(3)期日前投票3日目
まだ選挙期間は序盤でありながら、現場はすでに「日常業務のリズム」を形成し始めている。
大和と伍代は午前7時四45分には投票所に到着し、開所準備に取りかかっていた。
開所は午前8時30分。
それまでの45分間は、事務局にとって最も重要な準備時間である。
倉庫から投票箱を搬出し、施錠状態の確認を行う。
封印が破損していないか、前日の保管状態に異常がないかを二重でチェックする。
続いて投票用紙交付機の準備に移る。
この機械は一枚ずつ確実に投票用紙を排出するための装置であり、二枚が重なって交付してしまうという重大事故を防ぐために不可欠な存在である。
さらに交付枚数がリアルタイムで表示されるため、最終的な投票者数の管理にも直結する。
その日の天候は晴れ。
大和は過去データと気象予報を確認しながら、その日の必要枚数を判断する。
「今日は400票でいこう」
伍代はすぐに応じる。
「了解です。前回実績とほぼ同じですね」
大和はうなずく。
「足りなければ午後に追加すればいい」
この判断は経験に基づくものであり、過不足は現場の負担に直結する。
投票用紙の管理は単なる事務ではなく、選挙運営の安定性そのものを支える基盤であった。
結果として、その日の投票者数は389人。
想定値とほぼ一致する数字だった。
大和は記録を確認しながら、小さく息を吐く。
「予定通りだな」
大きな成功でも失敗でもない。
しかし、この“想定通りに収まること”こそが、選挙事務において最も重要な成果であった。
期日前投票はまだ序盤。
それでも現場はすでに、長い選挙期間のリズムの中へ静かに組み込まれ始めていた。




