344-『The END?』
タイトルはオマージュです
“歪夢”から“夢猫”へ。
新世代以降、もう現れることはないと思われていた……新たな魔法少女の、誕生。
ナハトニャートの新生を、尊び、祝する。
彼女の死、そして復活を感じ取った魔法少女によって、宙に伝わる。
「チェルちゃ!!!」
「!?」
黒灼炎星にて、突然“花園”の魔法少女が声を張り上げ、狂喜乱舞の喝采を捧げ、爆発。
無表情から一転、半泣きの喝采三昧。
奇声を上げながら闘神に跨り、花斧をガンガンと力強く叩き付けて喜びを露わにする。当然、押し倒された闘神は無傷であるが。
親友の復活を、大先輩の前例からワンチャンを祈って、願っていたデイズ。
彼女の想いは、空間を超えて確かに届いた。
叶えたのは怪人だが───その祈りも、奇跡の後押しになったことは言うまでもなく。
そして。
「ハハッ、ハァ…ハハハッ……あーあぁ、マジかぁ」
予想外の顛末に、額に手を当てて笑う帽子屋。あまりのどんでん返しに何度か足が向かいそうになったが、必死に我慢した甲斐があった。
養育していた部下の覚醒に、蒼月は笑う。
期待値を大きく超えた成長を。思い描いてもいなかった未来を紡いで見せた少女に、称賛の喝采を送ると共に。
笑って、笑って、涙を流して。
劈く雷鳴などものともせず、新たな同胞の誕生を心から祝福する。
「まさか、そう来るとは……だとしたら、メード、も……いやアイツはダメだな。怪人因子の切れ端を繋ぎ合わせたようなもんだから、対象になる妖精がいない……いても、すんごいキメラになって……意思疎通は無理、か」
「なーんの話をしとるんじゃ?儂も混ぜよ」
「魔法少女が増えたから、もっと増やせるかな〜なんて。でも、期待するだけ損かなぁ」
「む!?増えたのか!それは目出度いのぉ〜。よし、儂がかわいがってやろうな」
「やめたげて」
考察を交えながら雷神と談笑し、そのまま更新し続ける超加速で殴り合う。小細工も勿論仕込んで、ラピスの拳、そして銃剣が雷速に追従する。
踊るように、舞うように。
邪魔者のいない楽しい殺し合いを、分子雲領域を激しく散らしながら、変わらぬ戦いを堪能する。
心配は遠くに捨てた。
今のチェルシーからすれば、ラピスからの心配など……最早、邪魔な押し付けでしかないだろう。そう判断して、彼女は戦いに集中する。
そんな中。
雷光が迸る戦場から、遥か遠く───幕引きが始まった魔星古城にて。
希望が、覆る。
꧁:✦✧✦:꧂
夢幻魔法の覚醒。
より正確に言えば、枷の撤去───本領発揮によって、今まではできなかったことが、だいたいできるようにまでなるという、純粋な強化。
今までは術者であるチェルシーよりも存在基盤が大きい相手には、あまり通用しなかったが……
これからは、違う。
世界を占有する存在としての格、強さ。それを存在基盤というわけだが……
その場に存在するだけで、大小関係なく、世界に影響を与えられる者たち。魂の格や強さ、種族的特徴、逸脱……あらゆる要素から算出された合計値が、基準値を天元突破するまで超えていれば、存在基盤が大きいと見做される。
存在基盤が大きければ大きいほど、魔法は強く、世界に影響を与える範囲が広くなる。
強大な存在を持つ彼らと比べて、チェルシーはあまりにか弱い、矮小な生き物だった。チェルシーは、そこに存在するだけで世界に何か変動を与えられるわけではない。
それ故に、夢幻で消せない相手がいたわけだが……
チェシェルキャットとの本契約、彼ないし彼女の“魂”を本格的に受け入れたことで、存在基盤の大きさを無視して干渉することが可能となった。
今や、存在基盤に抵抗されることはあれど、それすらも無意味と夢幻に溶かすことができる。
魔力と生命力があれば、どんなものでも。
魔法少女ナハトニャートの夢幻は、どんな相手だろうと夢幻に溶かせる。
……代償として、使い過ぎるとチェルシーが逆に夢幻に溶けてしまうのだが。
かくして、魔法少女となったチェルシーの夢幻は……
「ぐぅッ!?」
「魔法は全部消せる。斬撃も、やろうと思えば。あなたにできることは、もう……ないよ」
「ぬかせぃ!ナメるでないわァ!!」
「んむ…」
砂漠も、樹海も、セチェスが放つ全ての攻撃が、夢幻に溶けていく。魔星古城を侵蝕していたセチェスの魔法は、一つ残らずチェルシーに消されてしまった。
ならばと物理攻撃に出たが、相手は彼女だけではない。エスト・ブランジェが重力で相殺し、マレディフルーフが呪詛で汚染し、リュカリオンの溶岩が破壊する。
