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パン職人の弟子の弟子。スローライフの旅へ出発  作者: 櫛田こころ


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第29話 途中で参加してきた

 あんなにも美味いものが、さらに美味なるものに変化するとは楽しみで仕方がない。


 その感情が表に出ていたのか、ザイルは近衛騎士団らの稽古指南に指摘されてしまうくらい打ち込んでいた。その相手はシュートだったが。



「おっまぇ! はしゃぐのはいいが、加減をしろよ!? うちの若手ら使いもんにならないようにすんな?!」

「おー、わりぃ」

「……全然反省してねぇだろ」

「途中で抜けっから、いいだろ? 軽く運動くらい」

「……これで、軽くか?」



 息絶え絶えになっている若手の騎士や見習いも含め、大勢で打ち込んで来いの演習でザイルひとりが請け負っていただけなのに……ザイルはちっともつまらん、と一蹴する勢いで模造剣で薙ぎ払うだけだ。


 それを二回か三回したら、いくら育ち盛りの彼らとて敵わないだろう。つい先日、この国の試験でもSSランク冒険者の資格保持者になったばかりのルーキーであれ。もともとの実力が備わっている分、見習いと同じ年齢でも敵わないと判断したのはシュートだった。



「ルチャルが美味いもん作ってくれるんだぜ? 腹空かす分、体力軽く削らんと!」

「……やり過ぎは寄せ。あの子が作るもんは、たしかになんでも美味いが」

「八つ時のに合わせた甘いもんだぞ? ガイウスだけ独り占めさせねぇしな!!」

「体のいい試食係になるなよ……」

「そんくらいしか仕事ねぇし? 代わりに、ここの稽古手伝っているだろ?」

「もうちょい、加減しろ」

「へいへい」



 あの揚げたパンに砂糖をまぶしただけでも美味だったが、さらに工夫して美味しくなるパンはどんなものか。


 ガイウスの好みに合わせて、甘いものを用意するとは言っていたが仕上がりが楽しみだった。あと少しで抜けるかどうか考えていたところに、何故かガイウスが軽装姿で稽古場に現れたため……稽古は一時中断になった。


 いきなりの登場に、なんとなくだが理由くらいは予想がつく。



「少し時間が出来たからな? ザイル、相手をしてくれ」

「おいおい。俺、厨房に行く予定あったんだけど?」

「どのみち、ルチャルのパンを食すのだろう? 私と同席で構わない」

「え~?」



 勝ち負けとか関係なく、軽く運動程度に体を慣らしたいのだろう。いくら幼馴染みでも公主の彼に下手な怪我はさせられないので、全力以下の加減が難しいところだ。


 しかし、既に向こうは模造剣を持って構えていたので……仕方がないかと、ザイルも構えることにした。



「……ザイルが加減出来ないのに、一票はどうでしょう?」

「副団長、あたしも一票」

「俺も一票」

「こら!? 私が負ける前提で賭け事をするな!!」

「「「だって、こいつSSランクになってますし??」」」



 賭け事のやり取りはどうでもいいが、さっさと抜け出したいのに変わりはないので……加減しつつも、剣を手放させて逃げる寸法でいこうか。


 それくらいなら手加減はいくらでも可能だ。ガイウスといっしょに食べることが悪いわけではないのだが、あの出来立て熱々の揚げたパンを食べれる機会は自分くらいしかないので……その特権を失いたくないだけだ。


 構えを双剣を持つように変えれば、ガイウスの表情が少し険しくなったのでだいたい察してくれたのか。いかに、食事に意地汚い感情を持っていても、素直に美味いものを求めるのは子どものように見えていても構わなかったからだ。



「んじゃ、行くぜ?」

「……瞬殺は、やめてくれよ?」

「だったら、耐えろ」

「おい」



 挑発するような言動を公主に向けるなど、言語道断とか言われそうだが構わない。それくらい、多少の本気を見せないとランク保持者の威厳も何もないからだ。

次回は木曜日〜

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