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「君の望み通り、異世界へ転移させよう。何か望むことはあるか?」

今回もお楽しみください

--


目が覚めた瞬間、なんか違う感覚がした。


いつもの部屋じゃない。木でできた一間の家。ベッドと机と椅子と黒板。全部ほこりまみれで、長い間誰も使ってなかったみたいだった。


ごつごつしたベッドに触れながら仰向けになる。背中が痛い。俺のいつものベッドとは全然違う。


机の上には、桜の柄が入ったピンクの分厚い本が置いてあった。なんか新品みたいにきれいだ。その隣には、まっすぐな両刃の剣。シンプルな白いデザインで、なんかこの埃っぽい部屋の雰囲気と全然合ってない。


剣を手に取ってみた。冷たいけど、手入れが行き届いてる。鞘を外すと、白くシンプルできれいな刀身。そして、わりと重い。


*いい剣だな、まあ持ち上げるのに一苦労だけど。*


重いから鞘ごとそっと置き直した。


*こうなるんだったら、もっと運動しておくべきだったな。*


外に出てみた。裸足のまま地面を踏む。周りを見渡すと、緑の草原と、家の前に立つ背の高い木しかない。


両手を広げて、きれいな空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


「異世界だ!!!!!!!!」


全力で叫んだ。これが俺の異世界生活のスタートだ。軽くストレッチして、思いっきり走り出した。新鮮な空気が肺に入ってくる。


どこを見ても、ただただ緑の草原。澄んだ空気と晴れた空。異世界に来るにはこれ以上ない日だ。


「はぁ……」


走り疲れて、家の前の大きな木の下に寝転んだ。左右を見渡す。


*しかし、誰もいないな。小さな村くらいあると思ってたけど……まあ、俺が望んだことだから文句は言えない。*


寂しいのは確かだ。でもこれは俺が望んだ。転移するとき、この世界でやりたいことを聞かれた。これがその答えのひとつ。ひとりは寂しいし怖い部分もある。それでも、たとえ辺鄙な場所でも、ここに来られたことには感謝してる。


