334-場外乱闘マーチライブwith T・R・S
「掘り進ム必要はあったんデつか…」
「あー、すっごい抵抗されちゃって。あたし、転移とかができるタイプの魔法少女じゃないし?一応、壊してもいいルートは教わってたから、そこ通るしかなかったんだ」
「用意周到スぎんか?絶対ラピス氏の仕業デショ」
「当ったり〜」
:ロボー!?
:鼓膜ないなった…
:本当に掘り進む必要あった?
:脳筋is魔法少女
:ボロボロ…
異形タレスと歌姫マーチの合流。陰と陽、性格と性質がまず相容れない将星と魔法少女のドリームタッグは、終始一貫して、マーチがオタクに優しいギャルになったことである程度成り立っていた。
無視できない存在が眼前に現れたことで、レイは冷たく目を細める。
道中、戦場全体に響いていた歌声。魔力を伴う歌声は、夢星同盟の兵士たちをこれでもかと強化していた。決して死者が出ていないわけではないが……それでも、マーチの存在が死傷者の数を従来より減らしているのは確か。
そんな戦力増幅器が、目の前にいる。
無様にも拘束され、哀れにも無力化されたシグニュスの成れの果てと共に。
思うところはあるが、レイは処刑人。任務達成の為には手段を選んではいられない。
手始めに、シグニュスを回収する。
「擬態魔法」
「おえっ?姿が変わっ───んん!?メードちゃん!?」
「そうイう魔法でゴザる!」
「成程!?」
「騒いでいるところ、申し訳ありませんが……その死体はこちらでリサイクルさせて頂きます。ちょうど、戦力にはなりそうなので。等価交換の魔法」
「!」
:!?
:なにあれ
:成り代わりってこと!?
:魔法も使っておりますがな
:ヤバ…
メードに擬態し、彼女が持つ魔法の一つを採用して……五線譜に囚われたシグニュスを解放する。彼の代わりは、タレスから分離した機械の腕。
拘束から解放されたシグニュスを、レイは従える。
自動的にマーチプリズへ攻撃を仕掛けようとするのを、首の裏に埋め込まれた制御用の呪符に皮膚越しに触れて、停止命令を。
「…」
「随分と衣装がボロボロだが……成程、シグニュスは一応仕事はしたらしい」
「そうだよ。私のドーム爆破解体されちゃったんだから」
「いいことだ」
:綺麗な爆発でした
動きの停まったシグニュスに、連携命令と標的の追加、視界共有と思考伝達などのコマンドを打ち、自身の脳髄と伝達系を繋げながら、レイは笑う。
マーチのコスチュームはボロボロだった。
それは全て、シグニュスの秒単位で降り注ぐ星間爆撃を浴びまくった証。致命傷にも等しい傷だが、ゾンビだから耐えられた。ウタユメドームは鉄屑となったが……まぁ、それも許容の範囲内。
一瞬の、布の穴に糸を通すかのような一瞬の隙をつき、漸く拘束できたわけだが。
その努力が、水泡に帰す。
どちらにせよイーブンな状態。マーチとタレス、レイとシグニュス。両陣営における上澄みの強者が、暗い室内で戦闘を再開する。
「なにができる!?」
「えっと、SFロマン!あト毒!」
「おっけー!」
意気揚々とマイクを握るマーチと、薄汚れた機体のまま躍り出るタレス。早速体内の簡易工場で機械兵器を製造、展開しながら、一斉に撃ち出す。
対するレイはシグニュスを前面に出して迎撃。
死にかけの身体の己が出る幕ではないと、後ろに立って攻撃を放つ。
「星爆魔法」
「それしか喋れないのか、こいつは……まぁいい。さぁ、刑執行の時間だ」
追尾型の機雷を誘爆させ、迫り来る防壁を砕き、物理で前進するシグニュス。その歩みは機械兵器に度々遮られ、決して速すぎるとは言えないが……
障害を破壊しながら、直進し続ける白鳥の恐ろしさは、爆風と共にタレスとマーチに牙を剥く。
破片が吹き飛び。
爆塵が吹き荒び。
触れた物質全てを爆弾に変える───魔力さえあれば、惑星すらも爆弾にできる、シグニュスの星爆魔法が機械を蹂躙する。
「マーチ氏ッ!」
「おっけー!任せて───歌魔法!<メロディランド>!追加で<ハピネスライブ>!!」
「ウオー!力が漲ルゥ〜!」
爆撃驀進するシグニュスに、マーチは音符の爆弾を軽く投げてから、タレスの魔力操作を活性化させる魔法の歌を高らかに歌う。瞬時に増強されたタレスは、心までが沸き立ち踊るような感覚に浸りながら、魔力を隆起させる。
刃向かってくる白鳥に向けて、次々と毒の針を打つ。
死体には効果が薄いかもしれないが……動きを阻害するだけでも十分。触れられたら終わり、機械の躯体では呆気なく爆弾にされてしまうであろう魔法の手には注意して、斬撃や刺突、殴打で応戦。
執拗に手で触れて来ようとするシグニュスに、タレスは能無しと叫びながら額を殴り、表情の変わらない人形に、不気味に思いながら戦う。
勿論、背後にいるレイのことも注視して。
マーチの支援を受けながら、タレスは本気を出して敵を潰しにかかる。
「ぐぅッ!このイケメン野郎がァアア!!ゾンビになってザマァァァァァァァ!!」
「だいぶ私怨入ってるね!?」
「ウオオオオオオ!!」
:やっちまえー!
