サンデリーの署員が操られている中で、君の友は普通に話していたそうじゃないか。君が殺した。皆が切られる中で。トラック後部に乗っていた救護員はよく見えなかったそうだが。君が口封じに殺したんじゃないのか。サンデリーの操られた中で生き残った署員は、寝た後の事は覚えていないと。君は、英雄なりたさに画策し、そのことを知る唯一の証人を殺した。起こしたことの重大さに気付いてか、そもそもの計画のうちか知らないが」

その目は、怒っているのか、蔑んでいるのか。

「それを君の父君が気付いたのか、フェードアウトさせようとしているのではないか。実直な堅物と有名な老師様でも愛息子可愛さに、なかった事に」

カツラ九席は証明不能の仮説とは言っていたけれど。国に嫌疑を掛けるとなると……、いや、ゲノムを利用したとしても樹の国がやったとは限らない。そうなると、誰が?調べようがないのか。どうやってそうしたかが証明出来なければ。

「ヒメ部長流石にそれは」

「では、説明なさい。なにをどうしたのかを。倒し方も不明、死体も消えて……仮死状態にして逃したのですか」

ならいいのだけれど。

「サンデリーの署長の娘さんですか」

「そうです」

あぁ。

「仮説は幾らでも成立しますが、証明のしようはない。重大事件にも関わらず機構軍自体が調べることに消極的であるのは、重要人物の犯行である可能性が高いからと。それで疑われるのはサンデリーの署長。遺体も発見されていないから」

