独白
そうこうするうちに、俺は何度目かの呑み会をAさんとしていた。
今日は珍しく、Aさんが深く酔っているようだ。何かあったのだろうか。俺に警戒を解いた証だとも感じた。一息、酒ではなく水を飲んで、会話に集中することにした。
「でもね、私はこう思いながら生活しているんです。いつ殺されても受け入れようって」
「それは。また、どうして……」
「私に生きる価値なんてないんです、上手いこと他人の金を回しているだけで……」
「うつ病でね、自分の人生を進めたくない気分になっていたんですよ。薬の影響でしょうかね」
Aさんは一言ずつに酒で舌を湿らす。アルコールを混ぜないと口に出せないのだろう。
俺は言葉を挟まず、頷きだけで話を促し続けることにした。
「感情の鈍化と言いますか。焦りも恐怖も全部なだらかになるんですよ、そうこうするうちに生活が立ち行かなくなって借金をして方々に迷惑をかけて。
知り合いにね、すごいお金持ちのお爺ちゃんがいたんです。もう亡くなられてしまったんですけど。
僕の持っていた高級な和彫りのペンを……その資産家のおじいちゃんが2,000万円で買ってくれたんですよ、援助として。
念書も契約書も書いてね。そのお金で色々な人から借りたお金を返して返して……それでも足りずにまだ、生きてます。
あんなに親切にしてくれたお爺ちゃんの資産をだまし取ったようなもんなんです。
でも、おじいちゃんが、あんたは生きるのが不器用なだけで死ぬべきではない、って言葉を信じて、まだ生き恥を晒しています」
Aさんは、ここで大きく頭を捻った。まるでマリオネットのような不自然な傾げ方だった。
「いや、実は、本当はもう生きたくないです」
本音だろうか、それとも、希死念慮に引かれた発言だろうか。
それでも分かることがある。
この人は張り詰めた一本の線を超えた瞬間、生きることを諦める人だと。
「今日はね、そのお爺ちゃんの家族に会ったんだ。そうして、少しばかりのお金を返してね。
でも、僕は分かってるんだ。こうやって少しの禊を続けていれば許されてしまうことを。分かって、小狡いことをやってるんだ」
そうして最後に、音もなくグラスを置いて呟いた。
「誰も、僕を叱らないんだ」




