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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
月下星王大戦

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312-焚書術開


───魔城地下古書館。

 “天秤”の魔術師が管理する、あらゆる星々、宙の歴史を集積した本の山。火気厳禁、禁忌に抵触する内容まである深い叡智の集積地は、今。

 悪夢の尖兵との決戦の場に変わり果てていた。

 皇帝秘書である“天秤崩界”リブラ・アストライヤーと、アリスメアー幹部補佐である“残夢”のメードによる、魔術魔法と物理の乱戦場へ。


「一斉掃射ッ!」


 魔導具、“素敵な魔包袋マジカル・ハンディーガール”から出したカドック印の魔銃が空中で列を成し、一斉に火を噴く。前方の障害物を含めて全てを一掃する制圧火力。追加でキルシュナイダーの鋏を元に作り上げた、自動追尾方のハサミ型ナイフが魔法弾の隙間を縫うように複数放たれる。

 魔法を破壊する弾丸と、魔法を切り裂く氷刃。

 メードが展開する物量攻撃を、リブラは魔術書を開いて防御を構築する。


 より正確に言うのであれば───魔術書から引き抜いた無数の頁を、空中に並べた。


「防御術式・構築───<ユグムの課題>」


 魔力を帯びた頁一枚一枚が、空間同士を結合するように障壁を構築し、光の盾を形成する。貴重な魔術書の断片を使い捨てにするという代償をもって完全防御と成す。

 その効果は絶大で、理論上は魔法少女の必殺技、浄化の極光や夢光を正面から防ぎ切れる。

 魔法少女二人分の攻撃は余裕をもって防がれ、光の盾は砕けない。


「硬いですね」

「残念でした」


───虚無魔法<ヴォイド・スクロール>


───拡散術式・干渉<キーライの空打ち>


 軽口を叩き合いながら、メードは虚ろな形の謎言語から空間を歪ませる不協和音を放つ。だが、先んじて予測したリブラが音を拡散させ、魔法効果を霧散させる。

 相手の攻撃魔法を逆に拡げて、機能不全に陥らせて自滅させる魔術だ。


「……あなたは何処まで殺し尽くせば、再起不能に陥るのでしょうか」


 絶えず飛来する弾丸や鋏を防ぎながら、リブラは手元の魔術書から頁を一纏めにし、グシャッと掴み取る。

 本を大事にしない、ぞんざいな行い。

 だが、それこそが正規の運用法───執筆から製本までリブラが全て手掛けた、使い捨ての魔術書。頁の内容は、どうでもいい。ただ、魔力が込められており、魔術運用の道具として成立していれば、それでいい。

