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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第二章-b
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【2018年9月17日-08】

「まぁ真面目な話すっとよぉ、離婚した嫁が体調崩しちまってな。子供は俺らと絶縁してっから頼れねぇし、嫁の両親も既に死んでるから、俺が食わしてやってたんだ。けどバイトだけじゃ火に油だし、しゃーねぇから大金手に入れる事が出来る銀行強盗だ。あん時の俺ぁ追い詰められてたね」


「奥様は今」


「あぁ、四九が補助で病院に入れてくれた事もあって、回復したよ。今はパートで細々食ってるから、たまにこうして四九の仕事して、金を貰って三割は嫁に入金、三割は子供に入金、残りが俺の稼ぎだ」


「絶縁しているのに、子供にも入金を?」


「何だかんだ言って血を分けた子だからなぁ。若い時に散々迷惑かけたし、金だけでも不自由無くせりゃ、それが俺の罪滅ぼしとして、心に余裕もできらぁな」


「アンタみたいな殊勝な親もいるんだな。……俺の親とは大違いだ」



 先ほど親を殺したといった青年が呟いた。弥生を除く全員の視線がそちらに集まった事で、青年も苦笑しつつ、話す。



「大したことじゃないよ。俺の親は、俺って子供をただの道具としてしか見てなかった。指名手配されてるから外に出れない親に代わって金稼いで来るだけの存在。ただ十五になる時に嫌気がさして、何時も金稼ぐ時に使ってるナイフで腹部に一突きしてやったら、自分で勝手にナイフ抜いて、出血多量で死にやがったよ」


「何時もはどのようにお金を稼いでいたのですか?」


「興味あってもやるなよ? 俺は上手く逃げてただけで、普通はバラされるぞ」



 まぁ女のアンタが出来るかどうかは知らんが、と予め言った彼は、外を眺めながら淡々と語り始める。



「簡単に言うと、ポン引きとかチョンの間、後は違法風俗店なんかは人が少ないし、警察に通報される危険性も低いから、嬢を脅して金を強奪するんだよ。んで、嬢がピンハネで持ってかれる額以上を握らせて、黙ってるように警告すると、あら不思議。警察沙汰にもならずに、嬢も幸せ。win-winで金稼げるって寸法だ」


「なるほど、売り上げ全てを強盗が盗んだと言えば、嬢はその内の一部をピンハネ無しで貰えるという事ですね。そして、ピンハネする側である元締めは違法性がある為に警察へ通報も出来ない、と」


「そういう事。誓って言うが、嬢を殺して強奪はしてないからな。殺したのは親だけだ。それで警察へ自首して刑務所に入ろうとしたら、リソーサーに引き留められて、この仕事を斡旋して貰った。戸籍もその時に貰ったよ」



 彼の言うリソーサーとは笹部蓮司の事だ。彼は信用できる人材の確保及び作戦立案、情報収集など、本来は四九の課長であるものの、彼が受け持つ業務は多岐に渡る。元々弥生を引き入れたのも彼であり、また彼は人材を適した配置に置けることで有名な指揮官でもある。


弥生は男達の話に反応を示す事無く、ただ外を眺めて警戒しているようだった。元強盗犯の男が「あんまり子供の前でする話じゃなかったなぁ」と、小さなチョコレートを彼女へとやり、弥生は数秒それを見据えた後、ウェストに視線をやる。



「頂いたらどうです?」


「……ありがとうございます」



 それを受け取り、包み紙を取って、口に含む。チョコレートが彼女の舌で溶け、その甘さに少しだけ微笑んだ事で、若い男もフッと笑った。



「そうだな、子供に聞かせる話でも無かった。まぁ嬢ちゃんも姉さんも、女子供だったら他に生き方は色々ある。俺達が追い詰められて取った方法や、四九みたいな仕事をしなくても、貰った戸籍で色々、それこそ学校だって通えるだろうさ。今後は真っ当な仕事に就いた方がいい」


「……この仕事も、誰かがやらなければならない仕事です」



 彼の言葉に含むところでもあったのか、弥生はそう言って外を眺める時間へと戻る。だが若い男は「そうだな」と肯定はしつつ、しかし首を横に振って否定も含めた。



「この仕事も誰かはやらなきゃならない。けどそれは、お前みたいな子供じゃない。姉さんみたいな綺麗な人じゃない。もっと人生追い詰められてて、何もする事が出来なくなって、失うモンも何もなくなって、ようやく選ぶべき仕事だと思う」


「私は、この仕事しか、お金を得る方法なんて」


「あるさ。お前、若いからって無知を肯定するのは違うぞ」



 言葉の意味が分からず、弥生はウェストと顔を合わせて、首を傾げる。



「若いってのはそれだけで財産だ。身体はこれから出来上がってくるし、脳もしぼんじゃいないからどんだけでも知識を詰め込める。大人になってから身体や脳を鍛える事は出来るが、子供の時程は無理なんだよ。なのに、子供の時に『ガキだから』って理由で無知を肯定しようとするのは勿体ないだろう?」


「仕事があるかどうか、なんですが」


「今、お前幾つだ?」


「……十四? 十五?」


「おそらく弥生は十五ですね」


「十五! だったらバイトが出来る。コンビニバイトでもなんでもな。それこそ四九のリソーサーは社会復帰もある程度サポートしてくれるから、保証人が欲しい場合も宛がってくれるさ。相談すりゃいい。俺だって普段は普通の仕事してるぜ。まぁバイトだけどよ。オッサンもそうだろ?」


「俺の場合は普段、清掃業の派遣で食ってるぜ。四九の仕事は無くても食ってけるだろうよ。金欲しいから四九の仕事やって死にかける事は何度もあるが」



 違いねぇ、と二者で笑い合い、手と手をパンと合わせた男達。


弥生は今まで、こうした者達との交流が希薄で、ただ狼狽えるだけしか出来ない。



「まとめるとよ、若い内は視野が狭いから、今いる場所が全てだと思い込んじまう。これがいけないんだ。もうちっと手を伸ばせば、他に生き方なんざ幾らでも選べるのに、そうしないなんて勿体ない。それでも見つからなかったり、頼るモノが無かった時、四九に頼って命を賭けて、大金手にしてまた探せばいい。その時にまた会ったら、今何してんのか話そうぜ」


「……生き方は、選べる……」

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