チェルシーを再度殺すことはできない。
傷一つない灼熱の鉄壁と、再生する肉壁、霊体投下する障害物。力自慢の2人と搦手の使い手が妨害することで、三叉戟は届かない。
それでも、それでも。
「負けてやらぬわァ!!」
セチェス・バテン=カイトスは定められようとしている敗北の運命に抗う。血反吐を吐いて、全身の骨が凄まじい悲鳴を上げようとも、諦めず。
力強く握り締めた三叉戟を、決して落とさず。
怒気を纏いながら、戦意を捨てずに立ち向かう鯨の王。不屈の闘志を向けられる夢星同盟は、諦めの悪さに何処か既視感を抱きながらも、戦う手を止めない。
鬼気迫るその覚悟、夢星は執念に向き合う。
勝つまで終わらない。死ぬまで終わらない。その意思の固さに、終止符を。
「終わりにすっぞ!!」
「うーん、結構大技撃ちまくってるのに耐えられてるの、すーんごい不安なんだけど」
『私なら五回は死ねる自信がある』
「……卵で生きてた実績持ちがなんか言ってる…」
「ホントそれな」
口々に見解を述べながら、戦闘開始前と同等まで戻った魔力を武器に注いで、魔力を高まらせる。
文字通り、終わらせる為に。
「終わりなどせんわぁ!!」
「いーや、終わりだよ!!」
「ぬぅ!?」
立ち止まらないセチェスに、リュカリオンが真っ向から迎え撃つ。溶岩拳を何度もぶつけて、足止めを。トドメの一撃は魔法少女たちに任せて、自分の仕事を全うする。
何処までも倒れない、不倒の王に敬意を表して。
疲労によって鈍くなった身体捌きを利用して、その腹を拳がぶち抜く。
「ごはぁ!?」
ゴム毬のように吹き飛んだセチェスが、砕けた城の壁にぶち当たったのを好機と見て。
魔法少女たちは、力を合わせる。
「いける?」
「ん……頑張って、合わせる」
「その意気その意気!」
『おしゃべりはそこまでだよ。ふふっ、毎度即席の魔法、やっちゃおっか』
「ん!」
ブランジェは天砕きの槍をマジカルステッキへ。模造の天使の羽がついた杖を前方に向ける。それに倣って、普段杖を持ち歩かないフルーフも、霊体化させてしまっていたマジカルステッキを具現化させて、その隣へ。
最後はチェルシーのマジカルステッキを重ね合わせ。
3人の魔力を浸透させ、一つに束ね……
重力と、歪と、夢幻が───打ち消し合うこともなく、溶け合って、一つに。
立ち上がるセチェスへ、三本の杖が差し向けられる。
「“罪なき祈り、今ここに”!」
『“緋岸の最果て、其は祝福を紡ぐ者”』
「“夢を形に、花は咲く”!」
「『「───夢幻三重光!<プレシャスドリーム・マギアカノン>ッ!!」』」
重ねられた三杖より展開された魔法陣から、夢幻魔法を主体としたエネルギーが放たれる。歪魔法によって強化、活性化した魔力の奔流を、重力魔法で光線一本に固めて、軌道上以外に飛び散るのを防ぐ。
更に、重力加圧で圧縮することで、貫通力が倍増。
新世代の暖かな浄光とは違う、確実に相手を殺すという意思表示。
「ぬぅ……」
轟音を立てて直進する夢幻光。霞む視界で辛うじて光を視認したセチェスは、重い身体を引き摺って構えを取る。今の重傷具合で、回避は不可能と判断した結果。
全快した魔法少女たちの猛攻に、老体は耐えられない。
それでも執念で生にしがみついたセチェスは、腕に力を入れて、迎え撃つ。
冷めぬ闘志に、喝を入れて───溶岩の濁流を、四股で踏み砕く。
「邪魔じゃもんッ!」
「邪魔ァすんのが、俺の仕事だッ!!」
「ッ、ほざけィ!逃げも隠れもせんわッ!余は、若造には負けんッ!!」
リュカリオンの溶岩流を押し退け、足止めを食らいつつ力を溜めて、三叉戟を構え……
矛先を、迫り来るエネルギー砲に向けて。
残りの魔力と、生命力を賭けて。渾身の一撃をもって、今度こそ。
「界裂きィィ───<ネプトゥー・ヌス>ッ!!」
それは突き技。
三叉戟から放たれた三本の斬撃が、空間を引き裂いて、夢幻光に真っ向から挑む。
特大斬撃は光に食い込み、押し留める。
本来、並の魔法少女程度ならば容易く三枚卸しにできる絶技なのだが……セチェスの全てを注いだことで、斬撃の威力は平時を上回り、魔法少女の夢幻光と拮抗する。
死力の一撃が耐え凌いでいるのを見て、リュカリオンは介入を考えるが……魔法少女の真剣な表情を見て、静かに思い直す。
「墜ちろッ!」
『ハァッ───沈、めェッ!』
「やぁー!」
全力を注ぐ彼女たちへの支援は、たった一つ。それを、リュカリオンは知っている。