「父上がやるはずがない」

「それで私、ですか」

それでロア少年とやったというのであれば、ロア少年に全てをなすりつけて終わらせてしまいそうであるけれど。選択しようのない選択は嫌いと。

「それでお疑いになって気が楽になるのであればお好きになさればいいでしょう。私には関係ありません」

「ちょっ、ルゥ」

「私が君を慰みものにして喜ぶと?」

そこまで言った覚えはないのだけれど。

「私に言われても困りますと言っています。私を疑うのなら好きになされば良いものと思いますが、直接巻き込むのはやめて下さい」

「君が言ったんだろ、父に疑いがあると」

「あの段階では仮定仮説はいくらでも成立します。可能性の一つ一つを潰して行く必要があるのでしょう」

「なら君は君がやった可能性を潰すべきであろう」

「必要性を感じません」

「友が疑われてもか」

「必要性を感じません」

「友でもないのだな」

「図る単位の水準は人それぞれでしょう」

「君はなんでも杓子定規に、己を心配する者をなんだと思っている」

「優しい良い人だと思います」

「……、もうっ、知らんっ」

ふいっと、身を翻して行くので気も済んだかと、決闘とかいう割に殴ってこない辺り自制のきいた人で、きちんとしている人である。

「ルゥ……、どうかと思うよ」

「友達がいのない奴だな」

呆れるようなフゲン少年と、嫌悪混じりに言ったハク少年は、ヒメ部長という人と同じ方向に行った。



「……」

寮の部屋に帰ると人が立っていた。シーナ補佐官ではない、美しい術式の人。

「今度から俺の術見かけても、無視して」

言い放たれたそれ。

「潜入捜査ですか?」

「そんなとこ」

「……質問、いいでしょうか」

「内容による」

腕を組んだ背の高いその人に顎で促される。逆光で顔は見えないが、美しい術式はその人を表しているものと思え。

「霊力流の変異の原因は人為的なものですか」

「わかっているだろ」

「……変異を戻されるのはどうしてですか」

「何故?」

「変異からの影響を見た方が相手の狙いも分かりやすく、相手も警戒しません。相手は納得の行く結果を得られないのなら、どこか目標を変えるのではありませんか」

「……ごもっともでもあるが、変異が人に分かるほどの影響になってからじゃ、修正するのが難しい。今なら容易い」

あの術式自体が容易くないと思うのだけれど。

「今は実証実験段階だろう。影響が出ないのはやり方の不味さかと試行錯誤してくれて下手打ってくれたらいいなぁと、考えなくもない」

「……楽観的です」

「楽したい」

ぽそりと一息はくように言う。

「こっちからも聞きたいことがあるのだけど」

「なにでしょうか」

「これ、どう見える」

見せられるのは紙と竹ヒゴか何かで出来ているだろう、鳥の形の凧のようなもの。それは足の部分に何かをつけられ、虫除け散布の器械のようにも見えるけれど、それは。

「誤魔化しの術式の癖が、見たことはあります。サンの、リボンに」

言おうとして口元に手を当てる。なにであろうか。つい言いそうになったけれど。人のことは、あまり口に出すものでもなかった。ロア少年の幽体離脱は口に出すべきではないと。あの事件の時、ちゃんと黙っていただろうか記憶のあやふやさに不安を覚える。

「サンって学校の同室の、どこぞの研究所からの推薦だったか?」

「……」

試験資料か?実験動物か。いや、言い方が。

「どういう研究所かは?」

「……聞いていません」

失敗ばかりされていたと。

「まぁ、いいや。……そっちは他になんかあるか?」

「……いえ」

なにであろうか、胸に詰まるものがある。

「もう少し好きに話していいんじゃないか?」

「……」

少しばかり、緩やかに歩いてきたその人はフチなし眼鏡で色白の肌、黒い髪を揺らす。線は細くいわりにしっかりとしているのに力なく歩く。

「まっ、そっちの仕事は邪魔しないようにするから、こっちのも邪魔しないでな」

「……気を、つけます」

「はい、なにかあったらどうぞ」

差し出される紙。その紙に手を伸ばす。

「シガーケースについて言わなかったこと、感謝はしているし、申し訳なくも思っている」

「……」

受け取って握り込めそうであった。

「歳は取られないのですか」

「気になるか?」

返しの術の問題点は、返しの術を掛けた術師に掛けられたモノに流れる時が返ることだ。経年劣化も取る歳も。

「頭が老けねば永遠に術式を思い描けますか」

「……引き取ろうか」

差し出される長い指のしっかりとした手に首を横に振った。手放しがたかった。古典術式の最高峰に並ぶ術式である。これのせいでロア少年がとも思うものを手放せないのはなにでだと思うけれど。いいや、ただ自分が判断ミスをしただけ。

「返しの術と、言った相手はいます」

「そう、まぁ大丈夫だろう」

大丈夫でなかったが。伸びてきた手に優しく頭を撫でられた。

「悪かった」

言ったその人は部屋を出て言った。



朝、ロッカーを開けると包装された箱がある。それを持ち上げようとして違和感を覚える。気分が悪くなる。息がつまる。

「どうかしたか」

ハク少年に声を掛けられて、言おうとして声が出ない。

「ルリ?」

……。

「重みの感覚が、気持ち悪くて」

手放したいけれど、元にも戻したくないその包みを見せる。

「繊細だなぁ……」

呆れたように受け取って、ハク少年が破るように開けていく。

「あまり、見ない方が」

包装を取った先の箱を開けて、ハク少年の目が嫌悪に見開き、眇められる。

「繊細っていうか敏感か」

溜息混じりに蓋を閉じる。

「先生に持ってくから、先に教室に行ってろ」

「いえ、行く先があるなら自分で持って行きます」

教師にという発想はなかった。

「持つのも嫌そうに見えるけど?」

「……すみません。なら一緒に」

「お前と二人でいるのを見られるのは嫌だ」

「……そんな相手の嫌がる事を回避されるのですか」

「ともかく、先行ってろ」

それだけ言って、ハク少年は背を向けて歩いて行ってしまう。なんとも言えない気分で、そっと息をはく。消毒したい気分も凪いでいた。必要なものをとり、教室に向かう。ハク少年が来たら礼を言わないといけない。そう思いながら、教室に入れば自分の机にナイフが突き立てられていた。個性的な送り方、にしても机に傷を付けるのはよくないだろう。机の前まで行ってそれを見下ろす。どうしたものだったろうか。ぼうっと横から腰を蹴飛ばされるのをそのまま受ける。

