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瑠璃子とバイクと僕の物語(マン島TTへの想い)  作者: タマツ 左衛門之介久


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8/8

ep.8 埋め立て地のモトクロス場〜チャレンジ

 初めてのオフロード車、初めてのモトクロスコース。

 なんとか1周目を回りきり、大袈裟かも知れないがなんとか戻ってこれた。


 そう言いたくなる程の荒れたコース、絡みつく泥は僕を地面に引きずり込もうと迫って来る。

 僕にとってはとにかく全てが目まぐるしい初体験!

 体は色々と覚えてくれたみたいだし、新たな知識や新発見だとかが溢れ出しそうだ!


 そして多種多様のセクションは、ライダー達を試すかの様に配置されている。

 まぁ初心者としては無事に一周を周り切れたとして良しとしよう。



 僕がコースインした場所に瑠璃子とグッチさんの姿が見える。

 もしかして、一周して帰って来るのが遅いから心配させた?

 まあ、途中で他のライダーの観察とかしてたから。

 そのおかげで、色々と知る事が出来た。


 オフ車、それとモトクロスコース、

「グッチさん、分かったよ!」

 僕は二人に手を振って2周目に入る。



「さあ行こう!」

 僕はアクセルを開いた。

『パーン!』

 KDXは応えてくれる。


 先ずは小さなジャンプ台。

 いきなり大きく飛ぶ必要は無いだろう、、、いや、飛んだ!

 KDXの瞬間的なパワーと車体の軽さ。それは意図も容易く僕をジャンパーに変えた!


「うっひょー!」

 ほんの僅かな瞬間であったが、マシンの前後輪は確実に地面を離れた時間があった。

 

 シートから立ち上がり、ステップを踏み込みくるぶしで挟み、慌ててハンドルを自分の方へ引き付けるように上げる。

 ちょっと準備不足でハンドルでヘッドアップするタイミングが遅れてしまったが、この一連の動作は自然に出た。

 直ぐ様着地だ。

 車体を真っ直ぐに意識して、リヤタイヤから先に着地、続いて前輪に来る衝撃をハンドルと共に受ける。

 ジャンプ、と言うには大袈裟かも知れないけど、だけど僕とマシンは地面から離れた、それはバイクでジャンプしたんだ。


 フロントの倒立フォークはこの程度なら衝撃を難無く受け、次のセクションへとマシンを立てる。

 大きくカーブしながら、次に来るのは僕が難敵認定している『ワダチ』だ。

 

 僕をマシンから振り落とし、地面に這いつくばらせようとする、並ぶ大蛇の背に飛び込む!

 2ストKDXの瞬間的に溢れるパワーと軽い車体は、ワダチを物ともせずに突き進む。

 左右に暴れる後輪は、僕を振り落とそうとするかの様に大きく暴れる!

 それに怯まずアクセルを捻る!

 ハンドルを支点にステップに体重を掛け、スネの内側で車体をフォールドしての大きく左右に振られる後輪をコントロール。

『ガツッ、ゴォッゴォゴォゴォッ、』

 速いリズムで轍を抜ける。

 暴れる後輪を無理矢理押さえ込むのでは無く、上手く力の方向を逃がす、瞬間、瞬間的に。

「あれ?」

 難敵、攻略しちゃったぞ。


 だからモトクロスブーツはこうなってんのか。

 エンジンの近くに足が触れれば当然熱い。

 だけどモトクロスブーツであれば、ふくらはぎを隠す位に長く、硬いスネ当て部分でエンジン近くのフレームごと車体を挟み込める。

 ニーグリップをスネの内側で行う感じ。

 だけど足首の自由度が低いんだよなぁ。固い。


 だからと言ってまだまだコースは僕に立ち塞がる。油断は禁物。


 轍を抜け、フーブスを越え、大きくターンをすれば眼前には本格的(?)なジャンプ台が迫る!

