第十八話 四流村
盗賊集団は、簡単に説き伏せることができた。
逆にウォルツォーネに新たなボスになってくれと頼まれたくらいだ。
もちろん断った。
が、もともとはボスの残虐なやり方に不満を持つものが多かったらしい。新たにボスになってくれるのであれば、全面的に従うとまで譲歩された。
幸いにも先の戦闘で、ボスの側にいた人間は殆ど殲滅されたらしい。
まあ再度襲撃されたときに助けて欲しい、という理由もあるだろうが。
「わかった。検討しよう。しかしまずは、補給を受けさせてくれ。この数日の間、我々はまともに食事もとれていないのだ」
ここにあるものは、おそらく略奪等であつめられた物資なのだろう。多少の罪悪感にかられるものの兵士達の命に替えるほどのものではない。
ようやくまともな食事にありつけて兵士達は安堵の表情をしている。
兵士達にも、この集落の人間がどういう種類の者達かは伝わっていた。しかし、食事をとりながら住民達と触れ合う光景を見るとまんざらでも無さそうだった。根は悪人では無いということか。どうやら、ボスのやり方に皆不満を抱いていたという話は本当だったようだ。
そして案外、好都合だったのかもしれない。
もともとは此処にブロックを築く予定だったのだ。
ウォルツォーネは住民達の提案を受けることにした。
ただし今後一切、略奪の類はしない事を条件に、だ。
翌日から早速ブロックの建築が始まった。
といっても既に住居は存在するため、主にバリケードの構築作業となる。今のままであれば、例のアンカトレアからのシーカーがほんの少しでも流れてくればたちまち壊滅してしまう。
あれだけの大量のシーカーから守るためには何が必要か?
圧倒的な火力だろうか?
Bブロックの重火器ですら、防ぎきる事ができなかったのだ。火力だけでは困難だろう。
では頑丈な防御壁ではどうか。
屍の山を足がかりにして、マドゥの巨大な城壁を乗り越えてこられたときの情景を思い出し、首を横に振った。
良い案が思いつかない。
当面は見張りの強化と、すばやく撤退するための準備を整えることに注力するしかなさそうだ。
他にも懸念材料はある。
例の三人組の事だ。再度襲撃にくる可能性はあるだろうか?
住民達も、襲われたのは初めての事だと言っていた。
「北にあるブロックには随分と略奪を働いたからねぇ。そこからの復讐かもね」
キャスはあっけらかんと答えた。
彼女も生き残った住民のうちの一人だ。というより気絶していたので襲われた現場には居なかっただけなのだが。
「ほう、近くにブロックがあるのか」
「近いといっても数十キロはあるんだけどね。行くときは何日も前から計画を練って本格的にやるんだよ。ボスは頭だけは良かったからねぇ。ホント、気持ち悪いくらい……。ま、顔はもっと気持ち悪いんだけど」
「なるほど。そこに寄生して生きて来た訳だな」
「だね。まぁ他にも沢山客はいたんだけど、一番のお得意様なのは確かだよ」
ウォルツォーネは少し嫌味がかった言い方をしたが、キャスはまったく意に介してないようだった。
「これからは、まともに働いて生活するんだな」
「わかってるよ。アタイもまだ死にたくないからね。アンタのほうが断然面もいいし、言うことはちゃあんときくよ」
なかなか良く分からない女である。
しかし、ここに着いたときに応対してもらった人物だから、これも何かの縁だろう。ついでに色々と働いてもらう事にする。
「では早速だが、そのブロックへ案内してくれるか」
「アタイが?」
「そうだ。例の三人組に何としても会いたいのだ」
「道はわかるけど正面から乗り込んだことは無いよ」
「誰が乗り込むと言った。正々堂々と訪問するのだ」
