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五、重要な事は、本人が知らぬ間に決まっていると言う話

ギリギリの毎日投稿継続です…

「へ?ここは…」


「八重真…様?」


「え?リル?」


「八重真様!!」


「むぐっ!?」


 よく分からない。見知らぬ場所で目が覚めたと思ったらリルがそばにいて、声を掛けたら頭を抱きしめられた。幸せです!!って、違うだろう!?


 何だったっけ…何か忘れているような?・・・柔らかい、良い匂いがする!!って、違う!けど、この状況で他の事を考えられるわけないでしょうが!?


 と言う訳で、状況把握に失敗した俺は、現在の状況を楽しむ…もとい、リルの気が済むまで抱き締められている事にした。決して、俺が幸せの時間を堪能したかったわけではない。本当だよ?


「取り乱してしまい、申し訳ございませんでした」


 しばらく抱き締められていたが、急に正気に戻ったらしいリルは、離れてすぐにそう謝ってきた。


「いや、謝る事なんて何一つないさ。幸せ…こんなにもリルに心配して貰えるなんて、すごく幸せな事だからな」


 危うく本音を漏らしてしまいそうだった俺は、何とか取り繕う事に成功した。…成功したよね?


「その様子では大丈夫そうではありますが、念のためにエルル様を…」


「その必要はないですよ、リルさん」


 何と言うタイミング!リルが、エルルさんを呼ぼうとしていたタイミングで、丁度ミューエルさんがやって来ると言う奇跡が起きた。まあ、奇跡を安売りしてはダメだな、偶然って事にしておこう。


「身体に異常はないでしょうか、八重真さん?」


「は、はい!大丈夫です!!」


 未だに、最初に会った時の衝撃が残っている俺は、エルルさんを前にすると少し緊張してしまう。もちろん、悪い人ではないのは分かっているんだけどね…


「見た目にも、確かに大丈夫なように見えますが…念のため、お手を借りてもよろしいでしょうか?」


「え、ええ。こんな手で良かったら、どうぞ!」


「ええと…失礼しますね」


 よく分からなかったが、手を取りたいと言って来たのでもちろん、手を差し出した。美人に触ってもらえるなら、この手を差し出す事に否があるはずもないだろう!!


 なにやら、俺の手を取って目を瞑り、何かを確認している様子だったミューエルさんだが、しばらくして手を残念ながら放して微笑んで来た。


「問題はなさそうですね、良かった」


 ほぅと息を吐きだした、エルルさんは、何か安堵している様子だった…どういう事?


「八重真様、ダンジョンからボロボロの状態で出て来て気を失ったのを覚えておられますよね?その状態の八重真様を、治療して下さったのが、癒し魔法を使えるエルル様だったのですよ?」


「…え?」


 ・・・そうだ!そうだった!!俺、ダンジョンを満身創痍で脱出した直後、安堵から意識をそのまま失ったんだった!?完全に、頭から吹き飛んでいたわ!!


「八重真さんは、確かに疲弊しておりましたが、命に別条があるほどではなかったんですよ。ただ、限界まで酷使した精神的な疲労までは回復出来なかったみたいで、中々目覚めなかったようですね。外的重症と言うなら寧ろ、八重真さんが運んで来た彼女の方が…」


「そうだ、あの娘!俺が、助けたあの娘は大丈夫なんですか!?」


 俺は、全てを思い出し、彼女の安否を求めてエルルさんに詰め寄った。


「お、落ち着いて下さい。彼女なら、私が治療してすぐに意識を取り戻しました。八重真さんの事を、凄く気にしておられたので、すぐにここにも顔を出すと思いますよ」


「そ」

「旦那様ぁ!!良かった!!目が覚めたんですね!!!」

「れはぐぉえ!!?」


 それは良かったと言おうとした矢先、一人の少女が部屋に飛び込んで来た。いや、正確には俺の腹に飛び込んで来た!!その余りの衝撃に、変な声が口から漏れる事になった。何してくれとん!?


「…ふぅ、良かった。君も無事だったのか」


 リルの手前、なるべく格好つけたかった俺は、何事もなかったように少女と接する。だが


「旦那様!旦那様ぁ!!目が覚めなかったらどうしようかと!!ソリュは、ソリュは!!!」


 恐らく、俺が助けた少女だと思うが、如何せんイメージが違いすぎて戸惑いしかない。だって、俺の腹へとダイブした後は、話しを聞きもしないで、腹にグリグリと顔を押し付けて何やら叫んでいるんだぜ?誰か、対処法を教えてくれ…


「八重真様から離れなさい、蛆虫。迷惑しているのが分からないのですか?」


 思わずブルッとなるような、冷たい声が聞こえた。え?誰の声?と、振り向くとそこにはリルがいた。はて?俺のリルはこんな冷たい声何て出さないよ?物陰に誰か隠れているな!?


 俺は、キョロキョロと先ほどの声を出した人物を探してみるが、誰も見当たらない。もしや、ミューエルさんだったのだろうか?