 一日一頁の日記でも書いていれば、自ずと溜まる。

 今、リブラは300冊以上の戦闘用魔術書がある。全て、六法全書並の分厚さを持ち、鈍器としても使用できる魔術武装である。


 新たに使用する魔術は、攻性術式───文字通り、戦闘特化の魔術である。


「攻性術式・起動───<ズィゴーンの光>!!」


 空を舞う頁が円を描き、明滅しながら激しく回転して、特大の破壊光線をメードに放つ。

 軌道上にあった本や武器を焼きながら、一直線に。

 咄嗟に張った防御障壁の悉くを貫き、メードは青い目を大きく見開く。


「ッ!」


 避ける余裕もなく、破壊光線はメードの腹部を貫通……血飛沫が吹き荒ぶ。主と違って血が通っているメードは、仰け反りながらも倒れない。

 自動修復で腹部の風穴に肉を戻す。

 生憎、メイド服は破れたままだが……特に気にすることなく反撃に転じる。


「この程度、痛くも痒くもありません……そう、蒼月様のパンチと比べれば!!」

「比較対象やめて貰えません?全然参考になんないです」


 そう訴えながら、メードは三種類の光線兵器を顕現。


───闇晶光波<メアリーレーザー>

───虚無魔法<ヴォイド・ホロスコープ>

───聖剣兵装×4


 万物を悪夢に浸らす殺意が、円陣から放たれる惣闇色の虚無の魔光が、そして、太陽の力を還元した聖剣の模造品から四本の極光が古書館を焼く。

 即死級の光が、大挙してリブラを殺しにかかる。

 その破壊の奔流にリブラは光の盾を複数展開した上で、それだけでは心許ないと魔術を追加投入。冷静に、光線を分析しながら迎撃する。


「反発術式・逆算───<ブラキウムの瞳>!!」


 光の盾を覆うように目の紋様が幾つも浮かび上がって、リブラに殺到する破壊光線の全てを受け止め、受けた分をそのまま相手にお返しする。

 攻撃の反発。そっくりそのまま、跳ね返す。

 聖剣兵装だけは反発できず、光の盾を十枚程割って漸く防げたが。全てを無に帰す虚無の光は、辛うじて。悪夢のエネルギー砲は、楽々と。

 本棚が吹き飛び、広範囲が結晶化する。


「ッ、想定外です」

「流石に勇者の模造品は無理でしたが……悪夢対策は既に済んでいます。悪夢に由来する魔砲は、今の私にはあまり通用しないと言っておきます」

「残念です。ならば、予定通り暴力と魔法でこてんぱんと行きましょう」

「戯言を」


 容易く対応されたことにメードは驚愕しながら、それを凌駕してみせると攻撃の手を緩めない。フルーフの呪詛を多分に含む数珠がバラバラになり、それもまた弾丸として古書館にばら撒かれる。

 更に手元にあるスイッチを押せば、ピッドの暴走列車とマーチの音響兵器が顕現する。

 呪詛が吹き荒び、列車が駆け、大音量が耳を貫く。

 古書館を滅茶苦茶にする13魔法の総攻撃───最初からこの建物が廃棄予定であり、写本ばかりの蔵書でなければ発狂していただろう。

 かもしれない未来を想像するだけで憂鬱になりながら、リブラは反撃。


「何をしようと無駄なこと!」


───属性術式・着火<ソブラの憤怒>

───属性術式・開栓<ソブラのせせらぎ>

───属性術式・強風<ソブラの思い出>

───属性術式・変動<ソブラの星>


 業火が呪詛を焼き、清水が列車を堰き止め、暴風が音を突き破り、石像が虚無を殴り払う。魔法陣から姿を現した魔術の奔流が、メードの攻撃を無意味とする。

 それだけでは留まらず、全ての殺意がメードに向く。

 殺到する魔術は思いの外威力が高く、メードはなんとか防ぐしかない。


「聖櫃魔法ッ、ぐっ!」


───聖櫃魔法<アーク>


 半透明な箱に入り、空間との接続を遮断、隔離。完全に密閉された空間に逃げることで、殺到する魔術の嵐を軽く受け止め、霧散させる。

 聖櫃の完全な守りによって、命からがら生還。

 鳴り響き続ける轟音と振動で聖櫃は揺れるが……聖櫃の守りは揺るがない。


 ただ、この密封状態では攻撃に移れない。身を守れるが戦えない。故に聖櫃魔法を解くしかないのだが……それをすれば、大きな隙ができる。

 メードの意思関係なく暴れる武器群はあるが……

 リブラが同時展開している攻性術式、属性術式が今も尚殺到しており、被弾覚悟でどうにかしなければならない。その場凌ぎの聖櫃であったが……判断ミスでどちらにせよ被弾せざるを得なくなった。

