第11話 預言者ちゃんは家宝を取り戻す
ファルティシナの肉体に宿る、■■■■■川の水。
その水の加護がファルティシナにもたらしている加護は、以下の通りである。
・鋼のごとき、強靭な肉体。
・毒物に対する、強い耐性
・魔術・呪術に対する、強い耐性
・即死に至らなかった傷を再生させる、強い治癒力
・不老となる
だがしかし、この五つの加護はあくまで副産物に過ぎない。
彼女の造物主は、この程度の恩恵を与えるために、わざわざ■■■■■川の水を使ったのではない。
■■■■■川の水が彼女にもたらした、本当の加護。
彼女の造物主が彼女に与えたかった、本当の力。
それは……
・あらゆる、神による、不都合な干渉を完全に無効化する
という強力な恩恵である。
強靭な鋼のごとき肉体も、逆に言えばそれに匹敵する、またはそれ以上の金属ならば傷をつけることができる。
また傷をつけることはできずとも、ダメージそのものは必ず蓄積するし、同じ部分を攻撃し続ければ、加護を打ち破ることも可能だ。
毒物や魔術・呪術に対してもあくまで耐性に過ぎないため、ダメージは残る。
そして治癒力も、そして不老の加護も即死を防ぐことはできない。
だが……神を由来とする力、権能、神威、神性、神意に関しては別である。
ファルティシナの肉体は、そして魂は、これらを完全に無効化してしまうのだ。
そして……ヒュドーラは神竜の一種であり、獣の姿をしてはいるが、純粋な神であり、創造神の血を引いている。
その猛毒の効果の殆どは、ヒュドーラの神としての権能であり、神意としての呪いである。
そのためファルティシナには、一切通用しないのだ。
「っぐ……取り押さえろ! 支配の首輪をつけてしまえばこっちのものだ!!」
「「うおぉぉおおお!!!」」
カロロスの指示でファルティシナに襲い掛かるB級冒険者の仲間たち。
ファルティシナはため息をつく。
「……全く、愚かだな。君たちは」
剣が、槍が、弓が。
ファルティシナの体に当たり……その全てがあっさりと弾かれた。
「ただの鉄では、私の体を傷つけられない。……カロロスが持っている、その弓矢の矢じりのように特別に鍛えられた鋼か、アダマスの武器か、それとも卓越した武芸の持ち主か」
もしくは……神が振るう、神器による攻撃か。
ファルティシナの肉体は神の権能そのものを弾くことはできるが、その権能の生み出した破壊や熱エネルギーそのものは無力化できない。
ファルティシナが少し神威を解放し、周囲を威圧すると……
彼らは腰を抜かし、地面に倒れてしまった。
一斉に逃げ出すB級冒険者たち。
最後に残ったのは、カロロス一人だった。
「さて……その鎧、返してもらおうか?」
「ふ、ふざけるな! これは俺の物だ!!」
黄金の鎧を身に纏ったカロロスは、ファルティシナに向かって矢を飛ばす。
ファルティシナはそれを手で払いのける。
「使い手が下手でも、やっぱりお爺様の弓なだけあって、凄い威力だな」
ファルティシナの手の平から、血が地面に垂れ落ちる。
もっとも……それさえも、すぐに修復してしまうが。
ゆっくりと、ファルティシナは近づいていく。
「っぐ……弓が効かないなら、槍だ!」
カロロスはマントから槍を引き抜き、ファルティシナに向けて繰り出した。
ファルティシナはため息をつき、この槍を手で掴んだ。
握りしめた手から血が流れるが……気にしない。
「君には過ぎたる武器だね」
「こ、この!」
カロロスは強引に槍を振り、それをファルティシナの腹に突き刺した。
だが……
「な、っぐ、抜けない!」
「狙うなら、せめて頭を狙うんだな。私も脳が損傷すれば厳しい」
ファルティシナはそう言って槍を引き抜いた。
「この槍は没収しよう」
そう言って槍を地面に突き刺した。
「さて、どうする?」
ファルティシナは尋ねた。
するとカロロスはファルティシナに頭を下げた。