「アンセプスに居たんだってな」

見下ろしてくる少年には覚えがあるような、ないような。胸ぐらを掴まれ若干引きあげられる。

「見捨てたか。仲間も全て見捨てて逃げて、それで怪我もしなかったんだろ。友達が疑われても弁明もしないんだもんな。周りの人間なんてどうでもよくて、利用出来ればいいんだろ。老師の息子で士官学校行ってたか知らなけど、お前みたいな人でなしにのさばられてたまるかっ」

「そうですか」

かっとなった相手に殴られる。そちらに合わせることもしなかった。ロア少年はこれをやめて欲しかったのだろうか。自分がそれを守らなかったからロア少年が死んだのならもう守らなくてもいいような。

「お前が、やったのか」

否定したところで証明のしようもない。無意味。

「お前の友達ってのとグルになって、どれだけ死んだと思ってる」

「数字は無意味でしょう」

「あぁっ?」

「数は数の積み重ねですから、誰かにとっての何者であるか、何者でもないか。どれだけ死のうと、関係ない者には関係なく、死人が何者かであった人には重大。数字は数字です」

「……っ」

何か言い難かったのか。服から手が放されるので、落ち着いたのかと、服を正しつつ立ち上がる。大して汚れてもいない。頰は痛いけれど、冷やすべきなのか。面倒くさい。息をはく。

「何か、あったのか?って、ナイフ……」

騒ぎのあった雰囲気にハク少年は訝り、机に刺さったナイフに目を止める。殴りかかって来ていた少年はハク少年の脇を通り過ぎ教室から出て行った。

「昨日のヒメ部長とのやり取りが変に伝わったんだろうけど。……いや、そのまま伝わっていても、こうなるかもだけど」

呆れた様子でナイフを抜いて、鞄から取り出した布を巻きつける。

「とりあえず、医務室行った方が良さそうだけど」

ハク少年は自分の机の上に鞄を置いて、自分の蹴られた時に手から落とした鞄も拾って、ナイフのなくなった机の上に置く。

「ほら、行くぞ」

ぼうっとしていたのだろう、促されて付いて行く。教室を出て、階段を降りて行く。

「殴って来た相手誰か分かるか?」

「さぁ」

「サンデリーとアンセプスのことだろ?」

「アンセプスにいたのだろう、と」

「……そうか」

息をそっとはかれた。

「なんで否定しなかったんだ。ヒメ部長に犯人かって聞かれて」

「私のしたことは自身でわかっているつもりですが、証明のしようがありません」

「……なんか。……友達の事も?共謀にしろ、単独にしろ。友達が不名誉をかぶってもどうでもいいのか」

「したくもないことをしていたのは分かっていますが、証明のしようはありません」

操られていたにしろ、そこに追いやられたにしろ、選択の余地がないのが腹立たしいと言っていた。ある種、死ぬことはそこから逃れる方法の一つではあったのだろうけれど、自分が取り押さえていれば、襲わず死なずで済んでいた。

