第二十四話 見えざるもの
人が集まれば派閥ができる。揉め事も発生する。それを解決するためにはルールが必要だ。世界が滅びる前には『法』というものがあったと言う。
ここ『インド・南エリア』のFブロックには法が無い。リーダー、及び幹部が絶対的なルールとなって罪人の烙印を押すことになっている。その罪人を拘留するために作成した牢獄があった。これは世界が滅びる前に使われていたとされる物を再現したものだ。
イズミナは、まさか牢獄に自分が入る事になるなんて夢にも思わなかった。
「本当にすみません。私のミスです。何とかあなた達だけは無事に出れるようにしますから」
「何度も謝らなくて良いんじゃよ。あんたのせいじゃない」
「でも……」
こんな状況になったにもかかわらず、彼らに大きな動揺は見られない。幹部達の決定いかんによっては命の危険すらあるというのに。
「全く、イーサンのやつめ。これが助けてやったお礼のつもりか。まあ今更そんな事を言っても仕方がないがのぅ。それよりも、さっきの話じゃが……」
「脱出ルートの事でしょうか?」
「ああ。ここを出た後じゃが、さすがに大量の兵に囲まれるのは避けたいんじゃ。あんたなら、良いルートを知っているかと思うてな」
投獄された際、イズミナはジウバを頼るつもりだった。正式な幹部である彼の権限を以ってすれば牢を開けることが出来る。もちろん、その罪は重い。独断で、且つ私情で勝手に罪人達を解放したとなると極刑に値するだろう。脱出した後は、イズミナと共にこのFブロックから追われる身となるはずだ。だがそれを被ってでも助けてくれるという確信はあった。
しかし、その案をグレイトがバッサリと切り捨てた。そんな人物が居るのなら幹部たちが既に手を打っているだろう、と。
言われてみれば全くその通りだった。ここまで思い切った事をしでかしたのだ。反対勢力はことごとく排除していると考えるべきだ。ジウバをあてにする事は考えないほうがよい。
だがグレイトは脱出方法については触れず、脱出後の話しばかりしてくる。
「ここを出る方法は未だ思い浮かびませんが、出たあとは、何とか脱出ルートはあると思います。物資の運搬やメンテナンス、その他色々と出入りの多い場所ですから。人との遭遇が少ないルートは私の頭では整理できています」
もちろん要所要所で兵士や警備員が配置されているため、丸っきりゼロではありませんが、とも付け加えた。
「よし、そのくらいなら大丈夫じゃろう。さて、夜も更けたことじゃしボチボチ始めるかの」
「え? 始めるって何を?」
「イズミナさん、ワシはあんたの事を信用しちょる。あんたもワシ等の事を信用して、ここで起こった事は一切見なかった事にしてくれ」
「え? え?」
「イブ、やってくれ。ある程度は仕方がないが、出来るだけ物音は立てんようにの」
「了解した」
戸惑うイズミナをよそに、イブが立ち上がって鉄格子に手を掛けた。何が始まるというのか。
その手は、鉄の棒を掴んだまま徐々に広がっていく。それに伴い、まるで鉄格子がプラスチック製の棒切れになってしまったかのように曲がっていく。
それは重機か何かを利用しない限り、ありえない光景だった。
とうとう耐え切れず、鉄格子は大きく曲がってしまいコンクリートから派手な音をたてて分離した。
イズミナは、目の前で起こっている出来事に驚愕した。
いや、そんなものではない。驚愕を通り超えて、もはや恐怖という領域に来ていた。
これが感染者の力?
