20頁 初日から、☆
何が、どうして、こうなった。
「これは、僕にも予想外だった……」
『ピイィ〜』
とっても満足げな鳴き声です。そりゃ満足でしょうよ、お腹パンパンですもの。
私が目を離した隙に自ら瓶の口を咥え込み、一気飲みしたようです。瓶は試験管サイズとは言え雛と比べると結構大きいんですが……異次元胃袋ですか、そうですか。
コロリと起き上がり、見つめて来ます。何ですかね……いえ、見る間にお腹が凹んで行っているような……私の気のせ、い……いえ、何度目を擦って見直しても、元のサイズに戻っています。あれぇ?
『ピィッ!』
まさか……。
『ピイィ〜ッ!』
巣から落ちんばかりにちっさな羽をバタつかせています。落ちないように押さえますが、全く落ち着きません。……何か、デジャヴュを感じてしまうんですがね。気のせいですよね。
「次は肉が欲しいんですよね?」
ついつい問いかけてしまいますが……あ、違うんですか。しっかりとかぶりを振られてしまいました。やっぱり言葉が通じてますね。まあ、良いですよ、異種族間で意思疎通が出来るのはとても大事なことですからね。そう言うことにして置きますよ、今は。
「……蜜、ですか?」
『ピィッ!』
流石にこれ以上はお腹壊しませんかね。でも、欲しがってます……美味しかったんでしょうか。ですが、飲む前からこんなテンションでしたし……ふむ、ここは、雛の本能に従ってみましょうか。男も何も言って来ませんし、一雫でも、花一つ分でも、変わらないでしょう。
雛を手に抱き上げ、鞄を漁ります。あのまま巣に置いていては落ちそうでしたし。
蜜はあと何本かあったはずです。その分で満足してくれれば良いんですが。
並々と蜜が詰まった瓶をベッドに並べ、その隣に雛を降ろします。全部で7本と半分ですね。その後ろには先程出したままの蓮の花が鎮座しています。淡く発光していて綺麗ですが、雛と並ぶとその大きさが余計に異様に映ります。
「さて、貴方が満足出来る量かはわかりませんが、さぁどうぞ」
『ピイィッ!』
1本目……いえ、先程の1本目をカウントすると正確には2本目ですね。瓶口を嘴に近付けると、自ら咥えて逆さに持ち上げ……良い飲みっぷりです。これをさっき見ていない内にしていたわけですか。恐ろしい子です。
3本目。これもまた変わらぬ飲みっぷり。飲むと同時にお腹が膨れ上がり、間も無く戻って行く……手品か何かですか。
4本目。中休みを挟んで半分ずつ飲み干しました。ちょっと苦しくなって来た感じでしょうか。
5本目。また一気飲みです。さっきの中休みが効いたんでしょうか。
6本目。今度は三分の一ずつくらいに二回の中休みを挟みました。苦しいと言うよりは、味に飽きてきてるみたいな感じがします。
7本目。さらにペースが落ち、四回に分けて飲み干しました。……鳥ってゲップする生き物でしたっけ。すっごい音を立てて後ろに転がりました。
暫くすると漸くお腹が元に戻り、よろりと起き上がります。
最後の瓶を見つめて、俄然やる気、みたいな感じです。個人的にはその一瓶くらいお金に変えたかったんですが……小さな嘴でコツコツ瓶を突いて、次いで私を見上げて来ます。……催促ですか、そうですか。
半分しか入っていない8本目。最後は一気飲みで締めくくりました。
完売御礼です。違いますけど。
『……ピ』
何やら、しょぼくれています。自分の身体を見下ろしているようにも見えます。変化が無かったんでしょうか。
「すみませんね、瓶詰めの蜜はもうありません……貴方の後ろの花に少しなら残っているかもしれませんが、雫程度でしょう」
『……ピヨ〜ッ!!』
私の言葉で振り向く雛は花を見つけるとそれまで聞いたことが無い声を上げ、自らの足でヨタヨタながら花の中に潜り込んで行きました。完全に入り切ってしまいました。かとおもえば蓮の花の花弁が閉じて行きます。満開状態だったのに、ものの数秒で蕾に早戻りです。巻き戻し再生でも見ていたような奇妙な感覚でした。雛が潜り込んだ途端に閉じるなんて……食虫植物ならぬ食鳥植物だったとか、そんなオチですか。
そんなオチは要りません!
雛を返してくださいっ!
「……ミシャ、刀はしまって。大丈夫だよ」
「…………はい」
つい、取り乱してしまいました。刀で切り裂いたら、雛も傷付けてしまいますよね……でも、何なんでしょう。さっきの慌てようから一転、男は落ち着き払って花を見つめています。
「何を隠していたんですか」
「……君なら、最初の一本目でやめて後は薬師組合辺りに売り捌くと思ってたから」
「何を、知っているんですか」
「後で話すさ。ほら、雛が変異……いや、転生するよ」
「……テン、セイ?」
男の言葉につられて、男に向けていた視線を蓮の花に戻します。花の発光が、発光なんて言葉が生温いくらいに輝いています。眩しいくらいです。
その輝きの中で、蕾に返っていた蓮の花がゆっくりと綻び、咲いて行きます。
『ピィッ!』
完全に開き、美しく咲き誇る純白の蓮の花の中央。
鎮座していたのは、どこか得意げな色を浮かべて胸を張る、さきほどよりも少ししっかりした感じのちょっと大きくなった、白いふかふかの丸々とした雛でした。
「……サイズしか変わってないように見えますけど」
「鑑定してご覧よ」
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【星雲鷲の雛】
【星雲鷲】の雛。綿雲のようにふわふわでコロコロした姿だが、成熟すると煌めく濃紺色の美しい羽を持つ鳥となる。
これまでに星雲鷲の雛が確認されたことはなく、何を食べるのか、どう成長するのか全くもって未知である。頑張れ。
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【星雲鷲】☆
煌めく濃紺色の美しい羽を持つ鳥型魔物。翼を広げると散光星雲のような美しい模様が浮かぶ。成層圏を飛ぶことが可能で、重力と気流を利用して滑空し獲物を的確に捕らえる。別名、燃えぬ流星。生息域や生態などその存在は謎に包まれている。全ての個体に共通する使用可能魔法は風嵐・神聖のみで、他属性は個体により異なる。
唯一確定していることは、青雲鷲の幻種だと言うことのみである。
何が、どうして、こうなった。




