タイトル未定2026/11/03 16:18
巴奈の邪魔をしに栞が訪ねてきたのは二月最初の日曜の午後だった。駅から電話を寄越し、いる? と尋ねる。
応答しているのだからいるでしょう、そう答えると
「あぁ、そっか」
と言った。本当に気付いていなかったのかと、巴奈はむくむくと暗雲に巻かれる。
この後もずっと家にいる? という意味でもなく、本当に! わかっていなかったのだ。
例によってのおかしさに、一層の輪がかかっているようである。平和な休日の客人として、あまり歓迎したくない。
高校来の友人ではあるけれど、思えば歓迎したことはなかった気がする。それが二人の友人関係であった。
「おみやげだよー」
手渡されたのは駅前のケーキ屋の箱だった。期待していたわけではないのだが、おみやげの一言で向上した気持ちは文字通りの瞬殺である。
特集本にちらちら名を見せるケーキ屋なのでそういった意味での不満ではないが、ではどういう意味なのかと言うと、海外系土産の品が現れると思ってしまったのである。巴奈は。
栞は学生特別カリキュラムに参加し、昨年末から一月半ばまでヨーロッパ各都市を転々としていたのだった。
帰国以来、初めて会う。
家族の一人が同じように参加していたので、消息ならば聞いていた。数々のエピソード――やらかしてきたこと――を客観的事実として知っている。
この個性的な友人は、地球上のどんな場所に出かけて行こうと、自らのペースに変化を生じさせはしないらしい。
そのマイペースマイルールマイテンポの友は、巴奈のテンションの上がったり下がったりなどには構わない。かばんをがさがさとかき回し、
「あとね。どっちがいい? 金のエッフェルと銀のエッフェル」
親指サイズのエッフェル塔のキーホルダーがぞろぞろと現れた。金銀取り混ぜ、ざっと二十。
そんなにあるならどっちがなどと訊かずにどちらもくれてもいいんじゃないか? どちらも特に欲しくはないが。
「こんなのもある。大英博物館の呪いのミイラ鉛筆」
もはやなにを言う気にもなれない。巴奈は金銀のどちらかのセレクトどころか、礼を述べることすら後に回し、ケーキの箱を抱えてキッチンに立った。
「巴奈ちゃん」
続き間のリビングから、栞の声が追いかけてくる。
「なに」
返事はそっけないものになった。栞相手にそっけなくなかったことなんかないような気もする。たぶん真実。
好き嫌いの絡みではない。ミイラ鉛筆に怒っているわけでもない。ただこれが楽なのだ。
「巴奈ちゃんは梓朗先輩が私のこと好きだって知ってた?!」
「は?」
振り返る。やかんから水があふれ出す。捲り上げた袖にも水がはねとぶのも構わず、巴奈は栞と向き合った。
衝撃の事実を知らせるかのように、見開かれた目。眉を寄せているのは真剣であることのアピールか。と言っても縋るような調子ではなく、本当に驚いちゃったんだけど私――の前面出しだ。
こいつ、なにを言い出したのか……
やっと水を止め、余計な分をやかんから追い出し、火にかけた。食器棚からケーキ用の皿とフォークを取り出しながら、ちら、と二階に視線を向ける。
話を聞く前から気が遠くなりそうだった。箱を開いたらプリンが入っていたために、巴奈はムカッとイラついた。
フォークじゃないよ。スプーンだよ。