そんなはずはない。個体差が大きくあるとしても、鉄格子はシーカーの力を持ってしてもびくともしない程度の強度があるのだ。感染どころか発症してたとしても、壊す事なんて出来るはずがない。
「大丈夫?」
カラヤが手を差し伸べてくれたが、恐怖で体がこわばり、その場から動くことすら出来なかった。彼女の肩に捕まり何とか立ち上がったが、ただ必死に、当初思い描いていた脱出ルートを震える手で指し示すだけで精一杯の自分が居た。
途中に居る兵士や警備員も、直哉とイブがいとも簡単に気絶させていた。まさに声を上げる間もなく。鍵が掛けられた鉄製の扉を破壊して強引に押し破る姿を見て、イズミナはようやく本当に理解することができた。この少人数でインドを旅してこれたのは、運が良かったとか射撃の腕が良いとかというレベルではないという事を。
「ここを進めばブロックの外に出ることができます」
ようやく落ち着きを取り戻し、地に足が着くようになった。気がつけばもう、ほとんど脱出ルートの終わり近くだった。
「このまま出る訳には行かんぞい。車が必要じゃ」
彼等が乗っていた車の事を言ってるのだろう。しかし、あの車は幹部達によって厳重に保管されているはずだ。この状況で取りに行くのは不可能に近い。
「ごめんなさい。あれはちょっと……」
「キャンピングカーではないぞ。あんたがさっき言ってた少人数の移動用に使う車じゃ。そこなら比較的警備が薄いという事じゃったな?」
「あ、はい。そうですね。それなら何とか。でも車に乗ると、ブロックの外に出るのが更に難しくなりますが……」
「そうじゃな。そこはもう、強行突破しかないぞい」
警備員が一人、出口付近で椅子に座って退屈そうに欠伸をしているのが見える。当然、出口はシーカーが入って来ないよう扉で塞がれている。
「イブ、どうじゃ? いけそうかの」
「扉の材質は鉄製。高さは二メートル七十二センチ、厚さ推定二十センチメートル。短時間での破壊は困難だ」
「なんと、思ったより頑丈じゃな」
「ただし鍵はかんぬきだ。特に問題なく破壊出来るだろう」
「おお、それは良かった。では行くかの」
そう言うとグレイトはアクセルを踏み込んだ。こんな夜中に移動用の車が向かって来たことに対し、さすがに警備員も警戒したようだ。銃を構えながらこちらの様子を伺っている。
イブが車から降りて警備員の下へと向かう。
怪しそうな風貌であれば躊躇無く威嚇射撃が行われただろう。しかし、車から降りたのが若い女性だったためだろうか、明らかに彼は戸惑っていた。その隙にイブが腹部に拳を叩き込んだ。
運悪くその衝撃で警備員の指が引き金を引いてしまい、銃声が響き渡る。
「急ぐんじゃ」
イブが扉のかんぬきを破壊し、押し開けると直ぐに車をブロックの外に動かした。そして、なんと扉を再度閉めるところまでやってしまった。
おそらく空けたままではシーカーの進入を許してしまうから、という事だろう。この状況でちゃんとFブロックの住民の事まで配慮する彼等の余力にイズミナは心底驚いた。
「すみません」
イズミナは、もう何度目になるか分からない謝罪の言葉を発した。
キャンピングカーを取り戻せなかった事を謝ったのだ。
「気にしなくて良いんじゃよ。本当に。それにの、車もいずれ返してもらうつもりじゃからの」
「え、ええ。分かっています。私が必ず幹部達の横暴を止めて見せます」
ほぼ不可能な事は分かっていた。既に反逆者という烙印を押されたイズミナが何とか出来る問題ではない。しかし、この場ではそう言うしかなかったのだ。
「いやいや、あんたに何とかしろと言っとるんじゃないぞ。ワシ等でちゃんと取り返すわい」
「また取りに戻って来るのですか?」
「ああそうじゃよ。イズミナさん、一般住民が住んでいる居住区へ直接入る方法は無いかの? ほとぼりが冷めるまで、まずは隠れるんじゃ」
無理に車で逃走したのは、連中に遠くに逃げたと思わせるためだとグレイトは言った。そう思わせておいて暫くの間Fブロックに潜み、時期を見て車を取り返すつもりのようだ。確かに食料も無ければ銃弾もない。車だって、まだ輸送車のほうが遥かにマシな強度だ。このままでは確実に飢えるかシーカーの餌食になるかどちらかだろう。
