第十六話「ロゼッタ脱出!」
「ハンバーガー……」
「まだ言っているのか」
「この作戦が終わったら一緒に食いに行こう」
アレスはしっかりと死亡フラグを立てた。
「これを渡せば、城に入れるはずだ」
マリーにソフィア様への紹介状を書いて渡した。万が一のことを考えて予め渡しておいた。アレスはさらにフラグを構築した。
決行は日付が代わる深夜十二時。革命団連合軍が王宮を攻め始めた混乱を使って、ストレガ方向の門から出ることになった。
アレスはもしかすると、今生の別れかも知れないので、一人ずつ言葉を交わした。
「エルナ。お前の洗濯技術はすごかった。またマキナと仲良くしてやってくれ」
「アレスさん……」
エルナと堅い握手を交わした。エルナは少し、涙ぐんでいた。
「リリーちゃん。ハンバーガーの件はすまん。だが、ストレガには美味しい食べ物がいっぱいある。だから勘弁してくれ」
「きっとですよ。約束ですからね」
リリーとはハイタッチを交わして、約束をした。
「マリー。最初から今まで世話になった。お前がいなかったら俺達はどうなっていたのか分からない。ありがとう」
「ああ。私も出会えてよかったよ。また勝負しよう」
マリーとも握手を交わした。マリーの手は冷たかった。その手をアレスは包み込むように握りしめた。
「カール……は……特に無いな」
「無いのかよ! 俺の存在意義って……」
カールはショックを受けていた。
「みんな。テオさんのために全力を尽くそう」
◇
一方、革命団連合軍本部では演説が始まっていた。貧民街の中央広場は人で埋め尽くされ、その中心には赤いバンダナを巻いた革命団団長のエドガーがいた。
「時は来た! 我々は王家の圧政にこれ以上は耐えられない――」
皆一様にエドガーの言葉に聞き入っていた。彼のどれだけ皆に信頼されているのかが、感じられた。
「行くぞ! これが俺たちの新たなる一歩だ!」
「「おお!」」
(ニーナ……兄はお前のためにやりとげるぞ)
エドガーは妹のために心を新たにし、総勢数千人の革命団連合軍が王宮に向けて進軍を始めた。
◇
「始まったようだな。私達も行くぞ」
革命団が進軍を始めて数十分後、王宮の方向から爆発音や人の唸り声が残響のように、遠く離れているベアテの拠点にも響いてきた。
ベアテもT―01にマリーが乗車し、カールはテオを乗せた台車を、他のメンバーも各々の武器を持った。
市街に出るとこれほどの騒ぎなのに、誰一人として見かけなかった。皆関わりにあいになりたくないのだろう。
正門前もがら空きだった。恐らく全ての門番が王宮に出払っているためだ。作戦は成功したようだ。
「これなら行けそうだ。このままロゼッタを出るよ」
(やっとここから出る事ができる)
マリーは感慨深かった。楽しいこともあったが、辛いことも多かった。ご飯をくれたおじさんがいなくなってからは、テオが面倒を見てくれた。兄と慕っていたエドガーも、妹と一緒にベアテから出ていってしまってからは、マリーがリーダーとしてベアテを引っ張っていくことになった。食べるものには、いつも困っていたけれども、それも今日で終わる。
「みんな走るよ!」
「「「うん!」」」
正面突破しようとしたが、そこにどこに隠れていたのか、黒ずくめの集団がぞろぞろと出現した。
◇
なぜかヴェヒターが門の前で待ち構えていた。その数は三、四十人にも迫る。ヴェヒターの総数には足りないが、それでも多い。
「ひっひひ、待っていましたよ~。アレスうううう!」
「ヴェヒターか。なんでこんなところにいる」
「全くあの熊には参りましたよ。危うく、食べられるところでしたが、今は私のお腹の中ですよ」
「貴様! まさおを食べたのか!」
「弱いものは、強いものにねじ伏せられる。それがこの世の中ですよ。ですからあなたもここで終わりです!」
「来るよ!」
アレス達はヴェヒターと一戦を交えることになった。
◇
革命団連合軍は数十分で王宮を制圧した。王宮の門を突破してからは、何人かの王宮付きの騎士と一戦交えただけだった。
「やけに護衛が少なかったな。それにヴェヒターが見当たらなかった」
騒ぎを聞きつけた騎士もやって来なかったので、ほとんど無傷で、王の間まで来ることができた。そこで協力関係を持っていた貴族のレオンハルトに会った。