「す、すまない……で、出来心だったんだ、許してくれ! 金に目が眩んだんだ!」
「……まあ、反省しているなら許してやっても良いが」
「本当か? それはありがとう!」
そう言ってカロロスは腕を振り上げた。
その手には光り輝く、鎌が握られていた。
が、しかし鎌はファルティシナの指に挟まれて、空中で止まった。
「アダマスの鎌まで持っているとはね。これは予想外だった」
「ひ、ひぃ……」
カロロスは鎌を放り出し、後ずさりした。
「っぐ……お、お前の体は確かに強靭かもしれないが……お、俺の鎧はそれ以上に強固だ! ど、ドラゴンの攻撃でも傷一つつかないんだぞ!」
「ふむ……」
顔を青くしながらも、自信あり気に胸を張るカロロスに対し……
ファルティシナは拳を叩きつけた。
黄金の鎧と、ファルティシナの拳が衝突する。
思わずカロロスは目を瞑った。
そして鈍い音が森の中に響く。
ゆっくりと、カロロスは目を開けた。
やはり鎧には傷一つ、ついていなかった。
「ほ、ほらな! 俺の鎧は無敵なんだ!」
「さすがは『金獅子の鎧』と言ったところか。おそらく、人間の攻撃はこの鎧には一切通用しない」
神獣の毛皮を使い、作られたこの鎧は……
あらゆるものを跳ね除ける。
その防御を打ち破ることは、まず人間の攻撃では不可能である。
だが……
「これなら、どうですか?」
「何度やっても、同じ、ぐほぉ!!」
先ほどよりも、大きな音が森の中に響いた。
ファルティシナの拳は鎧を凹ませ、そしてカロロスの腹に強烈な一撃を叩きこむことに成功していた。
「お爺様と戦う可能性はいつも考えていた。そして、その鎧が私の物になった後も、私はその鎧と同じ効果を持つ敵と相対する可能性を考えていた」
ファルティシナは腹を押さえ、蹲るカロロスを見下ろす。
「その鎧が防げるのは、人の力まで。神性を纏った攻撃までは防げない。まあ……この時代、神性を攻撃に纏わせることのできる者なんて殆どいないだろうが」
神威を放ちながら、ファルティシナはカロロスに告げた。
「さあ、その鎧とヒュドーラの毒を置いていきなさい。そうすれば、今回だけは見逃そう」
「は、はい!!」
カロロスは何もかも、全ての所持品を地面に置いていき、逃げるように去っていった。
ファルティシナは鎧を拾い上げる。
軽く念じると、鎧は光の粒子となり……黄金のマントの中に溶けて、消えた。
ファルティシナは黄金のマントを羽織り、マントの中の空間に弓矢と槍、そしてヒュドーラの猛毒を仕舞う。
「確か、色は一〇八種類あったよね……」
ファルティシナが念じると……
マントの色は黄金から灰色へと変わった。
さすがのファルティシナも、黄金色のマントを常に羽織る勇気はなかった。
「カロロスは何で常に金ぴか金のままでいたんだろう……まあ、知らなかっただけかな?」
この鎧は実はマントさえ羽織れば、あとは念じるだけで鎧を着脱できる。
そしてまた、鎧やマントの色も自由に変えることができる。
ついでに加護によって、破損もすぐに修復され、そして汚れなどは自動的に洗浄されるため手入れをする必要すらない……
という具合でかなり便利なものなのだが、その辺りの機能は知らなったのだろう。
「……やっぱり、しっくりくるなぁ、このマント。さすが、神様が作っただけはある」
三千年前に処刑された時、紛失してしまった私物。
祖父の形見の品である、鎧、剣、槍、弓矢、ヒュドーラの毒を回収することができ、ファルティシナは上機嫌に笑みを浮かべた。
無敵の肉体に、無敵の防具。
そして強力な武具。
もうすでに普通の女の子からはかけ離れた存在へと、戻ってきてしまっているが……
ファルティシナはあまり気にしていなかった。
「さて……早いところ、魔物を倒して帰りますか。このマント、リリィにも自慢しよう、っと」
軽快な足取りで、ファルティシナは森の奥へと消えていった。




