299-突入、魔城ドゥーンビーレル
魔城ドゥーンビーレル。皇帝ニフラクトゥの栄華の象徴であり、孤高とも言えるその強大な力を讃えた、銀河一の規模を誇る漆黒の王城。
眼下の帝都が小さく見える程、その異様は凄まじく。
歪な形状の塔が何本にも寄り合い、重なり合った皇帝のお膝元に、夢奏列車は停車した。
あまりにも大きな扉を前に、レオードが先頭を行く。
扉の前に、城を守らんとする守衛の姿はなく。喧騒とは程遠い、痛いぐらいの静寂に満ちた城門前。扉は微動だにせず、叛逆者とその一味を歓迎しない。不動の扉は、誰が押そうとビクともしないだろう。
だが、そんな健気な守りを嘲笑うかなように……徐ろに伸びたレオードの手が、ひたりと扉に触れる。
押すことはない。
引くこともない。
ただ、己はこの城の新たな主になる男だと、力をもって示すだけ。
王獅子の権威を示さんと、行く手を阻む扉を黄金の力で染め上げる。
「おぉ…」
感嘆とした声を上げるのらウルグラ隊。尊敬する王の、偉大なる統率者の御業に見蕩れ、地球以外の全てを統べる心積りのリーダーの、その強さを称賛する。
黄金に染められた扉は、次代の皇帝候補を歓迎する。
何人たりとも入城を拒もうとしていた王扉は、独りでに開き、叛逆者たちを迎え入れる。解錠された扉を、一同は迷うことなく潜り抜け……
一斉に、豪奢な城内へ殴り込む。
ウルグラ隊から上から強い順に選出された選抜部隊は、怒声を上げて魔城を駆け……その戦意に釣られて、皇帝を守る衛兵たち、魔星親衛隊が、殺意を持って叛逆者たちを迎え撃つ。
「行くぞッ!!」
「道を切り開けェ!!」
「レオードさんの邪魔をさせるなァ!!」
「その首、刎ね飛ばす!!」
「陛下の元には行かせんぞォ!!」
「かかれェ!!」
怒号が飛び交い、魔法が吹き荒び、殺意が煮え立つ。
暗黒王域の中でも、夢星同盟の中でも上澄みである戦士たちが凌ぎを削る真横を、レオードたちは走り抜ける。
ウルグラ隊から残り、王に追従するのは2人のみ。
“秋陽”のフェリスと“吊喰”のコルボーだけ。レオードが側近として選んだ2人の戦士が、打倒皇帝を誓って玉座を目指す。
「チッ、流石にすんなり通させてはくれねェか…」
それでも多い親衛隊を蹴散らし、黄金像に変え、壁際に吹き飛ばして突き進む。苛立ちに顔を顰めるレオードは、記憶通りのマップを迷いなく駆け抜け、親衛隊からの刃を跳んで避ける。
その傍を、同盟者であるムーンラピスが駆ける。
アリエスとシェラタンの姿はもうない。魔城の何処かに潜んだようだ。
「ついてこっか?」
「いらねェよ。テメェこそ、道中気を付けるこった」
「お互い様ってわけだ。いいねぇ。そんじゃ、オーサマによろしく。頑張って噛み付いてこい」
「ハッ!先にぶっ殺しちまったって、文句無しだぜ?」
「できるもんならね!ッ、メード!古書館はここの下だ!迷子になるんじゃないぞ!!」
「はいっ!」
ハイタッチを交わして、一同は更に分散。玉座の間へと駆けるレオードと側近二人はそのまままっすぐ、メードは突然与えられた任務を熟す為、地下階段のある通路の方へ道を逸れた。
最後に、ラピスはお誘いに乗って、彼女の気配を辿ってその場所へ向かった。
───玉座の間への道程は、長く険しく、レオードでも骨が折れる程。だが、目前まで迫った王座への足掛けに、手を伸ばせないわけがなく。
全ての障害を乗り越え、蹴散らし、突き進み。
遂に、その手を───玉座の間への進路を塞ぐ、最後の扉にかけた。
「行くぞ」
「えぇ、行きましょっか。ところで、心の準備はできたんですか?銀河の王様になる覚悟!」
「言うまでもねェだろ」
フェリスの問い掛けに、コルボーからの熱視線を受け、新たな王を目指す獅子はほくそ笑む。そんな覚悟、初めてあの皇帝を見た日からできている。
今更だ。問われずとも、その答えは決まっている。
傲慢不遜な笑みをもって答えとし。レオードは、玉座を簒奪せんと扉を開いた。
重い音を立てて、玉座の王扉は開き───魔城の主と、相見える。
「───待ちくたびれたぞ」
深淵にて待ち構え、退屈そうに頬杖をついた暗黒銀河の創始者。暗黒王域の皇帝たる、“星喰い”。
ニフラクトゥ・オピュークス。
紫紺の魔瞳を冷たく細め、己の地位を奪わんと画策する王獅子を睥睨する。
「これは陛下。ご機嫌麗しゅう……なんて、綺麗な物言いなんざ、テメェにはもう要らねェなァ?」
「ククッ、威勢のいい子猫だ…」
「その子猫に、テメェは膝を折るんだよ。悪りぃが、その椅子は今日から俺のもんだ」
「よく回る口だ」
好戦的に笑い、黄金の鎌を突き付けて。小細工を捨てて王獅子は挑む。
今まで何度も策略を巡らせてきた。
直接的な暗殺から、妨害政策、あらゆる手段を講じて、暗黒銀河の主の強さを測ってきた。だが……それも今日で終わりだ。
今までのは全て児戯。ここから先は、本気の取り合い。
「フッ……今までも、我に挑む者は何人もいた。そして、我は全てを下してきたわけだが……我が宿敵、魔法少女の前菜に過ぎんオマエに、何ができる?」
「おいおい、ひでぇじゃねぇか。もう勝った気かよ」