当然今までのことは詫びるんだ、と言うと途端に行かないと言い出したので無理矢理引っ張っていくことにした。
ルービックも連れて行きたいところだが、ここの守りに必要だ。置いて行ったほうが良いだろう。
暴れるキャスを肩に抱えて車に詰め込んだ。
「あ、あんた、人使いの悪さは前のボス以上だよホント……」
世迷言は無視して北のブロックに向かう。
「心配するなキャスティン。謝っても命を狙って来るようなら私が守ってやる」
本名はキャスティンと言うらしい。とことん心配する彼女の気持ちを少しは和らげてやることにする。
「……わかったよ、ボス」
「ボスではない。リーダーだ」
一時間余り車を走らせると、小さな山が見えてきた。山には木々が生い茂っている。
「ほう、こんな砂漠地帯に森林があるとは珍しいな。近くに川も流れているし、なかなか良い土地のようだ」
「ボスも、いつかはあの場所を奪ってやるとか言ってたよ。きっとえげつない計画を練ってたんだろうねぇ」
森林があるなら、動物も居るはずだ。水と食料には困ることは無いだろう。
「これだけ豊かであれば、人も増える分、シーカーが集まりそうなんだがな」
「そうだよ。アタイらの略奪よりもシーカー被害のほうが深刻らしいね」
その言葉どおり、急激にシーカーの数が増えてきた。キャスは慣れたもので、スピードを保ったままハンドルを左右に切って避けながら車を進めていく。森林の中に入り、しばらく進むと門のような場所に辿り着いた。ここが入り口らしい。
見通しの悪い場所に入り口を作るのは、果たして良い方法なのだろうか。奴等は何をもって人間を検知しているのか未だに謎だとされている。しかし、少なくとも視覚がある事は周知の事実だった。人間が目に入ったら、間違いなく追いかけてくる。
そう言った意味で、入り組んだ場所に入り口を作るのは得策なのかもしれない。
「失礼する。私は四流村で新たにリーダーに就任したウォルツォーネと言う。貴ブロックのリーダーにお目通り願いたい」
盗賊達の集落は、この辺りでは四流村と呼ばれているらしかった。
「ちょ、ちょっと! そんな正面きって言えば殺されるじゃない」
キャスがウォルツォーネの腕をとって逃げようとする。
「心配するな。これだけ立派なブロックだ。いかに門番といえど勝手な行動は慎むだろう」
「……もう、その余裕はどこから出てくるのよ」
暫くの間待っていると、壁の上部にある小さい窓のような場所から男が顔を出してきた。
「四流村の人間が何の用だ?」
あきらかに不快感が染み出ている。
「リーダーと話がしたい」
「は?そんなこと出来るわけなかろう。用件ならここで言うんだな」
「伝わっているのかどうか知らないが、前のボスは死亡した。もう今までの四流村では無いのだ。そして我々は心を入れ替えた。これからは貴ブロックと協力、共存していきたい」
「ふざけるな。我々を馬鹿にしているのか」
男は小窓から顔をひっこめてしまった。
「ひどい避けられようだな。今までどれだけ悪事を働いてきたんだ」
「アタイの知ったこっちゃないね。全部ボスがやったことだよ」
今までの話を聞くかぎりは、そう簡単に修復できる関係ではないことは十分承知していた。今日のところは誠意を見せることができれば良いだろう。この場所で一時間ほど待機して、ダメなら一旦引き返す事にしよう。
「何してんのさ?」
「座り込みだ。お前も座れ」
嫌がるキャスの腕を掴んで強引に座らせようと奮闘していると、なんと扉が開いた。もしかして受け入れてもらえたのだろうか。
扉の向こうから一人の人間が歩いてくる。
あの女だ。
四流村を襲った二人を連れ戻しに来た女だった。
その表情からは、何も読み取れない。
この女も同類なのか? それとも普通の人間なのか?