 ジャンプは前輪を上げ後輪から着地が基本だ。

 前輪から先に向かえば着地の瞬間にツンのめり、ハンドルは取られ転倒するだろう。

 速度が速ければ速い程、それは大きな影響となる。

 大きな怪我に繋がるし、マシンも破損してしまうかも知れない。


 僕は加速してしっかりとジャンプに備える。

 ジャンプ台の土手を前輪が越える。

 その瞬間を意識してハンドルを引き上げる。

 後輪が土手を蹴る!

 ジャンプの瞬間は自然と前輪から浮き上がる。

 

「おおぉ〜!」

 ジャンプ、その瞬間『フワリ』と感じた。

 そして気持ち後輪から早目に立ったまま着地。

 着地するまでシートに座っちゃいけない、着地の衝撃をシート上で受けてしまえば、その反動で体は振り落とされてしまうかも知れない。


「これがジャンプかあ、、、気持ちいい!」

 何秒間とも数えられない時間かも知れないけど、僕は確実にバイクでジャンプしたんだ。

 でも実戦だと、高くよりも『低く遠くへ』となるのだろう。

 よし、次で試そう。


 ジャンプの着地の途端、すぐに今度は左へのカーブ!

 車体を起こし、イン側の際、コーナーへと飛び込む!


 舗装道路のコーナー何かとは全く違い、急旋回が求められる90度以上のカーブを回り込む! 

 カーブ進入時にステップから左足を前方に突き出し地面を蹴るかの様に、それを支点にしつつ車体を倒しアクセルを捻る。

 足出しライディングはオフロード車独特のモノと言っても良いだろう。

 先ずなにより、コーナーの瞬間に荒れ地に車輪が取られ不意な転倒を防ぐ為でもある。それとコーナーリングの姿勢がリーンアウト気味になるので、人体の構造としては片足を前に出す事は自然な動きでもある。


 僕が左足を降ろしたマシンはその重心が前方に掛かる事となり、それはフロントタイヤのグリップ力に繋がる。

 逆に、リヤは荷重負荷から少し解放され、リヤタイヤはホイルスピンに近い形で唸りを上げ激しく回る!

 一種のスピンターン的な動きと組み合わされ、シートに荷重を戻せばリアはグリップを取り戻し前へと車体を運び出す!

 ターンの終わりに飛び出しでもするかの様に、次の短いストレートに突っ込んで行く!



 モトクロスコース、とにかく一瞬一瞬が激しい!

 気を抜く間が無く、次から次へと各種のセクションが迫って来る!


 激しく波打ち揺れる車体!ジャンプし、ターンし、轍へ突っ込む!

 コース上に優しく走らせてくれる場所なんて無くて、少しの道も深い溝が刻まれていて、固い地面軟らかい地面が混ざり合ったり、、、気を抜けば泥を噛じる事になるだろう。


 とにかく、面白い!

 オフロード車にしろコースだって初経験である事には変わらないけど、決して一般道では体験出来ない走り。

 何よりオフロードであれバイクを走らせる事に特化されている場所だから、対向車だったり取締規制を気にしなくていい!

 ある意味思いっ切りエンジンを回しバイクを走らせられる!


 それも本日の相棒(グッチさんの)KDXのおけげだな。

 

 カワサキのKDX200SR

グッチさんのコイツは前輪倒立フォークが装備された1990年式のモデルだ。

 2ストローク198cc35psの単気筒。

 6段ミッションを備えている。


 元々は、エンデューロレーサーだったKDX200R(1988年)がベース車であり、保安部品等を装備することで公道走行を可能としたオフロードトレール車。


 そしてKDXシリーズには、中速域から高速域にかけてのパワーを最大限に引き出すカワサキ独自の KIPS (Kawasaki Integrated Powervalve System) が搭載されている。


 カワサキのKIPS、2サイクルエンジンの排気ポートの高さと容積をエンジンの回転数に応じて同時に変化させ、低速トルクと高速の出力パワーを両立させる排気デバイスの仕組みである。