そうレオードを見下すニフラクトゥだが、レオード自身その気持ちは理解できた。確かに自分は繋ぎである。この王になりたい気持ちを汲まれて、倒してしまう前に戦いの機会を貰えたに過ぎない。
己の実力は理解している。弁えている。
悔しさもある。だが、その程度で不貞腐れるのなら……彼は何百年と時間をかけていない。絶好の機会。例えその地位が、おんぶにだっこの代物であっても。タイミングを失ってしまえば、もう二度とその機会は訪れない。
ある意味、レオードには次がない。
無いからこそ───今ここで、全力を尽くす。全力で、玉座を獲るだけだ。
「何ができるかって?んなもん簡単だろ───なんでも。なんでもできるさ」
「ホォ?言うではないか」
「これから先は俺の、俺たちの時代だ。テメェの治世は、今日でお仕舞い。どうか笑顔のままで死んでくれ。今からテメェは、前菜様の黄金で、床を舐めるんだからよ」
「ククッ、よかろう」
尊大に笑い合う二人の王。王獅子と星喰いは、敗北など知らぬ顔で向かい合う。
片方は立って、片方は座ったまま。
どちらも一歩も譲らず───これからの世界の、趨勢を決める戦いへ。
「胸を張れ、レオード・ズーマキング。そして認めよう。オマエは、確かに我の敵だ。皇帝に相対するに相応しい、叛逆の星であることを認めよう」
「光栄なこって」
「ククッ、では───存分に戦い明かそう。やがて来たる終わりの時まで、オマエと踊ろう。そう易々と、我が力にひれ伏すでないぞ?」
「ハッ……テメェこそ、あっさり黄金に染まるのだけは、やめてくれよ?」
そうほくそ笑んで───黄金の波と星滅の闇が、暗黒の玉座を彩った。
夢星同盟、総督
───“輝星王獣” レオード・ズーマキング
獅子の四魔牙
───“秋陽” フェリス
───“吊喰” コルボー
vs
暗黒王域、皇帝
───“星喰い” ニフラクトゥ・オピュークス
決戦、開幕。
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「っと……そろそろぶつかった頃合いかな。すごい魔力が震えてる……」
魔城深部。渡り廊下を歩いていたラピスは、背後で突然膨れ上がった空気の振動を感知して、魔力の圧を浴びて、やっとかと背後を振り向く。
このまま歩いていけば、ラピスはラピスの戦場に着く。
他の仲間達が激戦を繰り広げている中、まだ始まってもいないことに、なんだかなぁと内心思いながら歩みを再開する。
歩きながら思うのは、自分の知らぬ間に異星人を育て、敵陣を強くしたあの辻斬り。
今まで、何人もの異星人を相手取ってきた。
猛進する将星。水濁した将星。魅了する将星。黒染めの将星。夢を啜る古樹。侵略せし将星。空を折る将星。星を司る将星。弓射貫く将星。雷親父の将星、好敵手の皇帝。
あらゆる強者たちと渡り合い、今に至る。
新たに現れた脅威。元から存在は知っていたが、まさかそこまでとは思っていなかった。
だからこそ、己の手で捩じ伏せる。
かの侍を彷彿とさせる、本当に弟子であるという剣士を叩き折る。
苛立ちはない。あるのは、ただの戦意。煮え滾る魔力で斬鉄を歪めるのだ。
そう、決意を新たにしていると。
「───あ、あれ?蒼月様…?」
対面の曲がり角から、見慣れな姿のメイドが……何故かメードが現れた。冷や汗を垂らして、あっヤバい迷子なのバレた、と後退った。
ラピスはジト目で睨みつけた。
「なにやってんだオマエ……迷子になってんなよ。あんな言ったのにさぁ……」
「すいません…」
目を伏せて謝るメードに、ラピスは溜息を吐くことしかできない。一応、目視と魔力感知で、目の前の駄メイドが本物の部下であることを確認した上で、嘆息する。
まさかここまでの迷子癖があるとは……
仕方ないから、対戦相手である秘書の元まで、メードを直接送り届けてやるしかない。転移魔法か、転送魔法か、若しくは引率か。どの手段を使おうか考えながら、彼女を手招きする。
「反省しろよ…」
「はい、本当に申し訳ございません……あの、えっと……罰則などは無しにして頂けると」
「暫くお菓子抜きかなぁ」
「そんな…」
絶望し切った顔で主君の傍に立ったメードを、ラピスは鼻で笑って。そういう所もらしいっちゃらしいと、表情に半笑いを浮かべる。
そうして、左手に魔法陣を浮かべて。
手間がかかるからと、事前に調べておいた指定座標まで届けようとした……
その時。
グサッ
ラピスの腹部に、痛みが走る。
「あ…?」
不思議に思って、痛みの先を辿れば───鋭利な短刀が腹部に突き刺さっていた。
ナイフの持ち主は、他ならぬ彼女。
冷たい目付きで、いつも以上の無表情で。
至近距離で暗殺を仕掛けた“メード”が、ラピスを下から見上げていた。
「オマエ…」
無言の配下を見て、ラピスは漸く気付く。この自分が、図られたことを。
「すまないな」
爬虫類の皮膚───カメレオンのそれへと戻っていき、身長も本来の小高いそれへ変化していくのを、茫然とした目で見上げる。
悪夢の大王から引き抜かれた刃は、“悪夢を殺す輝き”を宿していた。