:イケメン死すべし慈悲は無い
:非モテ共の怨嗟の声が…
:もう死んでるっぽいんですけど、その人
:倫理観0
全身整形したタレスにとって、生まれも育ちも見た目もエリートな男など、怨嗟の対象でしかなく。死んだ事実に喝采し、内心やってくれたノワールを信仰して、もう一度やってきた殺意を発散する機会に感謝する。
触れられる前に殴って、伸ばされた腕をへし折り、胴に掌底を放つ。機械の躯体だからできる多彩な物理攻撃は、シグニュスに明確なダメージを与えるが……
リブラ印の戦闘人形は、止まらない。
自動再生機能により、瞬時に五体を正しい形に戻して、即座に継戦。
「ウッゼェ!」
「うーん、ウチらのとはちょっと違う感じ?ノワちゃんの再現ってよりは、我流である程度コピってみて、後は天秤ちゃんの技術力でうめうめした感じかな?」
「冷静ニ分析してナイでヨ!?」
「だって余裕そうだし……おっ、魔法来た。あたしは別に無視でもいーんだよ?」
「無理な話だ」
そこにレイの魔法攻撃が加わり、マーチが知ってる魔法知らない魔法が、無秩序に砲撃される。それら全てを歌の壁で防ぎ、音波が砕き、歌声で魔法を弱らせる。
タレスのカバーを完璧にこなして、攻撃もこなす。
だが、それでは埒が明かないと、マーチは決意をもって行動に移る。足代わりのステージがない今、全力で両足を動かして、駆け出す。
目指すは、レイ。
「正気か?」
「あったりまえじゃん!?正気も正気!ド正気ってゆー、ヤツだよッ!!」
───歌魔法<メロディアクト・ブレイブ>
:!?
:初めて見た
:できんの!?
:うっそん
両手に音符を握って、力強く握り締めて、二つの音符を形状変化させ……五線譜が刻まれた剣、シンバルのような盾を持って、レイに突貫する。
直接戦闘は苦手だが、できないわけではない。
他と比較すると、明らかに弱いだけで。当然、レイからすればお遊びの剣技としか思えない攻撃は、軽々と避けて対処できる。
「何の真似だ」
「知りたい?でも、教えてあげない!だってすぐわかる、結果はすぐそこなんだもん!」
「何…?」
レイの凶刃がマーチの首を切り裂くが、そんな首切りで立ち止まってやるほど、マーチは行儀よくなく。首に刃が突き刺さったまま、レイの身体に抱き着く。コメント欄がザワつき、主にレイへの批判が殺到するが……
両者共に、気にする余裕はなく。
マーチは振り解かれないように腕に力を込めて、魔力を隆起させる。
そのまま、マーチが選んだのは───超至近距離から、歌魔法を叩き込む手法。
ここにいるのは人外ばかり。
事前に耳打ちしたタレスは、この時点で聴覚を保護し、ラピス謹製の対歌魔法防壁を展開。歌を聞くのは、片腕の力しかないレイと、シグニュスのみ。
声を張り上げ、喉を震わし。
破滅的な全体攻撃を───たった二人の敵の為に、歌い届ける。
「葬送曲だよ!あなたたちの!!───歌魔法!<デッドガールズ・オルケストラー>ッ!!あたしの歌を!魂で、聞けーっ!!」
