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静寂の終わりと、森の悲鳴

森の入り口に辿り着くと、多くの木々がなぎ倒されていた。剣を握る手は汗ばみ、心臓の鼓動は狂ったように打ち鳴らされ、思考が支離滅裂にかき乱される。昨日までは小さな魔物しかいなかったはずなのに、なぜこの森がこんな惨状になっているんだ。

俺は自分を落ち着かせ、深く息を吸ってから森へと足を踏み込んだ。奥へ進むにつれ、月明かりは届いているものの、道中には至る所に血が飛び散り、小さな動物たちの死骸が転がっていた。何が起きているのか理解できない。ただ警戒して剣を握りしめ、自分に言い聞かせる。「俺はもう第一の技術を使えるんだ」と。

前方から何度も激しい音が響き、手の汗が止まらない。落ち着こうとしても緊張がこみ上げる。空からは、まるでこの森を狙い撃ちにするような強風が吹き荒れていた。音の主へと歩み寄る途中、前方の草むらが揺れた。俺は斬撃の構えをとり、警戒を最大にする。だが、そこから飛び出してきたのは予想だにしない存在だった。

俺の腿ほどの高さしかない、二匹の小さな魔物。白い毛並みに、毛先だけが少し黒い。その体は血まみれだった。ノヴァの子供たちだ。

愕然とした。二匹の状態はあまりにひどい。頭からは血が流れ、足を引きずっている。俺は歩み寄り、血で濡れた毛に触れて何があったのか問いかけようとした。だが、彼らは人間の言葉がわからない魔物だ。一日中走り回ったかのように息を切らし、疲れ果てた顔で俺に近づくと、心配そうな様子で俺を遠ざけるような素振りを見せた。何が起きているのか。あまりに急な出来事に頭が混乱する。俺は彼らを抱き寄せようとした。「大丈夫だ」と伝えるように。俺自身、緊張で手は震えていたが。

その時だ。上空から光が差し込んだ。月が明るくなったのかと思うほど、それは美しかった。だが刹那、その光から轟音が響き、俺たちを直撃した。気づいた時には、抱き寄せようとした一匹の腹に大きな穴が開き、血が俺の体と頭に吹き飛んでいた。

心臓の鼓動がさらに激しくなる。目が泳ぎ、何が起きたのか分からない。呼吸が乱れ、体がガタガタと震え出す。抱きしめた子供の体には穴が開き、血が辺りにぶちまけられている。俺は震える手で、まだ生きているもう一匹を抱きしめ、空を見上げた。

「一体、何が――」

再び光が見えた。あまりに速く、気づいた時には腕の中にいた子供の頭が粉砕されていた。頭が砕ける生々しい音が耳元で響き、飛び散った血が俺の頭や髪にこびりつく。腕の中から崩れ落ちた彼らの骸を見て、俺の手は激しく震えた。胃の奥から吐き気がせり上がる。今日の夕方まで、俺たちは一緒に遊び、食事をしていたんだ。明日はエレガントな剣技を見せてやろうなんて考えていたのに。こんなにあっけなく死ぬなんて思いもしなかった。ノヴァだって強いはずなのに。

そう思った瞬間、ノヴァのことが頭をよぎった。彼女の姿を探そうと周囲を見渡すと、また月の方から強い光が放たれた。今度は俺の番だ。

「はっ……!!」

「ふざけるなっ! 僕を馬鹿にするな!」

子供たちが殺された後、今度は自分が標的にされている。獲物として扱われているような感覚に耐えられなかった。俺は剣を抜こうとしたが、光はそれよりも速く迫る。反応も回避も間に合わない。目の前の光景に絶望し、体は鉛のように重くなっていた。光が目前に迫り、もう終わりだと思ったその時。

前方の物音の主――一匹の魔物が飛び出し、魔法の障壁でその光を食い止めた。大きな体に、毛先が黒い白銀の毛並み。ノヴァだった。

ノヴァの登場に息を呑む。彼女の魔法ならこの森は安全だと思っていたのに、なぜこれほどの惨状になっているんだ。一体、敵は何者なんだ。

「ノヴァ……」

「どこに行ってたんだよ! 子供たちを守ってなかったのか!? あの子たちは逃げ回ってたんだぞ、自分一人の力で守れなかったのかよ!!」

僕はノヴァに怒りをぶつけた。なぜ子供たちを死なせたのか。なぜ守ろうとしなかったのか。

「魔法が使えるなら、子供たちのために使えよ!!」

怒りが抑えられない。元の世界では、親は未来のためにまず子供を守るものだった。魔物にそれを期待するのが間違いだったのか。結局は自分のことしか考えていない、脳みその足りない動物なのか。俺の罵声を聞き、ノヴァがこちらを振り返った。その姿に、俺は目を見開いた。

天使のように美しかった彼女の体は、血にまみれ、呼吸は絶え絶えだった。

思考が再び真っ黒に塗りつぶされる。俺が攻撃しても無傷だったあのノヴァが、こんな状態になるなんて。この森で一体何が起きているんだ。感情が入り混じる中、ノヴァに向けた言葉への罪悪感がこみ上げる。混乱する中、再び前方から光が現れた。月からの光ほどではないが、同じくらい速い。俺は構えようとしたが、それより速くノヴァが俺を庇った。彼女は魔法を出そうとしたが、魔力は歪み、形にならない。障壁のないまま、ノヴァはその光を直接その身に受けた。