「今まで以上に変な言い方したな」

「するに迫られたにせよ、操られていたにせよ、選択の余地がなかったのでしょう。それはすこぶる嫌だったでしょう」

「……友達が主犯だったとしても、そこに追い込まれて致し方なくやった?やりたくなかったって?」

「なににしろやりたくはなかったのは確かでしょう」

「……はっきり言うな」

「そう言う人です」

「……やったとしてもやりたくないはずとか……。なんか、なにそれ。信じてんだか、信じてないんだか分からない奴だな」

「信じてはいます」

それはそう言えた。自分の考えである、証明もなにも必要ないはず。ハクの目は少し驚いて、口に手を当て下を向く。

「どうかされましたか」

「あぁ、うん。なるほど」

少し顔を上げたハク少年は笑いを堪える表情で。

「笑わせるような事を言いましたか」

「うん、ごめん。ツボった」

「……」

「不器用だなぁ」

ハク少年は笑いをおさめようとしながら、面白そうに言った。



「で、繊細と」

次の日休めばハク少年とフゲン少年が見舞いに来た。朝熱を出していて、シーナ補佐官は治癒術を覚えようかなと嘆いていた。

「腰を横から蹴られたのを冷やし忘れていました」

「えっ」

「普通に歩いていただろ」

「痛いところを痛そうに歩いていたら狙われませんか」

「……どういう生き方してんの、お前」

「どう?」

「あー、おば様が老師の子だから命狙われて当然みたいに教えるから」

「……違うものですか?」

「……まぁ、なくもないだろけど」

「学校に通うようになってからは自分の発言が元でもよく殴られたりはありますので」

「え?」

「ここで?」

「士官学校です」

「待って普通殴る?老師の息子を?」

「親とは関係のないお付き合いをする場のようでした」

「教師は流石に知ってるんでしょ?」

「教員からは……ありましたか?」

「いや、聞かれても」

「初日から上級生、寮の面倒見る役の方に殴られましたので、そのようなものかと思いました」

「……」

「ここじゃ至って平穏だったわけだ」

「平穏」

平穏穏便安寧。ロア少年はこういう生活がしたかった?

「残念なことになったね。でも、今日はプレゼントに戻ってたよ」

「開けないと分からないから開けたけどな」

渡されたのは、綺麗な染めのスカーフと、銀細工のピン。

「分かりませんか」

「いや、違う気はしたけど。待つだけで嫌そうだったし、ちゃんと確かめた方がいいだろ」

「はい、ありがとうございます」

受け取って立ち上がろうとしたら、押しとどめられて、渡されたプレゼントをハク少年に回収されて、デスクに持って行かれる。

「傷はどう?顔はマシそうに見えるけど」

「落ち着いたかと思います」

だから起き上がって立ち上がれるのだけれど。シーナ補佐官が見舞いがと言うので着替えようとしたら常識を疑われた。自室であろうが寝る時以外、寝巻きになるわけもない。寮というのはあやふやで、シーナ補佐官がいるのにとも思う。士官学校では、支給品であったし、着ている時間が消灯までの30分内と決まっていた。

「すぐに熱は出ますので、気になされなくともいいものかと」

「そんなに殴られてたの?」

「……同室の者に、暴言でもないのにそれだけ人の神経を逆なで出来るのはある種の才能だと言われました」

「暴言じゃないのが余計腹立たしいんだろ」

「そう言うものですか」

「こまっしゃくれてるって言うか。なんつうんだっけ」

「傲岸不遜?」

「そんなん?」

「……」

「文句言いに来ただけなら返っていただけませんか」

呆れた調子でシーナ補佐官が言う。

「いや、別に」

「気にしていません」

「……」

「少しは気にしなよ。同室の人にも殴られてたの?」

「いいえ。口では散々文句を言われましたが、いい人達でした」

「殴らないのがいい人って訳じゃないんだよ」

「……確かに、自分にとって都合の良い方をいい人と呼ぶのは間違いかもしれませんが、……いい人と判断してしまいました」

「……そう」

「サンデリーの死んだ友達か」

「ロアもそうでした。こことは違い四人部屋ですから、あと……二人います」

名前はどこで知るものであろうか。

「そういやフゲン昨日の朝、遅かったよな」

「とーとつだねぇ。夜更かししていたら、寝っちゃっただけ」

「ん?」

「完徹するつもりだったんだけど、いつのまにか」

「同室の方は起こさなかったんですか?」

「そんな親切な奴じゃないよ」

「お前、本人を目の前に」

「ハク親切なの?」

「……」

なぜ、なんとも言いがたい表情をするのか。シーナ補佐官が首を傾げる。

「ハクさんは、ここが地元ではないのですか」

「あぁ、ここだけど。でも、両親が火事で死んで。ここに来るまではソトベニ……、区長さんの家でお世話になってたけど、もう大丈夫だし」

「……そうですか……、フゲンさんは、ご両親とは住まないのですか」

「二人ともいる癖にって思うかもだけど、あの人達ほぼ家に帰んないし、僕が家にいたら僕が資料整理とかもすることになるし。最低限の居住スペースのある貸し倉庫を借りて、生活はしてないよ。生活より研究だからね」

