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【完結】異世界に召喚されたら、同い年だった幼なじみが十五歳年上の筆頭魔導師になっていて、なぜか他人のふりをされています  作者: フトダマノミコト


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第1話 消えた幼なじみ

 湊がいなくなって、今日でちょうど一年になる。


 午後の講義が終わり、教室を出ようとしたところで、友達の美咲に腕をつかまれた。


「ねえ柚葉、今日の夜あいてる? 他大の人たちとご飯行くんだけど」


「ごめん、今日は用事があって」


「……また、あそこ行くの?」


 美咲の声が、少しだけ低くなった。

 責めているわけじゃないのは分かっている。心配してくれているのだ。


「もう一年だよ。柚葉が悪いわけじゃないんだから、そろそろ」


「うん。分かってる」


 私は笑ってそう答えた。

 上手に笑えていたかどうかは、自分でもよく分からなかった。


(分かってる。でも、やめられないんだよ)


 美咲に手を振って、私は駅とは反対の方向へ歩き出した。




 向かう先は、川沿いの土手だ。


 夕方の河川敷には、犬の散歩をする人や、ジョギングをする学生がちらほらいるだけで、一年前と何も変わらない。

 私は土手の階段に腰を下ろして、ゆっくり流れる川を眺めた。


 ここは、湊が消えた場所だった。


 黒瀬湊。

 家が隣同士で、幼稚園から大学までずっと一緒だった幼なじみ。

 口が悪くて、ぶっきらぼうで、そのくせ私が困っているときには、誰よりも先に気づいてくれる人。


 一年前のあの日も、私たちはこの土手を並んで歩いていた。


「ゆず、また弁当作りすぎただろ」


「作りすぎてないよ。湊の分だもん」


「頼んでねえし」


「でも食べるでしょ?」


「……食う」


 そんな、いつも通りのやりとりだった。

 湊が少し先を歩いて、振り返って、何か言いかけた、その瞬間。


 足元から、まぶしい光があふれた。


 見たこともない模様が地面に浮かび上がって、湊の体を包み込んで。

 私が伸ばした手は、彼の指先にほんの一瞬触れただけで、空を切った。


 光が消えたとき、そこにはもう誰もいなかった。


(夢だったら、よかったのに)


 何度そう思ったか分からない。


 警察には、何度も話した。

 光に包まれて消えた、と言うたびに、大人たちは困ったような顔をした。

 湊のおばさんは泣きながら私の手を握って、ゆずちゃんのせいじゃないからね、と言ってくれた。

 その優しさが、かえって苦しかった。


 結局、湊は「失踪」として扱われた。

 大学の友達も、最初は心配してくれたけれど、季節がひとつ変わるころには、誰も湊の名前を口にしなくなった。


 それでも、私は毎週ここに来ている。


(だって、湊は自分からいなくなったりしない)


 それだけは、誰に何を言われても信じられた。


 私はスマホを取り出して、湊とのトーク画面を開いた。

 最後のメッセージは、一年前の夜に届いたものだ。


「明日の弁当、卵焼き甘いやつで」


 その下には、既読のつかない私のメッセージがずらりと並んでいる。

 今日も、ひとつ増やした。


「今日で一年だよ。早く帰ってきて。卵焼き、ちゃんと甘いの作って待ってるから」


 送信ボタンを押すと、スマホにぶら下がった柚子のチャームが小さく揺れた。


 高校二年のとき、湊の誕生日におそろいで買ったストラップだ。

 柚子とか、お前の名前そのまんまじゃねえか、と文句を言いながら、湊はちゃんとそれを自分のスマホにつけていた。


 あのストラップも、湊と一緒に消えてしまった。


(今ごろ、どこにいるの)


 ちゃんとご飯を食べているだろうか。

 寒い思いをしていないだろうか。

 あの不器用な人は、困ったときに誰かを頼れているだろうか。


 考えても仕方のないことばかりが、頭の中をぐるぐる回る。




 日が沈みかけて、川面が茜色に染まっていく。

 そろそろ帰らなきゃ、と立ち上がった、そのときだった。


 足元が、ふわりと明るくなった。


「え……?」


 見下ろした地面に、淡い光の線が走っていく。

 円を描き、複雑な模様を刻み、まるで生き物のように広がっていく。


 一年前と、同じだった。


 怖いはずなのに、私が最初に思ったのは、まったく別のことだった。


(これ、湊のときと同じ……!)


 逃げなきゃ、という声と、行かなきゃ、という声が、頭の中でぶつかり合う。

 心臓が痛いくらいに鳴っている。


 でも、迷ったのはほんの一瞬だった。


 もし、この光の先に湊がいるのなら。

 もう一度、あの手に届くのなら。


 私はスマホを握りしめたまま、光の中で目を閉じた。


「待ってて、湊……!」


 体がふわりと浮いて、世界がひっくり返るような感覚に襲われる。

 耳の奥で、風の音とも鐘の音ともつかない響きが鳴り続けていた。


 意識が遠のく直前、誰かに呼ばれた気がした。


 懐かしい声で、私の名前を。

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