ウォルツォーネは思わず立ち上がり、武器を取って身構えた。
あらためて見ると、不気味すぎる。表情というものが一切ないのだ。まるでお面を被っているようだった。年齢もよく分からないが、おそらく二十歳前後だろう。ルービックと同じように茶褐色の髪の毛を短く切って整えており、目と肌の色を見る限りは欧米系の人種だと思われる。
殺意も何も感じられない。
しかし、友好的な展開になりそうではなかった。
「キャス、離れていろ。周りから来るシーカーに応対してくれるだけでいい。決してこの女には手をだすな」
その言葉が合図となって、仮面女が殴りかかってきた。
「待ってくれ。私達は話し合いに来たんだ」
そう叫んだが、全く聞き入れてくれないようだ。
戦うしかない。
十分に腰を落とし、両手でしっかりと武器を握ったまま女の攻撃を受け止める。
「ふんっ」
ずっしりと重たい攻撃だった。やはり、あの二人と同類だ。
これだけ完璧な体制で受けたにもかかわらず、軽く手がしびれている。しかし、一度予習済みなので何とかふっとばされる事なく踏ん張る事ができた。
次はこちらの番だ。
「どりゃぁぁ!」
ウォルツォーネは両手で渾身の一撃を放った。
これだけ力をこめれば、人間はおろかシーカーであっても木っ端微塵になるはずだ。それくらい、ウォルツォーネのパワーは抜きん出ているのだ。
あの時と同じように、巨大な岩を叩いたような感覚が襲う。
しかし今度は違う。最初からそのつもりで力いっぱい殴りつけたのだ。相手が岩だったら本当に砕けただろう。さすがに今度は女の方が力負けした。
一メートルくらい後方に飛ばされたあと、女は静かに立ち上がった。表情は全く変わっていない。ダメージを受けた様子もなかった。
フルパワーの打撃でもこれか……。まったく、なんという体なのだ。
何事もなかったように、二人は対峙する。
また女が攻撃態勢に入った。
あの攻撃は、そうそう何度も受けることはできない。ブロックしても確実にダメージが体に蓄積されるからだ。屈辱的ではあるが、上手く衝撃を殺しながら受け流すしかなさそうだった。
受け流しながら、何度も攻撃を叩き込む。
女もこちらのパワーを理解したのか、正面から受け止めることはしなかった。
これでは消耗戦だ。
例えここで女を防ぎきったとしても、あと二人控えていることは確かだ。更に居るのかもしれない。 それどころか、こちらの体力が徐々に奪われていくのに対して、相手は全くもって衰える気配がない。そろそろ攻撃を受け流すことすら厳しくなってきた。
やはり勝てないのか……。
そう考えた時だった。
「そこまでだ。ゼロ、攻撃を止めなさい」
ブロック内から数人が姿を現した。
老人が一人と、例の村を襲った男女だった。まだ体のあちこちに銃弾を受けたときの傷が残っていたが、気のせいか治りかけているように見受けられた。
「お前は誰だ?」
老人が問うてくるが、それはこっちのセリフだと言いたかった。
問答無用で攻撃を仕掛けられ、あげくの果てに誰だとはあまりに失礼だろう。
「新たに四流村のリーダーとなった者だ。貴ブロックとの話し合いに来た」
そう応えると老人は少し眉をひそめた。
「質問が悪かったようだ。お前は人間なのか?」
「に、人間か、だと? 愚弄するにも程があるぞ」
今までも人間を超越していると言われた事はあった。
闘神と呼ばれていたからだ。神なのか?という問いなら気分を害することは無かっただろう。しかし今の言い方だとシーカーなのかと疑われているような気がして無性に腹が立った。
と同時に自分も彼女らの事をシーカーだと言ってしまっていた事を思い出し、少しだけ反省した。
「失礼した。いや、決してシーカーと言っているわけではない。まさかゼロと互角に渡り合えるような生身の人間が居るとは思わなかったものでな」
そう言って老人は親指で女を指差した。この女の名前はゼロと言うらしい。
「いや、いいんだ。私も最初は彼女達のことをシーカーだと思ってしまった。謝ろう」