 なんだか目的としては、ヤマハのYPVSと似ている。

 いや、2ストエンジンが目指すコトロは同じなのだろう。


 低回転時は、排気ポートの高さを低く調整し、爆発の圧力を長く維持することで、力強い低速トルクを生み出す。

 サブバルブを開いて排気チャンバーの容積を増やし、排気の効率を調整する。

 高回転時(約6,000回転以上など)は、遠心ガバナーやロッドを介してバルブが動き、排気ポートの高さを高くして排気効率を最大限に高め、サブバルブを閉じて排気流をストレートに逃がし、高回転域での伸びやかなパワーの発揮を目指す。


 まあ、メーカーの説明やウンチクを持っても、実際に走ればどの回転域でもストレス無く走る2ストローク車。

 2スト車の悪癖や悪習なんて知らないままに走ってくれる。

 多くを考えずに、アクセルを開けろって事。



 目まぐるしく迫って来るセクションは、KDXコイツが難無くクリアーしてしまう。

「オマエの力を借りっ放しだな。」

 だけど体はヘトヘトになる。

 体力には自信が有る方だけど、何時もと使う部位が違うからか、たったの2周しただけにも関わらず疲労感に襲われる。

 膝はガクガクと笑い出し、両腕を襲うダルさ。


 しかし、グッチさんが言ったとおり、、、これは病み付きだぁ!




「グッチさん、正雄が来ます。」

「いや、そんな、早過ぎる、それに音だって?!」


 正雄が駆るKDXは、グッチの困惑も知らないままに飛ぶように駆け抜けた。

「正雄、、、何なんだよ!」

 こいつは凄い、忠男譲りだな!

 いや、親父オヤジよりも速くなるぞ!


「瑠璃子さん、どうした?」

「いえ、」


「いえ、正雄がオートバイを走らせてる姿を初めて見ましたので、、、」



「何と言ったらいいのか、正雄は皆さんとは違う格好なんですが、」

 正雄はモトクロスウェアを着ていない、グッチに借りたタイヤメーカーのすす汚れた布ツナギに、色褪せヨレてしまったモトクロスブーツ。プロテクターも借り物だ。

「似合ってる、、、あ、変ですよね。ですけど、」


「似合ってるか、かも知れないな。アイツはセンスが有ると言うのか、バイクに関しての何か才能を感じるよ。オヤジに仕込まれてるせいも有るかも知れないが、」


「センスと言いますと?」

「ああ、アイツは直にバイクの持つ特性が分かるみたいだ。」


「特性ですか?」


「そう。ただ、この特性というのはマシンの性能や能力なんだけど、正雄はもっとこう、何と言うか、性質?う〜ん、マシンの持つ性格を知って上手く付き合うって感じかな。」


「生き物でも無い機械のバイクに性格だとか上手く付き合うだなんて、変な表現方法になっちゃうけど。」

「いえ、何となく分かります、感じます。」




 3周目は思いの外スムーズに走れた。

 今この場は競う場面でもないし、それよりも僕の恰好(モトクロスウェアでは無く、布製のツナギ)もそうだけど、なによりも仲間内の走行会だから皆さんは楽しむ事を優先させているのだろう。