起き上がりながら、外から木の家を眺めた。


「ughh……」


*どう見ても、誰かが放棄した廃屋だな。*


「百年以上放置されてたのに賭けてもいい。」


壁を触りながら家の外周を歩く。強く叩いたら崩れそうだ。


「夜風が吹いただけで倒れそうじゃないか。俺の希望とはいえ、さすがにひどすぎる。今夜が心配だ……」


まあ、家のことはあとで考えよう。今は、テクノロジーだらけの現代では感じられなかった空気を楽しみたい。土の匂い、草の匂い、冷たくて気持ちいい風。


異世界だとわかってても、なんか落ち着く。前の世界の喧騒とは全然違う。柔らかい風と清潔な空気が、ここに一生住んでいたいって気持ちにさせる。


澄んだ空気と爽やかな風を感じながら、また家の中へ戻った。


*ここが、俺の異世界だ。*


---


埃だらけの机の上で、桜の表紙の本を開いた。


最初に感じたのは混乱だった。言語じゃなくて、説明がわからない。


「なにこれ……古文書?意味わかんない。」


中に書かれていたのは、桜剣術の基礎から第五技までの習得方法だった。ただ、剣の振り方の表現が、俺には全然ピンとこない。


「"側面から、生まれたての王冠のように冷たく薙ぐ"……"魂をそっと異世界へ誘うピンクの雪のように"……*俺を脚本家にでもしたいのか……*」


意味不明すぎて、視線を白い剣に戻した。


*まず剣の持ち方から練習するか。*


本をいったん置いて、もう一度剣を持ち上げようとした。


「重っ!!!」


腹の高さで水平に持って、なんとかその姿勢を保とうとする。


「やば、剣ってこんなに重いの?」


限界まで持ち続けて、力が尽きて剣が床に落ちた。ガツン、と大きな音。あちこちの埃が舞い上がって、咳が止まらない。


「ふぅ……」


「まず体を鍛えないと。このままじゃ騎士なんて夢のまた夢だ。」


---


昼になって家に戻ると、机の上にパンと野菜と肉が入った袋が置いてあった。あいつが用意してくれたやつだ。


「腐りやすい食べ物ばかりじゃないか。肉なんか火を通さないとダメだろ。頭使えよ……」


仕方なく固くてまずいパンを食べて、無理やり胃に押し込む。それから丘を目指して走り出した。


「気合いだ!!!!!」


丘の上まで来たとき、肺が悲鳴を上げてた。生まれて初めてこんなに走り続けた。


前後左右を見渡すと、家から約二キロ先に川の流れが見えた。


「水、見つけた!!」


安堵感でそのまま丘の上に仰向けに倒れ込む。柔らかい風と気持ちいい陽光、気がついたら眠ってた。


気づいたら、夕日が俺の草まみれの顔を照らしてた。


「やば!!もう夕方じゃないか!!」


脱水で頭がぼーっとする。整理しよう。


*まず水……あ、バケツ忘れた。家に置いてきた。往復しないといけない。*


家に戻ってバケツを取り、また丘を走って川を目指す。


川に着いたら、とりあえず水を飲んだ。飲める。服を脱いで川に飛び込んだ。汗と埃を洗い流す。夜が近いからすぐに上がって、バケツいっぱいに水を汲んで家に向かった。


「重っ!!!!」


また「重い」だ。足がガクガクで走れない。こぼさないようにゆっくり歩くしかない。


息を切らしながら、日が完全に沈んだ頃に家に着いた。埃まみれの床にへたり込む。夜の空気が刺さるように冷たい。Tシャツとジーパンじゃ全然足りない。


*腹も減った……でも火がない。*


仕方なくまた地獄のパンを食べた。


風の音と、軋む木の音。布団の中で震えてた。さっき昼寝したから眠れない。スマホも漫画もテレビもない。厚い服もない。暗すぎて外にも出られない。


全身が筋肉痛。固いベッドのせいで背中も痛い。腹も減ってる。地獄のパンをもう一枚食べる気力もない。


眠れないから、剣を振ることにした。


重い剣を疲れた体で持ち上げて、また桜の本の指示を見る。


「側面から薙ぐ……」


両手でなんとか構えを取って、振り抜こうとした。


「ぶんっ……」


一振り目から剣の重さに引っ張られて床に転がった。


*はあ……もうだめだ。*


剣を手放して、床にへたり込む。足を投げ出してぼーっとする。


*誰も俺に頑張れって言わないんだから、楽してもいいよな……*


でも結局、体を温めないと死ぬから部屋の中をぐるぐる歩き続けた。人みたいになってる気がした。歩くたびに埃が舞い上がって鼻に入る。息苦しい。暗い中で剣を振るのも怖い。自分に当たりそうで。


こうして最初の夜は、寒さと絶望の中で過ぎていった。


---


次に気づいたときは、また朝だった。


腐りかけの木にもたれかかったまま意識を失ってたらしい。頭も足も全部が痛い。体がもう動けないって言ってる。


とりあえずベッドに戻ることにした。昼まで寝て、体力を回復させる。


昼に起きても、足はまだガクガクしてた。頭痛も消えてない。でも昨夜みたいなことが繰り返されたくないから、動くしかない。


火を起こすには薪がいる。でも遠くには歩けない。家の前に大きな木が一本あるだけ。道具もない。あるのは部屋の中の剣だけだ。


剣を持ち上げるだけで、痛みが増す。引きずるように両手で剣を木まで運んだ。


枝に向けて剣を肩の高さまで持ち上げて、叫んで振り抜いた。


「うぉおおおっ!!!」


剣が枝に当たった瞬間の衝撃が両手に走る。


「痛い、めちゃくちゃ痛い……」


膝が崩れる。泣きそうになった。


でも、もう一回。痛みを無視して渾身の力で振り抜く。何度も。何度も。


そのうち手の感覚がなくなってきた。


枝は完全には切れてなかった。でもだいぶえぐれてる。体重をかけて枝にぶら下がった。枝が折れた。俺も一緒に落ちた。太い枝が上から落ちてきて体に乗っかる。


*痛い……もう動けない。*


でも休憩してから枝をどかして、木にもたれた。


「最初から近くに村を望んでおくべきだったな……」


風の音だけが聞こえる。


「訓練以前に、生きるだけでこんなにきつい。」


でもやるしかない。ゆっくり立ち上がって、枝を薪になるサイズに割る作業に入った。


太い枝をさらに剣で割る。枝を立てて、思いっきり振り下ろす。最初のインパクトで少し割れ目が入った。そこに剣を差し込んで、あとは素手で引き裂いた。


木の繊維が手のひらに食い込む。叫びながら引き裂く。


ようやく二つになった。もう一回割って、四枚にした。これなら火が起こせるか。


少し休憩しながら考えた。石と石を打ち合わせて火花を出す方法、確か前の世界でサバイバル系の情報で見たことがある。


足をひきずりながら川まで歩いた。バケツはいらない、石だけ取って帰る。川の中に入ったとき、冷水が傷に染みる。握りこぶしサイズの石を二個拾って帰った。


焚き火台を作って、石を打ち合わせる。傷ついた手で繰り返す。痛い。筋肉がない。でも続ける。


三十分以上やって、やっと火花が木の繊維に入った。息を吹きかける。火が消えないように。


小さな火が生まれた。


薪を一本ずつ重ねていくと、安定した炎になった。


日が傾きかけた夕方、俺は家の前で自分で作った焚き火に当たっていた。炎が揺れて、体が温かくなって、全部の苦労を忘れさせてくれた。


泣きそうだった。


ほっとしたら、全部一気に押し寄せてきた。不安、絶望、疲労、手の痛み。


*異世界って、漫画みたいには甘くないな。*


家の中から肉と野菜とパンを持ってきて、焚き火で焼いた。初めて料理というものをした。生き延びたことのお祝いだ。


固い肉。味付けなしの野菜。相変わらず美味しくないパン。でも全部、胃に入れた。


痛みと、新しい体験でいっぱいの二日目の夜。


*騎士への道はまだ遠い。でも、これが俺の最初の一歩だ。*


俺は部屋に戻ってベッドに倒れ込んだ。



読んでくれてありがとうございます。次回もよろしくお願いします。

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