その後、ウォルツォーネ達は無事にブロックの中に迎えられた。
もちろん本当の内部ではなく、隔離部屋のような場所ではあるが。
「あらためて、私は四流村のリーダーとなったウォルツォーネだ。こいつは同じく住民のキャスティン。今までの行為に対する謝罪と、関係修復のための話し合いにきた。あなたがリーダーなのか?」
老人が向かいの席につくと、早速切り出した。
「うむ、サエキという。正式にはリーダー代理だがな。リーダーは今、遠征のために不在なのだ」
「遠征というと、戦争なのか?」
「そうではない。このブロックも住民が増えてきたので新たな土地を探しているんだ」
サエキ自身も実は最近このブロックに訪れたばかりでリーダーとの面識は無いと言った。
よそ者がいきなりリーダー代理になるというのは変だと思ったが、よく考えると自分もそうだった。もしかすると、彼女達の事も関係しているのかもしれない。あまり詮索しても仕方がないだろう。
「おそらく分かっているとは思うが、四流村を襲わせたのは私だ。あまりにも略奪や襲撃等の行為が常軌を逸してたのでな、このブロックの住民の事を思ってだ。悪く思わないでくれ」
「いや、謝るのはこちらだ。今までの行為を許してくれとは言わないが、好んで悪事を働くような連中はほとんどいなくなった。今後は乱暴な行為は絶対にしないと約束しよう」
「以前のボスが死んだと言うのは知っている。関係修復の件は少し時間をくれないか。ブロック内で相談したい」
思いのほか、スムーズに話し合いができてウォルツォーネは肩の荷が降りた。しかし、どうしても人間離れした彼女達の事が気になって仕方が無い。
サエキの横にはゼロと呼ばれた茶褐色の髪をした女が立っている。さっき闘った女だ。
相変わらず表情がない。
こうしていると、まるでサエキのボディーガードのような雰囲気だ。他の二人は見当たらないので、別の部屋にいるのだろうか。
「ところで四流村に来た二人組みだが……ああ、彼女もいたようだな」
ウォルツォーネは、ゼロに少し視線を移しながら続けた。
「非常に心強い人材のようだ。我が肉体も相当に鍛え込んでいるが、全くもって歯が立たなかった」
サエキの表情が曇った。
やはり聞いてきたか、という面倒臭そうな表情だ。
少しわざとらしい感じで間をあけたサエキは、おそらく準備していたであろう答えを読み上げるように語った。
「彼らは純粋な戦士なのだ。生まれたときから一日も欠かさず特殊な鍛錬を行い、驚異的な力を身につけておる。こんな世の中じゃ。生きていくためには、まず物理的な強さが必要になってくるからな」
「納得いかんな。もはや鍛錬というレベルではないぞ、あれは」
「ほう。彼女の攻撃を防ぎきった男の台詞とは思えんな。私も驚いたぞ。ゼロは一度に十人以上の男達を相手にしても、一瞬で排除できるのだ。その彼女が、まさかたった一人の男に手こずるとは想定外だ」
気の短いウォルツォーネはイライラしてきた。やはり、常に冷静なルービックを連れてくるべきだったかもしれない。このままだとサエキに殴りかかってしまいそうだ。
しかし隣に居る異様なボディーガードの存在が、かろうじて押し留めてくれていた。おそらく殴りかかったところで返り討ちに遭う事だろう。力の差は歴然だ。ウォルツォーネが百パーセントの力で戦っていたのに対し、彼女は余裕の動きを保っているように見えたからだ。
「……そういう事にしておこうか。今のところはな。ところで、戦士は三名だけなのか? 以前に同じような力をもった者達に出会ったことがある。美しい体でありながらも驚異的なパワーを持つ者だ」
それを聞いて明らかにサエキの顔色が変わった。
「なんだと? そ、その者達は何処に?」
これまでのポーカーフェイスから一転して驚きを隠せないでいる。いや、怯えているといったほうが適切か。
「今は何処にいるか知らないな。お互い移動中だったのでな」
何故だか分からないが使えるネタのようだ。これをエサに色々と聞きだしてやる。