 その証拠に、皆は遅れる者や先を走る者に突っ掛かって行ったりしていないし、目配せしてコースを譲り合ったりしている。

 初心者の僕に気遣いしてくれているのも感じる。

 初心者の僕の為にコースの真ん中を空けてくれている。

 そんな皆んなの姿が格好いい。



「ふぇ〜、グッチさん交代。」

 エンジンが掛かったままのKDXを受け取れば、今度はグッチがコースへと飛び出して行った。


「正雄、どうだった?」

「うん、3周しかしてないのに膝も腰も腕も、もうヘロヘロだよ。」

 運動不足は否めません。グランドに立たなくなった時間は過ぎたからなぁ。


 グッチさんが周回して来て、手を振って見送ると僕たちはパドックへと向かった。


 僕は疲れて地面に直接座り込んだ。泥にまみれていたので、ベンチは遠慮した。

 だけどモトクロスコースを走った感覚、喜びに合わせて少し気持ちは痺れていた。


 この特製パドックの周囲を見渡せば、小さな子ども達や奥さま達の姿を多く見かける。

 家族連れで参加している人が多いって事だ。

 コースを走る皆さんは、自分の趣味に家族を巻き込んで、いや、上手に奥さまを説得する術をお持ちなんだろう。


「何、正雄?」

「いや、」

 僕もバイクに乗り続けるには、瑠璃子を上手に説得しないといけないのかも知れない。

 バイクは僕(男)の憧れだ、なんて言ったってそんなのは当人だけの独り善がりに過ぎない。一人乗りだし。

 それに、『自分の好き』をパートナーに認めさせる説明が出来ないのは悲しいし、情けない。

 『私とバイク、どっちを取るの?』なんて聞きたく無いし、言わせたく無い。


「どうしたの正雄?」

「うん、」


「ご家族を連れられて来ている人が多いんだなぁって。」



「休憩、休憩〜」

 僕は戻って来たグッチさんと交代して再びコースに入る。


 そんな事を繰り返しながらお昼を採ったり、どこかのバーベキューに参加させてもらったり、グッチさんのお仲間とおしゃべりしたり、、、。


 瑠璃子が退屈してしまっているのでは、と気になりつつも、3、4周を目安に、グッチさんと交代交代でコースに入った。



 慣れて来た僕は、コースの攻略を考える。

 連続するフーブス(コブ山)は一段飛ばしの二段ジャンプでクリアする(実際にレーサーに乗ってる速い人を見本として)。

 それとコースのド真ん中を走るのが王道かも知れないけど、スピードが乗ったままを維持するなら、コースの端っこの荒れが少ない位置を走ればいい。


「正雄、コースの端だなんて、」

 このモトクロス場は、盛土で作られている所が殆どだ。

 場所によっては、コースと平行する形で用水路になっている場所があり、ちょっとした川が流れる形になってる。

「正雄、端を走って側溝に落ちたら大変だぞ。」

 そんな理由もあり、ライダー達は川側の位置を避けたがる。

「でもグッチさん、マシンが通る幅は決まってますから、コース上のどの場所でもその位置が確保出来れば問題無いですよ。」


「それはコースが整地されていたならな。溝でタイヤを取られたり、不意な動きが付きモノなのがモトクロスコースだ。ジャンプでバランスを崩したら側溝に落ちる。川にハマればエンジンから湯気を立てるぞ。ココではそんなヤツは何人も居るんだ。」


「正雄も気を付けろよ。」

(「このコースで走行位置、マシンの通る幅だなんて正雄は簡単に言うけど、、、いや、正雄はその幅が見えているのか?」)


 そんな事を繰り返して、僕はドップリとオフ車にハマッて行った。


 グッチさんがコースに入っている間は、僕は瑠璃子とゆっくりとおしゃべりしていた。

 瑠璃子が退屈しているであろうから、そこは十分に時間を掛けた、つもり。



 そうして過ごしていると、受付でお会いした方が僕達の所にやって来た。

「グッチが刺さった。」

 刺さった?

 

 僕は示された先へ、起伏と泥のコースを遮る形で、小走りで向かった。

 コースの内側となる場所に出来ている幾つかの用水路と呼べる小川を飛び越え、、、越えられない川は回り込んで越え、一周約3kmぐらいあるそうだから、斜めに突っ切るにも徒歩だと広く感じた。


 さっき聞かされた場所に行く手前で、二人乗りで後に座るグッチさんが現れた。

 周囲を走っていたマシンの音は止まっていた。


「グッチさんっ!」

 マシンの後に座る(このコースを走るトレール車は基本一人乗り。でもオフ車の特徴というか、シートは少し後に長くなっている。)グッチさんに向って走り出す僕の後に瑠璃子が居た。