「不可能ではありませんが、どの入り口も厳重に警戒されています。それに、通過できたとしても感染チェックを受けなければなりません」
「抜け道のようなものは無いと?」
「ええ」
昔、そういったルートが存在した時期はあった。リーダーが許可したものではなく、住民達が勝手に作成したものだ。主に、賄賂を得る目的で。
その結果、感染者が入り込んでブロック内部で発症し、壊滅の危険に晒されたことが何度かあったのだ。それ以降リーダー主導のもと、抜け道は完全に排除された。
いや、あくまで把握できている範囲では。
「仕方がないのう。では無理にでも入り口を作るしかないな……」
その言葉の意味が分かったのは、実際に作業が開始されてからの事だった。
一度、逃走及びカモフラージュのために数キロメートル離れた場所に車を隠し、そこで朝になるのを待った。
そして再びFブロックに戻り、防壁の外側で作業を開始したのだ。
「この辺りが住居エリアから一番離れている場所じゃな?」
「ええ、そうです。おそらく殆ど人も居ないと思います」
「結構。よし、初めてくれ」
イズミナはまたしても、正気を保っているのがつらくなってきた。なぜ、この女は素手でコンクリートの壁を壊す事が出来るのか。これは夢なのか。
それとも、素手に見えるが実は超小型の掘削機でも使って居るのか。
そんな機械は見たことも聞いたこともないし、そもそも明らかに壁を殴っている。掘削しているのではない。
「彼女は一体……」
そう問いかけようとして、途中で口をつぐんだ。聞いてくれるなと最初に釘を刺されていたのだった。だが、聞くなというほうが無理である。
一人分が通過することのできるスペースが空くと、順にブロックの中に進入する。ここで人に出くわしたら面倒な事になるため、あらかじめ人の住んでいない場所を選んだのだと分かった。そこには、既に持ち主が居なくなって久しいと思われる崩れ掛けた家が数軒、存在するだけだった。
イブがその中の一軒から巨大な廃材の塊を持ってきて、たった今作られた抜け道を塞いだ。どう見ても数百キログラム程はありそうな塊だったが、まるでゴム風船でも運んでいるような感じである。イズミナはもう、これ以上驚きようがなかった。
◆
イーサンは目の前の男に殴りかかりたい衝動をぐっとこらえていた。
「おい! 一体何て事をしてくれたんだ。確かに感染者だとは言ったが牢に入れろとは言ってないぞ! すぐに開放するんだ」
あいつらは、牢に入れたぐらいではくたばらない。断言できる。そして、脱出したなら真っ先に裏切り者であるイーサンに対して報復に来るはずだ。オレのせいではないと伝えなければいけない。
牢はどこにあるんだ? と幹部の男を問い詰めた。
だが、男は微動だにしない。
まさか……。
イーサンの体内警報機が作動した。
こいつはオレを排除するつもりだ。すぐに逃げなければならない。
断じて目の前の男に恐怖した訳ではない。イーサンがその気になれば、ほんの一瞬で組み伏せる事は可能だろう。それが、この世界を体一本で生き抜いてきた自分の唯一の強みでもある。
恐怖したのは、相手の男ではなく、このFブロックという組織に対してだ。
幹部の一人や二人を倒したところでFブロックはびくともしないだろう。逆にイーサンの立場が悪くなるだけである。今、この場で逆らうのは止めておいた方がよい。
「情報提供に対する謝礼はする。この軍の施設内で生活する事を許可しよう。食料その他には困らんぞ」
男はそう言ってバッジのような物を投げて寄こした。
おそらくこの施設内に立ち入るための許可証のようなものだろう。これを渡して油断させておいてから始末するつもりなのか。
これ以上の長居は危険だ。今はこの場所から逃げ出す事を優先せねばなるまい。
「へ、へへ……。こいつは有難く頂いとくぜ。それに良く考えたらオレは奴らとは何の関係も無い人間だった。あんたらにしゃべった事も、もう綺麗さっぱり忘れちまったよ。じゃあな」
◆
Fブロックの幹部達は困惑していた。
