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第21話 預言者ちゃんはお金持ちに靴を譲ってもらえるように頼みに行く

 「どうにかして『空飛ぶ靴』、手に入らないかな……」

 「未練がましいですよ、ご主人様」


 翌日。

 朝食の席でファルティシナは言った。


 昨夜、泥酔するまで――店の酒を飲みつくすまで――飲んだファルティシナだが、早朝にはすっかり元気になっていた。

 

 リリィは二日酔いで痛む頭を押さえながらため息をつく。


 (この人、お酒強すぎですよ……)


 リリィもファルティシナに付き合うために少しだけ――と言ってもファルティシナに比べればの話で、相当量を飲まされる羽目になった――飲んだが、そのせいで少し頭痛がする。


 リリィの数倍、下手したら数十倍は飲んでいるはずのファルティシナがケロっとしているのは納得がいかない。


 「だってさ、リリィ。もし、だよ? あなたの故郷が滅んだとして……その所縁の品が、金持ちのおっさんに取られたら、ぶっちゃけ嫌でしょ?」


 「……金持ちのおっさんかどうかは、この際関係ないんじゃないですか?」


 もっともリリィもあのおっさん――デニス――に買われそうになった時は勘弁して欲しいと心の底から思ってしまったのであまり人のことを言うことはできないのだが。


 「このままじゃ、私はご先祖様に顔向けができない」

 「まあ、おっしゃりたいことは分かりますけど……」


 リリィも自分の先祖にはそれなりに誇りがある。

 誇りがあるからこそ、決してファルティシナ教に改宗するような真似はしない。

 たとえ、奴隷になったとしても、である。


 子孫として、先祖から受け継がれてきた宝を取り戻したいという気持ちはリリィもよくわかる。


 「……デニスさん? のところに行って、直接頼もうかな?」

 「足元、見られるかもしれませんよ?」

 「たとえ十倍のお金を支払ってでも、私は買いたい」

 「……それは勘弁してください」


 リリィはため息をついた。

 お金を稼ぐのは決して楽ではない。

 

 S級冒険者に支払われる報酬は確かに高いが……それは相応のリスクが伴うからである。

 ファルティシナは無敵で死なないかもしれないが、それに付き合わされるリリィからすれば堪ったものではない。


 「あまり稼ぎすぎると、目を付けられますよ?」

 「……まあそうだけどさ」


 実はファルティシナはゴルダスから忠告を受けていた。

 というのも、あまりにも稼ぎすぎたからである。

 

 稼ぎ過ぎると目を付けられる……というのは変な感じもするが、ほかの冒険者の仕事をその分奪っていると考えれば、目を付けられるのも当然と言えば当然だ。


 これからは少し控えた方が良い。

 ……が、控えればその分稼げる額も減る。


 「でも……どうしても欲しいんだよ」

 「……まあダメ元で行ってみたらどうですか?」

 「行ってみたら……って、リリィはついて来てくれないの?」


 心細そうにファルティシナは言った。

 するとリリィは首を左右に振った。


 「私絡みで、あのデニスという人とご主人様は因縁があるじゃないですか。私が行ったら、喧嘩を売ってるように思われるかもしれませんよ」


 「それは……まあ、確かに」


 前回も今回も、オークション絡みだ。

 ファルティシナは頭を掻いた。


 「仕方がない……一人で行ってくるよ」

 「行ってらっしゃい……でも、その場で決断はしないでくださいよ? 一度帰って……絶対に、絶対に私と相談してください!」


 もしファルティシナがとてつもない借金をしてまで、そんな(リリィからすると)くだらないものを買えば……

 下手をすれば破産して、主従仲良く奴隷市場に送られることになるのかもしれない。


 それはシャレにならない。


 「わかってるよ……ちゃんと、相談する」

 「お願い、ですからね?」


 ファルティシナは頷いた。






 「……というわけで、『空飛ぶ靴』がどうしても欲しいのです。譲っていただけませんか? お金はお支払いします」


 その日、ファルティシナはデニスの屋敷を訪れ、デニスに頭を下げた。

 デニスはファルティシナの美しい金髪を見ろしながら考えていた。


 (……まあ、あんなくだらないもの、くれてやるのは構わないが)


 無論、タダでやるわけにはいかない。


 「当然、ワシが支払った額以上の額は払ってくれるのだな?」

 「……はい。今はありませんが、必ず揃えます」

 「ならダメだ」


 デニスの言葉に、ファルティシナは目を見開いた。


 「ど、どうして?」

 「今すぐ支払って貰わなければならん」

 「そんな……」


 そう簡単に集まる金額ではない。

 最低でもひと月は時間が欲しい。


 ファルティシナはそう頼んだが、デニスは聞き入れてくれなかった。


 (こいつ、ケチだな)


 ファルティシナは内心で毒づいた。


 「だが……どうしてもと言うならば、考えてやらないこともない」

 「ど、どうすれば良いんですか!?」


 ファルティシナが尋ねると、デニスは指を三本立てた。


 「一つ……貴様が提示した落札額の最高金額。それと同額をワシに支払うこと」

 「……分かりました」


 実は酒場で浪費したことで少し減ってはいるが……

 それに関しては最悪、借金で補えば良い。


 「二つ、貴様の持っているエルフの娘をワシに譲ること」

 「っ……!!」


 つまりリリィの所有権をデニスに与える、ということだ。

 それはリリィを裏切る行為である。

 

 そんな条件、飲めるはずもなかった。

 ファルティシナがそう言おうとする前にデニスは三つ目の条件を口にした。


 「三つ、ワシの愛人になれ」

 「はぁ?」


 思わずファルティシナの口からそんな声が出た。

 困惑と呆れ、怒り、屈辱……様々な感情がそれには込められていた。


 (……全く、下半身に脳みそがあるんじゃないの?)


 ファルティシナは内心で呆れながらそう思った。

 デニスはファルティシナが呆れているのに気付かず、ゆっくりと近づく。


 「ワシの愛人になれば……贅沢をさせてやるぞ? 冒険者になんぞ、なる必要もない」


 ねっとりとした視線で、ファルティシナの胸部や下腹部、そしてすらっとした太ももを見た。

 そして手を伸ばし、ファルティシナの美しい、赤みを帯びた金髪に触れようとする。


 だが……


 「お断りします」


 ファルティシナはその手を弾いた。

 そしてファルティシナはデニスを睨みながら言った。


 「私の体はお前ごときにくれてやるほど、安くはない」


 それは一国の王族の末裔として。

 聖女としてのプライドが、ファルティシナにはあった。


 ファルティシナに拒絶されたデニスは、屈辱で顔を真っ赤にした。


 「どこまでをワシをコケにしおって! 出ていけ、このくそ女!!」

 「言われなくとも、出ていきますよ」


 ファルティシナは踵を返して、屋敷を出て行った。

 一人、残されたデニスに……悪魔が囁いた。


 「なあ……言っただろ? あの女をモノにするには……俺の言うとおりにしろ」 

 「……お前の言う通りにすれば、本当にあの女を手に入れられるのか?」 

 「ああ……それどころか……」


 悪魔は笑った。


 「お前は巨万の富を得られるだろう」

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