「ッ!?」
何処か厳かで、恐ろしい。荘厳な音楽が、魔法を奏で、歌声を響かせ……空間が、揺れる。
歌による怪奇現象に、旧・機関部はひしゃげ始める。
同時に、至近距離にいるせいで爆音となった死の歌声を浴びているレイは、自身の変化に否応にも気付く。失った左腕の切断面が、グツグツと泡立ち始めた。
胴体の穴も、ジクジクと痛んで、血肉が沸騰する。
涙のように目から血が流れて、尋常ではない激痛に吐血する。
「ごふっ、ガハッ!?」
聴いてはならないと耳を塞ぎたくとも、抱き着いた歌の発信源が拘束を解いてくれず。そも、魂に響くその歌に、耳を塞ぐという対策が通じるわけもない。
力任せに脱出することもできない。
頑丈な身体の持ち主に擬態しようにも、攻撃されている最中である為、魔法は発動せず。
油断はなかった。
ただ、情報で知っていたとしても、対処の仕様がなく。死を誘う美しい音色が、脳に焼き付いて、レイの思考から離れない。
その歌声は、シグニュスの屍体にも異常を引き起こし、破壊する。
「せ、せせ、ぃ、ばッ、ばばッ」
壊れたアナウンスのように、呂律の回らない口は魔法の名を叫ぶが、成立することはなく。目がぐるりと回転し、手足が勝手にぐちゃりと歪む。
魂のない人形は、わけもわからぬまま破壊される。
そして、戦闘に移れない挙動を示した戦闘人形の隙を、タレスが見逃すわけもなく。
「今ァ!オラオララッシュ!!」
下手に再起動される前に、全身を木っ端微塵にしようと追加で腕を四本生成し、六本の腕で執拗にシグニュスへと拳を打ち込む。
私情はあるが、それ以上に。
この木偶の坊の存在だけで、戦場も、総旗艦も爆弾へと変化してしまう。最悪な未来を避ける為に、タレスは完全停止を狙って連続攻撃を挟む。
……だが、その衝撃がよくなかったのか。
歌声と衝撃に限界が来たのか、シグニュスは突然、目を爛々と輝かせて……
「ッ、なニ?」
「───【星爆】セーフティ強制解除。魔力炉心、融解。最終プログラム基準規定値、崩壊。システムのこれ以上の運営は不可能。試験戦闘人形の活動、不可。不可不可不可不可不可不可不可……よって。自爆シークエンス、起動」
「エッ」
予め定められていたプログラム通りに、兵器運用を考え構築されていた自爆システムが、あらゆる過程を無視して作動して。瞠目したタレスの身体を、折れた手指が掴み。
逃がしはしないと、拘束し。
ヤバいと気付いたタレスだが、時既に遅く。
歌魔法に阻害されながらも、シグニュスはタレスの魔法発動を阻害させる魔力波長を放ちながら、その身に秘めた魔力を、暴発させる。
荒々しく。
煌々と。
「マッ───!?」
シグニュス最後の輝きは、モニターの奥の網膜に、確と焼き付いて。逃れることも避けることも、抵抗することもできずに。
白鳥の爆撃機は、一切の躊躇いなく。
全身から、爆光を解き放って───タレスを巻き込み、自爆した。
カッ───ドォォォンッ!!