「……そのようなものですか」

分からない様子で不思議そうにしている。それにしても。

「士官学校で同室は連帯責任にするのは、朝起こさせるためでもあったのでしょうか」

「……うーわー」

「お前、恨まれなかったのか?教師とかから目を付けられていただろ」

「どうでしょう。部屋にて謹慎をするように言い渡され反省文を書いた後は、四人でトランプ遊びなどしておりました」

「反省を微塵も感じない」

「グルかよ」

「ルリさんも遊んでおられたんですか?」

「規則規定にありませんから、反省文さえ書けば構わないだろうと言われました」

「……」

「ないんだ。不要物の持ち込み禁止とか」

「トランプは数字などを覚える道具の一つだと言われました。不要物でしたか?」

「言いくるめられてる」

「大丈夫かって言うか。よく分かられているのか、分かりやすくて騙されやすいのか」

「……」

その辺りの心配はされなかったけれど。言いくるめられてるいると言うのは不穏。

「なにか、間違えましたか?」

シーナ補佐官がなんとも言えない表情をしている。部下として頼りなさ過ぎるのであろうか。フゲン少年は心配そうにこちらを伺う。

「変なことされなかった?」

「変なこととは?」

「……なんだろ……口車に乗せられたり?」

「口車?」

「そういえば教授が言ってたな。やばい能力じみたこと」

「やばいって言うかさぁ」

「そうですね。能力の有用性を分かっていないことと、隠す必要性の分かっていなさをよく叱られました」

「……うん、知ってて分かってなくて、隠す気ないんだ」

「技術的にカバー出来うる能力です。特出した能力の有用性は低いかと思います。それと自分が過ごしてきた時が特別と言われましてもイマイチピンと来ません」

「……時がっていうか……。うん……」

「そいつら?なんでそんなにお前のこと気にかけるんだ?」

「……さぁ、同室で……、人が良いからではないですか」

ただ同室であるというだけで、そうなるのは確かに不思議。

「美人好きの下心じゃ」

「それ、お前のことだろ」

フゲン少年の言葉にハク少年が言う。

「すみません、招く相手を間違えましたか?」

シーナ補佐官に言われてなにだろうかと考える。

「そもそも、見舞ってもらうほどのことでもないと思います」

「えー」

「ですが、授業内容は把握しておきたいです」

「そりゃ、教えて欲しいならそうするけど、……明日は午前様だし、明日も大事をとって休んだら?午後とか、次の日休みだし教えにくるよ」

「……それほど悪いわけでは」

「うん、痛いの隠して平然と歩ける人の大丈夫なんて信用ならないからね」

「……はい」

そのようなところで二人は帰っていった。その次の日、その日の授業と前日の説明、今後の予定などを説明してもう。

「文化祭、ですか。……文化祭とはなにでしょう」

「んー学校のお祭り?」

「学校の……お祭」

「そうそ、部活の方は毎年警備の真似事するんだけど。クラスの方がね、紛糾しちゃって」

「警備の真似事ですか」

部屋のテーブルで授業の話が落ち着いたところで、先々の話である。

「僕ら武道部だから」

「暴力的な事はよくあるんですか」

「いや、ないから、なんちゃって?でも人も多いしね。迷子とかは出るし、んー実行委員の動力的手伝いってところかな?みんなとは違う同じ制服着て、ウロウロするの」

「そのようなもので……、学校の術式はどうされるのですか」

「えーっと、……警備系?ここ割といい術式を……しているはずで」

「……なら、いいです」

「……。うん、心配になるんだけど」

「穴はあっても、暴力的な事も起こらないのでしょうし。大丈夫でしょう」

「……うん。どうしよう。父さんに相談するべきなのか」

「教授を煩わせることでもないだろ」

「んー、いつもは大丈夫だし。大丈夫か。それより、クラスの出し物、ルゥって演技できる?」

「いいえ、出来ません。なにかあるのですか?」

「んー劇か、仮装して食べ物屋?」