 メードは自分のミスを悟りながら、聖櫃の中で身を守る魔法を構築しようとして……ふと、この状況を打開できる魔法を思い出した。


「仕方ありません。一か八か……等価交換の魔法!!」


 聖櫃の中と外、自分と同じ質量があれば双方を座標ごと交換できる。聖櫃の外からの攻撃を防ぐ魔法は、交換する物体を遮る可能性はあるが……最早賭けるしかなく。

 祈るように魔力を巡らして……

 どうにか、一番近くにあった本数冊と、メードの位置が交換することができた。


「ぐへっ」


 ……その代償として、本棚に身体が埋まったのだが。


 ゲームで言う壁抜けバグ。SFでいう瞬間移動等の失敗で構造物に半ば融合してしまう現象……たった今、メードは本棚に上半身と下半身を隔たれた状態で生えていた。

 身体の間に棚がある。分割されず、融合したメード。

 ここで渾身のミスを起こしたメードは、顔から嫌な汗を流すばかり。


「な、なにやってるんです…」

「……いや、あの、その……助けてください」

「嫌に決まっているでしょう。諦めて、胴割れ死体にでもなっていなさい!!」

「ちょっ」


───攻性術式・起動<ズィゴーンの光>×9


 呆れ顔のリブラが、容赦なく破壊光線を叩き込んだのは言うまでもない。


 爆光が本棚に殺到して、凄まじい爆発がメードを襲う。木片が飛散し、頁が吹き荒び、そして、メードの着ていたメイド服の破片や、腐っていない死肉が弾け飛ぶ。

 リブラは器用に全て避け、防ぎ、観察する。

 轟音を立て、爆炎が上がる本棚の一角。床に散らばった色とりどりの破片が何なのかは、最早語るまでもなく……その肉片が、布片が、うぞうぞと蠢き始める。

 意思を持って、爆煙が吹き上がる方向へ。

 悍ましい光景を、リブラはドン引きもせず、しっかりと観測する。


「再生能力をお持ちとは聴いていましたが……成程、大元である身体の方に、肉片が、布の破片までが群がると……不思議な光景ですね。魔力の繋がりがあれば、どうとでもなるといったところでしょうか…」

「……ハァ、分析がお得意のようで」


 黒煙が晴れていく中───上半身と下半身が分離した、死に体のメードが倒れていた。うつ伏せに倒れたメードの周囲には、彼女の一部である肉片が断面に集合している。

 一片残さず、全て。メイド服の破片までもが集まって、ちぎれた部分と勝手に結合していく。

 その怪現象は、メード特有の再生現象。

 オリジナルである蒼月は【悪夢】を燃料に器を再構築、ガワだけとなった表面を整える。副産物である六花たちはフルーフの呪詛を媒介に、魔力で肉を生やして血を満たす再構築。対して、メードの再生は少し違う。無から全てを生み出すのではなく、今ある全てで補い合う。

 つまりは、再結合。

 蘇生過程でそうなった、肉片を一つ残らず使ったことで確定したメードの再生方法。その身がバラバラになろうと飛散しようと、勝手に肉片が繋ぎ合わさって復活する……それ故にデメリットも多いのだが。

 衣装にも適応されたのはコンプライアンス違反を蒼月が防いだだけだ。


「見ているだけでよかったので?」


 無事に肉体の再結合を終えたメードは、血を拭いながら立ち上がる。観測するだけで邪魔をしなかったリブラに、疑心塗れの目で問い掛ければ。

 空中に佇むリブラは、眼鏡の位置を直して、答える。


「えぇ。あなた方の再生能力には興味がありまして。既にノワールを被検体に……いえ、正確には、定期的に弾けるノワールを観て、ある程度は調べていましたが。あなたのそれは、どうやら違う様子……その違いを調べたかったのです。なにせ私、知的好奇心が高いので」

「左様でしたか……それで、収穫はありましたが?」

「特には。あまり参考にならない……デメリットしかない再生としか思えませんでした」

「酷いですね」


 そう、観測は終えた。

 リブラはこの戦闘中、メードを調べていた。並列思考で配信魔法に接続し、過去の戦いを総洗い。メードの戦闘を分析して、次に何を使うのか、どんな戦法を取るのか……その全てをリブラは予測して行動していた。