歌を掻き消す程の爆音。
背後の悲劇に、マーチは咄嗟に背後を振り向く。爆音が旧・機関部を揺さぶり、更なる破壊をもって星が震撼し、ぐらりと揺れる。
「うそっ…」
「……ゴホッ、ゲホッ……驚いた。そんな、機能……私も聴いていないぞ、リブラ・アストライヤー…」
「っ、うぐっ!?」
「そして、貴様だけは殺す。ここに来たのが運の尽きだ。終わらせてやるッ」
「ッ〜!」
爆煙を尻目に、茫然とするマーチを尻目に。その動揺で歌が少し弱まったことで、レイは死にかけていた自我を、どうにかして取り戻し。
魔力操作で、手元から離れていた回転ノコギリを喚び、ブーメランのように引き寄せ。
マーチの背中を切り裂く。
ズタズタに、自分諸共斬り殺す勢いで。この歌姫という脅威の存在を許容できず、ここで殺害、若しくは機能停止させなければならない。それこそが、自分の使命であると再定義して。
「ギギッ……ふ、ふザけヤガッて…」
だが、その使命心を塗り潰すかのように……燃え上がる爆煙の中から、駆動音が鳴り響く。
至近距離で高威力自爆を浴びても、尚。
機械の王は終了せず……配線がブチブチに引き千切れ、外殻は崩れ、首から切り離れていた頭部のモニターは酷くヒビ割れ、穴が空いた、悲惨な姿。
四つ足は全て吹き飛んで、手は一本を残して失われ。
胴体と右手一本、辛うじて浮いている頭部だけが、今、タレスに残った機体で。
ギシギシと音を立てて、苛立ちを紅い点灯で示して。
「モウ、こレ以上はお互いニ持ちソウにナいね……すぐ、終わらセテ。壊レたトコ、全部直さないト。アァ、ホントやるコと多すギナんだヨ…」
「……まだ動けるのか、それで」
「た、タレスく〜ん…」
「ダイジョウブ。スグに終わらせルよ……レイ氏。もう、君の、負ケだカラ」
「ッ…」
ボロボロの状態での、勝利宣言。
何故ならば、既にレイに、戦えるだけの力がないから。滅びの歌によって肉体機能の大部分を喪失し、魔力操作もままならない。反射的にマーチを盾にするが……レイは、本能的に理解する。
ここが自分の死に場所であると。
憂鬱そうに、辛そうに、疲れた雰囲気で。ゆっくり脚を製造して、組み合わせながら近付くタレスを睨みながら、ジリっ、と足を退けさせる。
擬態はもう、使えない。
「ッ……ならば、処刑人の本懐を、遂げるだけ!」
自分のできることを。
自分のやれることを。
死力を尽くして処刑を執行せんと、マーチプリズだけは道連れにすることを選び。裏切り者に殺されるのならば、マーチ諸共自ら命を絶たんと、刃毀れした回転ノコギリを暴走させて……
その目論見を、腕の中のマーチが砕く。
魔力感知が低下したレイが気付けるよりも速く、そう、自爆には自爆を。
「あなたと心中とか、絶対ヤダー!」
「ッ!?」
今度は、レイも超至近距離の自爆を浴びて……右腕を、回転ノコギリを破壊されて。爆風で吹き飛び、鉄タイルの上に倒れたレイは、右半身をズタズタにされて悶絶する。
自分の失策を悟り、吐血しながら痛みに喘ぐ。
そして、自爆で首だけになったマーチは吹き飛んで……タレスの手の中に。
「あだっ!」
「すんごイこトするネェ……デモ、お陰で手間が省ケタ。チョット待ってテね」
「……お〜、イケメンじゃん」
「ヤメテクダサイッ」
マーチを片手の上に鎮座させながら、タレスはゆっくり歩み寄って……
天井を見上げる、レイの傍へ。
瀕死一歩手前にあっても、その双眸から殺意は薄れず、タレスを睨みつける。吐血しながら、頭を持ち上げて……毅然と、殺意を突き付ける。
心はまだ、屈していなかった。
それでも、これ以上身動きはできず……魔力も失って、ただ裁定を待つ。
「チッ…」
「遺言、聞くヨ」
「……聞かせる相手など、端からいない。さっさと殺せ。標的を処刑できぬ無能など、ゴミにも劣る。わかったならトドメを刺せ、愚図」
「フゥん?」
生きるも死ぬもどうでもいい。
自分の生死に無頓着な、ある意味潔い処刑人。命乞いもなにもしない、痛みに歪んではいるものの、その表情筋も無に固定されたまま。
最期まで変わらぬ表情に、タレスはらしいなぁ〜と軽く吐息して。
「殺しちゃうの?」
「そりゃアね。生かシとくと、デメリットしかナイかラ。収容デキる環境ジャないし……悪いケド、ここでレイ氏の冒険の書は、オワリってワケ」
「いつまで駄弁るつもりだ」
「ハイハイ」
最後まで、処刑人は冷血に。
大陸惑星グロードシェリフ、及び、ネオ・ズーマランド最深部での戦い。鏡より襲来した白鳥と、暗殺を仕掛けた処刑人との、暗がりの死闘。
歌姫と死蠍は、激闘を制し───夢星同盟は、また一つ勝ち星を手にした。
一方その頃。
総旗艦の外。
「ウワー!?死ぬッ!!」
「ペロー殿、お気を確かにッ」
ペローとムゴクが相手取っている超弩級母体アクゥームは健在である。