「五月蠅いですわよ、使用人の分際で。ソリュと、旦那様の逢瀬の邪魔をしないで欲しいですわ」


 またも、ブルッとしまうくらい冷たい声が聞こえた。これは、俺の目の前から聞こえたが、どういうことだ?この、奇想天外な少女は確かに可笑しいが、こんな声を出す娘じゃないように見えたが…


「虫の囀りは、普通は趣のあるものなのですが、不快ですね。目の前の蛆虫だけは、どうやら趣と言う言葉すら当て嵌まらない、ただの害虫と言う訳なのでしょう。今すぐ、消えなさい」


 さ、寒い!!何故だ!?こちとら、ベッドに入っているんだぞ!?なぜ、こうも芯から冷えるような感覚を味わっているのだろうか!?


「あら?どうやら、使用人にも質があるようですわ。まさか、人語が理解出来ない猿が、使用人の真似事をしているとは、夢にも思いませんでしたわ」


 おおおおお!?ヤバいヤバいヤバい!!寒い寒い寒イイイイ!?何で!?どうして!?ホワイ!?俺、このままじゃ布団の中で謎の凍死をしてしまいそうですよ!?誰か、タスケテ!?


「蛆虫」

「似非使用人」


「害虫」

「猿」


 だ、駄目だ…俺は、このまま・・・


「いい加減にして下さい!お二人とも!!目を覚ましたばかりの、怪我人の前ですよ!二人纏めて排除しますよ!!!」


「「ごめんなさい、八重真様」

         旦那様」


「ごめんなさい、八重真さん。唖然としてしまい、止めるのが遅く…八重真さん!?」


「八重真様!?」

「旦那様!?」


 意識を失う直前、俺はこう思っていた。止めを刺したのは、エルルさんの猛吹雪ですよ?と…ガクッ




「・・・なんだ、夢か」


 よく分からない夢だったな。何故か、美女に囲まれながら布団の中で凍死すると言う訳の分からない夢。どうせ夢なら、もっと幸せな夢にしてもらえませんかね?


「八重真様、もう平気でしょうか?」


「ああ、よく分からない夢を見たよ」


「・・・八重真様、本当に申し訳ございませんでした。感情に流されて自身を制御出来なくなってしまうなど、侍女として失格ですね…」


「え?何の話?」


 だって、あれ夢だよね?


「覚えておられないのですか…?」


「え?え?…夢じゃなくて現実だった?」


「はい…残念ながら…」


「そうなのか…ま、まあ、よく分からないけど、誰だって失敗はあるし、リルは気にすることないよ。だって、リルはそばにいてくれるだけで、俺の幸せになるんだからさ」


 本当に、リルのお陰で助かった!ギリギリだったとは言え、リルの言葉や短剣がなければ、間違いなく俺は死んでいた。よく分からない多少の失敗がなんだ?俺は、リルからそれ以上のものをたくさんもらっているので、全く問題ないな!!


「八重真様…あの…その…」


 あれ?何だか、リルが珍しくテンパってない?俺、変な事を言ったか?


「あのさ」


 リルに声をかけようとした時だった。何かが駆けてくるような音が聞こえ、嫌な予感がした。そして


「旦那様!!お目覚めになったのですねぇ!!!」

「デジャヴゥフェ!?」


 止める間もなく、またも腹に衝撃を受けた。何なのこの娘?俺に、止めを刺したんですかね!?


「た、頼むから落ち着いてくれ…」


 俺は、このままではまた同じことが繰り返されるんじゃないかと思い、彼女に落ち着くように促した。


「ハッ!申し訳ございませんでしわ。私とした事が、嬉しさの余り同じ過ちを繰り返す所でしたわ」


「お、落ち着いてくれたようで何よりだ…」


 そう言いつつも、リルの様子を伺う。うん、言いたい事がありそうな感じだが、何とか耐えてくれているな。


「で、まずは君の事についてなんだが…」


「そ、そうでしたわ!旦那様は、気を失ってしまっていて私の事をお話すらしておりませんでした!私、ソリューネ・アンスネルと申しますわ。気軽に、ソリュとお呼び下さいね、旦那様♪」


「ソリュ…ね、覚えた。それで、その旦那様と言うのは…俺の事なのか?」


「その通りですわ!旦那様とは、旦那様の事ですわ!!」


「え?ええと…」


 伝えたい事は伝わって来るのだが、客観的に大丈夫か?と思った俺は、助けを求めて視線をリルに向けた。すると、リルは処置なしですと言うように、首を振って応えた。うん…きっと、深く考えたら負けなんだ…


「旦那様って事は…俺と結婚したいとか…そう言う?」


「もちろんですわ!!途切れ途切れでしたが、旦那様が私のために!自らを省みずに戦う姿!!確かに見ましたわ!!世界中のどんな求婚よりも、私に愛を与えて下さいました!!その姿を見て、確信しました!!!私の事を誰よりも愛してくれていると!!!!」


 何やら、火傷しそうなくらいの温度で熱く語りだしたんだが!?いや、え?彼女の中では、俺がプロポーズしたような感じになってるのか!?待て待て待て!!?リル!リルさんの様子は!?