ノヴァの動きに驚愕した。僕を庇うために、彼女はあんなに素早く動いた。直撃を受けたものの、体に纏っていた光の層のおかげでかすり傷で済んだようだ。だが、その層は激しく揺らぎ、今にも消えそうなほど透明になっていた。

「何を……っ」

ノヴァが僕を守ろうとしているなんて認めたくなかった。怒りが増し、僕は剣を引き抜く。ノヴァの存在のおかげで、少しだけ冷静に呼吸を整えることができた。

「僕を守る必要なんてない。自分の力で何とかできる」

ノヴァは黙って僕の言葉を聞いていた。前方から足音が近づいてくる。僕は斬撃の準備を整えた。草むらからその魔物が姿を現し、対峙した瞬間、心臓が再び跳ね上がり、手が震え出した。目の前にいるのは、僕が知っている怪物だ。鶏のような姿に翼を持ち、輝く角と長い尾を持つ。この森にきて最初に出会った、あの魔物だ。

なぜこいつがここにいるんだ。森の反対側にいたはずなのに。あいつの口元には血がこびりついていた。何かを食べている。月明かりに照らされたその口が、毛先が黒い白い毛の動物を咀嚼しているのが見えた。それが誰なのか、言うまでもなかった。

怒りが頂点に達した。自分が「井の中の蛙」であったことも、こいつが食べているものの正体も、すべてが許せなかった。僕はあいつに向かって駆け出した。だが、鶏が咆哮を上げた瞬間、その圧倒的なオーラに体がすくんだ。第一の技術を学んだはずなのに、一歩も動けない。

鶏が突進してくる。ノヴァが素早く俺を突き飛ばし、鶏と衝突した。二匹は激しくぶつかり合う。弾き飛ばされた俺は再び構え直した。苦戦するノヴァを見て、これが現実だとは信じたくなかった。思考は真っ暗だが、一つだけ確信している。このクソ鶏を殺さなければならない。ノヴァの子供たちを殺し、食べたあいつを。

そう思った瞬間、再び上空から光が放たれた。狙いはノヴァだ。俺は気づかなかったが、ノヴァはそれに気づき、戦いながら魔法で防ごうとした。だが、またしても魔法は霧散し、光が彼女の体を直撃した。

ノヴァが大きく吹き飛ばされる。

「ノヴァ!!!!」

僕は叫びながら彼女のもとへ走った。ノヴァは崩れ落ち、毛の間から大量の血が溢れ出していた。重傷だ。あのノヴァがこれほど無残に傷つくなんて。ノヴァは残された力を振り絞り、頭で僕を押し戻した。「逃げろ」と、そう言っているようだった。だが、僕のプライドがそれを許さなかった。

守られることも、仲間が狩られるのを見て逃げることも、絶対に認められない。僕は自分を奮い立たせ、肩の高さに剣を構え、鶏が来るのを待った。鶏は腹と頭に深い傷を負いながら姿を現した。口の中のものを飲み込み、まるでエネルギーを補給しているかのようだった。食っているのは、光に打たれたノヴァの子供だ。怒りで理性が吹き飛んだ。僕は無謀にも正面から突進し、一気に間合いを詰めて第一の技術を放った。

休眠打破ドマンシー・ブレイク!!!!」

剣は届いた。しかし、あいつの体を覆う光の層に阻まれ、刃は傷一つ付けられない。第一の技術は隙を突くための一撃。正面から挑み、動きを読まれている状態では通用しなかった。僕はすぐに態勢を立て直そうと下がったが、鶏は隙を与えず、強烈な蹴りを俺に見舞った。俺は木に激突した。

激痛が走り、口から血が溢れる。だが、必死に生きようとしていた子供たちの痛みに比べれば何でもない。俺は怒りに任せて無茶苦茶に斬りかかった。何度も失敗し、何度も蹴り飛ばされ、絶望の淵に叩きつけられる。ノヴァとの戦いで負傷しているはずのあいつに、俺の剣は全く通用しない。もう剣を持ち上げる力も残っていない。逃げ出したいという思いがよぎる。桜の技術を身につければ、騎士になれると思っていたのに。守るどころか、俺はただノヴァに守られるだけの「荷物」でしかなかった。

情けなさが思考を埋め尽くす。地面の砂を握りしめ、怒りとパニックと絶望に震える。強い風が吹き、月が美しく輝く中、自分の矮小さに吐き気がした。

そうして絶望していると、隣でノヴァの気配がした。彼女は何かをしようとしていた。俺に寄り添うと、彼女が纏っていた魔法の層が、俺の体へと移った。ノヴァは最後の手助けとして、俺を逃がそうと頭で押してくる。

いつも守られてばかりだ。だが、僕の身勝手さは、彼女を見捨てて逃げることを最後まで拒絶した。俺は立ち上がり、鶏に向かって再び構えた。死にかけのノヴァが何かを伝えようとしてくる。

「……逃げない。死ぬなら一緒だ」

死ぬとしても、全力で抗ってやる。俺は再び正面から第一の技術を繰り出した。鶏は動こうともせず、ただ俺を見ていた。俺は近づき、剣を振り下ろす。

休眠打破ドマンシー・ブレイク

鶏が悲鳴を上げた。予想外のことが起きた。俺の剣が、ついにその肉体を切り裂いたのだ。ほんの一瞬、桜の技術が俺の体を覆う魔法の層と共鳴した。希望の光が見えた。

鶏は激昂し、強烈なオーラを放つ。だが知ったことか。僕が考えるのは、こいつを殺すことだけだ。怒りで頭がどうにかなりそうだ。

ただ、斬る。それだけだ。


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