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第10話 預言者ちゃんは冒険者に襲われる

 その後、カロロスは幾度もファルティシナを酒の席に誘い……

 古今東西、あらゆる毒を飲ませたが、ファルティシナには全く効かなかった。


 作戦を開始して一月。

 ファルティシナを生け捕りにするのは不可能である、という結論をカロロスは出した。


 「そいうことなので、捕獲ではなく暗殺に切り替えましょう」

 「ぐぬぬぬぬ……」


 カロロスの提案に、デニスは難しそうな顔で唸った。

 その目には情欲の色がある。


 「強引に腕づくで捕まえることは、できないか?」

 「さすがにS級冒険者を力づくで捕まえるのは……できたとしても、睡眠薬が効かないようでは難しいです」


 S級冒険者を長時間、拘束するのは不可能に近い。

 少なくとも昏睡させて無力化し、専用の檻の中に入れる必要がある。


 「仕方があるまい。これを使え」


 デニスはそう言って首輪のようなものを召使に持ってこさせた。


 「これは?」

 「支配の首輪、と言う。神代の魔術で作られた、一級品の魔道具だ。現在の技術での再現は不可能な品。これをあの女の首に嵌めさせるのだ」

 「嵌めるって……」


 それにどれだけの労力が掛かると思っているのか。

 カロロスは内心でため息をついた。


 とはいえ、方法がないわけではない。

 どのみち、暗殺もかなり難しいのだ。


 ならば、この首輪に掛けてもいいだろう。


 「分かりました……報酬の方、よろしくお願いしますね?」

 「無論だとも」


 






 さて、それから三日後。

 カロロスらはファルティシナが一人で冒険に出かけたのを確認すると、それに先回りし、準備をしていた。


 「どうやって捕まえるつもりですか? リーダー」

 「……奥の手だ。この弓と矢を使う」


 カロロスはそう言ってマントの中から、弓と矢を取り出した。

 ただの弓矢ではない。

 カロロスが神代の遺跡から鎧と共に見つけた、最強の弓矢である。


 この威力は鋼鉄の鱗を持つ、ドラゴンの頭を吹き飛ばせるほど。

 この弓矢ならば、いかにファルティシナの肉体が頑強だからと言っても、傷をつけることはできるだろう。


 「そして……この毒も使う」

 「その毒は!」


 カロロスが取り出した小瓶の中には、紫色の液体が入っていた。

 見るからに禍々しい、猛毒であることが分かる。

 

 これもただの猛毒ではない。

 カロロスが神代の遺跡から発掘した代物である。


 この猛毒の威力も実証済みである。

 たった一滴、毒を受けたドラゴンは悶え苦しみながら絶命してしまった。


 この猛毒はドラゴンの鱗をも溶かし、そして猛毒に対する強い耐性を持つはずのドラゴンを絶命させることすらできるのだ。


 「俺もいろいろ調べたのだが……この毒は、神代に実際に存在した神竜、魔竜の猛毒らしい」


 神代のことは、実はよく分かっていない。

 精々、神話が語られている程度である。

 その神話では様々な多神教の神々や、半神の大英雄が登場する。

 そんな大英雄の敵の伝説上の竜の猛毒が、この毒、『ヒュドーラの猛毒』である。

 

 「だが、神話なんて大嘘なんじゃないっすか? 司祭様が言ってました」

 「そりゃあ、司祭共は否定するだろうよ。まあ実際に神話に語られたような神様がいたとは俺も思ってねえけど」


 ファルティシナ教は造物主である父なる神と、子なる神であるファルティシナ、そして神の力そのものである聖霊を、三位一体として信仰する一神教である。


 当然、ファルティシナ降臨以前の世界に『唯一なる神』以外の神々が君臨していたなど、認めるはずもない。

 そしてまた半神の英雄が存在することも認めない。


 司祭たちは神話については、異教徒の偶像崇拝、遅れた迷信、または少々愉快な、そして不道徳的な物語であると信者たちに説明しており、そして多くの信者たちもそれを信じていた。


 「だがまるっきり嘘ってわけでもないだろ。……神話や伝説になっちまうほどの威力はあるはずだ。実際、お前らもこの毒の強さは知っているはず」

 「それは……」

 「この毒で無力化できなかったら、あの女を無力化するのは不可能だぜ」


 もっともカロロスは成功すると見込んでいた。

 それだけこの毒は、普通の毒とは段違いなのだ。


 むしろファルティシナが死んでしまう可能性を心配していた。

 死んでしまえば、生け捕りにできない。


 まあ、ファルティシナが死ねばその奴隷であるエルフは再び市場に戻るので、デニスはそれを改めて買うことができるようになる。

 

 報酬は半減するが……

 それでも報酬金は貰えるのだ。


 下手なリスクを負うよりは、確実に報酬金を貰える方法をカロロスは選択した。


 「さて、そろそろあの女が来るはず……隠れろ!」


 カロロスたちは草むらに隠れた。

 ファルティシナが姿を現したからである。


 鼻歌を歌いながら軽快な足取りで森の中を歩いている。

 この先にある、ダンジョンに向かおうとしているのだ。


 「そのキレイな頭をフッ飛ばしてやる!」


 カロロスの放った弓は弧を描き……

 ファルティシナの頭に突き刺さった。


 鮮血が吹き上がる。

 よろけて、地面に倒れた。


 「よし!」(あの矢を受けて頭が吹き飛ばないとは、ドラゴン以上の耐久度だな)


 生命力もドラゴンを超えているのかもしれない。

 カロロスはそう判断し、続いて二発、三発と矢を放つ。


 その尽くが無防備になったファルティシナの体に突き刺さった。

 合計、十本の矢が体に突き刺さる。

 

 「よし、掛かれ!!」


 カロロスの合図で、辺りの草むらに隠れていたパーティーメンバーが一斉に飛び出した。

 ファルティシナを拘束しようと近づく。


 しかし……


 「なるほど、全員か。君らと話すのは、そこそこ楽しかったから、残念だよ」


 ファルティシナはそう言って立ち上がった。

 カロロスたちの動きが止まる。


 顔面蒼白のカロロスたちの顔を見回しながら……

 ファルティシナは頭に突き刺さった矢を掴んだ。


 頭蓋骨に半分まで突き刺さった矢を引き抜く。


 「まあ距離から考えて、頭蓋骨で止まるとは思ってたが。やはり痛いものは痛いな。わざと受けたのは失敗だったかもしれない」


 さらに全身に突き刺さった矢を引き抜いていく。

 腕、足、腹、そして胸。

 体に貫通した矢を、力づくでファルティシナは引き抜く。


 そのたびに鮮血が大地を汚す。


 「そ、そんな……傷が……」


 カロロスは呆然とした表情を浮かべた。

 ファルティシナの怪我が、あっという間に修復していく。

 

 後に残るのは、矢が突き刺さったことを示す、衣服の穴だけだ。


 「でも『ヒュドーラの猛毒』まで持っているとは、思わなかった。もっとも、その毒は私には効かないが。『ヒュドーラの猛毒』ではなく、普通の毒にするべきだったな。君らがいつも私に盛っていた毒でも、傷口に摺りこまれればそれなりにダメージにはなったし、傷の再生も少しは遅らせることができただろう」


 そして最後、心臓に突き刺さっていた矢を引き抜く。

 

 「やはり君には、その鎧と弓、その他武装、そして『ヒュドーラの猛毒』は過ぎたるものだ。我が王家の家宝、我が祖父の形見の品、返してもらおうか」


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