 再生機能が如何程のモノかも確認できた。

 何も恐れることはない。リブラの防御術式には届かず、攻性術式には為す術もない。

 リブラにとって、メードは脅威ではない。

 そう判断を下すのは遅くなく、むしろ十分時間をかけた結論だった。


「アクゥームは出さないので?アレがあるのとないので、あなたの脅威度はかなり変わるのですが」

「……残念ですが、ご期待には応えれそうにないですね」


 魔法少女との決戦の時に使用した重機混成アクゥーム。確かに、アレを使えば生身で戦うよりもまだマシな戦いになっていたかもしれない。

 しかし、魔術で一方的に嬲られることには変わりはないだろう。


 それがわかっているから、メードはこの状態での戦いを継続する。


「ですが、これで勝った気になられても困ります」

「へぇ?」


 メードは無表情のまま、しっかりと敵を見据えて、そう宣言する。実力の差は明確。どうしても、メードの力ではリブラに敵わない。

 触れれば勝ちの目は見えるかもしれないが……

 その距離は遠い。遠いからこそ、少しでも近付いて……リブラの手札を確認する。メードの視界はムーンラピスにジャックされている。いつでも彼女が見た光景を確認し、その概要を知ることができる。

 情報収集の為に、メードはここにいるようなもの。

 突発的な作戦変更ではあったが、まぁ、戦わないよりはマシだろう。


「あぁ、それと……善意でお教えしますが」


 自分の役目をしっかりと理解しているメードは、表情を変えずに告げて。

 首を傾げるリブラに指摘する。

 わざと敵に塩を送るような、それが成功することを一切疑っていない目で。


「? 何を言って───ッ!?」

「例えば見落とし……本がお好きならば、誤字や落丁等を見逃すのは、いけないことなのでは?」

「ッ」


 宣言すると同時に、リブラの右腕に光線が突き刺さる。先の戦闘で、隠密魔法などの存在感を薄める魔法と併用し気付かれないように細工した……

 メアリーレーザーが。


 気付いた時にはもう遅く。悪夢の輝きが、リブラの腕を結晶化させる。


「くっ…」

(探知術式に引っかからなかった……予め、曝露系の術を使っておくべきでしたか…)


 結晶化していく右腕は興味深い。

 だが、そのまま放置することはできない。自らの失態を内心恥じながら、リブラは少し躊躇しながら手刀で右腕を切り落とした。


 落下した腕が落ちた床から、一瞬にして悍ましい色彩の結晶が生える。


「思いっきりがいいですね」

「そりゃあそうでしょうよ……研究素材として重宝したい気分ですが、リスクが高すぎます。今回ばかりは諦めて、焼却といきましょう」


───焼却術式・抹消<バランスの崩壊>


 指を向けただけで独りでに燃え出し、灰も残さず悪夢を焼き尽くした。薄らと焦げた古書館の床だけが、リブラの右腕があった痕跡として残る。

 メードに向けられれば、再結合する暇もなく燃やせる程強い魔術だ。

 ……それを戦闘に使わないのは、戦術に組み込む代償が重たすぎるせいだが。そして、メードを相手にこれを使う程、リブラは追い詰められていない。

 現に、片腕を失おうとも───生やそうと思えば好きに生やせる。


 不意打ちは成功されたが、それで不利になったわけではない。


───法医術式・施術<ミザンの恩光>


 傷を癒す術式をより高め、傷を無かったことにするまで至った治癒の魔術。元通りになった右手の感触を確かめ、異常無しとわかれば視線をメードに戻す。

 お互い、まだ全てを出し切ったわけではない。

 メードの袋はまだ満杯に近い。つまり、出そうと思えば幾らでも出せる。リブラの魔術の引き出しも、まだ腐る程ある。


「仕切り直しです。そのちっぽけな悪夢の力で、この私に何処まで抗えるのか……見物ですね」

「えぇ、見せてあげますよ。私だってやれることを」


 相手をしっかりと見て、元から無い油断と慢心が胸の縁から湧き上がって来ないように、しっかり気を引き締めて相手を睨みつける。


 攻撃表示は魔法と魔術。異なる二つの魔が激突する。


 リブラとメード。彼女たちの“天秤”は、依然リブラへと傾いていた。


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― 新着の感想 ―
さすが「メード」 「この程度、痛くも痒くもありません……そう、蒼月様のパンチと比べれば!!」 蒼月が労働局に捕らえられるような気がする 「比較対象やめて貰えません?全然参考になんないです」 訳もわ…
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