 そっとリルの様子を伺うと…笑顔だった。俺の背筋が一瞬で凍るほどの素晴らしいエガオだった…


 俺の身体が、急に震え出した…お、落ち着け…まだだ、まだ修正出来るハズ。


「そのことなん」


「分かっておりますわ!子供がすぐに欲しいと言うのですわね!でも、旦那様は病み上がりですので、せめて様子を見て明日以降の方が良いのではないかと思いますわ。もちろん!旦那様が望まれるのでしたら、すぐにでも営む覚悟はありますわ!!」


「全然分かってねえ!?」


 思わず口頭でツッコんでしまったじゃないか!?いや、いくら何でも暴走しすぎだろ!?一体、俺が気を失っている間に何があったんだよ!?思わず、助けを求めてリルの方を見た。寒気のするエガオのままのリルだったが、俺が助けを求めるような顔をしていたせいだろうか?折れてくれたようで、ため息と共に謎の圧力が霧散した。


「うじ…ソリューネ様、本当に八重真様の妻となるおつもりでしたら、しっかりと夫となる者の話も聞くべきかと思われますが?」


「そ、そうですわね。私とした事が、どうにも旦那様との事となると気が急いてしまうようで…申し訳ないですわ」


 笑顔で、ありがとうリル!と伝えた後、彼女にもう一度問う。


「落ち着いた?落ち着いたよな?」


「はい、ですわ。何か聞きたい事がおありなのでしょうか?私で答えられることなら、どんな事でも答えますわ!!」


「落ち着いて、落ち着いて」


 何故かすぐに興奮しだすソリュに、落ち着くようにゆっくりと言い聞かせた。効果はあったようで、息を吐きだして落ち着いてみせた。


「それじゃあ、質問だ。俺に惚れてくれた経緯は何となくだけど分かったが、本気で初対面の俺に嫁ぐつもりなのか?君、苗字…いや、ファミリーネームの方が伝わるのか?ええと、ファミリーネームがあると言うことは、貴族じゃないのか?」


「貴族ですわ。そのせいで、家から望まない縁談を持ち込まれたと思ったら、すでに確定事項だと言われたのですわ。余りにも理不尽だったので、私、家出を決意しましたの!探索者となって、自由な恋愛をしようと思ったのですわ!!」


 ああ、ソリュは元々興奮しやすい性格なんだな。しかし、ソリュのような美少女に好かれるのは悪い気はしないが、如何せん直情的過ぎるのではないかと思われる。少し歯車が狂っただけで、あっさりと離れて行ってしまうのではないかと言う不安があるのだ。やはり、俺にはリルしか!肝心のリルが、俺に恋慕してくれるかも分からなかったりするのだが…


「そんな時」

「駆け出し探索者として活動を始めたばかりで勝手がわからず、大量の魔物を引きつけてしまって死にかけていた所を、俺に助けられてこの人しかいないと思ったと言う訳か?」


「さすがは旦那様ですわ!その通りなのですわ!!」


 違ってて欲しかったなぁ…前提として、ソリュが貴族だから無下にしにくいんだよな。


 またも、ちらりとリルに助けを求める視線を送った。すると、今度は落ち着いているようで大きく頷いてみせた。さすがは、リル!俺の視線だけで、全てを悟ってくれたようだ!結婚しよう!!


「ソリューネ様、八重真様の妻となる覚悟はあるようですが、一つ懸念がございます」


「何ですの?まさか、すでにあなたと八重真様が結婚しているとは、言わないですわよね?」


「そ、そのような事実はございません!失礼しました。そうではなく、八重真様は探索者として名を上げ有名となる事が決まったお方です。従って、複数の妻を持つ事となるでしょう。ソリューネ様は、それを受け入れる事が出来ますか?」


 常時なら、すぐに否定の言葉を挙げて止められたかもしれない。だが、この時の俺は、リルがすぐに俺との結婚を力強く否定した事がショックで、しばらく周りの音が上手く聞き取れない状態になっていたんだと思う。茫然自失と言うやつだな…


「少し…いえ、はっきり申し上げますと、旦那様を独り占めしたい気持ちはありますわ。ですが、旦那様の格好良さは誰よりも分かっているつもりですので、旦那様に他の女…女性が、惚れてしまうのも分かるのですわ。ですから、独占したい気持ちを堪えて、第一夫人として旦那様に誠心誠意仕える事にしますわ!!」


「これは、分かっているようで分かっていない気がしますね。ソリューネ様より身分が高い方が加わる可能性もあるのですが…もう、止められそうにないので後は、八重真様の采配次第となりそうですね」


 リル…やっぱり、俺の事は異性として見ていないのか?しかし、上手く隠している可能性も…あるかもしれない。悩ましいな!!


 リルの事で頭が一杯になっていた俺は、ハーレム許容の是非についての話に全く気が付いてなかった。これにより、ほぼ確定となっていたと気が付いた時には、すでに戻れないように逃げ道が塞がれていたのだが、それは少し後の話だ。


 この時の俺は、ただただリルの気持ちが気になって、一人で悶々としていただけだった。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。


明日は間に合うか分かりませんが、次話も宜しくお願いします。

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