間違いなく、この中に裏切り者が存在するのだ。イズミナの元側近であるジウバはあらかじめ手を打っておいたため、牢に手出しはできないはず。その他にも、イズミナ側に付く可能性のある者の動向は全て把握しているつもりだったのだ。
「一体だれが?」
「分からん。だが、牢獄を破壊するにはそれなりの設備が必要だ。簡単ではないぞ」
「貴様、まさか俺を疑っているのではないだろうな?」
「お前こそ言葉にとげがあるぞ」
しばらくの間成り行きを眺めていたザビエルは、やがて力強く机を叩いた。その衝撃は物理的には大した事は無い。だがその物音で、激しく言い合いをしていた幹部たちが一斉に注目した。それは新しいリーダー争いに勝利した男の持つ権力が、いかに大きいかを物語っているようだった。
「よさぬか。今ここで争っても埒があかぬ。それよりも、これからどうするかだ。まずは速やかにリーダー交代の手はずを進めるのだ。正式に私がリーダーにならなければ、いつどこでイズミナに巻き返されるとも限らん」
「そのとおりだ、ザビエル。だがしかし、この問題を放っておくのも問題だぞ。新体制が磐石なものでなければ」
確かに裏切り者が潜むまま、ブロックの運営は危険だ。その人物が特定できているなら別なのだが。だが本当に、この中に裏切り者が居るのだろうか。Fブロックのリーダー争いをするなかで、ザビエルの反対勢力があるのは確かだ。そして、その人間達のなかには、まだリーダーの座を諦め切れていない連中も居ることだろう。
しかし、イズミナを脱獄させる事に何かメリットがあるのだろうか。リスクしか存在しないように思われる。今ここで、この問題に時間を割くのはあまり有効ではないだろう。何はともあれ、正式にリーダーに就任することが重要だ。
「失礼します」
幹部会に割り込んできたのは、ザビエルが新たに側近として迎え入れた男だった。まだ正式に幹部のメンバーとして就任していないため、幹部会には出席させず、別の仕事を依頼しておいた。
おそらくその報告だろう。
「ザビエル様、例のイーサンという男の件ですが……」
「ああ、どんな様子だ?」
「申し訳ございません。逃げられてしまいました」
「なんだと?」
「居住区に逃げ込んだ模様です」
既に用済みの男だ。放っておいても害は無い。
だが、あの男の仲間をアンカトレアの差し金だと祭り上げている以上、余計な話を広められては困る。それとなく監視し、場合によっては口封じを行うよう指示していたのだ。
「それは厄介だな」
「ええ。居住区だと派手な捜索ができないですからね」
厄介というのは、そういう意味ではない。
施設内での生活を約束したにも関わらず、なんの保証もされない居住区へ逃げたのだ。こちらの意図を察知したと見るべきだろう。問題はどうしてバレたか、だ。
ザビエルの知っている限り、イーサンという男は最近このFブロックに来たばっかりのはずだ。ここの内情や人間関係は全く知らないだろう。知人すら居ないはずだ。そんな男が自分の身の危険を察して逃げるだけの材料を手に入れることが出来たとは思えない。
これも、誰かが裏で糸を引いているのだろうか。
長い時間を掛けて、ようやく手に届くところまで来たリーダーの地位。しかしザビエルの頭の中には何だか良く分からない、もやもやとした霧のようなものが立ち込めていた。本来ならもう少し準備期間がある予定だった。計画外にもたらされたチャンス。それは感染者の来訪とイズミナのブロック外への遠征だった。もしかすると、このチャンスに乗るべきではなかったのかもしれない。
しかし、賽は投げられたのである。考えている余裕は無い。
ザビエルは速やかにリーダー就任の儀を終えると、すぐ反対勢力の排除に取り掛かった。やるからには徹底的に、である。手段は選ばなかった。
そのスピードは半端ではなかった。あるいは得体の知れない危機感がそうさせたのかも知れない。ザビエル側に立つ人間からも、強引すぎるのではないかと懸念の声が散見される程に強く体制作りを進めたのだ。その甲斐あってか、僅か一ヶ月足らずで彼の権力は確実に動かぬ物となった。
やはり憂いは不要だったのか?