祈るように、手を握り締めて。
その光景を確と目に焼き付けながら、魔法少女へ力強く応援を送る。
「がんばれッ!!」
熱意ある応援は、どんな形であれ、マジカルステッキを通して魔法少女たちの背を後押しする。そういうものと、七年前から決まっていた。
力を込めて、想いを込めて。
どれだけ傷つこうと抗う、強敵の幕引きを───引導を渡す為に。
「余は、王!半世紀も生きとらん小娘にィ……負けなど、有り得んのじゃもんッ!!」
「なら、有り得させてあげるよ!私たちが!!」
「ん!負ける理由がないッ!」
『精々刮目することだ。今、お前の目の前にいるのは……魔法少女なのだから!!』
「ッ!?」
切り裂かれようと。
引き裂かれようと。
夢幻光は、終ぞ止まらず───夢星の想いを落とさず、ちゃんと乗せて、運んでいく。
三本の特大斬撃は、夢幻に溶けて。
まっすぐ、まっすぐ。闘志で燃え尽きんとする鯨の熱を呑み込んで……
殺意の光が、貫く。
「ガハァ!?」
三叉戟は持ち手から折れて、先端の刃は砕け。夢幻光にふくよかな腹を貫かれたセチェスは、白目を剥きながら、再び壁に激突。
それでも夢幻光の勢いは止まらず、収まらず。
魔法少女の本気、力押しのエネルギー砲は、魔星古城の壁をぶち抜き。
「バッ、フォフォ……あァ、まっ…たく……年、なんぞ、取るもんじゃないのォ…」
耳を劈く凄まじい破壊音と共に古城を完全に倒壊させ、星空の下に投げ出されたセチェスは……
遂に、意識を失った。
千年王国“クジラ森の王国”の国王討伐───夢星同盟の勝利である。
꧁:✦✧✦:꧂
「やった!」
「っ、ふぅ……よかっ、た」
『なんとかなったね……喜んでるとこ悪いけど、そろそろ移動しようか。ここも時期崩れる』
「流石だな、ホント……チェルシー、乗るか?」
「……ごめん、お願い」
「おう」
勝利の喜びも束の間、夢幻光によってトドメを刺された魔星古城から、四人は脱出する。
疲労を隠せないチェルシーはリュカリオンに背負われ、瓦礫の山と化していく古城から脱出。ブランジェは腰元のガラス瓶の中でまだ延びているメーデリアを確認、天翼を羽ばたかせて星空の下へ。
戦闘の余波で重力場も崩れたのか、地盤すらも自壊して崩壊していく。
その光景を横目に、フルーフは霊体を活かして一足先に瓦礫を横断……完全に意識を飛ばし、気絶したセチェスの枕元に立つ。
腹に大きな穴を空け、生きているのが不思議なぐらい、致命傷を負いに負っている敵を見下ろす。
彼の手には、まだ折れた三叉戟の棒が握られていたが。
一目見て、もう戦うことができる身体ではないと見受けられる。
『……うん、完全に沈黙を確認。生命反応も断絶しかけ。よくもまぁ原形を保っていたというか……ここまでやって心臓が動いているのは、末恐ろしいね』
「えっ、生きてるの?これで?」
「死んでた方がマシじゃ……」
「セチェス王は熟練の戦士だからな……異様な頑丈さも、今までの蓄積だと考えれば、なんもおかしくねェ。戦いは心身共に、人を強くするからな」
「そういうもんかぁ」
無力化できたセチェスを、取り敢えず拘束して捕虜に。先輩魔法少女的には、トドメを刺した方が手っ取り早くて楽なのだが……重傷度合いから考えて、ここから復活して反撃される可能性は、ゼロに等しい。
それ故に、生き残ったのなら生かそうと決めて、老体に鎖を巻いていく……
『…ん?』
ブランジェのその動作を、なにかに気付いたフルーフは止めさせた。
『ちょ、タンマ』
「えっ?どした?」
『…………見られてる。近くにいる』
「ッ!」
「!?」
それは視線。
戦闘中はあまり意識を割けなかったが……ねちっこく、それでいて敵意のない、悪意もない視線が、観察するよう降り注いでいたことには、薄ら気付いていた。
……それが視線だと思い至ったのは、今なのだが。
所在不明、何処から飛んできているのかもわからない、不明瞭な視線にブランジェとリュカリオンも気付く。人を色眼鏡で見る視線は苦手なチェルシーは、リュカリオンの肩に顔を埋めて辺りを睨みつけた。
ナニカがいる。それだけは確実なのに。
フルーフたちは感知することも、相手を暴き出すこともできやしない。
一瞬の硬直───それを破壊したのは、視線の持ち主。
四人が気付いた時には、もう遅く……セチェスの身体に絵の具が垂れる。
真っ黒な絵の具が。
「───Bonjour」
魔法少女たちの奮闘を嘲笑うかのように───狂気が、顕現する。