「フリードリヒ以下の大臣はアマーロに亡命しました。私はなんとかカルラ様をお守りできましたが、捕らえられずに申し訳ない」
「いや。十分だ。王女を確保できたのなら俺達の勝ちだ」
「レオンハルト。我はハンバーガーが食べたいのじゃ」
十二歳の幼い王女はのんきにそんなことを言った。事情が分かってないのだろう。エドガーがレオンハルトと視線をかわすと、困ったように苦笑していた。
「レオンハルト。ヴェヒターはどこにいった」
「ヴェヒターは事実上、解散した。グスタフ隊長とする過激派が市街に出ていったようだが、どこに行ったかは分からない」
それを聞いて直感した。ベアテ、マリー達が危ない。
「なんだと。カレン!」
カレンはすでにいなかった。
◇
その頃、アレス達は窮地に陥っていた。ヴェヒターが即席のバリケードを門の前に作り、T―01は思うように行動できなくなっていた。ストレガはもう目と鼻の先なのに、遠い。
「マリー。俺たちが囮になる。そのうちにTー01強引に突破しろ!」
「お前たちはどうなる」
「俺達はどうにでもなる。それよりもテオさんを助けるんだろ」
「アレス兄さん」
「リリーちゃん。ストレガにはまだ見ぬお肉がいっぱいあるぞ」
「本当ですか!」
「ああ。またストレガで会おう」
「すまん。アレス、この恩は必ず返す」
マリーはエルナとリリーちゃんとカールとテオを乗せた。重量オーバーだが、何とかロゼッタからマリー達が出るまでもって欲しい。
「体に穴を開けられたくないなら、そこを開けろ!」
胸に装備された機銃とミサイルを連発。それを見て、守っていたヴェヒターも慌てて避難した。バリケードが破壊され、狭いが突破口ができた。唸るようなエンジン音をT―01を出すと、一気に門を駆け抜けた。
「受け取れ! 魚肉ソーセージだ」
アレスが投げた魚肉ソーセージをエルナがキャッチした。
「また会いましょう。アレス兄さん。きっとですよー」
マリー達は無事にロゼッタを脱出した。アレスはなんとかマリーたちが無事にストレガの城までたどり着けるように祈るしか無かった。
そこにアレスとマキナが塞ぐような形で残り少なくなったヴェヒターが陣取った。
「ヒッヒヒ。お前らだけは生きてここから出られると思うなよ」
◇
マリー達は無事に脱出したが、アレスとマキナだけが取り残されていた。
「さて、どうするかな」
「アレス様。どうするおつもりですか? せっかくストレガに帰れる機会を逃して」
「俺のいや、俺達の生まれ故郷で死ぬのも悪くないかなと、それに帰ったって俺達の居場所なんて無いよ」
「私はあなたとだけは絶対に嫌ですよ」
「冷たいな……兄妹だろ」
「その件は保留になっているはずです」
「そうだったな……」
数は少なくなったがグスタフを含め、十数人はいた。多勢に無勢。さすがのアレスとマキナも疲労が増し、次第に追い詰められていった。
「きゃあ!」
グスタフがナイフがマキナの左足を捉えた。足を負傷したマキナは動けなくなった。
「ここまでか。こんなことならもっと真剣にオットーに剣を習っておくんだったな」
「諦めるのは早いのですよー。カレン見参!」
k―01に乗った。武器商人カレンが、駆けつけてくれた。ミサイルを打ってヴェヒターを威嚇した。
「早く乗って!」
「助かる」
マキナとアレスはカレンのK―01に乗り込んだ。機動力が高いK-01はあっという間にヴェヒター引き離した。
「お前の顔は覚えたからなあ。俺はあきらめないぞ!」
グスタフの捨て台詞が耳に残ったが、今や、肉眼では小さくしか見えない。
「おい。カレン。どこに行くんだ。そっちはストレガがじゃないぞ」
「私に任せて。アレスにやってほしいことがあるの」
「なんだって。よく聞こえん」
「振り落とされないでね。門を突破するよー」
固く閉じられていた門をミサイルで破壊して、アレス達はロゼッタから脱出した。
「はっははは。気持ちいいー」
「いったいどこに行くんだー。俺をストレガに帰らせてくれー!」
行き先はカレンしか知らないk-01は駆け抜けた。またアレス達は新たな場所へと行くはめになった。いつになったらストレガへと帰りつけるだろうか。