 瑠璃子は泥の中を顧みずに僕に続いてコースの中に入っていた。


 オフロードのコースは、泥濘ぬかるんでいる。

 場所によっては泥の地面に足が沈んでしまう。

 瑠璃子の編み上げのサンダルは泥まみれになってしまっていた。


 コースの出入口まで運ばれて行くグッチさんを追う形で、再びコースを遮る形で僕達も戻った。


 グッチさんは転倒してしまった。

 オフロードのコースでの転倒なんて良く有る事。

 だけどグッチさんは転倒した時に、肩を打ち、少し足を捻ってしまったようだ。


 どうやらグッチさんは、いつもより大きくジャンプしてしまったそうだ。

「瑠璃子さんにいい所を見せようと思ったのに!」

 ここのオフロードのコース上は、背の高い雑草が茂り、勾配や盛土があったりして、コースの外で立った状態だとしてもコースの中は殆ど見る事は出来ない。

 確かに大きなジャンプだったら、コースの外に居ても見えるけど。


「ありがとうございます。」

 僕はグッチさんを連れて来て頂いたライダーの方にお礼を言い、痛むグッチさんに肩を貸した。

 マシンは他の誰かが押してくれて、僕達のパドックまで運んでくれると。


 瑠璃子は少し臭う泥の中を手足や服が汚れる事を気にもせずに僕と一緒にグッチさんを抱える。


「歩き難いわね。」

 オフロードコースへの出入口と僕達のパドックまでの道中も泥濘んだ場所は多く有り、泥を避けながら進む感じだ。

 

「グッチさん、私の背にお乗り下さい。」

 瑠璃子は突然に泥の中で片膝を着き“おんぶ”のポーズを取った。

 いやいやいや、瑠璃子っ!

 瑠璃子にそんな格好をさせちゃうなんて、僕の失態だっ!


「そこは僕が!」

 僕は慌てて瑠璃子を立たせ、入れ替わる様に膝を着いた。

「グッチさん、大丈夫ですか?(痛んだ所に)響きません?」

「瑠璃子さんにおんぶしてもらう方がいいにきまってるだろ、痛たたた。」

 悪態を着けるから大丈夫なんだろう。

 だけどグッチさん、重い!


 流石に人を背負ったままで向う、僕達のパドックまでの道は遠かった。

 マシンでコースを周回した疲労感の倍の疲れを感じた。


「グッチさん、病院へ行きましょう。」

「いや正雄、大丈夫だ。オフ車に乗ってれば良くある事だ、あ痛たたた。」


「医者に行く必要があったら、この場の誰かと一緒に行くよ。明日もダメだったらその時だな。」


「よく良く有る事さ。骨折も脱臼も無い。足は少し捻ったみたいだが、肩と肘は打撲だな。痛たたた。」

 捻ってしまった足首は、頑丈なモトクロスブーツにしっかりと守られ、大事には至らなく済んだみたいだ。


「正雄、スマンな。少し早く切り上げる事になった。」

「いえいえ、十分過ぎる程オフ車が満喫出来ました。」



「ただ、帰りの道中がな。瑠璃子さん、帰りの運転お願いしてもいいかな?」

 僕が車の免許証を持っていない事が悔やまれる。


 グッチさんはなんとか泥だらけのモトクロスウェアから、スウェットの上下に着替えが出来た。

 お仲間の皆さんも、バケツにキレイな水を提供してくれたり、なんとかグッチさんか帰る為のハイエースの助手席に収まる手伝いをして下さった。


 瑠璃子のサンダルも乱暴ながらに水洗いし、ある程度の泥は落とせたみたいだ。


 色々と片付けをして撤収作業も無事に済んだ。

 僕は泥付きのツナギのまま、KDXと一緒に荷物スペースとなっている後部部分に乗り込んだ。


「おうグッチ、またな。」

「ああ、悪いが先に帰らせてもらうよ。」

 グッチさんはお仲間に見送られる。


 グッチさんのロングのハイエースの運転席には、瑠璃子が着いた。

「瑠璃子、マニュアル車なんだけど?」

「問題無くてよ。」


「先日、父の車にも乗ったわぁ、それと正雄の言っていた押し掛けも試してみたわ。」

「どうやって?」


「ええ、下り坂でね。」




 帰りの道は、運転席と助手席の瑠璃子とグッチさんが入れ替わり、僕は後座席(実際は取り外されちゃってるけど)から見守った。


 グッチさんのナビゲートで進む道中の瑠璃子の運転はスムーズだった。

 それに瑠璃子、今朝の道順を覚えてない?