もう此処まで体制が固まれば、いかにイズミナと言えども手出しは出来まい。
ザビエルの頭の中からは、イーサンというちっぽけな懸念材料の事など消えかかっていた。
そんな折に部下からの悩ましい報告が入ってきた。
「リーダー。例のイーサンという男の捜索隊からの報告なのですが……」
「ん? 奴はもう放っておけと言わなかったか」
「ええ、捜索に出していた者達に引き上げるよう伝言したところ、ちょっと気になる報告がありまして」
「見つかったのか?」
「そうではありません。おそらく間違いだと思うのですが、イズミナ様……い、いえ、イズミナらしき人物を発見したとの事なのです」
ザビエルは、その報告に眉をしかめた。
確かに部下の言う通り、普通に考えれば間違いである可能性が高い。牢から脱獄し、門番を殴り倒してFブロックを車で脱出した事の確認は取れている。せっかく脱出したのに戻って来るというのは考えにくいのだ。
その一方で、イズミナが復帰のために何らかの画策を行う可能性がゼロでは無いとも思っていた。
この一ヶ月でザビエルの体制は磐石な物になった。例え気付かぬ所で反乱のための準備を進めていようとも力で捻り潰すだけだ。
だが、この報告を聞いた瞬間に僅かな不安が頭をよぎったのも事実だ。思えばあれだけイズミナ側の勢力を抑え込んだにも関わらず、彼女は脱獄を成し遂げたのだ。ザビエルの知らない何かが存在する事を警戒するべきなのである。
「場所はどこだ」
「はっ。スラム地区です」
なるほど。このFブロックのなかでもスラム地区は非常に軍の目が行き届きにくい場所になる。そこに潜んで力を蓄えていたのかもしれない。
ここは万に一つの可能性も潰しておく必要がある。
「念には念を入れるとしよう。凶悪犯罪者が立て篭もったという事実をでっちあげて、その付近に百名程の兵を差し向けるのだ」
「ひゃ、百でありますか?」
「そうだ。もし本当にイズミナが潜んでいるのなら、徹底的にやらねばならん。忘れたのか、彼女はあの状況で脱獄して見せたのだぞ。更に、方法は分からんがこのFブロックに再度侵入したとなると、相当の何かがあると見て間違いない」
「は、ははっ。直ちに手配いたします」
多少大げさだったか?
ザビエルは指示を下してから自分に問いただした。
だが先ほど自分でも言い放った通り、一度ブロック外に脱出し、そして戻ったとなるとその手段は謎に包まれている。脱出したと見せかけて内部に潜んでいた可能性もあるが、牢獄があった軍のエリアから居住区に入るにも厳重なチェックが必要となる。
同様にブロックの外部から居住区に入るにも容易ではない。
以前、完全に排除したとされる抜け道が未だ存在したのだろうか。それをイズミナが一つ、あるいはそれ以上密かに確保していたのかもしれない。
どちらにしても厄介だ。抜け道があるのなら一人では管理できまい。現在でもまだイズミナに加担する勢力が残されているという事だ。
誤報、それが最善の報告だった。それを願う自分に対し、何を恐れているのだ?と鞭を打った。神に祈るのは愚か者のやる事だ。今までは全て、自分の力でのし上がって来たではないか。今更、何を神に頼むと言うのだ。ばかばかしい。
「ザビエル様、申し訳ございません。逃げられてしまいました」
翌日、イズミナ確保に向かった部隊長からの帰還報告は最悪だった。
これだけの兵を差し向けて逃げられるとは何たる様だ。思わず持っていたコップを壁に投げつけた。
そんな姿に少し戸惑いながらも部隊長は報告を続ける。
「なお、大半の兵士は負傷し身動きが取れません。ただいま回収作業を行っております」
「なんだと?一体何が起こったのだ」
「はっ。我々は潜伏している建物を取り囲み、号令とともに一気になだれ込みました。事前に中の様子を確認した限りでは、イズミナ他四名しか存在しないことが確認できていたからです」
「しかし実際には、他にも存在したと?」
「いえ、確認したとおりイズミナ他四名のみでした」
ザビエルは部隊長を睨み付けた。
では何故、このような事態になったのだ?と。
ダイナマイトでも投げられたか。それとも他に強力な武器でもあったのか。
部隊長は、その問いに全て首を横に振り、言った。
「共にいた一人の女に全員殴り倒されてしまいました」