「仮装……文化というニュアンスでは楽器や、歌や」

「じゃぁ、仮装して合唱でもする?っていうか、楽器出来るの?」

「ピアノや、ヴァイオリンなどは」

「じゃぁ用意された格好でそれずっとやるっていうのは出来るんだ」

「……そうですかね」

「その方向の話でもって行こっか」

「勝手に決めるものですか」

「まぁ目玉商品的にいてくれたら文句ないんじゃないかな」

「大人しくさせておきたいだけだろ」

「眼福だもん」

「……まぁ、いいけど。なら、音楽の流れる喫茶店かなにかか」

「自由度高いよね。劇の伴奏?とかもいけるでしょ。ルゥの置き所決まったら、それなりに落ち着いて話出来るでしょ」

「……置き物扱いか」

「他の扱いの方がルゥは困るだろうね」

なにと返せばいいのか。想像も出来ないので、出来るところに落ち着けてもらえたのなら、そうかとも思えていた。



ピアノの使用許可に伴う、割り当て時間の用紙をもらい、初めての練習時、あまりにも弾けなくなっていることに驚いた。あぁ、学校から帰った時も、研修先から帰った時も弾いていなかった。それはこうなるかと思いはしたけれど、やることに決まってしまっている。劇の伴奏でないだけ良かったであろう。最初から出来ていなくては合わせて練習が出来ない。渡された楽譜は昔弾いたものも多いので、侮りもしたけれど、指の動きの練習になりそうなものから、弾き込んでいく。クラスでは落ち着いた雰囲気のバーのようなオリジナルドリンクを出す飲料店をするそうであるから、落ち着く心地に弾かねばならないのだろう。そういう曲が選ばれている。そうなると、なんとはなく弾いているように見せて、それでいて耳を煩わせないものに。練習時間が限られる限り、練習の仕方が重要になるだろうかと思いながら、全てを覚えていく。

「そういえば一日中弾くのでしょうか」

準備時間がピアノを使える時間とも限らず、色を塗り終わった板に屋外でハク少年とフゲン少年とニスを塗っていた。

「あ……あー、無理だよね」

「やれと言われればやりますが、飲料を作れませんし」

「普通クラスの出し物にも自由時間っていうのがあるからね。休憩がてら校内見て回ればいいんだけどさ」

「ハクさんとフゲンさんは警備の仕事があるのではなかったですか」

「そうだねぇ、部活とクラスと両立すると自由時間減るけど、僕らは校内うろつく役だからね、なにもなければ回っているのと変わらない」

「……そういうものですか」

「それで、ずっと弾いていたら流石に指がおかしくなるだろ」

「そうですね。それほど力を入れずに弾いても指は疲労しますし、そういう練習をなしにやるのは困ります」

「んー、どう考えているのか聞いておくけど、クラスに他にも弾ける子はいるだろうし」

「それ今の所いない言い方じゃないか?」

「えーじゃぁ聞いてくる。あとよろしく」

「あー」

「すみません、お願いします」

練習者が増えたら自分の練習具合が減るのではと不安もあるので確認は大切であろう。

「真面目だな」

「そうですか?」

「座っているだけで大丈夫だと思うけどな」

「そうでしょうか。嫌な音というのは人を不快にさせるでしょう。それは飲食をする場として相応しくないものかと思います」

「好きな音楽は違うだろ」

「どうでしょう。確かにどうしても受け付けないものはあると思いますけれど、ピアノはよく出来た楽器であると思いますから、音楽種に対する許容範囲は広くなるものと思います。そうなるとピアノの音をどれだけ正しく……、雑味なく弾けるかが大切でしょう」

「澄んだ音にしたいってことか?」

「そう、でしょうか。落ち着いた雰囲気の店と聞いています、曲もそのようなものが選ばれています。丁寧に音を出せるようにしたいです」

「……やっぱり真面目だな」

呆れるに近い関心であるような。先の言い方より柔らかく言われたのはあっていると思った。

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