 運転に合わせて道順の記憶、お見逸れしました!



 僕はグッチさんを抱えつつ、お店の奥となる住居に上がり込んだ。

「正雄、スマンな。少し休まさせてもらうよ。」

 ソファーにグッチさんを座らせ、僕は今日使ったクーラーボックスから飲料水を持って来る。



「瑠璃子さん、、、見た目だけじゃなく、凄い女だな。」

「あーグッチさん、ダメですよ。」

「わかってるよ。俺なんかでは一生出逢う事も無い、、、ましてや釣り合わない。」

「うっ、」

 僕は瑠璃子に釣り合ってない。瑠璃子の隣に並べるだけの男とは言えない。

「正雄、悪いが頼みが有る。」



『バシュー』

 僕はKDXを倉庫裏に運んだ。

 今日行った埋め立て地のコースは海が近く、そこにある水には多くの塩分が含まれている。

 だからそのままにしておいたら、バイクは錆びだらけになっちゃうと。

 こびり付いた泥も乾いて固まれば岩の様になってしまうと。

「正雄、悪いけどKDXを水洗いして欲しい。」

 倉庫の裏には蛇口が有って、ジェット洗浄が出来る口の付いた長いホースもある。


『ブシャー』

 僕はジェット水流とブラシを使ってKDXの泥を水洗いで落として行く。

 ハンドル回りの隙間にまで入り込んでいる砂と泥は、グッチさんが前に突っ込んでしまったからだろう。

 上から順番に、タンク、シート、フェンダーと泥を落として、エンジン周りと、地面に座り込むようにフェンダーの裏とエンジンの下周りも。

 一通り砂や泥は落とせたので、ジェットノズルの勢いを少し落とした。

「正雄、代わるわ」

 僕のジェット洗車の姿が水遊びに見えたのか、瑠璃子は興味を示し、変に目がキラキラとしている。


「行くわよ〜」

 瑠璃子はジェットノズルを握り、水流を出す。

「うわっ!」

 ちょっと予想はしていたけど、ノズルは僕に向けられた!

「正雄も泥だらけだから、ついでに洗ってあげる!」

 いや、そうかも知れないけど、瑠璃子のその嬉々とした嬉しそうな顔は?!



「正雄、交代して。」

「えっ、いいの?」

「いいわよ、このままじゃ流石に車には乗れないわぁ」

 瑠璃子の七分丈のサブリナパンツにも、乾いてはいるが泥がべったりと付いてしまっていた。



 僕はジェット水流を抑え、瑠璃子のサンダルの泥を落とし、続けて膝辺りにノズルを向けた。

「もう夏が来たみたいっ!」


 それでも瑠璃子のズボンに付いた泥は食い付き、染み込んでしまったみたいだ。

「脱ぐわぁっ!」

 えっ?!

 僕が止める間も無く、濡れたズボンをぎこちなく身体から剥がす様にして、瑠璃子は下着姿になってしまった。


 瑠璃子は続いてポロシャツも脱いじゃった。

「ダメダメダメ〜!」

 瑠璃子の揺れる肉体は下着から溢れちゃいそうだ。

「何で上まで脱いじゃうの」

 ただの下着姿じゃんか。

「どうしてよ?誰も居ないじゃないの。見た目は水着と変わらないでしょ?」

「下着姿だよ(僕でも分かる)、誰か来るかも知れないし、何処で誰が見てるのか分からないよ!」

 グッチさんに見られちゃうかも知れない!


 しかし、瑠璃子の溢れてしまう様な肉体は、、、

 瑠璃子の水着を買いに行くなら、断然ワンピースタイプだな。


「瑠璃子、瑠璃子、僕の服を着て来て!」

 僕は瑠璃子のズボンをコンクリートの上に置き、ジェット水流のノズルを絞る。

 勢い良く出された水で瑠璃子のズボンに付いた泥は何とか落とせたと思う。

 臭いは、、、まぁ、ちゃんと洗濯しないと落ちないかも。


 次に僕はツナギを脱いで同じ様にコンクリートの地面の上に置き、泥を洗い流す。

「あー!」

 僕の服を着た瑠璃子が現れる。

 瑠璃子は僕よりちょっと身長が高いけど、何とか納まったみたい。

 でも、何だかズボンの長さが短く見える。

「正雄の服を借りました。ちなみに今、下には何も着けていないわよ。」

 瑠璃子に耳元で囁かれた。

 僕はどーすればいいの!


「正雄〜、ズルいわぁ」

「何が?」

 今の僕はツナギを脱いで、Tシャツは着てるけどパンツ一丁。


「瑠璃子ズルいって、僕は男だからいいの。」

 瑠璃子の下着姿をグッチさんに、いや僕以外のどこの誰かにだって見せたくは無い。


 少し水っ気が飛んだKDXにウエスで乾拭きしつつ、潤滑剤と錆止めを吹き付けた。

 リアブレーキロッドとアクセルワイヤーのチューブには流し込む様に吹き付けて、チェーンはブラシで泥や砂を掻き出して、潤滑剤をブシューと多めに。



「瑠璃子、今日は色々とありがとう。」

 瑠璃子は臭う泥の中で手足や服が汚れる事を物ともせず、果敢に歩き進み、負傷者に肩を貸した。

「でも、ちょっと懲りたんじゃない?」

「何で?」

「だって、お世辞にもいい匂いとは言えない、なんか臭い場所で、退屈させちゃったし、それに泥だらけになっちゃったし」

 瑠璃子はどんな想いを持っていたのだろう。

 電話の向こうではちょっとしたピクニック気分のデートと思ったかも知れないし、実際に出で立ちはそんな様相さえあった。


 だけど到着した先は、海の近い埋め立て地で背の高い雑草が生い茂り、泥と砂利と小石の混ざった地面。その上なんだか臭う。

 景観なんてあったモノじゃ無い。


「モトクロス、集まっていた皆は楽しそうだし。それに爆音とも呼べる音を立てて。」

 瑠璃子の目には、どんな風に映ったのだろう。

「場所相応よ。あの場所だからこそやれる事、だから好きな者達が集まって。皆さん礼儀正しかったし、グッチさんがいい例で集まった仲間達は助け合う、ステキじゃない?」

 瑠璃子凄い高評価?!


「それとね正雄、バーベキューって私は初めての体験だったの。」

 へぇ~

 何だかんだ言っても、瑠璃子はお嬢様育ちだからな。

 ん、そんなお嬢様が僕とお付き合い頂いているだなんて、やっぱり奇跡か。


「グッチさんは傑作だったわね、」

「うん、グッチさんはお肉が焼けるのが待てなくて、半生肉を食べちゃってたみたいだったけど。」

「あら、正雄だってピーマンと玉ネギを焼き過ぎだわぁ。焦げた炭でも食べるつもりだったのかしら?」

 ええ、ええ、焼き過すぎました。

「いや、ピーマンも玉ネギも青臭いのが苦手だから、しっかり焼きたかったのっ。」


「そうだっ」

「なぁに、正雄?」

「うん、いつかキャンプに行こうよ。」

「キャンプ!憧れるわぁ」

 いつの日にか瑠璃子をキャンプに連れて行ってあげたい。

 いや、僕が瑠璃子と行きたいんだ。

 瑠璃子と一緒に星降る夜空を眺めたい。


「それでぇ、またモトクロスのコースに行く?」

 行ってくれます?

 ちょっと臭っちゃう荒れた湿地帯、乾いていたら砂ぼこりを立てるだろう。

 僕はオフ車、モトクロスコースにハマりつつあった。


「最後に水遊びのイベント付き、楽しかったわ。」


「次に行くときは、水着を持参しなくちゃね。」

 その水着は、せめてワンピースにして下さい。




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